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〔後房雄のブログ〕

現実関与型の政治学者が、日本政治、自治体改革、NPOやサードセクターの動向などについて話題を提供しています。一応研究者なので、面白かった本や論文の紹介もします。


『自治体を民間が運営する都市』 [2009年11月18日(Wed)]
オリバー・ポーター『自治体を民間が運営する都市―米国サンディ・スプリングスの衝撃』(時事通信社、2009年)という本を紹介します。

2005年12月にジョージア州の州都アトランタの北側に隣接して新たに設立されたサンディ・スプリングスという9万人の市が、最初から市の業務のすべてを民間企業に包括委託してスタートしたという事例です。

アメリカでは、住民投票を経て市を設立しなければ、市税も市のサービスもない地域のままであるわけですが、そういう地域で、「サンディ・スプリングスを市にする会」というボランティア組織が、州議会の承認を取り、住民投票を行なって正式に市を発足させるまでのストーリーとして興味深いのが第一点。

しかし、それ以上の注目点は、シティマネジャー以下4人の管理職を雇っただけで、市の業務のほとんどすべてをCH2M HILL社という民間企業に包括的に業務委託をしたということです。

募集要項(RFP=Request For Proposal)は、次の二つに分けて出され、入札の結果二つともについてHILL社が第一位になって受託しました。管理RFPは、「管理、財政、コミュニケーション、E911(救急)、自動車、人材の配置、調達および契約締結サービスの提供について」、技術RFPは、「公共事業、交通、道路、通行権(敷設権)、施設(管理)、公園緑地管理、設備投資・改良、都市計画、査察、条例執行、許可、購買、調達および契約締結サービス」という内容です。

日本でも、前安孫子市長の福島浩彦さんに伺ったところ、市の業務の95%は民間委託が可能ではないかということでしたが、アメリカは実際にそれをやってしまうところが面白いですね。おかげで市の予算は約79億円に抑えられたそうです(日本の約6万人のある市の一般予算は200億円です)。

契約は金額固定方式で、成果指標によって成果目標の達成を義務付ける形です。そして、成果指標を応募者に提案させるという手法をとったようです。ポーターさんは、「提案者が対象となるサービスを熟知しているかどうかを確認する最も有効な方法であるとともに、実際に、有効な指標を比較的容易に発見することができる手段である」と述べています(149ページ)。

企業がこの取引によってかなりの利益を得ているのではないかということに疑問を抱くニューヨークタイムズ紙の記者とのやり取りが面白いです。

これに対して、私は企業が利益を得ることを全く気にしないどころか、むしろ彼らにとって利益が出ることを望んでいる、そうでなければ長期的にみてわれわれの要求するサービスを提供することは困難になるだろうと話したところ、彼女は非常に驚いているようだった。

彼女は、「企業は公共から利益を得るべきではない」と主張した。互いの立場から数度のやり取りを繰り返したのち、最後に私は念のため、「もし仮に、7000万ドルを要するサービスが、企業との契約の下では5000万ドルとなるとして、企業が1000万ドルを得ることは間違っているだろうか」と質問したところ、「ええ、それは公共のお金ですから、企業が得るべきものではないでしょう」と返した。

続けて私は、「では、われわれは企業が利益を得ることを防ぐために、必要な額よりも2000万ドルも多く、7000万ドルの公共の予算を使うべきだろうか」と聞くと、彼女は「それは違うわね」と答えた。私は彼女が納得のいかないまま電話を切ったのではないかと思っている。(141−142ページ


日本でも同じような疑問が障害になっています。「企業」というものを邪悪なものと考える思考を根本的に転換する必要があると思います。これは逆に、NPOをすべて善良な団体と考える思考とセットでしょう。



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