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〔後房雄のブログ〕

現実関与型の政治学者が、日本政治、自治体改革、NPOやサードセクターの動向などについて話題を提供しています。一応研究者なので、面白かった本や論文の紹介もします。


「女子サッカーと愛犬の死」by 村上龍 [2012年08月14日(Tue)]
作家の村上龍が、コラムでなでしこジャパンを取り上げている(富山新聞8月14日付)。男子サッカーには詳しいが、それまで「女子の試合をちゃんとみたことがなかった」村上が、このコラムの結びで、「最後まで走り抜いた日本女子サッカーのロンドン五輪でのパフォーマンスを、わたしは一生忘れないだろう」とまで書いている。

準々決勝のブラジル戦
試合開始直後に、日本は負けるだろうと思った。ブラジルは自信を持って圧倒的な攻撃を仕掛けてきた。ゴールを決められるのは時間の問題だと感じたのだ。

だが、日本は、絶妙な連携で懸命にディフェンスし、ブラジルの攻撃を紙一重のところでかわし続けた。この集中力はどこからうまれているのだろうと思った。

結局日本は数少ないチャンスを確実にゴールに結びつけ、堂々とブラジルを破った。当たり前だが、走力も体力もキック力も男子には劣る。だが、選手たちは全員はつらつとプレーを続け、FWはゴール前で冷静さを失わず、簡単ではないシュートをあっさりと決めて見せた。

準決勝のフランス戦
日本は波状攻撃を受けても慌てず、しかも苦しそうな表情をいっさい見せなかった。むしろ、この相手と、この舞台で、試合ができるのが楽しくてしようがないという意気込みが伝わってきた。この強烈なモチベーションはどこからくるのだろう。

日本の女子サッカーが国民的な注目を集めるようになったのは、昨年のW杯で優勝してからだ。それまでは国内のリーグ戦でも観客はほとんどいなかったと聞く。そんな状況で、選手たちは黙々と愛するサッカーを続けた。彼女たちのモチベーションは、そのときに鍛えられたのだと思う。

サッカー発祥の地であるイギリスの、サッカーの聖地と呼ばれるウェンブリースタジアムで満員の観衆を前に強豪と闘う、鍛えられたモチベーションは120パーセント解放され、奇跡のような連携と、ゴール前の冷静さを生んだ。

金メダルは逃したが、なでしこジャパンは、重要な事実をわたしたちに示した。何かを楽しむことはそう簡単ではなく、モチベーションは自ら鍛え上げなければ本物にはなりようがない、ということだ。


ほとんど引き写しになってしまいましたが、最も共感できるなでしこ論だったので、しかたありません。

愛犬の死でナイーブになっていた村上を、なでしこジャパンの魅力が直撃したことが良く伝わってきます。「鍛えられたモチベーション」という指摘も核心の一つを突いていると思います。

私自身も、去年のW杯の準決勝スウェーデン戦から生で見始めたにわかファンですが(だから川澄ファンですが)、自分が目立つことしか考えていない政権交代後の民主党議員たちの醜態との対比で、女子サッカーの認知を確立しようとするなでしこの志は強烈な印象でした。

その場しのぎのパフォーマンスで自分だけ目立とうとする政治家たちは軽蔑をさそうだけです。それぞれの分野で期待するような感動が見いだせない中で、多くの人に、なでしこは何が人に感動を引き起こすのかを再び見せてくれました。

「近いうち」の解散の約束で、またグルーミーな政治の季節がやってきそうです。1つの政党としての実態さえ失っている民主党はいうまでもなく、解散総選挙しか念頭にない自民党も間違いなく惨敗するでしょう。急伸するであろう維新の会やみんなの党も、統治に必要な数(特に参議院)も経験も足りません。

小選挙区制にもかかわらず、どのような多数派も生み出さない総選挙となりそうです。そこから何が始まるのか。深く失望しつつもあきらめない、ということくらいしか思いつきません。救いは、世の中ではなでしこのようなパフォーマンスがときどきは見られるということです。