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〔後房雄のブログ〕

現実関与型の政治学者が、日本政治、自治体改革、NPOやサードセクターの動向などについて話題を提供しています。一応研究者なので、面白かった本や論文の紹介もします。


竹中平蔵VS榊原英資 [2010年06月30日(Wed)]
田原総一朗責任編集の、榊原英資・竹中平蔵『絶対こうなる!日本経済』アスコム、2010年、を読みました。

田原氏は「はじめに」で次のように書いています。

かたや小泉内閣における経済・金融責任者の竹中平蔵氏、こなた民主党の最高経済ブレーンの榊原英資氏に、本当の日本経済について、とことん議論してもらった。(中略)

二人が一致して批判する問題は、日本が解決しなければならない緊急の課題である。二人が断固対立する問題は、これこそ日本の真の論点である。


たしかにその通りで、日本経済や経済政策のポイントがよくわかる本でした。

日本経済や財政の現状認識については、二人の間には大きな見解の違いはありません。

今後のビジョンについても、榊原氏が近著『フレンチ・パラドックス』(文芸春秋社)で提案したフランス型の大きな政府を主張するのに対して、竹中氏もそれを選択肢の一つとして認める発言をしています。

榊原さんの「フランス型の大きな政府」という考え方は、コンシステントな(首尾一貫した)一つの考え方。民主党はそう堂々と主張すべきだと思います。堂々と言わないところが問題なんですよ。(126ページ)

当面の経済対策についても根本的な違いはないようです。

榊原 僕は国債を60兆円くらい発行しても問題ないと考えています。カネ余りだから吸収する能力がマーケットに十分ある。国債トレーダーたちと話したら、70兆円発行しても10年債の金利は2%を超えず、1・3%前後で推移するだろうと。だから国債を発行し大型予算を組んで、成長への舵取りをすべきです。子ども手当ても、満額つけるべきですよ。

竹中 ・・・私も賛成です。財政のあり方は、短期と中長期をきちんと分けて考えなければいけない。いま財政健全化が重要だと言う一般論だけで財政を締めると、大変なことになってしまう。(中略)
 同時に民主党政権に必要なのは、「いまは仕方なく出すが、その後の成長戦略と歳出削減で10年後の姿はこうなると、打ち出すことです。


大きな政府型のビジョンと小さな政府型のビジョンを、それぞれ鮮明に掲げる政党が政権を担当して試してみるなかで日本の国民全体で結論を出せばよいということでしょう。

問題は、それぞれのビジョンが二大政党によって鮮明に掲げられず、明確な試行錯誤ができないということだと思います。

民主党政権が「政治主導」という名の「素人主導」だという点でも二人の意見は一致しています。

榊原 官僚を使っていないこと、経済人を使っていないこと。経済の専門家が、政権内にあまりいないわけです。素人たちが、よってたかって事業仕分けだなんだと、バカなことをやっている。いまだって優秀な官僚は、結構いますよ。官僚機構をもっと使わなきゃいけないんだけどね。あるいは自民党がかつて竹中さんを使ったように、民間の人を使わなきゃいけないんです。ところが、そういうことがまったくできていない。だから成長戦略もへったくれもないし、ようするに、経済政策そのものがない。ほとんどないんだ。(156ページ)

田原 竹中さん、僕は官僚はプロだと思っているんです。学者も一部の学者はプロだと思います。ほとんどの学者はプロじゃないけどね。

竹中 いや、実にいいことをおっしゃる。
 「政治主導」という名の「素人主導」になっている。これに尽きると思います。(159ページ)


ニ大政党による政権選択型の政治というのは私も持論ですが、それに加えて、それぞれの政党が官僚や民間の専門家をうまく使いこなす方法を身に付けることが不可欠だということでしょう。それに伴い、民間の専門家(官民の専門家の流動化も起こる)も、二大政党のラインにそって立場が分かれることになるでしょう。

そうすれば、専門家を活用したある程度高い水準の選択肢での試行錯誤が可能になるでしょう。(従来型の官僚の隠れ蓑的審議会を使わないという民主党の方針は正しいと思いますが、それに代わる実質的な専門家活用の仕組みが必要だということでしょう。)

この点では、自民党は官僚に頼りながらもそれなりに専門家を使う力をもっていたとすれば、民主党が専門家を活用できるようになるかどうかが、民主党政権にとっても日本の二大政党制にとっても重要だということになりますね。

田原氏のいうように、(実務を担える)専門家の名に値する学者も増える必要がありますが。