本日付けの「毎日新聞」東京版に、以下のような記事が掲載されました。
発達障害の子育て支援:身近に専門家を LD(学習障害)やADHD(注意欠陥多動性障害)など発達障害への関心は高まったものの、現状では支援を担う専門家は不足している。通常の子育て支援の中にどう組み込んでいくかが問われている。【大和田香織】
東京都品川区にある「学研」の発達学習支援教室。
「この文を読んでみて」−−文章の中の助詞を四角で囲んだ紙を女性スタッフが差し出すと、小学2年生のM君(8)=川崎市=は大きな声で読み上げた。
「牛乳、へ、飲みます」 「どう直したら良いかな」 「へ、じゃなくて、を、だ」 「よく気がついたね」
M君は、文字や図形の形を書き写すなど、読み書きの一部が苦手で、LDと判定された。週1回、別の小学校の通級指導に通い、書き取りや、漢字を1文字ずつ目で見る練習などを続けている。学研の国語クラスにも通っており、この日はスタッフと1対1で、漢字の一部を覆うシートなど専用教材を使って勉強した。
母親(45)は「1年の途中から習う漢字が増え、苦労するようになった」と振り返る。障害に合った指導をする学習塾を探したが、どこも満員だった。今年1月、学研の教室を知った。今は書ける漢字も増え自信を取り戻したという。
川崎市では市立小学校7校で通級指導の「ことばの教室」を開き、各校に教員4人を配置している。だが、通う子どもは380人にも上る。
日本発達障害ネットワーク(JDDネット)副代表の山岡修さんは「05年の発達障害者支援法施行や07年の特別支援教育の制度化で、LDやアスペルガー症候群などの子も通級指導の対象となり、支援の枠組みは整った。ただ、支援の質・量とも不十分だ」と話す。
学校で相談に乗る特別支援教育コーディネーターを配置する小中学校は9割を超える。しかし、06年に大阪の「LD親の会」が行った調査では、コーディネーターの存在を「知っている」との回答は半分以下だった。せっかくの機能を生かしきれていない学校が多いことがうかがえる。
山岡さんは「市町村などの健診で不適切な助言を受けて親が悩むケースもある。身近な場所で適切な助言が受けられるように専門家を養成することが急務だ」と指摘する。
国立特別支援教育総合研究所の発達障害教育情報センターは今年8月、特性に応じた支援方法や教材などを網羅したサイト(http://icedd.nise.go.jp/blog/)を開設した。笹森洋樹総括研究員は「今の大きな問題は、無理強いや叱咤(しった)激励の繰り返しで子供が自信や意欲をなくしてしまう『2次障害』だ。正しい情報提供が肝要だ」と話している。
*
全国私立保育園連盟は昨年2月、全国394の保育園を対象に、「気になる子」にどう対応しているかを調べた。それによると、「気になる子」は4歳児で5・8%、5歳児で5・4%だった。その理由を見ると、「多動がはなはだしい」が17・3%で最も多く、「言葉の遅れ」の13・2%がこれに次いだ。障害が疑われる子を現場が気に留め、何らかの支援を心がけていることがうかがえる。
調査をした社会福祉法人「杉の子保育会」(東京都世田谷区)の星野勤理事長は「障害と判定されれば行政から費用の加算も認められるが、早期に正確に判定するのは難しい。障害が確定しなくても必要な支援を行うことが大切で、現場はすでに工夫している」と語る。
通常の子育て支援の中での取り組みについて、JDDネットの山岡さんは「翌日の持ち物を説明するとき、言葉だけでなく板書するなどの工夫をしたらクラス全体で忘れ物が減るなど、障害への配慮が他の子にもいい影響をもたらした事例がある」と指摘。発達障害教育情報センターの笹森さんも「障害の可能性のある子には、親子教室など通常の子育て支援の中で対応できるようになることが理想だ」と話す。