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官邸斜向かい〜霞門の眼 by 石川和男

政治・経済・社会の動向から明日明後日を読むということで。


「日本郵政:3社体制へ 政府見直し案 国の関与強化」について [2009年12月31日(Thu)]

 今日の毎日新聞ネット記事によると、日本郵政グループの新組織形態の原案が分かったとのこと。



≪記事要旨≫
・3社制に改編して金融2社が親会社と受委託契約を結ぶことで、親会社の郵便配達員や郵便局員が貯金・保険を扱えるようにする。
・郵便配達員が過疎地の高齢者の依頼を受け、貯金口座から引き出した年金を自宅に届けられるようにする。
・郵便だけだった全国一律サービスを、貯金・保険にも義務づけ。

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 郵政金融2社の完全民営化は完全回避されるという話。先の郵政株式売却凍結法の成立は、現行の郵政民営化に相当の無理があったことを再認識させる効果はあった。次期通常国会に提出予定の郵政改革法案の骨子は、去る10月20日の閣議決定の通りであるが、案の定、組織論に最も興味が集中している。

 郵政民営化における最大の足枷は、郵政金融2社が民営化開始から10年間で社会・地域貢献基金の原資として総額1〜2兆円を拠出する義務を負っている点である。この基金の運用益を、郵便事業会社と郵便局会社の赤字事業補填に充当しようという趣旨だが、郵政ユニバーサルサービスに要するコストを郵政金融2社に負わせる構造こそが、真っ先に改革されるべきであった。

 郵政民営化は「民営化」というキーワードに固執し過ぎた嫌いがある。だから、郵便事業会社と郵便局会社を不完全な民営化会社に衣替えせざるを得なかったのでないか。そこは、今次の郵政民営化見直しにおいて焦点の一つとなるべき。

 組織論から入ると、機能論が蔑ろになりがち。機能論に重きを置くと、郵政ネットワークの維持システムは、公営か民営かを問わない。郵政ネットワークに乗っかる金融サービスと物流サービスは、「郵貯・簡保・郵便」に限定するのではなく、「銀行・保険・宅配・信書」と捉え直さないと業務拡充の機会を失う。地方行政サービスを乗っけるのであれば尚更である。

 機能論から始めると、自ずと組織論の最適解が見えてくる。おおまかには、「完全民営化(2金融・宅配)」と「完全公営化(ネットワーク・信書)」に分けるべきだとなろう。郵政金融2部門の収益で郵政ネットワーク・郵便事業・地方行政サービスなどを内部補填する体系を指向すると、結局は公的支援に向かわざるを得なくなる。民営事業と公営事業を明確に分離することが、真の郵政改革(≒ポスト郵政民営化)だ。
「郵貯資金で郵政相 「個人融資に活用検討」」について [2009年12月04日(Fri)]

 今朝の日本経済新聞によると、亀井郵政・金融相は郵貯資金運用について「地域の人が一時的に借りられる少額の融資を検討したい」と述べたとのこと。

【記事要旨】
・政府は郵政見直しの一環として郵貯マネーを地域金融や中小企業金融に活用する方針。
・郵政相は地域金融機関とのすみ分けに配慮するとしているが、警戒感が広がりそう。
・ゆうちょ銀行は定額貯金担保に預入額90%まで貸し付けているほか、スルガ銀行の個人ローンも仲介。本格的な個人向け融資は手掛けていない。
・195兆円郵貯マネーの8割を国債に振り向けており、資金運用多様化が必要。
・融資ノウハウ不足や民業圧迫批判もあり、個人向け融資参入へのハードルは高い。

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 郵政株式売却凍結法が成立したことの政治的意義及び政策的意義はさておき、郵政マネーの運用を国債以外に振り向けていこうとする姿勢は評価されるべき。今後当面の景気動向を俯瞰すれば、郵貯が国債受け皿としての性格を再び濃くする時が一瞬訪れるだろう。

 しかし、それ以後の中長期的視野に立てば、郵政・金融相の発言趣旨は適確だと言える。その点で有望なのは、従来型の商工ローン、消費者金融・信販など貸金業市場が限りなくゼロに近付く中で構築されるべき、民間資金による新しいマイクロファイナンス市場である。

 個人融資に関する融資ノウハウ不足については、郵政側が卸金融機能に特化することにすれば何ら心配ない。卸先としてマイクロファイナンスを担う適切な事業ルールと事業体を予め用意しておく必要はある。

 民業圧迫批判に対しては、圧迫される民業が存在していないので問題ない。この新たな市場を公的金融・政策金融の領域にすべきとの声も出るだろうが、民間資金で回せるものは民間資金で回すべきであり、財政難でもある中でわざわざ公的資金を投入するのは愚挙である。


 これに関して、「日本の論点2008」で拙稿を掲載済みなので、御参考まで。

ronten2008.pdf

「日本郵政株式会社、郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の処分の停止等に関する法律案」の私見的解説 [2009年11月04日(Wed)]

 今臨時国会に提出された、日本郵政グループの株式売却を凍結するための法案は、正式名を「日本郵政株式会社、郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の処分の停止等に関する法律案」という。大きな関心を持たれている人が多いとはとても思えないが、この際なので同法の主要条文を紐解いてみたい。あくまでも私見であるので、御参考まで。


 (趣旨)
第1条 この法律は、郵政民営化(郵政民営化法(平成17年法律第97号)第1条に規定する郵政民営化をいう。以下同じ。)の見直しに当たっての日本郵政株式会社、郵便貯金銀行(同法第94条に規定する郵便貯金銀行をいう。以下同じ。)及び郵便保険会社(同法第126条に規定する郵便保険会社をいう。以下同じ。)の株式の処分の停止等について定めるものとする。
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 いわゆる「郵政民営化」とは、郵政民営化法第1条において「平成16年9月10日に閣議において決定された郵政民営化の基本方針に則して行われる改革」と定義されており、同条で述べられているところの「民間にゆだねることが可能なものはできる限りこれにゆだねることが、より自由で活力ある経済社会の実現に資することにかんがみ」、国営の郵政事業について持株会社(日本郵政株式会社)を頂点として4分社化(郵便貯金銀行、郵便保険会社、郵便事業株式会社、郵便局株式会社)するもの。
 どの法律でも第1条は目的規定となることが通常であるが、本法案では「趣旨」の見出しで、日本郵政株式会社・郵便貯金銀行・郵便保険会社の株式売却停止を本法案で定めるとしか書かれていない。何のために郵政株の売却を停止するのかという目的が明記されていない。これは近年の法案では珍しい。
 郵政株の売却を停止する目的を文章化することが叶わなかったのではないかと推察する。まさか、“本法案は、民営化され始めた郵政4事業を再び官営化することにより、小泉構造改革なるものを否定することを目的とする”とは書けない。



 (日本郵政株式会社の株式の処分の停止)
第2条 政府は、郵政民営化法第7条第1項本文及び日本郵政株式会社法(平成17年法律第98号)附則第3条の規定にかかわらず、別に法律で定める日までの間、その保有する日本郵政株式会社の株式を処分してはならない。
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 郵政民営化法第7条第1項本文は「政府が保有する日本郵政株式会社の株式がその発行済株式の総数に占める割合は、できる限り早期に減ずるものとする。ただし、その割合は、常時、3分の1を超えているものとする。」で、日本郵政株式会社法附則第3条は「政府は、その保有する会社の株式(第2条に規定する発行済株式をいい、同条の規定により保有していなければならない発行済株式を除く。)については、できる限り早期に処分するよう努めるものとする。」と記されている。
 日本郵政株式会社の株式売却を開始すべき時期と終了させるべき時期は規定されていない。政府の保有比率が1/3を超えていることが義務付けられているに過ぎない。
 現在、日本郵政株式会社の最大にして唯一の株主は財務大臣である。日本郵政株式会社の株式売却を「別に法律で定める日」まで凍結することをわざわざ法律事項として規定しておく必要はない。せいぜい最高でも閣議決定レベルで内閣の方針として日本郵政株式会社の株式売却を凍結することを確認していくだけで必要十分である。



 (郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の処分の停止)
第3条 日本郵政株式会社は、郵政民営化法第7条第2項及び第62条第1項の規定にかかわらず、前条の別に法律で定める日までの間、その保有する郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式を処分してはならない。
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 郵政民営化法第7条第2項は「「日本郵政株式会社が保有する郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式は、移行期間(平成19年10月1日から平成29年9月30日までの期間をいう。以下同じ。)中に、その全部を処分するものとする。」で、郵政民営化法第62条第1項は「日本郵政株式会社は、移行期間中に、郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の全部を段階的に処分しなければならない。」と記されている。
 郵便貯金銀行と郵便保険会社の株式売却については、平成29年9月30日までに終了されるべきことは規定されているが、開始すべき時期は規定されていない。これも前条の日本郵政株式会社の株式売却と同様、「前条の別に法律で定める日」まで凍結することをわざわざ法律事項として規定しておく必要はない。せいぜい最高でも閣議決定レベルで内閣の方針として郵便貯金銀行と郵便保険会社の株式売却を凍結することを確認していくだけで必要十分である。



 (郵政民営化法の運用に当たっての考慮)
第4条 第2条の別に法律で定める日までの間は、政府は、郵政民営化法第8章第3節及び第9章第3節の規定の運用に当たっては、前2条の規定により日本郵政株式会社、郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の処分が停止されていることを考慮しなければならない。
 (郵政民営化法の特例)
第5条 第2条の別に法律で定める日までの間における郵政民営化法の規定の適用については、同法第61条中「次に掲げる業務」とあるのは「第2号及び第3号に掲げる業務」と、同条第2号中「又は郵便保険会社の株式を処分するまでの間における当該株式の保有及び」とあるのは「及び郵便保険会社が発行する株式の引受け及び保有並びに」と、同条第3号中「前2号」とあるのは「前号」とする。
 (日本郵政株式会社法の特例)
第6条 第2条の別に法律で定める日までの間における日本郵政株式会社法の規定の適用については、同法第2条中「含む。以下この条において同じ」とあるのは「含む」と、「総数の3分の1を超える株式」とあるのは「総数」と、同法第5条中「及び郵便局株式会社」とあるのは「、郵便局株式会社、郵便貯金銀行(郵政民営化法(平成17年法律第97号)第94条に規定する郵便貯金銀行をいう。以下同じ。)及び郵便保険会社(同法第126条に規定する郵便保険会社をいう。以下同じ。)」と、同法第22条第2号中「第5条」とあるのは「第5条(日本郵政株式会社、郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の処分の停止等に関する法律(平成19年法律第▼▼▼号)第6条の規定により読み替えて適用される場合を含む。)」と、「及び郵便局株式会社」とあるのは「、郵便局株式会社、郵便貯金銀行及び郵便保険会社」とする。
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 第4条は運用面での努力義務のようなものに過ぎない。第5条及び第6条の趣旨は政府が当該3社の株式売却を凍結していれば達成される。この3条もわざわざ法律事項としておく必然性はない。なぜ、雇用対策など優先すべき審議事項が本当はあるにも拘わらず、この法案を提出・審議するという時間の浪費をしなければならないのか、甚だ不明。小泉構造改革の否定よりも、この不景気下における経済社会運営の在り方を議論する方が国民には歓迎されると思うが、どうか。


   附 則
1 この法律は、公布の日から起算して20日を経過した日から施行する。
2 郵政民営化については、国民生活に必要な郵政事業に係る役務が適切に提供されるよう、速やかに検討が加えられ、その結果に基づいて必要な見直しが行われるものとする。
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 第1項はさておき、第2項は次期通常国会に提出されると見込まれる郵政改革基本法案(仮称)を示していると考えられる。先般の政府方針によると、それは郵政民営化法廃止を含めた“郵政官営化”への回帰ということになるのだろう。本則の「別に法律で定める日」の「法律」を定めなければ、いつまでも郵政4事業は国営のままでいられる。凍結されたものはいつか融解される。つまり、その日が来るまでは凍結されたままなのである。
「日本郵政:新経営陣を選出 「官主導」で再出発」について [2009年10月28日(Wed)]
  
 今日の毎日新聞ネット記事によると、日本郵政は28日午前、臨時株主総会を開き、原口総務相の認可を受け、新経営体制が発足したとのこと。

<記事抜粋>
・郵政民営化見直し方針が反映された人事で、代表権のある社長、副社長の計5人のうち官僚OBが3人、官主導の色合いが濃い体制。
・新体制の取締役は、9人から18人に倍増。常勤取締役は5人。
・社外取締役には、公益性重視や全国サービス維持をアピールする狙いで、九州電力会長らが就任。日商会頭ら民間トップや有識者も取締役に。
・亀井郵政担当相は「順調にきた。良いメンバーがそろった」。
・原口氏は官僚は少ないとの認識を示した上で、「元官僚を使わないと人材不足になる。適材適所だ」。
・事実上、小泉構造改革路線の郵政民営化との決別が鮮明となる人事。
・臨時株主総会に、財務相に代わって株主として出席した亀井郵政担当相は自ら新取締役案を提案、自ら議決。
・日本郵政は指名委員会で取締役候補を決める委員会設置会社だが、今回の人選はその手続を飛び越え、政府が唯一株主であることを理由に亀井氏が主導。

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 郵政事業に係る人事組織論は今回で最後にして、今後は郵政政策論を前面に押し出していくべき。郵政金融(郵貯・簡保)、郵政物流(宅配便・信書便)、郵政ネットワーク(郵便局)など、本来の政策課題は山積している。

 超巨大な国営企業の民営化プロセスにあったので、そう易々と成果が出る訳にもいかなかったのだろう。07年10月の日本郵政発足以来、大きな進展があるとは言えない。もっとも、それは揺り戻しの理由にはなっていない。

 現行の郵政民営化関連6法には、確かに修正すべき点は少なくない。株式売却による株主構成の多様化が全くない現状では、当初目的の郵政民営化が始まったとは言い難い。そういう状況での揺り戻しとなるわけだが、東京財団の研究会から公表した主要論点にも謳ったので御参考まで。
「郵政社長交代、産業界への影響 私はこう見る」 [2009年10月22日(Thu)]

 今朝の日経産業新聞に、郵政社長交代などについて筆者のインタビュー記事が掲載されましたので、その概要を御参考までに。

<私見要旨>
・郵政民営化が政権交代で揺り戻し。大半の国民は冷めた目。
・郵便局を株式会社にする無理を見直すきっかけとなる点で評価。いずれは公社(筆者注:ここは「地方分権による公営化」も言及したかった)にすべき。4社再統合はやりすぎ。
・日通やヤマトがあるのに宅配便を官業存続させるのはメリットない。民間売却した方が物流効率化。
・採算割れ信書事業の民営化は難。亀井担当相が提案するように、年金や介護などのサービスと一緒に自治体に運営を任せればいい。
・(ゆうちょ銀行は)国債買取機関としての色彩が濃くなり、国債発行受け皿として機能するのだろう。
・かんぽの宿が赤字を垂れ流すのは国民にとってマイナス。ぜい肉をそぎ落とすことまでやめるべきでない。
「日本郵政:新社長に元大蔵次官の斎藤次郎氏」について [2009年10月21日(Wed)]

 今日の毎日新聞ネット記事その他各紙報道によると、亀井郵政担当相は今日、日本郵政西川善文社長(71)の後任に、元大蔵事務次官の斎藤次郎・東京金融取引所社長(73)を起用すると発表したとのこと。

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 様々な政治的思惑があったことは想像に難くないが、今後当面、マスコミ紙上や臨時国会の場で何かと話題になっていくだろう。大蔵省・財務省出身だからダメ、というのは先の日銀総裁人事で民主党が主張したこと。これとの矛盾を自民党やマスコミは突いてくると思われるが、この人事問題と郵政事業の将来展望論を切り離して見つめる冷静さが求められる。

 政治的にはそれはできない相談だとわかってはいるものの、それでも尚、せめて報道機関においては、郵政問題の政治的側面よりも政策的側面に焦点を当て続ける紙面を大きく割いていただきたい。郵貯簡保300兆円の帰趨の方がよほど、国民的関心事項でなければならない。



≪追記≫
 本日午後、東京財団から「郵政民営化の論点整理」(プロジェクト・リーダー:石川和男)と題して、今後の郵政民営化見直しに関する論点提起をしましたので御参考まで。



≪追記2≫
鳩山首相、「脱官僚」と矛盾せず」について
 鳩山首相は斎藤氏起用について、「大蔵省を辞めて14年たっている。民間でも働いていた」と、「脱官僚」政治とは矛盾しないとの認識を示したとのこと。「脱官僚」、「天下り」は国民の琴線に触れるキーワード。首相が認識することが大事なのではなく、国民の多くがどう認識するかを認識することが大事。
 郵政問題は、民営化政策以外の話が鬼門となっている。“郵政問題”から“郵政政策”に転換することが政治の役割なのだが・・・・。
「貯金・保険 「全国で提供」義務付け 郵政見直し方針」について [2009年10月20日(Tue)]

 今朝の日経新聞によると、政府の郵政事業見直し基本方針を20日閣議決定するとのこと。

<記事抜粋>
・与党3党は民営化後に地方郵便局で利便性が低下したとして、事業のあり方を改める。
・臨時国会に日本郵政グループ株式売却凍結法案を提出。
・見直し議論する間は株式処分を見合わせ、政府が一定影響力を維持する出資割合も検討。
・次期通常国会に郵政改革法案(仮称)を提出、成立を図る。

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 国民的関心があるとは殆ど思えない郵政見直しで、他の重要案件を押し退けてまで臨時国会・通常国会と連続で法案を提出するのは何かを見誤っているとしか思えない。政策内容の点だけで考えれば、上記の基本方針のいずれも今すぐ法制化する必然性は乏しい。
 
 公約達成にはなるが、郵政再改革で今の経済社会の窮状が改善される訳でもない。そう考えると、先の郵政民営化それ自体もそうであった。中長期的な施策なので、不景気を脱却したいと思っている時には相応しい改革ダマではないとなる。

 郵政資金を活用した景気刺激策を検討するというのであれば、時宜を得たものとなろう。国債消化財源としてではなく、『資金の流れを官から民へ』の中での別のものとして。



※「郵政改革の基本方針」(10月20日 閣議決定)
 郵政事業の抜本的見直し(郵政改革)については、国民生活の確保及び地域社会の活性化等のため、日本郵政グループ各社等のサービスと経営の実態を精査するほか、以下によるものとして検討を進め、その具体的な内容をまとめた「郵政改革法案」(仮称)を次期通常国会に提出し、その確実な成立を図るものとする。
1 郵政事業に関する国民の権利として、国民共有の財産である郵便局ネットワークを活用し、郵便、郵便貯金、簡易生命保険の基本的なサービスを全国あまねく公平にかつ利用者本位の簡便な方法により、郵便局で一体的に利用できるようにする。
2 このため、郵便局ネットワークを、地域や生活弱者の権利を保障し格差を是正するための拠点として位置づけるとともに、地域のワンストップ行政の拠点としても活用することとする。
3 また、郵便貯金・簡易生命保険の基本的なサービスについてのユニバーサルサービスを法的に担保できる措置を講じるほか、銀行法、保険業法等に代わる新たな規制を検討する。加えて、国民利用者の視点、地域金融や中小企業金融にとっての役割に配慮する。
4 これらの方策を着実に実現するため、現在の持ち株会社・4分社化体制を見直し、経営形態を再編成する。この場合、郵政事業の機動的経営を確保するため、株式会社形態とする。
5 なお、再編成後の日本郵政グループに対しては、更なる情報開示と説明責任の徹底を義務付けることとする。
6 上記措置に伴い、郵政民営化法の廃止を含め、所要の法律上の措置を講じる。
「郵政民営化見直し:臨時国会提案は株売却凍結のみ」について [2009年10月16日(Fri)]

 昨夜の毎日新聞ネット記事によると、政府・与党は臨時国会に郵政民営化見直し関連法案を日本郵政グループの株式売却凍結法案1本に絞って提出するとのこと。

<記事抜粋>
・亀井郵政担当相はこれまで、株式売却凍結法案と民営化見直し基本法案の両方を臨時国会に提出意向。
・会期が1カ月と短いため、基本法案提出は見送る。
・(1)郵便局での郵便、貯金、保険の3事業一体的提供(2)金融2業の全国一律サービス実施−−を閣議決定に持ち込む方向。

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 法制化すべきものとそうでないものを峻別できないのが政治の世界。民営郵政の株式売却凍結については、現行郵政民営化法で規定されている「2017年9月末」がまだまだ先である現在、法制化する絶対的必要性はない。最大にして現在唯一の株主である“財務大臣”が売却しない決意を示せば十分。心配ならば閣議決定でもしておけば良い。

 法案審議時間が十分に取れないから基本法案提出を見送るという理屈はその通りなのだが、同じように考えると、凍結法案審議時間の分を他の重要案件に譲るべき。それが“国民目線”というものではあるまいか。

 と言っても、臨時国会期間を短くしたいのは民主党である。理由は郵政とは全然関係ない。
「郵政事業:早くも不協和音」について 〜 総務相と郵政改革相の役割分担論 [2009年09月18日(Fri)]

 今日の毎日新聞ネット記事によると、日本郵政の経営形態見直しを巡り、亀井金融・郵政担当相が、原口総務相が示した見直し案に対し「担当大臣は私。あの方の個人的な意見だ」と不満を漏らす一幕があったとのこと。

(記事抜粋)
・原口総務相は、郵便局全国網を維持するため「持株会社と郵便局会社、郵便事業会社を一緒にする」との見直し案。
・国民新党内では、ゆうちょ銀行とかんぽ生命も含めて1社統合する考えも根強く、亀井担当相は「(郵政民営化見直しは、原口総務相の)主管事業ではなく、絵を描く立場でもない。もちろん相談はするが、責任は私にある。そういう意味では白紙」と反発。

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 このような鞘当て劇が今後起きないよう、郵政改革(=郵政民営化見直し)を巡る総務相と郵政改革担当相の役割分担を明文化しておく必要がある。2005年秋の郵政民営化関連6法の成立は小泉首相(当時)の強いイニシアティブで事が進んだが、その前後で一応、総務相と郵政民営化担当相の間で、役割分担が明文化されている。

 小泉政権下では、郵政民営化関連6法成立までは郵政民営化担当相と総務相は別の閣僚だったが、同法成立以降は同一閣僚。安倍、福田、麻生政権では、総務相が郵政民営化担当相を兼務。因みに、現行の郵政4事業を巡る権限内容・配置は、次の通り。

@内閣・郵政民営化推進本部(根拠:郵政民営化法) ⇔ 郵政民営化担当相
 ○郵政民営化の推進に関する総合調整に関すること。
 ○郵政民営化の推進のために必要な法律案及び政令案の立案に関すること。
 ○前二号に掲げるもののほか、郵政民営化に関する施策で重要なものの企画に関する審議及びその施策の実施の推進に関すること。

A総務省(根拠:総務省設置法) ⇔ 総務相
 ○郵便事業に関すること。
 ○郵便局の活用による地域住民の利便の増進に関すること。
 ○社会・地域貢献基金に関すること。
 ○郵便認証司に関すること。
 ○信書便事業の監督に関すること。

 普通に考えれば、郵政改革担当相の権限は@で、総務相の権限はA。しかし、郵政改革相は@に掲げられた「郵政民営化の推進」が任務ではないことは明白。既に日本郵政株売却の凍結などを打ち出している以上、@の内容も凍結されているのと同然。

 総務相の権限はAを逸脱することはできないが、「郵政改革」という言葉とは相当重複する解釈となりそうなので、実は曖昧極まりない。総務相の権限からは郵政金融2社(ゆうちょ銀、かんぽ生保)が除外されていると一見解されるが、社会・地域貢献基金は郵政金融2社の収益の一部が充当される“規制”がある。郵便事業と郵便局については総務相の権限として明記されている。

 本来、両権限を同一閣僚が兼務するのであれば何ら問題ないが、現内閣では別々となっている。従って早いうちに、「郵政改革担当相」の権限を明文化しておくことが必要だ。(最も合理的な解は、勿論、総務相に郵政改革担当相を兼務させること。だがそれに至るには、少々時間が必要となるだろう。)
ゆうちょ銀 〜 2009/2/18日経新聞「ゆうちょ銀 個人・法人融資解禁を 郵政見直し 自民提言へ 経営形態には触れず」より [2009年02月18日(Wed)]

 今朝の日経新聞によると、自民党の郵政民営化推進PTはゆうちょ銀行の預入限度額(1人当たり1千万円)の撤廃や個人・法人向け融資の解禁などの提言をまとめたとのこと。

<記事抜粋>
・麻生首相の4分社体制見直し発言で浮上した経営形態修正の是非は引き続き検討。
・ゆうちょ銀:預入限度額撤廃、自己資金による住宅ローンや企業向け融資の解禁を提案。
・かんぽ生保:がん保険販売を認めるべき。
・経営形態を巡っては、「2社だけ合併しても本質的な解決にはならない」、検討項目に「郵便局会社と郵便事業会社の連携」。

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 これを政府の郵政民営化委員会に提出するわけだが、民営化委の結論の大要は既に見えている。政府と与党で結論付けの順序が逆であるが、今の与党体制下ではこれも仕方ない。来年の今頃は、‘改革論’ではなく『政策論』が少しだけ台頭しているだろう。

 4社体制維持云々は「郵政民営化」にとっては大きいかもしれないが、『郵政民営化政策』にとっては手法の一つでしかない。郵便と郵便局の2社合併だけでは本質的解決にならないのはその通り。

 郵政金融2社の将来は、維持すべきを“郵便局ネットワーク”とするか“郵政ネットワーク”とするかで変わってくる。後者の方が明らかに合理的である。ローン業務を解禁しても、いずれかのメガバンクと合併でもしない限り、コスト面も含めて結局は『卸金融』が最善だとなる。
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