カツラの黄葉 [2011年11月11日(Fri)]
カツラ(かつら科)の葉が黄色く色づきました。万葉歌には二首詠まれています。原文表記は楓で、いずれも月の中の桂が詠まれています。 【歌 】 黄葉する 時になるらし 月人の 桂の枝の 色付く見れば (I-2202) 【口語訳】 紅葉する 時になったのであろう 月の中の 桂の枝が 色づいたのを見ると 「月人」は、月を擬人化したもの。「桂の枝」については、月の中に桂の巨木があるという中国の六朝以来の俗信によっており、中国詩の影響下にある『懐風藻』にも月の桂が詠まれています。この歌も、漢詩文に通じた者の作と見られています。 この歌の「黄葉(もみち)」ですが、『万葉集全歌講義』には次のような解説が載せられています。動詞「モミツ」に赤を当てた例が2例(I-2205、2232)あるのみで、他は仮名書き例を除けば、名詞は黄葉、動詞は黄葉・黄変・黄反・黄色等で表されています。この傾向は、中国の六朝から初唐までのモミチの用字の傾向と合致し、その文字の導入によると考えられています(この説は、小島憲之著『上代日本文学と中国文学 中』)。 桂を詠んだもう一首は、 【歌】 目には見て 手には取らえぬ 月の内の 桂のごとき 妹をいかにせむ (湯原王 C-632) 【口語訳】 目には見ても 手には取れない 月の中の 桂のような あなたをどうしたらよかろう 『伊勢物語』七十三段に、住所は知っているが消息を言い遣る方法がない女のことを思って詠んだ男の歌として、「目にはみて 手にはとらえぬ 月のうちの 桂のごとき 君にぞありける」が収められています(『新編日本古典文学全集 万葉集』より)。 なお、漢詩の桂は肉桂ないし木犀をさすもののようですが、日本のカツラはかつら科の落葉高木をさすと考えられています。原文の「楓」は、『和名抄』によると、ヲカツラ(雄)を意味し、「桂」のメカツラ(雌)と字が異なりますが、さす植物そのものは同じと考えられています(『新編日本古典文学全集 万葉集』より)。 |
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katakago
at 10:29