「日本郵政株式会社、郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の処分の停止等に関する法律案」の私見的解説
[2009年11月04日(Wed)]
今臨時国会に提出された、日本郵政グループの株式売却を凍結するための法案は、正式名を「日本郵政株式会社、郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の処分の停止等に関する法律案」という。大きな関心を持たれている人が多いとはとても思えないが、この際なので同法の主要条文を紐解いてみたい。あくまでも私見であるので、御参考まで。
(趣旨)
第1条 この法律は、郵政民営化(郵政民営化法(平成17年法律第97号)第1条に規定する郵政民営化をいう。以下同じ。)の見直しに当たっての日本郵政株式会社、郵便貯金銀行(同法第94条に規定する郵便貯金銀行をいう。以下同じ。)及び郵便保険会社(同法第126条に規定する郵便保険会社をいう。以下同じ。)の株式の処分の停止等について定めるものとする。
↓
いわゆる「郵政民営化」とは、郵政民営化法第1条において「平成16年9月10日に閣議において決定された郵政民営化の基本方針に則して行われる改革」と定義されており、同条で述べられているところの「民間にゆだねることが可能なものはできる限りこれにゆだねることが、より自由で活力ある経済社会の実現に資することにかんがみ」、国営の郵政事業について持株会社(日本郵政株式会社)を頂点として4分社化(郵便貯金銀行、郵便保険会社、郵便事業株式会社、郵便局株式会社)するもの。
どの法律でも第1条は目的規定となることが通常であるが、本法案では「趣旨」の見出しで、日本郵政株式会社・郵便貯金銀行・郵便保険会社の株式売却停止を本法案で定めるとしか書かれていない。何のために郵政株の売却を停止するのかという目的が明記されていない。これは近年の法案では珍しい。
郵政株の売却を停止する目的を文章化することが叶わなかったのではないかと推察する。まさか、“本法案は、民営化され始めた郵政4事業を再び官営化することにより、小泉構造改革なるものを否定することを目的とする”とは書けない。
(日本郵政株式会社の株式の処分の停止)
第2条 政府は、郵政民営化法第7条第1項本文及び日本郵政株式会社法(平成17年法律第98号)附則第3条の規定にかかわらず、別に法律で定める日までの間、その保有する日本郵政株式会社の株式を処分してはならない。
↓
郵政民営化法第7条第1項本文は「政府が保有する日本郵政株式会社の株式がその発行済株式の総数に占める割合は、できる限り早期に減ずるものとする。ただし、その割合は、常時、3分の1を超えているものとする。」で、日本郵政株式会社法附則第3条は「政府は、その保有する会社の株式(第2条に規定する発行済株式をいい、同条の規定により保有していなければならない発行済株式を除く。)については、できる限り早期に処分するよう努めるものとする。」と記されている。
日本郵政株式会社の株式売却を開始すべき時期と終了させるべき時期は規定されていない。政府の保有比率が1/3を超えていることが義務付けられているに過ぎない。
現在、日本郵政株式会社の最大にして唯一の株主は財務大臣である。日本郵政株式会社の株式売却を「別に法律で定める日」まで凍結することをわざわざ法律事項として規定しておく必要はない。せいぜい最高でも閣議決定レベルで内閣の方針として日本郵政株式会社の株式売却を凍結することを確認していくだけで必要十分である。
(郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の処分の停止)
第3条 日本郵政株式会社は、郵政民営化法第7条第2項及び第62条第1項の規定にかかわらず、前条の別に法律で定める日までの間、その保有する郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式を処分してはならない。
↓
郵政民営化法第7条第2項は「「日本郵政株式会社が保有する郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式は、移行期間(平成19年10月1日から平成29年9月30日までの期間をいう。以下同じ。)中に、その全部を処分するものとする。」で、郵政民営化法第62条第1項は「日本郵政株式会社は、移行期間中に、郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の全部を段階的に処分しなければならない。」と記されている。
郵便貯金銀行と郵便保険会社の株式売却については、平成29年9月30日までに終了されるべきことは規定されているが、開始すべき時期は規定されていない。これも前条の日本郵政株式会社の株式売却と同様、「前条の別に法律で定める日」まで凍結することをわざわざ法律事項として規定しておく必要はない。せいぜい最高でも閣議決定レベルで内閣の方針として郵便貯金銀行と郵便保険会社の株式売却を凍結することを確認していくだけで必要十分である。
(郵政民営化法の運用に当たっての考慮)
第4条 第2条の別に法律で定める日までの間は、政府は、郵政民営化法第8章第3節及び第9章第3節の規定の運用に当たっては、前2条の規定により日本郵政株式会社、郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の処分が停止されていることを考慮しなければならない。
(郵政民営化法の特例)
第5条 第2条の別に法律で定める日までの間における郵政民営化法の規定の適用については、同法第61条中「次に掲げる業務」とあるのは「第2号及び第3号に掲げる業務」と、同条第2号中「又は郵便保険会社の株式を処分するまでの間における当該株式の保有及び」とあるのは「及び郵便保険会社が発行する株式の引受け及び保有並びに」と、同条第3号中「前2号」とあるのは「前号」とする。
(日本郵政株式会社法の特例)
第6条 第2条の別に法律で定める日までの間における日本郵政株式会社法の規定の適用については、同法第2条中「含む。以下この条において同じ」とあるのは「含む」と、「総数の3分の1を超える株式」とあるのは「総数」と、同法第5条中「及び郵便局株式会社」とあるのは「、郵便局株式会社、郵便貯金銀行(郵政民営化法(平成17年法律第97号)第94条に規定する郵便貯金銀行をいう。以下同じ。)及び郵便保険会社(同法第126条に規定する郵便保険会社をいう。以下同じ。)」と、同法第22条第2号中「第5条」とあるのは「第5条(日本郵政株式会社、郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の処分の停止等に関する法律(平成19年法律第▼▼▼号)第6条の規定により読み替えて適用される場合を含む。)」と、「及び郵便局株式会社」とあるのは「、郵便局株式会社、郵便貯金銀行及び郵便保険会社」とする。
↓
第4条は運用面での努力義務のようなものに過ぎない。第5条及び第6条の趣旨は政府が当該3社の株式売却を凍結していれば達成される。この3条もわざわざ法律事項としておく必然性はない。なぜ、雇用対策など優先すべき審議事項が本当はあるにも拘わらず、この法案を提出・審議するという時間の浪費をしなければならないのか、甚だ不明。小泉構造改革の否定よりも、この不景気下における経済社会運営の在り方を議論する方が国民には歓迎されると思うが、どうか。
附 則
1 この法律は、公布の日から起算して20日を経過した日から施行する。
2 郵政民営化については、国民生活に必要な郵政事業に係る役務が適切に提供されるよう、速やかに検討が加えられ、その結果に基づいて必要な見直しが行われるものとする。
↓
第1項はさておき、第2項は次期通常国会に提出されると見込まれる郵政改革基本法案(仮称)を示していると考えられる。先般の政府方針によると、それは郵政民営化法廃止を含めた“郵政官営化”への回帰ということになるのだろう。本則の「別に法律で定める日」の「法律」を定めなければ、いつまでも郵政4事業は国営のままでいられる。凍結されたものはいつか融解される。つまり、その日が来るまでは凍結されたままなのである。
御指摘恐れ入ります。
私が掲載したのは確かに以前提出法案でした。
簡保宿譲渡の凍結が加わっていますね。
御指摘ありがとうございます。お恥ずかしい限りで、以後重々注意します。