「小規模多機能自治の担い手の育成・支援と、その基盤づくり」開催しました!【ソシオ・マネジメント・スクール2015夏季コースより】
[2015年10月01日(Thu)]
「小規模多機能自治の担い手の育成・支援と、その基盤づくり」【SCM15s】
第1日(9月6日(日))
すでに1990年代の半ばから「高齢化社会」と言われて早20年。しかしこれまでの高齢化と、これからの高齢化は、質とインパクトがまるで違います。中山間地など一部に限定的な課題ととらえられていたこれまでの高齢化と、都心部でも加速度的に進み全国共通の課題となるこれからの高齢化。膨大な国公債と増え続ける社会保障費、一方で適切な負担さえ求められていない税収の減少など、行政にできることがますます小さくなっていく中で、地域が持続可能であるために、ニーズは誰が、どう担い、支えていけばよいのでしょうか?
「小規模多機能自治」とは、概ね小学校区ほどの範域において、住民や、地域活動を行う団体で構成される共同体が、地域の実情や課題に応じて多様な機能を担っていくこと。2006年に島根県雲南市にお招きいただいた川北が、同市で真摯かつ謙虚に地域づくりに取り組み続ける方々の姿を拝見して、そう名付けました。

「85歳以上が人口の1割」を占める社会に備えて、
行事・会議・組織を「棚卸し」し、時間の使い方を変える
今、なぜ小規模多機能自治への関心が高まっているのでしょうか。その最大の背景として、人口減少や「多老」化は、これまでよりさらに深刻化することが挙げられます。
一般的に高齢者とは65歳以上を指しますが、2010年の国勢調査と介護保険利用実績統計によると、65歳から69歳までのうち、要介護3以上の人はわずか0.8%、つまり120人に1人。しかし85歳以上では23.4%、つまり4人に1人。しかも同年の要介護3以上の総数166万人中、85歳以上は89万人を占めており、要介護3以上の人の半数以上は85歳以上です。
このように、地域の福祉ニーズを把握するうえで、85歳以上の人口の数、比率と推移に注目する必要があります。65歳以上人口はこれまで20年間に2倍近くになりましたが、これから20年では1割しか増えません。一方、85歳人口はこれから。2035年には、団塊の世代がすべて85歳以上になり、日本の人口のなんと11人に1人を占めるようになります。
2015年の時点で、85歳以上の人口1人を支える15歳から64歳までの人口は15人。それがわずか20年後には、6人で1人を支えなければならなくなる。今はまだ「子育てしやすい社会づくり」が多くの地域の目標ですが、加えて「介護しながら働き続けられる社会づくり」が、全国すべての地域で必要になります。
自治体財政の悪化は不可避だからこそ、
「1対1の責任・業務分担」から「多様な主体による協働」へ

これと並行して、基礎自治体である市町村の財政の深刻化も、さらに進みます。全国の市区町村(基礎自治体)では、平成の大合併がおおよそ終わった2005年度から2013年度までの8年間に、歳出は11%増(48兆円→54兆円)、つまり仕事は1割以上増えたのに、職員に支払われた給与は21%減(6.7兆円→5.3兆円)、職員数も12%減った(101万人→89万人)。職員さんたちの実感としては、この8年間に「2割以上忙しくなった」と感じていることだろう。言い換えれば、かつて5人でやっていた仕事を4人でやらされているような忙しさ。では、その忙しさの加速度的な高まりを、住民の方たちは、どれだけ知っていることだろう。議員さんたちでさえ、正確に理解できていないかもしれない。
仕事は増えているのに、人員も給与も減ってしまうのはなぜか。その最大の要因は、生活保護をはじめとする扶助費の増加。05年には歳出の13%(6.7兆円)だったのが、13年には20%(11.1兆円)へと膨らんでしまっている。
今後、生産人口がさらに減り続ける以上、このままの生産性や税率では、税収増は期待しにくい。扶助費や、介護保険事業などへの繰出金を減らせる見込みも低い。すると職員数や事業予算のさらなる縮減は不可避であり、行政職員だけが福祉や困りごとの解決を担うことは、さらに難しくなることは必然。すると、地域の団体との協働も、これまで曲解されてきたような「契約に基づく1対1の責任と業務の分担」から、「多様な主体による協働」、つまり「総働」への進化が必要です。
「1世帯1票」から「1人1票」へ、
より多くの人が参加する「小規模多機能自治」へ
総働とは、地域の総力を挙げて、地域を守り抜く営みのこと。すでに2005年に総務省が指摘しているように、従来型の「1世帯1票」による高齢男性主導ではなく、「1人1票」により女性や中学生も含む地域住民の需要や意見を汲み上げて、一緒に取り組んでもらうこと。
札幌市内では中学生が、冬の登校前に、独居高齢者の朝のごみ出しを手伝ったり、秋田県横手市内でも小中学生から参加するスポーツとして「雪寄せ」ををはじめたり、さらに「小規模多機能自治」のトップランナーとして知られる島根県雲南市では、地域住民による組織が独居後期高齢者のための見守りを続けるために市から水道検針を請け負ったり、廃止されたJAの支店を地域組織が家賃を払って借り、毎週木曜にわずか4時間だけ開店し、住民がつくった野菜などを販売するとともにお茶とお茶請けを用意しているなど、全国各地の多様な事例も紹介されました。
こういった取り組みが求められるのは、中山間地や東北の被災地だけではありません。人口構成の推移を見ると、中山間地や東北の被災地の現状は、東京・横浜や大阪、名古屋などの大都市にとって、わずか20年から30年ほどの先のこと。人口減少や高齢化が早く始まり、しかしゆっくり進んだ地域の中には、上述のように真摯で謙虚に地域づくりの進化を積み重ねられたところも見られます。今後は、人口減少や高齢化が遅く始まり、しかし加速度的に進むことが避けられない都心部で、先行された地域から、どれだけ真摯で謙虚に学べるかが問われます。
地域の課題を発見するために変化を予測する
国勢調査の「小地域集計」など、公開されている統計データだけでも、わかることはたくさんあります。自省を込めて申し上げれば、これまで「1年交替の『役』」ととらえられがちだった地域組織の役員の本当の役割は、「数年単位で担う『経営』」。すると、引き継ぐべきことは、行事の一覧よりも、地域の状態の推移、具体的には、人口構成のこれまでの経過と、今後の見通し。自治とは、自分たちで決めて、自分たちで実践すること。今後はそれに加えて、状況の変化に備えて、進化し続けられるかどうかが問われます。必要なのは、自分自身のこととして地域の将来を見据え、考え、決めて動く住民です。行政や、コンサルタントにできることは、ほとんどありません。

受講者のみなさんには、課題解決していきたいと考える地域の現状や今後の見通しについて記入し、発表していただきました。
次回は、地域の状況や見通しについて、より詳細に調査していただいた結果をご報告いただきます。
第1日(9月6日(日))
すでに1990年代の半ばから「高齢化社会」と言われて早20年。しかしこれまでの高齢化と、これからの高齢化は、質とインパクトがまるで違います。中山間地など一部に限定的な課題ととらえられていたこれまでの高齢化と、都心部でも加速度的に進み全国共通の課題となるこれからの高齢化。膨大な国公債と増え続ける社会保障費、一方で適切な負担さえ求められていない税収の減少など、行政にできることがますます小さくなっていく中で、地域が持続可能であるために、ニーズは誰が、どう担い、支えていけばよいのでしょうか?
「小規模多機能自治」とは、概ね小学校区ほどの範域において、住民や、地域活動を行う団体で構成される共同体が、地域の実情や課題に応じて多様な機能を担っていくこと。2006年に島根県雲南市にお招きいただいた川北が、同市で真摯かつ謙虚に地域づくりに取り組み続ける方々の姿を拝見して、そう名付けました。

「85歳以上が人口の1割」を占める社会に備えて、
行事・会議・組織を「棚卸し」し、時間の使い方を変える
今、なぜ小規模多機能自治への関心が高まっているのでしょうか。その最大の背景として、人口減少や「多老」化は、これまでよりさらに深刻化することが挙げられます。
一般的に高齢者とは65歳以上を指しますが、2010年の国勢調査と介護保険利用実績統計によると、65歳から69歳までのうち、要介護3以上の人はわずか0.8%、つまり120人に1人。しかし85歳以上では23.4%、つまり4人に1人。しかも同年の要介護3以上の総数166万人中、85歳以上は89万人を占めており、要介護3以上の人の半数以上は85歳以上です。
このように、地域の福祉ニーズを把握するうえで、85歳以上の人口の数、比率と推移に注目する必要があります。65歳以上人口はこれまで20年間に2倍近くになりましたが、これから20年では1割しか増えません。一方、85歳人口はこれから。2035年には、団塊の世代がすべて85歳以上になり、日本の人口のなんと11人に1人を占めるようになります。
2015年の時点で、85歳以上の人口1人を支える15歳から64歳までの人口は15人。それがわずか20年後には、6人で1人を支えなければならなくなる。今はまだ「子育てしやすい社会づくり」が多くの地域の目標ですが、加えて「介護しながら働き続けられる社会づくり」が、全国すべての地域で必要になります。
自治体財政の悪化は不可避だからこそ、
「1対1の責任・業務分担」から「多様な主体による協働」へ

これと並行して、基礎自治体である市町村の財政の深刻化も、さらに進みます。全国の市区町村(基礎自治体)では、平成の大合併がおおよそ終わった2005年度から2013年度までの8年間に、歳出は11%増(48兆円→54兆円)、つまり仕事は1割以上増えたのに、職員に支払われた給与は21%減(6.7兆円→5.3兆円)、職員数も12%減った(101万人→89万人)。職員さんたちの実感としては、この8年間に「2割以上忙しくなった」と感じていることだろう。言い換えれば、かつて5人でやっていた仕事を4人でやらされているような忙しさ。では、その忙しさの加速度的な高まりを、住民の方たちは、どれだけ知っていることだろう。議員さんたちでさえ、正確に理解できていないかもしれない。
仕事は増えているのに、人員も給与も減ってしまうのはなぜか。その最大の要因は、生活保護をはじめとする扶助費の増加。05年には歳出の13%(6.7兆円)だったのが、13年には20%(11.1兆円)へと膨らんでしまっている。
今後、生産人口がさらに減り続ける以上、このままの生産性や税率では、税収増は期待しにくい。扶助費や、介護保険事業などへの繰出金を減らせる見込みも低い。すると職員数や事業予算のさらなる縮減は不可避であり、行政職員だけが福祉や困りごとの解決を担うことは、さらに難しくなることは必然。すると、地域の団体との協働も、これまで曲解されてきたような「契約に基づく1対1の責任と業務の分担」から、「多様な主体による協働」、つまり「総働」への進化が必要です。
「1世帯1票」から「1人1票」へ、
より多くの人が参加する「小規模多機能自治」へ
総働とは、地域の総力を挙げて、地域を守り抜く営みのこと。すでに2005年に総務省が指摘しているように、従来型の「1世帯1票」による高齢男性主導ではなく、「1人1票」により女性や中学生も含む地域住民の需要や意見を汲み上げて、一緒に取り組んでもらうこと。
札幌市内では中学生が、冬の登校前に、独居高齢者の朝のごみ出しを手伝ったり、秋田県横手市内でも小中学生から参加するスポーツとして「雪寄せ」ををはじめたり、さらに「小規模多機能自治」のトップランナーとして知られる島根県雲南市では、地域住民による組織が独居後期高齢者のための見守りを続けるために市から水道検針を請け負ったり、廃止されたJAの支店を地域組織が家賃を払って借り、毎週木曜にわずか4時間だけ開店し、住民がつくった野菜などを販売するとともにお茶とお茶請けを用意しているなど、全国各地の多様な事例も紹介されました。
こういった取り組みが求められるのは、中山間地や東北の被災地だけではありません。人口構成の推移を見ると、中山間地や東北の被災地の現状は、東京・横浜や大阪、名古屋などの大都市にとって、わずか20年から30年ほどの先のこと。人口減少や高齢化が早く始まり、しかしゆっくり進んだ地域の中には、上述のように真摯で謙虚に地域づくりの進化を積み重ねられたところも見られます。今後は、人口減少や高齢化が遅く始まり、しかし加速度的に進むことが避けられない都心部で、先行された地域から、どれだけ真摯で謙虚に学べるかが問われます。
地域の課題を発見するために変化を予測する
国勢調査の「小地域集計」など、公開されている統計データだけでも、わかることはたくさんあります。自省を込めて申し上げれば、これまで「1年交替の『役』」ととらえられがちだった地域組織の役員の本当の役割は、「数年単位で担う『経営』」。すると、引き継ぐべきことは、行事の一覧よりも、地域の状態の推移、具体的には、人口構成のこれまでの経過と、今後の見通し。自治とは、自分たちで決めて、自分たちで実践すること。今後はそれに加えて、状況の変化に備えて、進化し続けられるかどうかが問われます。必要なのは、自分自身のこととして地域の将来を見据え、考え、決めて動く住民です。行政や、コンサルタントにできることは、ほとんどありません。

受講者のみなさんには、課題解決していきたいと考える地域の現状や今後の見通しについて記入し、発表していただきました。
次回は、地域の状況や見通しについて、より詳細に調査していただいた結果をご報告いただきます。