成果物報告:水生昆虫の下敷きについて [2011年01月15日(Sat)]
日本海側では大荒れの空模様が続き、ここ奥能登も例外ではありません。一層寒さの厳しい毎日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか?
2011年も、能登いきものマイスター養成事業を宜しくお願い致します。 昨年末の12月に金沢で、国際生物多様性年のクロージングイベントと同時開催された、地球いきもの広場に参加したことについては、前回のブログで報告しました。会場では活動紹介のポスター展示、収穫したばかりのクワイ配布、更に生きたゲンゴロウの水槽展示を行いました。今回は重要な成果物として、その際に好評だった配布物の下敷きについて触れたいと思います。 奥能登には現在、20種類以上のゲンゴロウ類を含めた豊富な水生昆虫類が生息しています。その多くは溜め池や水田などの、身近な里山の水環境に棲んでいます。一方で里山の荒廃により、こうしたゲンゴロウ類を始めとした多くの里山生物が減少してしまいました。 保全活動の一環としてビオトープで希少水生昆虫類の保全に取り組む私達ですが、自然から遠のき、ゲンゴロウを見たことのない人も増えてしまった今日では、こうした自然の大切さをわかりやすく伝えるのは容易ではありません。 そこで、こんな下敷きを作成してみました。 ![]() これは、奥能登で見られる代表的な水生昆虫を掲載した下敷きです。実際にはA4サイズですが、ここに掲載した水生昆虫は全て実物大です。これを見て「こんな大きなゲンゴロウがいるなんて知らなかった」と驚く人も少なくありません。実物のゲンゴロウを見たことのない人が増えている今、こうして驚いて貰えれば成功です。中には体長2〜3mmという微小種も含まれていて見辛いかもしれませんが、漠然としたイメージしかなかったゲンゴロウの多様性を伝えるには、また欠かせない存在です。 貴重な自然を知って貰うには生で見て、触れて貰うのが一番ですが、こうしたガイドがあれば楽しさも倍増することでしょう。 一方、この下敷きに掲載しているオオミズスマシとミズスマシ、ヒメガムシとゴマフガムシとヤマトゴマフガムシなど、慣れない人が見分けるには難しい種も少なくありません。 そこで、見分けのポイントを裏に用意しました。 ![]() これは検索図といって、専門的な図鑑で利用されているものです。見分けたい生き物の特徴に従って、あみだくじのように先を辿ると、その種類に辿り着くように作成されています。 まずはその水生昆虫の背中(前翅)が硬いか、柔らかいかでスタートします。背中が硬く、かじる為の口を持ち、写真のように前翅が中央で閉じられているのは全て甲虫、つまりカブトムシの仲間です。ここにはゲンゴロウ、ミズスマシ、ガムシなどの仲間が含まれます。 背中が柔らかく、ストロー状の口を持ち、写真のように前翅が交互に畳まれているのはカメムシの仲間です。ここにはタイコウチ、ミズカマキリ、コオイムシ、マツモムシ、アメンボなどの仲間が含まれます(タガメも含まれますが、石川では現在見つかっていません。)。ミズカマキリやタイコウチ、アメンボなどの仲間が全てカメムシだと知って驚く方もいるかもしれませんね(笑)。 調べたいのが甲虫で、水面をクルクル回るのであれば、スタートよりすぐ左下へ行きます。背中の回りに黄色い縁があればオオミズスマシ、特になければミズスマシ、という具合です。 水を泳ぐ甲虫で、後足に沢山の毛が生えていればゲンゴロウです。20mm以上だとすれば、そのまま下を辿り、背中が真っ黒ならクロゲンゴロウ、背中の周りに黄色い縁がありお腹が黄色ならゲンゴロウです。カメムシの場合も、同様に辿れるようになっています。 実は生き物の見分けというのはとても難しいものです。 同じトンボでも、いわゆる赤とんぼの仲間にはナツアカネ、アキアカネ、マユタテアカネ、マイコアカネ、ヒメアカネ、ミヤマアカネ、ネキトンボ、ノシメトンボ、コノシメトンボ…などなど沢山の種類がいて、体長や体の模様、顔の特徴などで見分けるのですが、慣れないとどれも同じに見えてしまいます。また、種類の多い仲間や小さな虫になるほど見分けはややこしいものです。しかし、一度その違いを知ると、今まで同じに見えて来た環境も途端に新発見の連続となります。全ての生き物を見分ける必要はありませんが、これをきっかけに生物多様性の奥深さを少しでも知り、それを伝えて貰えれば幸いです。 ![]() 尚、この下敷きは、水生昆虫の研究の為に能登に滞在してくれた愛媛大学の大学院生、渡部晃平君に作成して貰いました。使用した標本写真は1つ1つをパソコン上の手作業で切り取って作成したものです。1つの標本写真を仕上げるのに数日をかけ、ここまで仕上げてくれた彼には、頭の下がる思いです。渡部君、本当にありがとう! |