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本の紹介(1)田んぼの生き物図鑑(内山りゅう) [2010年11月19日(Fri)]
私達「いきものマイスター」が活動する石川県は、県土の6割を里山が占める緑豊かな土地であり、同時に伝統的な里山の文化が育まれてきた土地です。
里山の文化と共に、里山の生き物について私達は、より良く知る必要があるでしょう。
間もなくフィールドワークの難しい冬を迎えます。手に取って自然を体験するには向きませんが、暖を取りながら読書に親しみ、次の春に向けて生き物の知識を蓄えるのもいいかもしれません。まずは最も身近な里山の1つである田んぼの生き物について、参考資料を紹介したいと思います。

「田んぼの生き物図鑑」(内山りゅう著、山と渓谷社)

米は日本人の食卓に最も欠かせないものであり、田んぼは最も馴染み深い里山の景観です。本書は導入部分で、人の働きかけにより維持される田んぼの特性について詳しく解説しています。1年の耕作スケジュールの中で、田んぼでは様々な作業が行われます。「田起こし」や「代掻き」により田んぼの表面は掘り返され、水管理によって水の増減が繰り返されます。秋に水を落とした後は、翌春まで陸域となります。変化の少ない環境では競争力の強い生き物(優先種)ばかりが生き残りますが、田んぼのような不安定で変化の多い環境では、競争力に関わらず多くの生き物が共存出来ます。
田んぼの生き物の多くがこうした耕作スケジュールに上手く適応し、その結果として田んぼで里山生物の多様性が保たれてきた背景があります。本書はこのような「手つかずの自然」とは大きく異なる田んぼの本質をわかりやすく説明しています。

水田は多様な里山景観に支えられています。多くの水を使う為に、水田は川や溜め池と水路で繋がれており、水田の生き物と、河川や溜め池の生き物は深い関わりを持っています。水田で育ったカエルは陸に上がった後に、水田周辺の森林で過ごす種類も少なくありません。水田を餌場として利用する鳥は、餌取りや子育て、越冬などの為に水田周辺の陸域も利用します。
このように、「水田の生き物」について考えると、その背後には水田を含む里山の広い生態系が見え隠れしており、更にそこには人の暮らしが大きく関わっています。

本書は図鑑と銘打っていますが、読者を飽きさせない写真中心の構成となっています。記述も魚類、爬虫類、両生類、水生昆虫、植物までに至り、入門者から上級者まで楽しみながら学ぶことが出来ます。各生き物については写真と共に詳細な生態解説がなされており、オタマジャクシや魚の見分け方など、野外で役立つ知識も得られるでしょう。ゲンゴロウを撮影する為に足しげく溜め池に通った苦労談など、撮影のエピソードも興味深く、生き物を追うことの大変さや楽しさも伝わってきます。
また暖かくなったら、本書を持って野外に出てみると面白くなるかもしれません。


尚、著者の内山りゅう氏は、「水」に関わる生き物とその環境の撮影をライフワークとする写真家です。

内山りゅう氏ホームページ

本書以外にも、多くの生き物ガイド本に関わっています。これをきっかけに、更なる生き物の世界に入ってみてはいかがでしょうか?
11月13日、いきものマイスター講座第5回目 [2010年11月17日(Wed)]
秋もすっかり深まり、日も短くなりました。夕方も5時を過ぎれば急激に暗くなり、昼夜の寒暖差も強いものですが、秋のキノコは里山には欠かせません。11月13日のいきものマイスター講座では、午前中にキノコ観察をメインとして野外実習を行いました。午後は修了課題についてのディスカッションをしました。

野外実習は、里山里海自然学校の管理する保全林で行いました。ここは自然学校から歩いて約15分ほどの、林道内に広がる里山です。当初は荒れていましたが、2007年より自然学校が借り受け、間伐や下草刈りなどの管理を行った結果、キノコの豊富な里山として復活しました。いきものマイスターのスタッフであり、里山里海自然学校の常駐研究員である赤石はキノコの専門家であり、この保全林で研究や保全活動を行っています。今回は赤石の案内の元、受講生はキノコを探しながら保全林に入ります。


早速、野生のエノキタケを見つけました。スーパーで売っているエノキタケとは、色も形も全く似ていません。天然のエノキタケの姿に驚く方も多いのではないでしょうか?


歩くたびに見たことのないキノコに出会い、受講生達も興味津々です。キノコに混じって、アマガエルやニホンアカガエルも茂みから飛び出します。

保全林は主にアカマツで占められています。かつてアカマツやその落ち葉は燃料として生活に欠かせないものでした。また珠洲北部の沿岸部では揚げ浜式塩田による塩作りが盛んであり、多くの薪を必要としていました。アカマツ利用の為の伐採は樹木の更新を促し、アカマツ林の持続的利用を可能としてきましたが、薪を利用しなくなった今日ではこうしたアカマツ林は荒廃が進んでいます。里山が荒れるとキノコの生育にも不向きとなります。今回の野外実習では、キノコの観察を通して里山保全の意義と実態についても伝えられたのではないでしょうか。
最後は、スタッフの佐野によるマツ伐採の実演です。受講生らは安全な10数メートル以上まで離れます。目の前で木が倒れる瞬間を見るのも初めてという受講生も少なくありません。里山管理の作業の一端を見て貰うことが出来ました。

野外から帰って、早速キノコについての解説です。キノコの分類、見分け方、食べられるキノコと食べられないキノコについて、赤石が話をします。食べられるキノコや飾りたくなるようなキノコを選んで持ち帰る受講生もいます。



午後は受講生各自が、いきものマイスターの修了課題について個別に発表を行いました。
各自が作成した資料を元に発表を行い、質疑応答に応じます。


各受講生の発表は以下の通りです。
・タコすかし漁体験の現状と今後について
・地域の植物観察会を軸に、自然環境、農業、食、伝統文化、教育、アート、福祉、経済などの活動実践を通して暮らしを考える。
・(所属する)漁協の歴史から地域性を考え、環境配慮を含めた漁法の将来性を考える。
・奥能登に棲む希少な里山生物や自然環境についてを伝える為の、絵本作り。
・食を通した地域との関わりについて。




尚、次の講義は12月4日を予定しています。
私達は翌年の2月にいきものマイスターの写真展を予定しており、その為の意見交換や写真の選定を行います。主な「いきもの」ですが、里山をテーマに広い分野の写真を選ぶ予定です。今後、どのような写真が揃うのか、今から非常に楽しみです。