見方、発想を変えて秋田県の良さを発見できれば[2025年12月31日(Wed)]
Wedge2025年7月31日付け「人口減少、クマ出没も頻繁な秋田県...課題先進県でも東京より暮らしやすいのはなぜ?」から、秋田県はメディアなどで「少子高齢課題県」と呼ばれることがある。
人口は2024年末で約89万7000人だが、増加率はマイナス1.8で全国一低い。65歳以上の高齢化率は、全国平均が29.3%だが、秋田県のみ40%を超えている。
『ルポ 人が減る社会で起こること 秋田「少子高齢課題県」はいま』(岩波書店)は、そんな秋田県に2020年秋に赴任した新聞記者が、少子高齢化社会の実態を「秋田は日本の未来である」(帯文より)と、さまざまな側面から描いたルポである。
まずは、人手不足による公共交通や医療機関への深刻な影響だ。庶民の足というべきバスでは、運転手の数が減少しつつあり、路線変更や廃止に追い込まれている。
医療も、病院・クリニックの閉鎖・統合により集約化が進み、「遠い・高い・ベッド不足」などに直面。医療機器を搭載した医療車も巡回し始めた。
「若いお医者さんはなかなか増えませんし、巡回医療といっても土地が広いので移動が長距離。経費がはね上がって、医療サービスは徐々に縮小の方向にあります」
著者の工藤さんは、「公共交通や医療サービスの維持は、少子高齢化に悩む地方共通の問題」と言う。
本書には、高齢者を狙った特殊詐欺やネットショッピング詐欺が増加中、とありますが、これにはどのような背景がありますか? 「高齢層で孤立している人が多い面もあります。警察や自治会が注意喚起しているんですが、新聞を読まずにTVニュースもあまり見ない人はすぐに騙されてしまう。生活の助けにと、マッチングアプリで知り合った人を信用して、商品を買ったり儲け話に乗ったり。被害金額が億円なら全国紙のニュースですが、そこまで行かない数百万円単位がザラです。ここ数年、被害者数は増えつつあるんですよ」
高齢者の詐欺被害は、頼れる若い世代が身近にいないことの結果でもある。
秋田県の14〜24歳の転出者数は突出しているが、中でも若い女性は、2015年以降男性以上に転出者数が増えている。
若者、特に若い女性は、秋田県では結婚・子育てができないと思って出て行くのですか?
「県内の女性がやってみたい、と思うような職場をもっと増やす必要があるんですよ。これまで女性は、昇進も昇給が限られ、女性の仕事はこれとこれ、という具合に最初から決められがちでした」
それは、高齢層のアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)もあるんですか?
性別役割の押しつけや過度の干渉とか?
「ありましたね。自分たちの若い頃は子育て支援などなかったから、お前たちもそうしろ、とか。自分たちも苦労したから、今の若い世代も汗をかけ、とか。そのくせ、子や孫がUターンしたいと言うと、“止めとけ、秋田には何にもないから”と意見する人がいたり」
ツキノワグマの脅威
地方での人口減少による弊害の中には、野生動物との遭遇や接触がある。地域により、動物はサル、シカ、イノシシなどと異なるが、東北6県ではツキノワグマが最大の脅威だ。本書でも、クマ対策に1章をあてている。
「秋田県では『クマダス』というクマの出没情報をスマホサービスで発信していますが、現在はいつどこに出てもおかしくない。去年は秋田駅から数百メートルの場所にも出ました」
暖冬の2023年から特に目撃情報が増えた。24年5月には、鹿角市で山菜採りの男性のクマによるとみられる死亡事件も発生した。
本書で工藤さんは、クマの狙う柿や栗などの樹木伐採、電気柵の設置の他に、クマ用ヘルメットやプロテクターを推奨してますね。
「クマはまず目と頭を襲うんです。命さえあればいい、と思われがちですが、目は失明につながり鼻なども削がれます。後遺症に多くの人が悩まされています。だから、頭と顔を覆う特殊なヘルメットやプロテクターを開発し、普及させることが早急に必要なんです」
猟友会の会員が高齢化し減少している現状では、若い世代の新会員勧誘も待ったなしの課題である。
「あと、県外の環境保護派からの“クマを殺さず逃がして”コールですね。行政の方に殺到していますが、これは受ける側にとっては大変な心身の負担になっています。人の生活や生命が壊される瀬戸際なんですから、地元に住む人の気持ちを考えてほしいですよね。
秋田の新たな魅力
人口減少によるクマの出没などは、転入希望者にとってハードルとなるが、むろんマイナス面ばかりではない。秋田の新たな魅力となる観光地開発も、県内各地で盛んに行われている。
例えば、海辺の奇岩「ゴジラ岩」(男鹿市)、台湾の観光客が発見した絶景、八幡平の「ドラゴンアイ」(仙北市)、個人の庭が観光スポットになった「十ノ瀬(とのせ)
藤の郷」(大館市)、あるいは柿の実で作ったスムージー(能代市)、未利用魚のシイラを使ったシイラジャーキー(男鹿市の海岸沿い)など。
「男鹿半島のゴジラ岩やその近くの海岸などは、本当に素晴らしい景色です。夕方に眺めると抜群にいい。これまで当たり前と思って見過ごしてきたさまざまな絶景、珍しい風物が、今の秋田では続々再発見されています。これら新たな観光地を、従来の日本最大のブナ林や落ち着いた街並み、由緒ある神社仏閣などとうまく結びつけて、食や宿にも工夫をこらせば、秋田の付加価値は倍増しますよ」 「少子高齢課題県」でも、未来は決して暗くはない、と工藤さんは力説する。
「秋田は日本の未来」と捉えた時、本書では触れていないテーマが幾つかありますね。
外国人問題とか、道路・橋・水道管などの社会的インフラとか、空き家・廃屋問題とか。
「介護の人手不足などで次第に外国人のサポートが必要になっていますが、秋田で外国人はまだ他県ほど多くはなくて、その矛盾が大ニュースにはなっていません。県道の維持・管理なども、秋田県は検討段階で、その動向には関心を持っています。小中学校の統廃合や空き家・廃屋の問題もそうですね。少子高齢化の進行でさまざまな課題を抱え、まだ十分取材できていない部分もありますが、実際に自分で見聞きできた範囲でまとめたのが本書です」
工藤さんは、個人的には女性の首長がいないことに注目していると付け加えた。女性の議員も東京都が3割なのに秋田県は2割弱。これから女性議員が増え、女性首長が登場するようになれば、秋田県は変わるはず、と 「でもね、秋田には統計に表れないいいところがいっぱいあります。それは言っておきたい。食べ物の豊かさがまずそうです。塩辛い物好きなのも秋田のコメが図抜けておいしいから。しかも客人に景気よく振る舞い、みんなで分け合い、譲り合う土地柄です。しかも凶悪犯罪は少ない。みんな優しいですからね。夜歩きも、東京などよりよっぽど安全です。本当に安心して暮らせるのはどちらでしょうか? 東京? 秋田?
それぞれ長所や短所はありますが、見方によって私はひょっとして秋田の方ではないか、と思える時があります」
巨大災害が首都圏を襲った時、豊かで安全な地方の存在は無条件で必要となる。そんな視点からも、地方の少子高齢化問題を考えてみたい。
人手不足による公共交通や医療機関への深刻な影響だ。庶民の足というべきバスでは、運転手の数が減少しつつあり、路線変更や廃止に追い込まれている。医療も、病院・クリニックの閉鎖・統合により集約化が進み、「遠い・高い・ベッド不足」などに直面。医療機器を搭載した医療車も巡回し始めた。「若いお医者さんはなかなか増えませんし、巡回医療といっても土地が広いので移動が長距離。経費がはね上がって、医療サービスは徐々に縮小の方向にあります」秋田県に限ったことではなく人口減少、過疎化が進んでいる県では起きることでしょう。高齢者を狙った特殊詐欺やネットショッピング詐欺が増加中、とありますが、これにはどのような背景がありますか? 「高齢層で孤立している人が多い面もあります。警察や自治会が注意喚起しているんですが、新聞を読まずにTVニュースもあまり見ない人はすぐに騙されてしまう。生活の助けにと、マッチングアプリで知り合った人を信用して、商品を買ったり儲け話に乗ったり。被害金額が億円なら全国紙のニュースですが、そこまで行かない数百万円単位がザラです。ここ数年、被害者数は増えつつあるんですよ」高齢者の詐欺被害は、頼れる若い世代が身近にいないことの結果でもある。確かにそうでしょう。秋田県の14〜24歳の転出者数は突出しているが、中でも若い女性は、2015年以降男性以上に転出者数が増えている。「県内の女性がやってみたい、と思うような職場をもっと増やす必要があるんですよ。これまで女性は、昇進も昇給が限られ、女性の仕事はこれとこれ、という具合に最初から決められがちでした」それは、高齢層のアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)もあるんですか?性別役割の押しつけや過度の干渉とか?「ありましたね。自分たちの若い頃は子育て支援などなかったから、お前たちもそうしろ、とか。自分たちも苦労したから、今の若い世代も汗をかけ、とか。そのくせ、子や孫がUターンしたいと言うと、“止めとけ、秋田には何にもないから”と意見する人がいたり」秋田県の風土が醸し出すことなのかわかりませんが、変えることは容易ではないかもしれません。「クマはまず目と頭を襲うんです。命さえあればいい、と思われがちですが、目は失明につながり鼻なども削がれます。後遺症に多くの人が悩まされています。だから、頭と顔を覆う特殊なヘルメットやプロテクターを開発し、普及させることが早急に必要なんです」猟友会の会員が高齢化し減少している現状では、若い世代の新会員勧誘も待ったなしの課題である。医療関係者としての大変重要な提案ですね。新たな観光地を、従来の日本最大のブナ林や落ち着いた街並み、由緒ある神社仏閣などとうまく結びつけて、食や宿にも工夫をこらせば、秋田の付加価値は倍増しますよ」 「少子高齢課題県」でも、未来は決して暗くはない。発想の転換ですね。それを実現することができるかでしょう。「介護の人手不足などで次第に外国人のサポートが必要になっていますが、秋田で外国人はまだ他県ほど多くはなくて、その矛盾が大ニュースにはなっていません。県道の維持・管理なども、秋田県は検討段階で、その動向には関心を持っています。小中学校の統廃合や空き家・廃屋の問題もそうですね。少子高齢化の進行でさまざまな課題を抱え、まだ十分取材できていない部分もありますが、実際に自分で見聞きできた範囲でまとめたのが本書です」秋田の現状をしっかり把握されていますね。個人的には女性の首長がいないことに注目していると付け加えた。女性の議員も東京都が3割なのに秋田県は2割弱。これから女性議員が増え、女性首長が登場するようになれば、秋田県は変わるはず、と 「でもね、秋田には統計に表れないいいところがいっぱいあります。それは言っておきたい。食べ物の豊かさがまずそうです。塩辛い物好きなのも秋田のコメが図抜けておいしいから。しかも客人に景気よく振る舞い、みんなで分け合い、譲り合う土地柄です。しかも凶悪犯罪は少ない。みんな優しいですからね。夜歩きも、東京などよりよっぽど安全です。本当に安心して暮らせるのはどちらでしょうか?東京?秋田?それぞれ長所や短所はありますが、見方によって私はひょっとして秋田の方ではないか、と思える時があります」巨大災害が首都圏を襲った時、豊かで安全な地方の存在は無条件で必要となる。そんな視点からも、地方の少子高齢化問題を考えてみたい。受け取る人によって考え方が異なるでしょうが、災害大国日本の中では安全な地方と考えられるでしょう。見方、発想を変えれば秋田県が住み易いと思う人がいるかもしれません。
人口は2024年末で約89万7000人だが、増加率はマイナス1.8で全国一低い。65歳以上の高齢化率は、全国平均が29.3%だが、秋田県のみ40%を超えている。
『ルポ 人が減る社会で起こること 秋田「少子高齢課題県」はいま』(岩波書店)は、そんな秋田県に2020年秋に赴任した新聞記者が、少子高齢化社会の実態を「秋田は日本の未来である」(帯文より)と、さまざまな側面から描いたルポである。
まずは、人手不足による公共交通や医療機関への深刻な影響だ。庶民の足というべきバスでは、運転手の数が減少しつつあり、路線変更や廃止に追い込まれている。
医療も、病院・クリニックの閉鎖・統合により集約化が進み、「遠い・高い・ベッド不足」などに直面。医療機器を搭載した医療車も巡回し始めた。
「若いお医者さんはなかなか増えませんし、巡回医療といっても土地が広いので移動が長距離。経費がはね上がって、医療サービスは徐々に縮小の方向にあります」
著者の工藤さんは、「公共交通や医療サービスの維持は、少子高齢化に悩む地方共通の問題」と言う。
本書には、高齢者を狙った特殊詐欺やネットショッピング詐欺が増加中、とありますが、これにはどのような背景がありますか? 「高齢層で孤立している人が多い面もあります。警察や自治会が注意喚起しているんですが、新聞を読まずにTVニュースもあまり見ない人はすぐに騙されてしまう。生活の助けにと、マッチングアプリで知り合った人を信用して、商品を買ったり儲け話に乗ったり。被害金額が億円なら全国紙のニュースですが、そこまで行かない数百万円単位がザラです。ここ数年、被害者数は増えつつあるんですよ」
高齢者の詐欺被害は、頼れる若い世代が身近にいないことの結果でもある。
秋田県の14〜24歳の転出者数は突出しているが、中でも若い女性は、2015年以降男性以上に転出者数が増えている。
若者、特に若い女性は、秋田県では結婚・子育てができないと思って出て行くのですか?
「県内の女性がやってみたい、と思うような職場をもっと増やす必要があるんですよ。これまで女性は、昇進も昇給が限られ、女性の仕事はこれとこれ、という具合に最初から決められがちでした」
それは、高齢層のアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)もあるんですか?
性別役割の押しつけや過度の干渉とか?
「ありましたね。自分たちの若い頃は子育て支援などなかったから、お前たちもそうしろ、とか。自分たちも苦労したから、今の若い世代も汗をかけ、とか。そのくせ、子や孫がUターンしたいと言うと、“止めとけ、秋田には何にもないから”と意見する人がいたり」
ツキノワグマの脅威
地方での人口減少による弊害の中には、野生動物との遭遇や接触がある。地域により、動物はサル、シカ、イノシシなどと異なるが、東北6県ではツキノワグマが最大の脅威だ。本書でも、クマ対策に1章をあてている。
「秋田県では『クマダス』というクマの出没情報をスマホサービスで発信していますが、現在はいつどこに出てもおかしくない。去年は秋田駅から数百メートルの場所にも出ました」
暖冬の2023年から特に目撃情報が増えた。24年5月には、鹿角市で山菜採りの男性のクマによるとみられる死亡事件も発生した。
本書で工藤さんは、クマの狙う柿や栗などの樹木伐採、電気柵の設置の他に、クマ用ヘルメットやプロテクターを推奨してますね。
「クマはまず目と頭を襲うんです。命さえあればいい、と思われがちですが、目は失明につながり鼻なども削がれます。後遺症に多くの人が悩まされています。だから、頭と顔を覆う特殊なヘルメットやプロテクターを開発し、普及させることが早急に必要なんです」
猟友会の会員が高齢化し減少している現状では、若い世代の新会員勧誘も待ったなしの課題である。
「あと、県外の環境保護派からの“クマを殺さず逃がして”コールですね。行政の方に殺到していますが、これは受ける側にとっては大変な心身の負担になっています。人の生活や生命が壊される瀬戸際なんですから、地元に住む人の気持ちを考えてほしいですよね。
秋田の新たな魅力
人口減少によるクマの出没などは、転入希望者にとってハードルとなるが、むろんマイナス面ばかりではない。秋田の新たな魅力となる観光地開発も、県内各地で盛んに行われている。
例えば、海辺の奇岩「ゴジラ岩」(男鹿市)、台湾の観光客が発見した絶景、八幡平の「ドラゴンアイ」(仙北市)、個人の庭が観光スポットになった「十ノ瀬(とのせ)
藤の郷」(大館市)、あるいは柿の実で作ったスムージー(能代市)、未利用魚のシイラを使ったシイラジャーキー(男鹿市の海岸沿い)など。
「男鹿半島のゴジラ岩やその近くの海岸などは、本当に素晴らしい景色です。夕方に眺めると抜群にいい。これまで当たり前と思って見過ごしてきたさまざまな絶景、珍しい風物が、今の秋田では続々再発見されています。これら新たな観光地を、従来の日本最大のブナ林や落ち着いた街並み、由緒ある神社仏閣などとうまく結びつけて、食や宿にも工夫をこらせば、秋田の付加価値は倍増しますよ」 「少子高齢課題県」でも、未来は決して暗くはない、と工藤さんは力説する。
「秋田は日本の未来」と捉えた時、本書では触れていないテーマが幾つかありますね。
外国人問題とか、道路・橋・水道管などの社会的インフラとか、空き家・廃屋問題とか。
「介護の人手不足などで次第に外国人のサポートが必要になっていますが、秋田で外国人はまだ他県ほど多くはなくて、その矛盾が大ニュースにはなっていません。県道の維持・管理なども、秋田県は検討段階で、その動向には関心を持っています。小中学校の統廃合や空き家・廃屋の問題もそうですね。少子高齢化の進行でさまざまな課題を抱え、まだ十分取材できていない部分もありますが、実際に自分で見聞きできた範囲でまとめたのが本書です」
工藤さんは、個人的には女性の首長がいないことに注目していると付け加えた。女性の議員も東京都が3割なのに秋田県は2割弱。これから女性議員が増え、女性首長が登場するようになれば、秋田県は変わるはず、と 「でもね、秋田には統計に表れないいいところがいっぱいあります。それは言っておきたい。食べ物の豊かさがまずそうです。塩辛い物好きなのも秋田のコメが図抜けておいしいから。しかも客人に景気よく振る舞い、みんなで分け合い、譲り合う土地柄です。しかも凶悪犯罪は少ない。みんな優しいですからね。夜歩きも、東京などよりよっぽど安全です。本当に安心して暮らせるのはどちらでしょうか? 東京? 秋田?
それぞれ長所や短所はありますが、見方によって私はひょっとして秋田の方ではないか、と思える時があります」
巨大災害が首都圏を襲った時、豊かで安全な地方の存在は無条件で必要となる。そんな視点からも、地方の少子高齢化問題を考えてみたい。
人手不足による公共交通や医療機関への深刻な影響だ。庶民の足というべきバスでは、運転手の数が減少しつつあり、路線変更や廃止に追い込まれている。医療も、病院・クリニックの閉鎖・統合により集約化が進み、「遠い・高い・ベッド不足」などに直面。医療機器を搭載した医療車も巡回し始めた。「若いお医者さんはなかなか増えませんし、巡回医療といっても土地が広いので移動が長距離。経費がはね上がって、医療サービスは徐々に縮小の方向にあります」秋田県に限ったことではなく人口減少、過疎化が進んでいる県では起きることでしょう。高齢者を狙った特殊詐欺やネットショッピング詐欺が増加中、とありますが、これにはどのような背景がありますか? 「高齢層で孤立している人が多い面もあります。警察や自治会が注意喚起しているんですが、新聞を読まずにTVニュースもあまり見ない人はすぐに騙されてしまう。生活の助けにと、マッチングアプリで知り合った人を信用して、商品を買ったり儲け話に乗ったり。被害金額が億円なら全国紙のニュースですが、そこまで行かない数百万円単位がザラです。ここ数年、被害者数は増えつつあるんですよ」高齢者の詐欺被害は、頼れる若い世代が身近にいないことの結果でもある。確かにそうでしょう。秋田県の14〜24歳の転出者数は突出しているが、中でも若い女性は、2015年以降男性以上に転出者数が増えている。「県内の女性がやってみたい、と思うような職場をもっと増やす必要があるんですよ。これまで女性は、昇進も昇給が限られ、女性の仕事はこれとこれ、という具合に最初から決められがちでした」それは、高齢層のアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)もあるんですか?性別役割の押しつけや過度の干渉とか?「ありましたね。自分たちの若い頃は子育て支援などなかったから、お前たちもそうしろ、とか。自分たちも苦労したから、今の若い世代も汗をかけ、とか。そのくせ、子や孫がUターンしたいと言うと、“止めとけ、秋田には何にもないから”と意見する人がいたり」秋田県の風土が醸し出すことなのかわかりませんが、変えることは容易ではないかもしれません。「クマはまず目と頭を襲うんです。命さえあればいい、と思われがちですが、目は失明につながり鼻なども削がれます。後遺症に多くの人が悩まされています。だから、頭と顔を覆う特殊なヘルメットやプロテクターを開発し、普及させることが早急に必要なんです」猟友会の会員が高齢化し減少している現状では、若い世代の新会員勧誘も待ったなしの課題である。医療関係者としての大変重要な提案ですね。新たな観光地を、従来の日本最大のブナ林や落ち着いた街並み、由緒ある神社仏閣などとうまく結びつけて、食や宿にも工夫をこらせば、秋田の付加価値は倍増しますよ」 「少子高齢課題県」でも、未来は決して暗くはない。発想の転換ですね。それを実現することができるかでしょう。「介護の人手不足などで次第に外国人のサポートが必要になっていますが、秋田で外国人はまだ他県ほど多くはなくて、その矛盾が大ニュースにはなっていません。県道の維持・管理なども、秋田県は検討段階で、その動向には関心を持っています。小中学校の統廃合や空き家・廃屋の問題もそうですね。少子高齢化の進行でさまざまな課題を抱え、まだ十分取材できていない部分もありますが、実際に自分で見聞きできた範囲でまとめたのが本書です」秋田の現状をしっかり把握されていますね。個人的には女性の首長がいないことに注目していると付け加えた。女性の議員も東京都が3割なのに秋田県は2割弱。これから女性議員が増え、女性首長が登場するようになれば、秋田県は変わるはず、と 「でもね、秋田には統計に表れないいいところがいっぱいあります。それは言っておきたい。食べ物の豊かさがまずそうです。塩辛い物好きなのも秋田のコメが図抜けておいしいから。しかも客人に景気よく振る舞い、みんなで分け合い、譲り合う土地柄です。しかも凶悪犯罪は少ない。みんな優しいですからね。夜歩きも、東京などよりよっぽど安全です。本当に安心して暮らせるのはどちらでしょうか?東京?秋田?それぞれ長所や短所はありますが、見方によって私はひょっとして秋田の方ではないか、と思える時があります」巨大災害が首都圏を襲った時、豊かで安全な地方の存在は無条件で必要となる。そんな視点からも、地方の少子高齢化問題を考えてみたい。受け取る人によって考え方が異なるでしょうが、災害大国日本の中では安全な地方と考えられるでしょう。見方、発想を変えれば秋田県が住み易いと思う人がいるかもしれません。



