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珈琲ブレイク(5)《初代「帆船日本丸」・誘致ものがたり》[2012年06月15日(Fri)]
帆船日本丸.jpg

横浜で余生を送る初代日本丸

「太平洋の白鳥」とうたわれた大型練習帆船日本丸。今は2代目が就航(1984年から)しているが、80年代のはじめ、初代日本丸の隠居先をめぐる誘致合戦が激しく繰り広げられていた。名乗りを上げたのは横浜、神戸、大阪、小樽、新湊、福岡、鹿児島など10都市。中でも横浜と神戸が有力視されていた。

神戸の応援団長は、大阪フィルを指揮する朝比奈隆氏(1908-2001)。横浜市は、アンクルトリスで有名なイラストレーター、柳原良平氏をリーダーに、ともに大々的な市民誘致運動を展開。私は当時、横浜市役所の担当だった。
神戸市担当の同期生に電話した。「横浜に決まりそうなんだって」と言うと、「なにをトボケタことを。神戸で内定したとの情報を掴んでいるゾ」…。
結局は横浜が勝利し、初代日本丸はみなとみらい地区に美しい羽を休め、海洋教室などに利用されている。この誘致劇の裏側ではどんな争いが行われたのか。
           ◇
「キーパーソンは笹川良一氏だった。横浜市の動きを静かに見ていてほしいとお願いした」
1983年11月、中国雲南省昆明市のホテルに宿泊していた細郷道一・横浜市長(当時)の部屋を訪れた。手にはブランデーの瓶。横浜―上海友好都市10周年記念の上海市公式訪問を終え、当時はまだ観光客が入れなかった昆明市に骨休めに来ていた時だ。明日は帰路に就くという最終日の夜。同行記者団の一員に加わったのを幸いに、帆船日本丸の争奪戦の模様、横浜に決まったいきさつを市長の口から聞き出すための“夜討ち”だった。

旅先での気安さからか、市長は午後11時を回っていた(と思う)のにドアを開けてくれた。「遅くにスミマセン。え〜と」。その夜の別宴で、しこたま飲まされていた。舌が回らない。複数の質問は無理だ。息を整え、ゆっくり大きく口を開け、1点だけ〜何が決め手になったのかを尋ねた。

「笹川さんだね。当時、東京は誘致に名乗りをあげていなかった。しかし、いつ『ほしい』と東京に手を上げられるか分からなかった。上げられたら横浜は敵わないと思っていた」

「仮に神戸に負けても、次に“妹分”の帆船海王丸の引退が控えていて、1隻目が大阪湾なら2隻目は東京湾に…と帆船獲得の2回戦に期待をつなげられる。しかし東京に持っていかれたら、東京湾に帆船2隻(の保存)は考えられず、第2戦は大阪湾、つまり神戸か大阪のどちらかで決まり、横浜は帆船をあきらめるしかない情勢だった」

「“東京は手を上げないでほしい”と頼むと、笹川さんは黙って聞いていて、しばらくしてうなづき“分かった”と答えてくれた」

笹川良一氏(1899-1995)。右翼活動家、元衆院議員、社会奉仕活動家…競艇生みの親でもある。日本船舶振興協会(現・公益法人日本財団)を立ち上げ、モーターボート競走の収益金で福祉事業を助成。「一日一善」のテレビCMはある年代の人にはなじみ深い。

細郷道一氏(1915-1990)。東大卒、自治省事務次官などを経て1978年市長選に出馬。前任の飛鳥田一雄さんとは真逆の、愛想のない、笑わない候補者で側近を悩ませたという。しかし、優秀な内務官僚で、国から金と情報を引き出し、みなとみらい開発など横浜の発展に貢献した。

              ◇
帆船日本丸に遅れること5年、初代海王丸の引退は平成元年(1989)だった。その誘致先として富山と大阪が残った。両者の協議で、5年交代で係留することに決まったが、その後大阪が別の帆船の誘致に方向転換、富山新港だけの係留に落ち着き、今に至る。

余談ながら、夜討ちの翌日は激しい二日酔い。帰りの飛行機に乗る前の最後の日程・昆明動物園に案内されたが、孫悟空のモデルと言われるキンシコウ(金糸猴)の檻まで歩けず、バスの中でダウン。機内の食事もパスし、なんとも締まらない『同行取材記』の最終ページとなった。
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