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〔後房雄のブログ〕

現実関与型の政治学者が、日本政治、自治体改革、NPOやサードセクターの動向などについて話題を提供しています。一応研究者なので、面白かった本や論文の紹介もします。


東海市の協働型マネジメント・サイクル [2009年10月18日(Sun)]
 昨日17日(土)午後1時半から、愛知県東海市の「提案のまちづくり大会」がありました。2002年から継続的に市民フォーラム21・NPOセンターの仕事として東海市の行政経営、市民参加システムの構築に関わってきましたが、まちづくり市民委員会から市への事業提案を聞きながら、市民参加の水準としては全国でも屈指ではないかという実感をあらためてもちました。

 市民委員会からの提案をそのまま採用すればするほどよいというような俗流市民参加論や、そのまま採用できるように事務局が市民委員会の議論を誘導する「市民参加ごっこ」が多いなかで、PDCAの行政経営システムを前提に、その要所要所に市民が参加する「協働型マネジメント・サイクル」を確立し、市民委員の皆さんがそれをほぼ使いこなすようになっている東海市の事例は、日本における市民の成熟を確信させてくれるものです。(詳しくは、東海市HPや、私の月刊『ガバナンス』2005年7月号、8月号の論文を参照。http://www.sf21npo.gr.jp/governance.html)

 東海市のシステムの特徴は、事業は成果の達成や課題解決のための「手段」だという認識を大前提にして、まず「政策マーケティング」によって地域の重要生活課題を38課題洗い出したうえで、それを改善するうえでの「有効性」によって事業の取捨選択をするという点にあります。(第5次総合計画は、この38の生活課題に市長の判断による14課題を追加し、この52課題を解決するための施策−事業を設定するというトップダウン方式で作成されました。)

 それらの38課題の改善状況を数値でフォローできるように、市民委員会において、99のまちづくり指標を設定しました(「市政の通信簿」)。たとえば、「街灯などが整備されており、夜間も安心してまちを歩ける」という課題には、@街路灯・防犯灯の満足度、A夜間も安心してまちを歩けると感じる人の割合、Bちかん・ひったくりの発生件数、という3つの成果指標が設定されています。

 すでに、2002年から2008年まで7年間の数値が蓄積されているので、どの課題が停滞ないし悪化しているかが一目瞭然になっています(約4分の1)。もちろん、指標の数値だけでなく、さまざまな参考情報も加味して評価を行います。例年、7月頃に、市民委員会の評価と行政側の評価を付き合わせる「評価のまちづくり大会」を行います。

 それを前提に、10月頃に、停滞ないし悪化している生活課題に関して、既存の事業に加えて、またはそれに代えて、有効性が高いと思われる事業案を市民委員会が提案する提案のまちづくり大会が行われるわけです。ちなみに、市長が取捨選択をして来年度予算案を決定したあと、市民提案の採択状況と理由を説明する確認のまちづくり大会も年度末に開かれます。

 今日出席して印象深かった点は、第一に、市民委員が、ロジックモデルという道具をほぼ使いこなすようになっており、手段である事業が、活動内容−直接の結果−短期成果−中期成果−長期成果という有効性の連鎖で最終成果(生活課題)に到達するかどうかを論理的に説明したうえで事業提案を行っているということです。

 もう一つは、この提案の大会に至る前に、市民委員会の部会と担当課との間でかなりの回数の意見交換が行われるようになっており、「実はこの事業は・・・」という本音の話もされるほどに信頼関係もできてきているらしいということです。行政職員は関係団体や議員からのしがらみで本音は言いにくい立場なので、市民委員会というしがらみのない外部からの発言ルートは彼らからしても重要だということが理解されてきているということでしょう。

 ちょうど現在、中央政府においても、15兆円の補正予算の削減が行われていますが、今回行っていることは、政治家による直感的、常識的判断による削減にとどまります。政府としての成果目標を体系的に提示し、それに対する「手段」としての有効性を基準として事業の取捨選択をするだけのシステムが存在しないからです。

 政治主導は政治家の覚悟だけでは実現しません。予算の大枠や成果目標については政治家がマニフェストに基づいて決定したうえで、個々の事業の取捨選択は、成果に対する有効性に基づいて論理的に行うべきです。

 以前紹介したイギリスの予算編成システムは、まさにそういうもので、省庁別支出上限をトップダウンで決めた上で、事業の査定権は各大臣に委譲し、その代わりに、各大臣には公共サービス合意によって数値で表現された成果目標の達成を義務付けるのです。

 東海市のシステムは、愛西市、一宮市、春日井市、池田町(岐阜県)、倉敷市などにも導入されつつありますが、民主党政権によって中央でも有効性を軸にした政治主導の予算編成が実現されれば、自治体に対しても大きな影響を与えることでしょう。(ちなみに、9月27日には愛西市の提案の大会に行きましたし、今日の午後は一宮市の提案の大会に出席します。)

 また、民主党は地域主権を掲げて自治体の決定権を拡大しようとしているわけですから、その決定権を自治体が有効に行使するための仕組みもより重要になるはずです。中央政府と自治体の間の政治主導の相乗作用を期待しつつ、私なりに自治体の仕事にも関わっているということで、今日はその報告をさせてもらいました。
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