小川(西秋) 葉子 (編集), 太田 邦史 (編集)
「生命デザイン学入門」 (岩波ジュニア新書)
840円(税抜き)
生物のかたちを生み出すエピゲノム、超生命体をデザインする微生物―最新科学が新しい生命像を描き出している。多様な環境を生きぬく力をもつ生命のデザインを社会に適用する新しい学問が、生命デザイン学だ。コミュニケーション空間、空気と雰囲気、予測手法などのデザイン分野での展開がいまおもしろい。
目次です
はじめに なぜ,いま生命デザイン学か?
第1章 生命からデザインを学ぶ
多様で移ろいつづける生物のかたち/合理性をもった生物のかたち/生物のかたちと可塑性/ 生命デザイン原理の階層性/生物のかたちを生みだす相互作用のネットワーク
第2章 微生物が超生命体をデザインする
ヒト常在菌叢とは/解析法はどう進歩してきたか/世界の動向は/NGSを使った解析/日本人のマイクロバイオームの組成は/年齢と腸内細菌叢との関係は/腸内以外の常在菌叢は/腸内細菌叢を国別でくらべる/腸内細菌叢の変容と病気との関係/腸内細菌が宿主に作用するメカニズム/ヒト常在菌叢の遺伝子
第3章 コミュニティ空間をデザインする
都市に「肺」をつくりたい/人工ではなく自然――土地の地勢をいかす/通行システムを独立させる/多様な楽しみ方ができる
第4章 空気と雰囲気をデザインする
雰囲気を楽しむ/雰囲気を「学問」する/空気=圧力を伴った雰囲気/空気を測定する/雰囲気や空気を操作する力・集団
第5章 予測手法をデザインする
予測とは何か/回帰分析とは何か/脳の神経細胞のしくみ/ニューラル・ネットワークとは何か
第6章 最適化アルゴリズムをデザインする
最適化とは何か/代表的な最適化アルゴリズム/生命の遺伝のしくみ/遺伝的アルゴリズムとは何か/遺伝的アルゴリズムの応用/人工知能のこれからとリスク
終 章 生きている社会,そのながめ方・つくり方
行動が制度を生む/「差別」を解消する方法/集団の壁を越える方法/考えを共有する方法/よい社会をつくるための新しいヴィジョンとアクション
ミツバチの女王バチと働きバチは,じつは同じDNAをもっています.女王バチは働きバチの30〜40倍も長生きで,子を産むことができます.同じDNAをもとに異なるかたちや性質の個体をつくりだすのが,細胞の遺伝子発現パターンの記憶機構である「エピゲノム」です.エピゲノムが,異なるミツバチ個体の表現型をつくりだしているのです.
腸内フローラはご存じですね.腸に住みついている細菌たちのことで,人体の健康に大切な役割を果たしています.じつは,それだけの役割ではありません.本書2章では,ヒトはヒトゲノムとマイクロバイオーム(腸内細菌などの総体ゲノム)からなる「超生命体」であると紹介されているほど,ビッグな存在なのです.そのビッグさは,2章を読んでください.
上のような新しい生命像が描かれている現在,自然界に存在するかたちや機能に学ぶデザイン手法が,さまざまの分野で使われるようになっています.コミュニケーション空間としての公園設計,組織や社会の空気デザイン,予測や設計手法のデザインなどが,本書で扱った分野です.さらに,意図してできるものではない社会を,どうしたら持続可能でよりよいものにしていくか,という社会科学の基本問題にもふれています.
「生命デザイン学」と名づけたチャレンジングな枠組みでとりあげた各テーマは,少し骨がありますが,ぜひその息吹に触れてみていただきたいと思います.
どうぞ【KB】