2008年に世界の経済・市場・社会に大きな影響を与えた
「リーマン・ショック」。昨今の経緯を冷静に見つめると、
それを上回る影響を及ぼす事態が起きるのも、不可避であると
考えざるを得ません。
その事態に、どう備えるのか。
備えの第一歩は、これまでの経緯を、今後の見通しを、可能な限り
包括的かつ正確に捉えることから始まると考えます。
そんな中、政府の税制調査会が
「経済社会の構造変化を踏まえた
税制のあり方に関する論点整理」と題した、重要かつ興味深い
報告書を発表されました。
その第2部である「我が国経済社会の『実像』について」を読む会
(全2回)を、年末年始に連続開催することにしました。
第1回は、第2部の概要を読み進めながら、過去・現在から未来への
経過と課題をじっくり探り出しました。
年の瀬の週末にもかかわらず、24名の方々がご参加くださいました。
第2部「我が国経済社会の『実像』について」の構成
I.我が国経済社会の構造変化の「実像」の特徴
1.若年層を中心とする低所得化と少子化、家族モデルの変容
2.会社・家族のセーフティネット機能の低下と新たな課題 ~生活基盤が脆弱化するリスク
3.生産年齢人口の減少と人的資本形成の阻害 ~成長基盤が損なわれるおそれ
II.今後への視点 ~今後の税制等の諸制度のあり方を考えるための視座
1.希望すれば誰もが結婚し子どもを産み育てられる生活基盤の確保
2.就労を通じた社会とのつながりの回復
3.経済力を踏まえた再分配機能の再構築〈参考〉
1.人口構造の変化
(1)少子化の進展とその要因 ~未婚化、晩婚化、晩産化
(2)総人口・生産年齢人口の減少 ~「人口減少社会」に突入
(3)生産年齢人口割合の低下と高齢者率上昇 ~「超高齢」「人口オーナス」
(4)経済循環構造の変化 ~稼ぎ手が減少する中で
2.経済・産業構造の変化
(1)グローバル化・ICT化の加速・深化
(2)グローバル化に伴う競争の激化と経済のサービス化の進展
3.家族の変化
(1)家族類型の多様化・小規模化 ~1人世帯の主流化
(2)共働き世帯の増加と女性を取り巻く状況 ~就労の拡大、非正規雇用
4.働き方の変化
(1)就業構造の変化 ~女性・高齢者による就労の拡大と「雇用者化」の進展
(2)「雇用者」の就労形態の変化 ~非正規雇用の増加・雇用の流動化
(3)自営業主像の変容 ~伝統的自営業減少 「雇用的自営」の存在感高まり
5.家計・再分配の変化
(1)若年層と高齢者の会計 ~低所得化進む若年層、ばらつきある高齢者
(2)ジニ係数と相対的貧困率 ~ジニ係数は若い世代微増、高齢世代低下
(3)再分配の課題 ~従来の再分配は現役から高齢世代への所得移転中心もはや「世界一・世界第2位」ノスタルジーに
酔い続ける場合ではないまず、「人口構造の変化」から。
生産年齢人口は、1995年から今年までの過去20年間で11%減り、
2035年までの今後20年間では17%も減り、6342万人にまで減少します。
その間、高齢者は増え続けますが、本当に問題なのは、
85歳以上の人口が1,000万人に達すること。
要介護度を見ると、70歳代までに介護が必要な人はごく少数ですが、
85歳を超えると4人に1人は要介護3以上になります。
第2幕を迎えた高齢化に向き合うために、残された時間はわずか20年
しかありません。
一方、全国各地からの人口流出は、「東名阪三極集中」から
「東京一極集中」へと移り変わりましたが、
国全体のGDPは増えていません。
日本が「世界第2位の経済大国」だったのは、もはや5年も前。
次の東京オリンピック・パラリンピックが開かれる2020年には、
世界全体のGDPに占める日本のシェアは、前回の東京オリンピックが
開かれた1964年の水準にまで下がってしまいます。
経済を牽引するはずの東京は、第三次産業の集積地。
全国の各産業の生産性は、第二次産業で着実に、第一次産業でもわずかに
改善しているのに、全国から東京へと若者を集めた第三次産業の生産性は、
上がっていないどころか、逆に下がっています。
東京が進学や最初の就職先など、修行や育成の場として多くの若者を
引き付け、世界で戦える人材や、のちに地域で仕事を担える人材を
育てているならまだしも、そういった人材を育てられていない
深刻な状況であることわかります。
しかも、将来を担うべき若年層は、かつてのように「製造業で
正規雇用」されているわけではないため、働き続けることによって
技能=市場価値の向上が期待できません。
さらに、所得の低下は、共働きの増加を加速し、配偶者のいる
世帯の6割に達しました。結果としてM字カーブは改善し、
25歳から39歳までの女性の7割以上が働いています。
30歳代の女性の労働力率が1割以上向上したことは、その年齢層で
働く女性が200万人近く増えたということ。
第1子や第2子を生み育てながら働く人も少なくないはずなのに、
託児や保育の基盤が整備されなければ、困る女性たちが増えるのは
当然とも言えます。
しかも、多くの女性は、自ら望む働き方で価値を発揮できている
わけではなく、前述の通り、生産性が上がらないままの職場で
働かざるを得ない、というのが現状です。
所得と貯蓄の格差も、拡大しています。若年層の所得も貯蓄も
減っているのに、高齢者世帯の貯蓄は増え続けています。
これまでの「現役世代から高齢者へ」という再分配を、
「所得の多い層から少ない層へ」と改める必要に迫られている
ことを、政府税調も指摘しています。
この資料を読み、他の資料と併せて読み解いた川北の結論は、
「東京は、世界で戦える力も、
地域を支える人材も、育てていない。
東京は、これだけの若者を集めながら、
若者が稼ぐ力も、生産性の向上も、
もちろん、地域のくらしを支える力を育てることも、できていない。
若者が、地域のくらしを支えるために
『あと100万円稼ぐ』力と
世界で戦い続けられるために
『あと300万円生み出す』力を!」というものでした。
(写真ご提供:土谷和之さん)
何か課題か、今すぐに変えなければならないことは何か経過と見通しについて認識を深めた後、3・4人ずつの班ごとに、
「2020年代に向けて取り組むべき課題」と
「2020年までに急いで取り組むべき課題」について、
話し合っていただきました。
保育や介護の在り方、地域や海外で稼ぐ力の育成、
働く世代や保護者の「勘違い」の是正や、選挙制度の改革まで、
様々な意見が出されました。
次回は、今回の課題認識をもとに、どのように取り組みを進めるべきかを考えます。
第1回にご参加いただけなかった方も、ぜひご参加ください。