仙台青葉ライオンズクラブで、3月28日、発達支援ひろがりネットの中嶋廉・共同代表が、支援情報交換会で意図しているもの、発達支援ひろがりネットが果たそうとしている役割について発言した概要を紹介します。
「発達支援ひろがりネット」は、自閉症、LD(学習障害)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などの発達障害に関わる13団体で構成しています。仙台市を活動の拠点としている団体が多いのですが、大崎市を中心にした「ぐっぷの会」、石巻市のアドベンチャークラブ、黒川こころの応援団が参加しており、宮城県全域にまたがるネットワークです。
発達障害は、以前は法律に定めがなく、社会制度の外に置かれていたため、社会の理解も支援もほとんどない状態に置かれていました。発達障害に関わる団体が国会議員に働きかけ、議員立法で発達障害者支援法が制定されました。施行は2005年4月、わずか4年前です。国と自治体の取り組みがスタートし、確かに大きな変化がありました。
しかし、障害者雇用にカウントされないために、発達障害のある人には働ける場がほとんどありません。障害者自立支援法の対象になっていないために、福祉サービスの提供を受けられません。他の障害に比べても差別的な取り扱いがいまだに残っています。
「発達支援ひろがりネット」は、発達障害に対する理解と支援を進めることを目的に、2007年6月1日に発足しましたが、結成の前から「支援情報交換会」を開催してきています。
支援情報交換会の開催には、3つの狙いがあります。
私たちの活動の基本は、なんといっても障害をもつ当事者とその保護者を支援することですから、第1は、各種の情報提供、情報交換の機会を提供することです。発達障害のある子どもたちは、「育てるのにコツがある子どもたち」です。一人ひとりの現れ方が違うので、保護者の悩みも違います。さまざまな情報が得られる場を提供することは、とても大切な役割です。
第2の狙いは、ネットワークづくりです。発達障害は、脳機能に由来する障害で、早期発見と療育支援が大事です。そのためには、医師、保健師、臨床心理士、作業療法士、言語聴覚士、保育士、教師、キャリアカウンセラー、ジョブコーチ、弁護士、その他のたくさんの専門職、行政及び支援機関の支援が必要です。支援情報交換会を準備する過程で、より多くの人々に発達障害を知っていただき、具体的支援に参加できる専門職の人々とのネットワークづくりが進むことを心がけています。
第3の狙いは、社会を進歩させることです。
最初の支援情報交換会の前に、宮城県内のすべての高等学校にアンケートを送り、発達障害をもつ生徒が何人在籍しているか、実態調査を行い、その結果を発表しました。宮城県では、歴史上初めての調査でした。発達障害のある子どもにとって、高等学校は「狭き門」になっているのですが、それを数字で裏付けることができました。私たちの調査報告書を公表したところ、県議会で取り上げられました。宮城県議会は、超党派で勉強会を開いていただき、全会一致で意見書を採択いたしました。たいへん、ありがたいことです。宮城県教育委員会は、全県の数字を公表していませんが、仙台市教育委員会は、「発達障害があるので配慮してほしいという申し出が保護者から寄せられている児童生徒数」を公表するようになっています。
次の年には、宮城県内の125事業所に調査用紙を送って、発達障害のある人を何人雇用しているか、就労実態を調査しました。これも歴史上初めての調査でした。この調査報告書に注目した県議会議員の方が、「こういう調査は県がやるべきだ」と質問してくださいました。おかげさまで、2008年度から、宮城県の雇用統計の障害者雇用の調査項目に、「発達障害」が追加されました。
公的な統計調査の対象になるということは、現状が系統的に把握され、社会の努力による変化が記録され、研究機関による研究調査の対象にもなるということで、社会全体の課題になることを意味しています。
昨年の2008年には、発達障害者支援法が見直しの時期を迎えているので、宮城県と仙台市の相談支援センター、障害福祉の担当者、大学の研究者に参加していただき、タウン・ミーティングを行いました。宮城県の実情をふまえて、法制度のどこをどのように見直したらよいかについて、英知を集めました。国会に、ささやかな貢献ができたのではないかと思っています。
当事者と保護者が悩みを出しあったり、役立つ情報を提供する活動であれば、個々の保護者団体やNPOでもできます。当事者や保護者の役には立ちますが、しかしそれだけでは社会は何も変わりません。社会の理解を進めたり、法制度を改めたり、社会の進歩のための活動は、当事者・保護者・支援者・研究者等がネットワークをつくり、そのことを意図した特別の努力をすることで、初めてなしうることです。
社会進歩を進める「アドボカシー団体」は、日本では障害者運動でも患者運動でも、本格的には登場したことがありません。日本発達障害ネットワークは、当事者・保護者だけでなく、支援する専門職の団体、学会も参加しており、日本で初めての本格的なアドボカシー団体になる可能性があります。「発達支援ひろがりネット」は、宮城県社会の進歩に貢献する「アドボカシー団体」になることに挑戦できないかと、私は考えています。
実際には、私たちの団体はまだ歴史が浅く、マンパワーと資金の不足にいつも悩んでいます。私たちは、それぞれが保護者団体やNPOを担っているので、その他にネットワークのための活動時間をさくことは、本当に大変です。資金についても、個々の団体の財政に責任をもった上で、ネットワークのための資金を獲得しなければなりません。今年の支援情報交換会についても、時期は11月から12月にかけてというめぼしはつけていますが、どの程度の資金を確保できるかで、テーマや調査研究のテーマを絞っていくことになると思います。
発達障害は、全人口の5%以上あるのではないかと言われています。単純に計算すると、宮城県では10万人を超えます。生涯にわたってフルサポートを必要とする人は、これよりは少ないのですが、早期発見と適切な支援を受けることができない状況が続いているために、ニートや引きこもりになっている人がかなりいると考えられています。
発達障害に関わる宮城県社会の理解を進め、適切な支援を進めることが社会全体の利益と進歩につながるというエビデンス(根拠)を示すことで、社会のあり方をより合理的なものに変えることに貢献したいと考えています。