キャッシュ・フォー・ワーク
[2011年09月26日(Mon)]
永松伸吾『キャッシュ・フォー・ワーク 震災復興の新しいしくみ』岩波ブックレット、2011年9月。
経済産業研究所のサードセクターをテーマにした研究プロジェクトが、昨年度のものを継承して、2013年3月までの期間で再開され、今日は第一回目の研究会のために東京に行ってきました。
移動中に、上記の本を読んだのですが、寄付金や公的資金を財源にして、「被災者自らが働き、仕事の対価を得て、暮らしを立て直していくためのしくみ」をキャッシュ・フォー・ワーク(CFW)と呼ぶそうです。著者は、「労働対価による支援」と訳しています。
主に途上国に対する国際人道支援で使われてきたようですが、2005年のアメリカのカトリーナの時にもFEMAによって使われたそうです。
被災者の多くは失業してしまうわけですから、復興関係の事業に雇用することで、復興に貢献しながら所得を得ることを可能にするというのは当然浮かぶアイデアですが、そして、これまでも各地で使われてきているわけですが、仕組みとして明確にして練り上げていくことは非常に意味のあることだと思います。
阪神淡路大震災の1995年がボランティア元年と言われたのに対し、2011年はCFW元年といえるほどに注目されているかはともかく、ボランティアばかりが注目されやすいのに対して、雇用の重要性に注意を喚起する点で重要だと思います。
あえて「健康な労働能力のある男女」だけを対象として、障害者などについては別途の支援にゆだねるという方針、賃金をあえて抑えて一般の雇用への移行を阻害しない工夫、地域経済の復興を阻害しないためにあえて「仮設の仕事」「つなぎの仕事」として位置付けて、時期を失しない撤退を考えること、などはなるほどと思いました。
私たちも、今後の復興過程において、サードセクター組織がなるべく大きな役割を果たせるようにする支援にささやかながら取り組んでいますが、今後の災害に備えて、災害直後にCFWをコーディネートできるようなサードセクター組織を準備しておくことも重要だと思いました。
東北に関しても、10月頃から特別に延長されている失業保険も切れる人が多くなるようなので、その受け皿としてのCFWを考える必要があると著者は指摘しています。
コーディネーターとしては、著者は行政よりもスキルのある人材ビジネス企業が適切だと指摘していますが、サードセクター組織のなかにもそうしたスキルをもった組織があるといいと思います。
著者の永松さんは、3・11直後に以下のような提案書を発表し、現在、CFW-Japanの代表をされているそうです。
***
CFW提案書
東日本大震災からの復興に向けた
キャッシュ・フォー・ワーク(CFW)の提案(試案)
2011年3月25日
CFW Japan(永松私案)
1.CFWの目的
1. 被災者に一時的な雇用機会を確保し、最低限の収入を維持しながら、地域経済の自立的な復興を支援すること。
2.被災者自身が自らの地域の復興に直接関わることによって、被災者に尊厳と将来への希望を取り戻し、地域の絆を高めること。
2.CFWで雇用される対象者
1. CFW以外に生計の手段を持たない人々。災害時に被災地域内に居住していれば、物理的な被災程度は問わない。
2. 健康で労働に耐えうる男女。但し高齢者、障害者など社会的弱者については、CFWとは別途措置が講じられるべきである。
3.CFWが適用される事業
1.CFWによって提供される業務は、途上国では主に公共土木施設の復旧業務であったが、事例のように単純労働・肉体労働に限定されるものではない。我が国の産業構造や今後の災害対応活動を考えると、事務的労働についてもその対象を拡大して考えるべきである。
2.雇用のために無理矢理創出された仕事であってはならない。本当に被災地の復興にとって必要で、被災者がやり甲斐を感じられるような仕事でなければならない。
3. 重要インフラの復旧など特に緊急を要するものや、高度な技術を要する業務、危険な業務などはCFWの対象には含めない。
以上を踏まえ、具体的にCFWの適用が可能と思われる事業を以下列挙する。
■ 遺留品の回収と持ち主への返品作業
■ 自宅周辺のがれきの片付けおよび清掃
■ 重要インフラの復旧を除くすべての公共施設や住宅の復旧
– 建設現場の清掃業務、資材の運搬など
■民間企業の復旧・復興業務
■行政による被災者支援業務
– 被災者台帳の作成業務
– 罹災証明発行業務
– 相談窓口、コールセンターの設置
– 仮設住宅の見回り、給食配送、コミュニティ事務局業務
■ ボランティア・NGOら支援団体が企画するプロジェクト
– ボランティアへの食事提供、宿泊提供
■ 学術調査業務
– 調査団の案内、ガイド、アンケート・インタビューへの回答
4.CFWで支払われる賃金について
1. CFWの主要な目的は地域経済活動の自立的復興を促進することにあり、CFWが既存の産業と労働市場において競合することがあってはならない。
2.このため、CFWで支払われる賃金は、市場で支払われる賃金より低めに設定されるか、少なくとも上回ってはならない。 なお、途上国の事例ではおおよそ20%から30%程度低めに設定されることが一般的である。
3. 賃金水準が通常の経済活動よりも低く抑えられることによって、CFW以外に生計手段を持たない人だけが参加を希望することになる。これは、本当に雇用を必要とする人にCFWによる雇用機会を確実に提供する上でも重要である。
5.日本版CFWの具体的な枠組みについて
1. 雇用・労働に関する有識者や関係機関の代表などによってCFW委員会を国レベルで設置し、賃金水準や雇用形態、参加資格、CFWとして適当な業務などについてのガイドラインを作成する。
2.各市町村毎にCFWセンターを設置し、以下の業務を行う。
– 労働需給のマッチング
就労を希望する被災者の年齢、性別、技能などに応じて適当な仕事を斡旋する。
– 労務管理
勤務時間の管理と支払うべき賃金の計算および支払い業務など
– 被災地市場のモニタリング
被災地の経済状況をモニタリングし、CFWが経済復興に悪影響をおよぼしていないかどうかを継続的に調査する。
– 基礎的な職業訓練
必要に応じ適当な職業訓練(コンピュータの操作など)を行う。
3. CFWセンターの運営は被災市町村が十分に機能していない現状に鑑みて、人材派遣企業などの専門業者を核とした民間事業体に業務委託を行うことが適当である。同時に、センターの運営には被災自治体や雇用支援専門のNPOなどの協力を得るべきである。 その費用は国が負担するものとする。
4.被災者は、CFWセンターに登録することによって、仕事の斡旋をうける。但し、個々人で登録する方法だけではなく、各種団体やグループ単位での登録についても積極的に受け付ける。
5.被災自治体、ならびに被災地で活動する民間企業や支援団体は、CFWセンターを通じて被災者を雇用する。CFWセンターは、その業務がCFWにとってふさわしいかどうか、被災者にとって達成可能か、安全性は確保されているかなどの観点から内容を判断し、必要があれば業務内容の改善を提案する。
6.賃金は、雇用主体よりCFWセンターを通じて支払われる。賃金の支払いは銀行振り込みが基本だが、金融機関が機能していない場合は現金による支払いとする。
7.CFWの財源としてCFWファンドを設置し、義援金を充てる。被災者雇用の財源を持たない支援団体は、ファンドにプロジェクトを申請し、承認されればファンドから賃金を支払うことができる。
図 1 CFWの体制図
6.その他の留意事項
1.CFWは緊急的措置であり、CFWによって支給される賃金を所得と見なすべきではない。 その理由は次の通りである。
(1) 源泉徴収事務が繁雑になりプロジェクトの実施が困難になること。
(2)CFWに参加したばかりに生活保護や各種支援が受けられなくなるといった弊害を防止すること。
2.被災地域内に存在する業界団体(例えば漁業組合など)を積極的に活用し、被災者をすべて個人で扱うのではなく、こうした団体への一括業務発注などを積極的に行うべき。既存の社会関係資本を活用すると同時に強化する。
3.従来通りのボランティアによる被災者支援活動は共存させる。 すべてをCFWで代替できるわけではない
経済産業研究所のサードセクターをテーマにした研究プロジェクトが、昨年度のものを継承して、2013年3月までの期間で再開され、今日は第一回目の研究会のために東京に行ってきました。
移動中に、上記の本を読んだのですが、寄付金や公的資金を財源にして、「被災者自らが働き、仕事の対価を得て、暮らしを立て直していくためのしくみ」をキャッシュ・フォー・ワーク(CFW)と呼ぶそうです。著者は、「労働対価による支援」と訳しています。
主に途上国に対する国際人道支援で使われてきたようですが、2005年のアメリカのカトリーナの時にもFEMAによって使われたそうです。
被災者の多くは失業してしまうわけですから、復興関係の事業に雇用することで、復興に貢献しながら所得を得ることを可能にするというのは当然浮かぶアイデアですが、そして、これまでも各地で使われてきているわけですが、仕組みとして明確にして練り上げていくことは非常に意味のあることだと思います。
阪神淡路大震災の1995年がボランティア元年と言われたのに対し、2011年はCFW元年といえるほどに注目されているかはともかく、ボランティアばかりが注目されやすいのに対して、雇用の重要性に注意を喚起する点で重要だと思います。
あえて「健康な労働能力のある男女」だけを対象として、障害者などについては別途の支援にゆだねるという方針、賃金をあえて抑えて一般の雇用への移行を阻害しない工夫、地域経済の復興を阻害しないためにあえて「仮設の仕事」「つなぎの仕事」として位置付けて、時期を失しない撤退を考えること、などはなるほどと思いました。
私たちも、今後の復興過程において、サードセクター組織がなるべく大きな役割を果たせるようにする支援にささやかながら取り組んでいますが、今後の災害に備えて、災害直後にCFWをコーディネートできるようなサードセクター組織を準備しておくことも重要だと思いました。
東北に関しても、10月頃から特別に延長されている失業保険も切れる人が多くなるようなので、その受け皿としてのCFWを考える必要があると著者は指摘しています。
コーディネーターとしては、著者は行政よりもスキルのある人材ビジネス企業が適切だと指摘していますが、サードセクター組織のなかにもそうしたスキルをもった組織があるといいと思います。
著者の永松さんは、3・11直後に以下のような提案書を発表し、現在、CFW-Japanの代表をされているそうです。
***
CFW提案書
東日本大震災からの復興に向けた
キャッシュ・フォー・ワーク(CFW)の提案(試案)
2011年3月25日
CFW Japan(永松私案)
1.CFWの目的
1. 被災者に一時的な雇用機会を確保し、最低限の収入を維持しながら、地域経済の自立的な復興を支援すること。
2.被災者自身が自らの地域の復興に直接関わることによって、被災者に尊厳と将来への希望を取り戻し、地域の絆を高めること。
2.CFWで雇用される対象者
1. CFW以外に生計の手段を持たない人々。災害時に被災地域内に居住していれば、物理的な被災程度は問わない。
2. 健康で労働に耐えうる男女。但し高齢者、障害者など社会的弱者については、CFWとは別途措置が講じられるべきである。
3.CFWが適用される事業
1.CFWによって提供される業務は、途上国では主に公共土木施設の復旧業務であったが、事例のように単純労働・肉体労働に限定されるものではない。我が国の産業構造や今後の災害対応活動を考えると、事務的労働についてもその対象を拡大して考えるべきである。
2.雇用のために無理矢理創出された仕事であってはならない。本当に被災地の復興にとって必要で、被災者がやり甲斐を感じられるような仕事でなければならない。
3. 重要インフラの復旧など特に緊急を要するものや、高度な技術を要する業務、危険な業務などはCFWの対象には含めない。
以上を踏まえ、具体的にCFWの適用が可能と思われる事業を以下列挙する。
■ 遺留品の回収と持ち主への返品作業
■ 自宅周辺のがれきの片付けおよび清掃
■ 重要インフラの復旧を除くすべての公共施設や住宅の復旧
– 建設現場の清掃業務、資材の運搬など
■民間企業の復旧・復興業務
■行政による被災者支援業務
– 被災者台帳の作成業務
– 罹災証明発行業務
– 相談窓口、コールセンターの設置
– 仮設住宅の見回り、給食配送、コミュニティ事務局業務
■ ボランティア・NGOら支援団体が企画するプロジェクト
– ボランティアへの食事提供、宿泊提供
■ 学術調査業務
– 調査団の案内、ガイド、アンケート・インタビューへの回答
4.CFWで支払われる賃金について
1. CFWの主要な目的は地域経済活動の自立的復興を促進することにあり、CFWが既存の産業と労働市場において競合することがあってはならない。
2.このため、CFWで支払われる賃金は、市場で支払われる賃金より低めに設定されるか、少なくとも上回ってはならない。 なお、途上国の事例ではおおよそ20%から30%程度低めに設定されることが一般的である。
3. 賃金水準が通常の経済活動よりも低く抑えられることによって、CFW以外に生計手段を持たない人だけが参加を希望することになる。これは、本当に雇用を必要とする人にCFWによる雇用機会を確実に提供する上でも重要である。
5.日本版CFWの具体的な枠組みについて
1. 雇用・労働に関する有識者や関係機関の代表などによってCFW委員会を国レベルで設置し、賃金水準や雇用形態、参加資格、CFWとして適当な業務などについてのガイドラインを作成する。
2.各市町村毎にCFWセンターを設置し、以下の業務を行う。
– 労働需給のマッチング
就労を希望する被災者の年齢、性別、技能などに応じて適当な仕事を斡旋する。
– 労務管理
勤務時間の管理と支払うべき賃金の計算および支払い業務など
– 被災地市場のモニタリング
被災地の経済状況をモニタリングし、CFWが経済復興に悪影響をおよぼしていないかどうかを継続的に調査する。
– 基礎的な職業訓練
必要に応じ適当な職業訓練(コンピュータの操作など)を行う。
3. CFWセンターの運営は被災市町村が十分に機能していない現状に鑑みて、人材派遣企業などの専門業者を核とした民間事業体に業務委託を行うことが適当である。同時に、センターの運営には被災自治体や雇用支援専門のNPOなどの協力を得るべきである。 その費用は国が負担するものとする。
4.被災者は、CFWセンターに登録することによって、仕事の斡旋をうける。但し、個々人で登録する方法だけではなく、各種団体やグループ単位での登録についても積極的に受け付ける。
5.被災自治体、ならびに被災地で活動する民間企業や支援団体は、CFWセンターを通じて被災者を雇用する。CFWセンターは、その業務がCFWにとってふさわしいかどうか、被災者にとって達成可能か、安全性は確保されているかなどの観点から内容を判断し、必要があれば業務内容の改善を提案する。
6.賃金は、雇用主体よりCFWセンターを通じて支払われる。賃金の支払いは銀行振り込みが基本だが、金融機関が機能していない場合は現金による支払いとする。
7.CFWの財源としてCFWファンドを設置し、義援金を充てる。被災者雇用の財源を持たない支援団体は、ファンドにプロジェクトを申請し、承認されればファンドから賃金を支払うことができる。
図 1 CFWの体制図
6.その他の留意事項
1.CFWは緊急的措置であり、CFWによって支給される賃金を所得と見なすべきではない。 その理由は次の通りである。
(1) 源泉徴収事務が繁雑になりプロジェクトの実施が困難になること。
(2)CFWに参加したばかりに生活保護や各種支援が受けられなくなるといった弊害を防止すること。
2.被災地域内に存在する業界団体(例えば漁業組合など)を積極的に活用し、被災者をすべて個人で扱うのではなく、こうした団体への一括業務発注などを積極的に行うべき。既存の社会関係資本を活用すると同時に強化する。
3.従来通りのボランティアによる被災者支援活動は共存させる。 すべてをCFWで代替できるわけではない