お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、僕は、手と足が使えません。

電動車椅子に乗って、会社勤めをし、ヘルパーさんに朝晩来てもらい、生活しています。

障害名で言うと、「先天性多発性関節拘縮（こうしゅく）症」です。

これは生まれながらに、体中のあちこちの関節が固まってしまっているもので、肘やあごの関節が拘縮しているだけの人なんかもいます。

そんな難しい話は置いといて。



僕は、皆さんが手ですることを口でします。

ペンをくわえて字を書いたり絵を描いたり、漫画のページをめくったり、家庭科の授業では針をくわえて裁縫もしました。

ナイフをくわえて鉛筆を削るのが好きだったりもします。

だから、人と比べると口で色々なことができるので、「器用だね」とよく言われます。

またそう言われると嬉しいので、日頃からその機会をうかがっていたりしました。






けど、それも今日でおしまいにします。






今日は火曜日、いつものようにひまつぶしはスタッフ会議を行っていました。

ゴールデンウィーク前以来の会議だったので、いろんな話題が上がりました。

みんなで協力してがんばっていこうという締めのもと、無事に会議も終わり、まかないの時間です。

本日のまかないはそうめん。

涼しげでいいねーと、みんな大喜び。



僕の向かいには同僚のＫ野さんが座りました。

ある程度食事も進んだところで、僕は一本のそうめんをくわえ、彼女に見せます。

「見ててね。」

ツルツルっとそうめんを口の中に吸い込み、首を揺らします。

「はい。」

っと口から、結び目を作ったそうめんを出して見せました。

「ふふ〜ん」

よし、我ながら今日もうまくいった。

口での特技の一つを無事に終え、ほっと一息。






すると彼女が・・・。






「やっだ、げっひぃん（下品）！」

「えええ〜」






小学校一年のときからみんなの前でやっていた技を、いとも簡単に同僚にバッサリ切られてしまいました。

みんなさぁ、すごいとか言いながら心の底では下品だと思っていたのね。

挙句の果てには、近くで食べていたスタッフＮ野さんに「や〜い、下品のＭ上〜」って笑われるし。

みんなひどいっ。






二十数年間、俺は調子に乗っていたよ。






僕は今日、永い夢から目を覚ましました。





　　　　　　　　　　　　　　　　　　ひまつぶ氏むらかみ