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〔後房雄のブログ〕

現実関与型の政治学者が、日本政治、自治体改革、NPOやサードセクターの動向などについて話題を提供しています。一応研究者なので、面白かった本や論文の紹介もします。


朝日新聞の迷走 [2010年03月10日(Wed)]
名古屋の朝日新聞がとんでもない迷走を始めました。自浄作用が働くまで、このブログでもフォローを続けます。

ネタは、名古屋市が教員OBが天下る外郭団体に随意契約で丸投げしてきた「トワイライトスクール」事業(放課後の子どもを小学校で預かる事業)を、河村改革の一環としてようやく民間公募に踏み切らせたにもかかわらず、教育関係者の既得権擁護の連係プレーで、246小学校分すべてについて外郭団体を選定したという「事件」です。1年の契約額は18億8千万円に上ります。

なお、この事業は、教育長出身の松原前市長の肝いりで作られた事業で、教育関係者の退職後の飯の種だったということは誰でも知っていることです。

これについて、2月24日付けの朝日新聞朝刊はまともな記事を書いています。

民間参入認めたが、受注はいつもの外郭団体

教員OBの天下り先である外郭団体が独占的に受注してきた名古屋市の事業で、初めて民間にも門戸が開かれたにもかかわらず、結局、新年度も受注したのは、従来と同じ外郭団体だったことが23日、わかった。(中略)

事業団は、市教育委員会次長OBが理事長を務める教員OBの天下り先。同事業も校長・教頭のOBら246人の事業団職員が、各校に運営指導員として派遣されている。

河村市長は「選定方法に問題がなかったか、再調査を指示した。選定やり直しもあり得る」と述べた。


ところが、突然、3月5日朝刊では、ページの4分の1も使った大見出しのトンデモ記事を載せます。内容は、「疑惑」を裏付ける事実がほとんど書かれていないのに、見出しだけで誘導するという悪質なものです。三流週刊誌でよく見るやり方ですね。

名古屋市経営アドバイザーの女性
事業者選定に口出し
応募団体の相談受け

名古屋市の「トワイライトスクール」事業を新年度に受託する業者の選定で、河村たかし市長の支援者でもある市経営アドバイザーの女性(55)が、応募した民間団体の相談を受け、選定作業の最中に担当部署に選定方法を疑問視し、やり直しを求める質問状を出していたことがわかった。最終選定直前には、河村市長が委員の一部を呼び、同様の質問をしていた。関係者からは「選定に介入する『圧力』と感じた」という声も出ている。


市長や経営アドバイザーは、「適切な競争を経て事業を民間に」という河村マニフェストの外郭団体改革の方針に基づいて、一貫して公平な審査を実現しようと努力しただけだということは明らかです。

しかも、それに抵抗するために、教育関係者が自分たちの影響下にある委員会にし、自分たちに有利な基準や手続きで選定して、結論としてもすべて外郭団体に落としたという背景を朝日新聞はよく知っているはずです。

こうした背景での市長やアドバイザーの当然の努力を、特定の団体を有利にするための「口出し」であるかのように誘導して印象付けるなど、悪質としかいいようがありません。

市長やアドバイザーの努力が実を結んでいたとして、起こりえたことは公平な選定が実現するということだけであって(外郭団体は困るでしょうが)、特定の団体が有利になる可能性はゼロです。結局は努力は実を結ばず、すべて外郭団体に落ちたわけで、その真相を突き止めようという記者としての志はないのでしょうか。

関係者が「圧力」と感じた、というのも語るに落ちたというべきで、公平にしろという指示を「圧力」と感じたと言うことは、よほど外郭団体に有利にしようと頑張っていたということでしょう。この場合、圧力を感じさせた側と、圧力を感じた側とどちらが悪いのでしょうか。朝日新聞は、泥棒が警察官の見回りに圧力を感じた場合も、関係者は圧力を感じたということで警察官を批判することでしょう。

この事件の前史として、2004年には、16区の児童館、福祉会館の指定管理者の公募において、すべてを外郭団体の社会福祉協議会に取らせたと言う前科が名古屋市にはあります。「さすが名古屋市」ということで、全国に知れ渡りました。

何しろ、審査委員会の委員長である健康福祉局長が、受託団体である社協の副会長だったのですから、自分で自分の団体に受託させたことになります。

しかも、社協が出した企画書は、小学生の作文よりひどいような内容で、予算は民間団体の2倍でした。職員数人の施設の施設長が年収1000万円という予算でした。

さすがにこれでどうやって社協の点数を高くしたのかと思って審査報告書を情報公開でみたら、「実績」があるからということしか書いてありませんでした。実績があるだけで外郭団体が優れているという評価なら、永久に民間への開放はありえません。

この時も、私たちは市行政や市議に抗議しましたが、結局は原案通り可決されました。与党三会派の幹事長はすべてひどいことを認めましたが、指定管理者制度で議会の議決というチェックの仕組みが組み込まれているにもかかわらず、原案を否決しませんでした。議会の議決などチェックにならないという私の持論通りでした。

これの再現というべき今回のトワイライトスクール事件について、上記のような5日の与太記事が出たわけですが、他紙も無視していたところ、3月9日の市議会本会議で自民党市議が質問したことにかこつけて、さらに悪乗りの記事が3月10日付け朝刊に出ます。

特に悪質なのは、経営アドバイザー「口出し」という見出しをまた掲げて、事実無根の悪質な誘導をさらに続けていることです。

市議会定例会で工藤彰三市議(自民)が問題を取り上げ、「河村たかし市長も最終選定委直前に一部の選定委員を市長室に呼んで質問しており、河村市長や藤岡氏の行為は選定の妨害に当たる」として、百条委の設置を要求した。

公平な選定を求めることが「選定の妨害」だという腐った市議の主張がよほど嬉しかったのでしょうか。

これではっきりしたのは、名古屋の朝日新聞は、既得権連合と、市議定数と報酬の半減という河村提案に対抗しきれずに手段を選ばず悪あがきをしている市議会の同盟軍だという立場を鮮明に掲げたということです。文脈を無視した言い訳など通用しません。
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