去る2011年11月18日(金)19時より、あけぼのアート&コミュニティセンター(札幌市中央区|
地図)にて、当NPO法人【人まち育てI&I】主催の「2011年 I&I菜縁セミナー第1弾」として、延藤安弘氏(プロフィール・ブログは
こちら)のセミナーが
「コミュニティファームに学ぶ人まち育て」をテーマに行われました。
会場には、まちづくりやコーポラティブ住宅、地域おこしなどに関心の高い20代から50代までのおよそ30名が参加され、延藤氏の軽妙な語り口と「幻燈会」とも呼ばれる独特のプレゼンスタイルに、たくさんの感心の声や笑い声があがりました。
今回のセミナーは「コミュニティファームに学ぶ」とはなっていましたが、以下のとおり複数の話題を通じて、コミュニティや人、まちを育てるということの象徴的な事例を紹介して頂く形になりました。
1.生命体としてまちを育む 子育てとまち育てを結ぶ
文章のない絵本「Belonging」(ジェニーベイカー作)を題材に、延藤氏が独自にストーリーテリングをしながら、一人の女性が思い描いた、持続可能なまちづくりの物語をお話してもらいました。
細かいお話を説明するは無粋なので割愛しますが、あらすじを以下に紹介します。
灰色の建物に囲まれ、一方ではけばけばしい広告物がたちならび、街では倒れた老婆を誰も助けない、そんな荒んだ街に、夫婦が1人の生まれたばかりの赤ちゃんを自宅に連れてくるシーンから絵本は始まります。
やがて、赤ちゃんが4歳になったとき、荒れた自宅の庭にはキレイな木製の柵と、芝生が植えられていました。ところが、依然、街の風景は変わらず、灰色のままです。
ところが、子どもが大きくなり、少女となったころ、自宅の庭が豊かになるのとあわせて、街の様子も変わり始めました。地域の人々が、灰色の壁を白く塗り、道路を自分たちの手で共有スペースにし、空き地にはアートや緑を配置しはじめました。
さらに年数が経つと、空き地はコミュニティファーム=地域の人の菜園となり、多くの人がそこで農作業をするようになります。
少女は大人の女性となり、やがてステキな男性と、その畑の前で結婚式をあげます。そのころには、街にはそこらじゅうに緑があふれていました。
そして、最初は赤ちゃんだった女性は、今度は母となり、新たな生命を街につなぎます。街中が、さらに緑にあふれる夢想をしながら。絵本自体、ディテールが凝られており、さまざまなギミックや伏線があるので、とても面白い作品となっていますが、延藤氏のお話を一緒に聞くと、非常に感動的なストーリーとなりました。
しかし、これはただの「物語」=フィクションである緑あふれる街づくりのお話ではなく、実は、実際に実現できるビジョンなんだということが、のちに強烈なインパクトとなるようなイントロダクションだったのです。
2.場所の力を発見し 表現するアートまちづくり
名古屋市錦二丁目長者町地区をテーマに、延藤氏がまちを元気にした事例を紹介いただきました。
この長者町という街は、以前は名前とは裏腹に、人通りがあまり多くない地域でした。
繊維街として看板も掲げられているこの地域は、もともと古くは四百年も前からに
「会所」 と呼ばれる街区内共用空間を中心として、賑わった街でしたが、時代の流れの中で、いつのまにか灰色のシャッターの街になっていました。
そこで2004年に地域の人々によって「錦二丁目まちづくり連絡協議会」が発足され、2008年には延藤氏が合流することでアートをテーマにしたまちづくりのマスタープランが作られるようになりました。
詳しくはこちらを御覧ください。
錦2丁目まちの会所
今回は、そこに至った経緯や、現在の取り組みの様子、空きビルの活用、実際に行われているイベント(アートジャンボリー)の光景などをご紹介いただきました。老若男女、みんなが楽しそうにしている様子からは、灰色のシャッター街の面影を感じさせませんでした。
また、具体的な事例のなかでも「町人かるた」には特にインパクトを受けました。
「町人かるた」とは、まちに住んでいる面白い、特徴的な「ひと」をも読み札にしたかるたです。まちの面白い「もの」や「店」などにフォーカスした地域おこしやマップづくり等はありましたが、「ひと」をテーマにしたものはなかなかあるものではありません。例えば、札に書かれたおばあちゃんが、かるたを遊んだ子どもたちのもとへ行くと、まるで芸能人が来たかのような盛り上がりになるわけです。
これは、地域おこしの大きなヒントになるような気がしています。
3.持家の人も借家の人も緑の育みを楽しみあう
横浜市のさくらガーデンをテーマに、コーポラティブハウスの事例を紹介いただきました。
コーポラティブハウスとは、いわゆるデベロッパーによる建売販売ではなく、何世帯かの人たちが組合を作ることによって、集合住宅を自分たちが主導で作っていく住居形態のことです。さまざまな雑誌などでも紹介されることの多いこのさくらガーデンでは、畑を中心に持ち家と賃貸の集合住宅が囲むような形になっています。
農作業だけではなく、軒先に集まって住人たちがお茶をしながら歓談するなど、畑というメディアを通じて周辺に住んでいる住民たちが「コミュニティ」としてのつながりや、結束を作っています。
4.親しさと安楽さのある集まり 住みあうコミュニティづくり
さらに、京都市洛西ニュータウンにある「ユーコート」の事例を通じて、コーポラティブハウスのあり方をお話いただきました。
ユーコートは25年前に作られた、いわゆるマンション形態の集合住宅ですが、「第二世代が里帰りするマンション」というキャッチフレーズを延藤氏がつけるとおり、徹底的に他世代・子育てをテーマに創造されたマンションです。
ユーコートという名前の通り、ユー(U)の字に建物が配置されていますが、この真ん中には庭と池があります。畑があるというわけではありませんが、そこらじゅうに緑が植えられ、4階建ての建物にも、もれなく緑が生い茂っています。俯瞰で見ると、まさに森の中に住宅があるという体です。
もちろん、田舎の山の中の光景ではなく、すぐ横には、近代的な集合住宅が立ち並んでいます。そのなかに、オアシスのように存在するのが、ユーコートです。
しかし、ただ住民が奇特で緑の世話をしている、というわけではありません。住民が自主的に、どのようにすれば、気持よく、楽しく暮らせるかということについて、きちんと議論をして、合意形成を図っていくことによって、これを維持しています。
例えば、池を配置するということについても当初は、子どもに事故があってはいけないとする反対もありましたが、それもきちんと互いに意見を認め合うことによって、最終的には配置されることになりました。そして、その池で遊んだことや緑を育んだことが楽しかったから、ということで、25年経った今、当時の子どもがユーコートに戻りはじめているのです。さらに、ユーコートに関係する人たちも、そうした若い世代を優先的に空き部屋に入れていこうという動きもあるそうです。
多くの場合、こうした集合住宅では、入居者の高齢化が起こり、やがては活気を失っていきますが、このユーコートではきちんと「世代更新」が行われています。それが、コーポラティブ住宅、コミュニティ形成の大きなヒントたりうる要素であると思います。
また、他にも子どもたちが緑を自主的に守り育むようにするための工夫や、地域住民と交流する工夫、ユーコート内の音楽会などの事例も紹介いただきました。
最後には、こうした取り組みなどから得た、延藤氏が考える
「必要な3種の世話人」というお話がありました。
ひとつには
「理念派」。コーポラティブ住宅やコミュニティに関して、強い想いを持ち、それを周囲に常に発信し続けるひとです。このひとが変わらない理念を語り続ける限り、常にまわりは行動指針を確認することができ、それが推進力となります。
次には、
「実務派」。実際にコーポラティブ住宅などを運営するには、ヒト・モノ・カネなどの運用が必須です。理念だけで建物がたち、ルールができるわけではありません。必ず陰には、実務派による行動が必要となります。
最後に、
「気配り派」。例えば、話し合いの場において、参加者が座る前に座布団をさり気なく配置している。参加できなかった人に、すぐに話し合いの報告をする。そうしたひとがいないと、おそらく議論が詰まったり、ディスコミュニケーションを生んだりするのかもしれません。
といったように、他にもさまざまなお話がありましたが、非常に意義深いセミナーとなりました。
最後に、実際に参加されたさまざまな参加者のご感想を紹介いたします。
ユーコートの昔の写真と、現在の緑に囲まれた写真の比較がとても印象的でした。
長者町の写真に写っている人たちがみんなとてもステキな笑顔でした。
我が家もマンションですが、来年はベランダに緑を取り入れたいなと…(30代男性・自治体勤務)
コーポラティブ住宅がとても印象的でした。1つの町(村)のように見えました。
人のつながりだけではなく、緑豊かな環境で私も暮らしたいと思いました。きっと毎日が楽しいと思います!!
また、必ず起こるトラブル、そのプロセスを良く利用したり、楽しく感じることが大切だということになるほど!と思いました。就活に活かしたいと思います。(20代女性・学生)
トラブルをエネルギーにしていく、面倒な事に豊かさがある
町内会のお手伝いをしているので、勉強になりました。(50代女性・主婦)
ご参加いただいた方々、また、延藤先生、ありがとうございました。
▲セミナーが終わってからは会場に隣接する「給食堂BIO」にて、延藤氏を囲んでの懇親会!コーポラティブ住宅の話を肴に盛り上がりました。なお、当団体では、2011年12月18日(日)13時半より、厚別区民センター会議室B(札幌市厚別区|地図)にて、菜縁セミナー第2弾に「コミュニティファームからの便り」を開催します。当団体が今年度取り組ませていただいたコミュニティファームから、それぞれの参加者に報告をしてもらいます。参加は無料となっており、事前のお申し込みも不要ですので、ぜひ気軽にお越しください。