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官邸斜向かい〜霞門の眼 by 石川和男

政治・経済・社会の動向から明日明後日を読むということで。


赤字1兆1000億円 〜 日本政策金融公庫 [2010年06月05日(Sat)]

 今朝の日経新聞によると、日本政策金融公庫が発表した10年3月期決算は最終損益が1兆1128億円の赤字だったとのこと。

【記事概略】
・09年3月期(6カ月ベース)は6554億円赤字。
・中小企業経営悪化で代位弁済が高水準推移、保険業務全体で9990億円赤字。
・国民生活事業や中小企業事業も貸倒引当金計上で赤字。国協銀は332億円黒字。
・セーフティーネット貸付など増加で10年3月末の総融資残高は09年3月末比21%増29兆8602億円。

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 詳細は日本政策金融公庫資料「平成22年3月期決算の公表について」を参照されたい。公的資金を要する政策金融が黒字体質であり続けることは奇妙である。政策金融公庫が赤字なのは、望ましい訳はないのだが、冷静に考えて当然と言えば当然。

 公的資金を投入する政策金融の領域をどのように設定するかが、常にある政策課題。景気が悪くない時は拡大され難いが、そうでない時は拡大され易い。政策金融改革と政府系金融機関改革が混同されている時期があった。

 前者は金融規模の集約化、後者は機関数の集約化であったと見える。両者の大きな果実の一つが「日本政策金融公庫」。実施していることは、旧公庫群と殆ど変わらない。改革モノの検証は、その改革後何年か経たないとできない。

 まだ数年しか経っていない政策金融改革であるが、現時点で成果があるとは言えない。ということは、今後も成果は出て来ることはない。政策金融改革の当初理念を達成しようというインセンティブがない。人事の重要性は、この例からもよくわかる。
国営郵貯の機能拡大 〜 問題は国営化ではなく、国への不審 [2010年03月31日(Wed)]

 今夕の産経新聞ネット記事によると郵貯の預入限度額引上げが決まり、郵貯マネーの「使い道」が閣内で議論の的になってきたとのこと。

≪記事概要≫
・鳩山首相は「国債の単なる引受機関にはしない。地域金融機関と共存共栄できる状況を作りたい」と、国債依存運用を見直し、地域活性化に役立てる運用方法を検討する方針。
・亀井郵政改革相は「太陽光発電とか(道路の)立体交差とか電線の地中化などに郵貯の金を出していけばいい」と、公共事業などへの活用を求めた。
・前原国交相は国家ファンドを立ち上げ、「海外の発電所や高速鉄道など、インフラ輸出の資金として活用できないか」。
・元内閣府審議官の早大大学院教授は「郵貯や簡保が家計の資金を集め、それが政府支出に充てられるなら、財政投融資の形で公的投資に使われていた時代に先祖返りすることになる」。

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 限度額引上げは政令事項なので法律改正によってすぐに実現する訳ではない。ただ、今のうちから運用方法について様々なアイデアが出ていないと、法案審議が聴くに堪えないことになる。郵貯国営化や限度額引上げは、それ自体が直ちに大問題なのではない。

 国営郵貯機能が拡大されるにしても、真っ当な資金運用で貯金者が適切な金利収入を受けることができれば、貯金者としては歓迎すべきこと。ただ、国民が国営という形態での資金運用に信頼を置いていないことに加えて、国債受け皿機能の拡大や旧財投の復刻が危惧されていることが問題の本質。

 国営ファンドでも財投でも、適度な市場原理に則った運用が約束されるのであれば良い。かなり高い確率でそれがないことが潜在意識の中でわかっているからこそ、今次の決着には批判が多い。民間金融機関からの資金流出の懸念は、錯綜する利害のほんの一端でしかないので説得性に欠ける。

 民業圧迫論だけでは郵貯機能拡大を中止させられない。日本郵政の経営安定化と公的資金を要しない郵政サービスのナショナルミニマム維持というのが郵貯機能拡大と関連付けられたことに対して、それを凌駕する対案が政府内で準備されなかったことが痛い。

 本件については、本日、東京財団で郵政改革試案を発表したので御参考まで。
政策提言「郵政改革試案−国民ニーズに合致した郵政サービスへ−」
郵政改革論と日本郵政経営論 [2010年03月30日(Tue)]

 今夕の産経新聞ネット記事によると、政府は亀井郵政改革相らが概要を公表した郵政改革案について了承したとのこと。

〔記事要旨〕
・郵貯預入限度額をめぐって閣内で異論続出していたが、首相は「亀井氏の案でやる」と、事態収拾。郵貯預入限度額を1千万円から2千万円に引き上げる改革案は概要通り決着。
・簡保上限額も1300万円から2500万円に引き上げ。
・亀井氏は「遅くとも来年4月には(郵政改革法を)施行したい」。預入限度額引上げは6月に郵政改革法を成立させると同時に政令改正して引き上げ、民間からゆうちょ銀への資金移動状況をみた上で来年4月までに引下げを含む再検討。

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 全国2万4000の郵便局網を維持するために郵政金融2社(ゆうちょ銀・かんぽ生保)の手数料収入で賄おうとすることがそもそも時代錯誤だろうという話。今次の郵政改革とは即ち、国営である日本郵政株式会社の収入安定化に他ならない。

 今後中長期の我が国の社会構造を俯瞰すれば、郵便局網の運営原資をどのように賄うことがより適切かは一目瞭然。郵政金融2社を完全民営化していく必要性は、民業圧迫回避という銀行・保険業界の損得勘定にではなく、国民資産の運用先を誘導していくべき先が内需だけではない点にある。

 国民のおカネを国営郵政(旧郵政省)に集約しようということが、国策として堂々と罷り通ろうとしている。先の郵政民営化は行き過ぎだったが、今回の郵政改革は戻り過ぎである。貯金限度額に焦点が絞られたことも残念極まりない。郵政改革法案を廃案にして、参院選後に郵政民営化見直し法案を再度練り直す以外にない。
郵政改革 〜 マイナスとプラス [2010年03月24日(Wed)]
 
 今日の毎日新聞ネット記事によると、亀井郵政担当相は郵政改革概要を発表したとのこと。

【記事要旨】
・郵政改革法案を今国会提出。施行施行は来年10月以降。貯金、保険限度額引上げは法成立に合わせて政令改正し、早ければ6月から実施。
・亀井担当相は、郵便のほか貯金、保険にも新たに全国一律サービスを義務づけるため、「国や地域の期待を果たすには政府の関与はどうしても必要」と政府出資の必要性強調。グループ株式公開時期は「組織を改革し、事業を展開していく中で考えていけばいい」。

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 郵政ネットワーク事業(郵便局網)や郵便事業に関して、その赤字補填のために最大2兆円の郵貯・簡保の収益を基金化しようとしたことや、国有株式会社化したことを民営化と呼んだのが、小泉政権での郵政民営化の大きな誤りだった。

 現政権の郵政改革では、こうした点に所要の修正を施した点がプラス要因と評価できる。しかし、郵政ネットワークの維持に係る権限を日本郵政に残存させたことはマイナス要因。本来は地域主権(地方分権)のはずだが、総務相がそれに対して強い態度で臨まなかったことが悔やまれる。

 郵政金融(郵貯・簡保)の国営化への回帰は、旧郵政公社を飛び越えて旧郵政省どころか、唯一の株主である財務相の手中に収まったように思うのは筆者だけだろうか。郵政金融からの資金を流す当面の行き先を明確に表明していないことを責める郵政利用者が殆どいないことも大きな問題ではある。

 だが、それを予め含み置いた上で宣言していく見識がないのが残念でならない。政治の玩具になるのは今回で最後になるべきだが、もう一度大幅な軌道修正が必要になることもまず間違いない。

 かかる膨大な資金が国債市場や財投市場という官製市場に更に流れることは誰でも予想がつくとしても、その方向性と理由付けをきちんと説明しておくべきである。来るべき郵政改革法案審議では、こうした点を入念に追求していくことも重要である。改革は、それを推進する側からの価値観でしか改革とは呼べない。(改革案の骨子や組織形態の変更は下記を参照。)


◇郵政改革の骨子◇
▽ゆうちょ銀行への預入上限額を2000万円(現行1000万円)、かんぽ生命の保険金上限を2500万円(同1300万円)に引上げ
▽日本郵政グループは5社体制から3社体制に再編。郵便事業会社、郵便局会社は持株会社と統合し親会社を新設
▽親会社への政府出資比率は3分の1超
▽金融2社への親会社の出資比率は3分の1超
▽非正規社員10万人を正社員化

※組織形態

出所:http://www.asahi.com/politics/gallery_e/view_photo.html?politics-pg/0323/TKY201003230498.jpg
派遣法改正と派遣切り防止は関係付けられるか [2010年02月25日(Thu)]

 今朝の毎日新聞ネット記事によると、労働政策審議会は登録型派遣や製造業派遣の原則禁止を柱にした改正労働者派遣法案要綱を妥当とする答申を出したとのこと。

〔記事要約〕
・通訳など専門業務を除き、登録型派遣を原則禁止、製造業務も常用型派遣だけを許すほか、登録型派遣の原則禁止の施行は最大5年の猶予。
・連合は賛成、派遣労働者労組からは「抜け穴が多く実効性が薄い」。

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 旧政権から設置されている労政審の答申を尊重することが現政権の政治主導・脱官僚依存に抵触しないのかなどという指摘があることはさておき、内容的には民主党が野党時代から叫んでいたものと殆ど同じ。

 労政審は現政権の諮問機関としては、合理的に機能しているということだ。審議会の各委員の多くには私心があるにしても、審議会の総体としては諮問元の顔色を窺わざるを得ない。現行制度においては、政権交代によっても、各大臣の諮問機関には大きな制約と超越できない限界があることを如実に現わしている。

 妥当と答申された改正労働者派遣法案要綱は、下記ファイルの通り。最大5年も経過措置があると、経済社会情勢の変化に対応できるはず。派遣切り防止などの政策目的とそのための法案内容に大きな乖離があるにしても、軟着陸である手法を採用している点では評価できる。



hakenho_yoko.pdf


 派遣労働規制緩和は、景気下向き局面でない局面ではマクロ的なワークシェアリングとして機能したが、景気下向き局面では別の問題を惹起した。派遣切りは、規制緩和によるものではなく、景気の劇的な下振れによるものである。

 従って、派遣規制強化のための派遣法改正は、改正法施行後の派遣切り防止には資するが、就業対策や失業者対策としては全く機能しないどころか、逆の効果をもたらす。適切で妥当な安全網の敷設が最も望まれる。この場合、公的安全網はどこまで必要かについての線引きが最大の課題となる。

 世代が徐々に交代していく以上、安全網施策にも時々に応じて欠陥が顕在化する。それを適宜修正していく柔軟性が必要だ。職がないのは景気によるので仕方ない面があるが、衣食住は必ず確保されるような公的安全網こそが必要最低限なのではないだろうか。
ゆうちょ銀行の預入限度額撤廃は妥当でないか [2010年01月26日(Tue)]

 今夕のSankeiBizによると、全銀協の永易会長(三菱東京UFJ銀行頭取)は、ゆうちょ銀行の預入限度額撤廃について「国の関与が残るのであれば民間銀行との競争条件は不公平。撤廃は当然、許容できない」と反対したとのこと。

【記事抜粋】
・永易会長は「暗黙の政府保証もある。ゆうちょ銀行が業務範囲を拡大すれば、民との完全な衝突が起こる」。過去に実現した業務拡大も「完全民営化に向けたステップでやってきたこと。(国有を続けるのであれば)縮小の方向にいくべき」。
・郵政改革法案では日本郵政とゆうちょ銀、かんぽ生保の株式売却を凍結。
・日本郵政は「原則1人1000万円」の預入限度額撤廃を求めているが、民間銀行は反発。

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 郵貯の利用者からすれば、貯金限度額規制を緩和・撤廃してもらうほうが利便性向上になる。郵貯銀行が実質国営であることのメリットだけに神経質になれば、競争上不利に立っていると民間銀行が思うのも理解できなくはない。

 だとしても、民間銀行が郵貯銀行よりも魅力的なサービス・商品を提供すれば良いだけのことだと思うのは、筆者だけだろうか。勿論、競争政策的な観点からは、“国営・郵貯銀行”の優位性は揺るがないとの結論にはなる。但しそれはあくまでも、民間銀行側から斜に構えた視点からの競争条件面での話でしかない。

 全銀協の主張に係る視野は、2〜3年先のことであって、10〜20年先のことではないのではないか。郵貯銀行の資本構成がどのような形になろうとも、今後当面は、地域分割など規模を強引に縮小しない限り、既存民間銀行と同じ競争環境にまでなるには気の遠くなるような時間を要するはず。

 郵政改革法案が基本方針に沿ったものとして施行されれば、郵貯銀行の経営に大きな足枷が再び嵌められることに他ならない。それは、郵政金融2事業(郵貯・簡保)、郵便2事業(宅配・信書)、郵政ネットワーク(郵便局)のそれぞれの将来性を冷静に俯瞰すれば、自ずと明らかになっていく。

 民間銀行との関係はあまり心配ない。憂慮すべきは、郵政4事業と行政サービスの融合に関する政策ビジョンが曖昧なことだ。これを明快なものにしていかないと、郵政ネットワークの将来は危ない。早急なビジョン策定が必要である。
「環境」は官業復権のチャンスとなるか? [2010年01月15日(Fri)]

 昨日の日経新聞によると、政府は環境関連設備投資を促すため、企業への新支援制度を設けるとのこと。

【記事概要】
・米欧に対抗し、日本企業の国際競争力維持。工場や雇用の国外流出を防ぐねらい。
・低利融資対象は電気自動車や太陽光発電パネル、蓄電池を生産する大企業。民間金融機関が日本政策金融公庫の資金供給を受けて1000億円融資枠。大企業が事業計画を提出、政府が有効と判断すれば融資。
・省エネ型の工業炉や高効率ボイラー、発光ダイオードをリースする中堅中小企業向けに公的機関が保険をかける。製造業だけでなく設備導入する病院なども対象。

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 政府系金融機関その他公的機関の存在意義が強調されていくという話。初期コストも含めてリスクが比較的高い投資であれば、公的支援など何らかの費用補助がないと始まらないのは常。公的支援スキームとして、政府直轄とするか、政府系機関を通すかという点で考え直さないといけない。

 前者を選択するのが現政権マニフェストの根底に流れる官民役割分担に係る基本思想でなのだが、それも「卒業」したということか。この点については、「卒業」ではなく、“逸脱”ないし“違反”だとして指弾されるだろう。「環境」や「福祉」で納税しない官業を復権させるチャンスとすることはいかがなものか。

 公的価値体系の中に位置付けられる投融資の促進は順次進められていくべきであり、その意味において、いわゆる環境投資は有望株の一つであることは間違いない。公的低利融資や公的保険をそのために法制化することは、旧政権でしばしば採られた手法。

 経験則もあるが、低利融資や保険よりも、規制改革による方が投融資促進効果は遥かに高いと思料する。今後当面の金融市場環境を俯瞰するに、低利融資や保険で自発的に進む需要創造があるとは思えない。案外、規制改革(≒規制強化)による少々の無理強いは有力。我が国は、それを頻繁に且つ難なく経験してきた。