• もっと見る

2014年12月03日

魅力ある地域農業の姿を描く

こちらでは、idea12月号に掲載した「魅力ある地域農業の姿を描く」で、JAいわて平泉の組合長である鈴木さん、いちのせき市民活動センターの小野寺センター長が対談した記事のこぼれ話をご紹介します。まだ紙面をご覧になっていない方はこちらからどうぞ。

〜idea12月号「二言三言」の要約〜
JAいわて平泉が目指す「黄金の郷づくり」の基本的な考え方は、「農家所得を上げる」ことです。農家所得を上げるためには、一次産業だけではなく、六次産業化や輸出を視野に入れた経営を行っていくこと、そのために地元企業さんとの連携や、商業・工業との連携が大切だということ、農業離れする方や、新たに農業を始めたいという若者の応援・支援をし、「魅力ある農業」を目指していくお話を紙面ではご紹介していただきました。

1.「守り」から「攻め」の姿勢へ〜ノウハウをもつ人を育てる〜


1.jpg


鈴木組合長さん


【小野寺】それでは、農家所得を上げるために、六次産業化や輸出を視野に入れた経営を行う他に、どんなことを行いたいと思っていますか?
【鈴木】あとはやはり、ノウハウをもつ人の育成ですね。私達が国から求められている「農協改革」というのは、ただ一時産品として売るのではなく、もっと幅広く企業と提携し、付加をつけた商品づくりをしなければ、地方の農業は続けられないということで、政府は農業の事業を倍増しようとしています。それを企業に任せると言ったって、大企業ならできるかもしれませんが、下の方に来た個々の農業ではちょっと難しいです。
 今の農家所得の実態からすれば、農業は魅力ある収入源というより「親から受け継いだ土地を荒らしてはいけない」という守りの姿勢で後継してきたんですよね。
【小野寺】守りの姿勢ですよね。これからは、ちょっと変わっていかなければ。
【鈴木】守りから攻めの姿勢に変わるには、ただモノを作ることだけではなく、農産物の付加価値を高めていかなければならない。農協は、そのための「司令塔」になるのが本当の姿なのではないかと思います。
【小野寺】農協さんには司令塔となり、農業に携わる方々の背中をいっぱい押していただきたいなって思います。

2.農業との触れ合いの場づくりと子どもへの食育
【鈴木】これからの農閑期には、「園芸だよ!全員集合」という催物を予定しています。これは、新しく収入をつくりたい方、あるいはこれから園芸に挑戦してみたい方等、少しでも興味がある方に参加してもらうイベントです。実際に、この企画をきっかけに農業・園芸を始めた方もいます。
 農協では、農家だけではなく一般の方々にもそういった情報発信をしていかなければならないと思っています。

2.PNG


【鈴木】農業は、農地を見ただけでは誰が何をしているのかがわかりませんからね。毎日給食を食べる小学生が、「牛を見たことがない」とか、「玉子ってどうやって生まれるの?」と言います。お米や農産物が作られる過程を知ってもらう食育教育も含めて、農協が情報を伝えていきたいと思います。
 最近の園芸農家の中には、近所に住む主婦の方々に、昼間の空いた時間だけ園芸を手伝ってもらっている家もあるんですよ。年間契約を交わして、労働者として一定の時間のみ手伝ってもらっているようです。
【小野寺】多様な参加を求めるというように、農業のあり方に変わってきているんですね。今は「結いの崩壊」なんて言われていますが、農業って結いの原点なんですよね。田んぼや畑仕事をしながら世間話をするのが、良い井戸端会議の場なんですよね。閉鎖的な農業ではなく、開かれた農業を行うことで、趣味の園芸から「ちょっとお手伝いに行ってみようかな」となってくると思います。入口が広いと参加しやすくなってくるのかなと思います。

3.消費者からもらう大きな「気づき」

3.jpg


JAいわて平泉さんのフェイスブックより転載


【鈴木】消費者の意見は一番大切です。農協では「ずっとこの方法で行ってきた」という固定概念があるので、お祭り等の催物の際に、直接消費者の立場から「こうした方がいいんじゃないか?」と言われたり、一緒に活動する中でいただく意見は一番ピンときます。
【小野寺】僕が若い農業者と話した時にも、「対面販売が一番自分達の勉強になる」と話していました。
お客さん達が自分のつくった商品を手にとって買ってくれた時がガッツポーズをするし、対面販売をしている時は商品を自分で説明できないとお客さんが買ってくれないというのを身に染みて感じたと。だから、コミュニケーション力、営業力というか、農家として黙々と商品をつくるだけではなく、しゃべるということもできないと駄目だねという話をしました。

4.農業の転換期〜水田から園芸への移行計画〜

4.jpg


【小野寺】今まで培ってきた農協の歴史もありながら、時代が変わってきたのでちょっと転換をしていかなければならない。農協さんもそうですが、今地域全体が時代の転換期だと思うんです。部落においても色々な課題があり、昔のようなやり方のままでは駄目なんだということで、方向転換の時期にきているんだと思います。農協さんの中にある部会は、組織のあり方等の見直しは行っているんですか?
【鈴木】今の農協の各種部会(畜産・園芸・花)では、女性部や若い方々のグループがつくられています。若者のセンスだけで様々な企画を行うという組織の姿に変わってきていますね。
一方、米を専業で作っている方々は、自分で米を売らざるを得ない程の面積をもっている方ばかりなので、「米部会で話し合わなくても、自分で売り方を決める」という考えがあるようです。西磐井と東磐井の地域を比べても、米農家に違いがあります。東は西の7分の1の面積の田んぼしかないんですよね。

5.JPG


【小野寺】第三遊水地辺りだと、2町歩・3町歩って結構あるんですけどね。室根とか大東とかでは中山間地なので、一人の面積が1町歩あるだけで多い方なんですよね。
【鈴木】しかし、育苗施設は個々で行えるくらい整っています。東は農協の営農経済センターごとに育苗センターがありますし、両磐では多少規模に違いがあります。西ではナスをやっているように、東ではトマト、キュウリ、ピーマンが中心であり、それが平均して作られています。ところが西には、田を一気に畑作に変えられる意識があるかどうかということになると、そうではありませんよね。
ですから農協では、これからの水田に対して園芸の団地を造るという構想を立てています。今の米の値段では全然採算がとれませんから、それを地域力の高い園芸にシフトしていきたい。ハウスを全て農協が提供し、そこで地主の方々が園芸を行うなら実行しますと。トマト団地も室根と川崎に造る考えでいます。これからの農業は、一つの所で、米・野菜・花等、多角的にモノづくりができる形を作っていかなければならないと思っています。資本は農協で出し、農家に貸し出し、経営は地域の方々で行ってもらう。農協、普及センターや市役所の農林部と一体になり支援し、「こんな風にすれば上手くいくよ」という成功例を一つつくりたいと思っています。一度に変わるのは難しいので、まずはその場に来て見てもらい、仲間作りから始めていただいてもいいんです。


5.商業の始まりは農畜産物を売る「市」

6.jpg


―10月24日行われた千厩商工祭の様子―
JAいわて平泉さんのフェイスブックより転載



【小野寺】千厩の農商工祭のように、他の地域でも行ってもいいと思いますよね。
【鈴木】千厩の農商工祭の場合は、工業の方々が行っていることを生産工程から展示し紹介していますし、
商業の方々は「いつもお世話になっているので」と感謝セールを行ったりしています。私はそういった地域全体の祭りごとをやっていく必要があると思います。「忙しいからなあ」と嫌がられることもありますけどね(笑)。
【小野寺】でも昔は、「市」という場があり、それが商業の始まりですし、商業や工業との連携って大事だなと思います。いつの時代か、時代が進んできた中で縦割りになってきたんですよね。ちょっと昔に戻りつつ、良い物をつくりましょうという時代に変わってきたんだろうと思います。


6.協同組合の歴史

7.jpg


JAいわて平泉本店


【小野寺】今の農協さんの形ができあがるまでには、どんな歴史があったんですか?
【鈴木】明治時代は貧富の差が甚だしく、お金を借りるために組合をつくりました。そして、明治35年に産業組合法ができてからは「産業組合」になり、大正・昭和の戦時中に「農業会」という政府の下請け機関に変わります。さらに、昭和23年に新しい民主国家としての形をつくるために「協同組合」がつくられました。協同組合の中には農協の他に、生協、漁協、森林組合等もありますが、その中でも農業協同組合のボリュームが一番大きかったので、今もこのような形で続いております。


7.農家所得向上への取り組み


8.jpg



【鈴木】「農業協同組合の中だけでは運営できないのではないか」というのが農業改革であり国の提言です。この改革をJAいわて平泉ではどう進めるかという話し合いを行い、来年5月には計画を整理したいと思っています。
 その柱になるのは、「農家所得を上げるにはどうするか」。そのために農協はどう変わり、農家へどうサポートするか。全農だけではなくもっと幅広く、色々な形で売っていく道路をつくっていく。そうじゃないと農家も納得しないのではないかと思います。場合によっては企業と提携することも必要ですが、できるだけ地方の企業と行いたい。そういったことで、やはり商工の連携の形をとっていく必要があるということです。


8.千厩支店の2階を地域に開放


9.jpg



【鈴木】もう一つは、少子化問題です。学校が統廃合し、集落でも様々な課題で出てきています。しかし人口が減っても、人と人との触れ合いの場はなくさないようにと、今年11月に開店した千厩支店の2階に100名〜150名が収容できる研修室を置きました。地域の方に開放し、朝から夜まで好きなように出入りしていただけるようにと。
【小野寺】それはすごいですね。
【鈴木】支店の統廃合はすごく簡単ですが、そこから地域が錆びれていくんですよね。農協は地域の皆様に利用していただいた中身で運営を行っていますし、農協から地域を壊さないということが大切だと思っています。
【小野寺】農協さんの支店が農業を行っている方の拠点なんですね。そこで説明会があれば勉強会もあり、人材育成の場にもなり、たまには寄り合いがあったりという所では、簡単に支店統廃合と言っちゃいけないですよね。

本日は貴重なお話を聞かせて頂き、どうもありがとうございました!
この記事へのコメント
コメントを書く