日本には人間教育を実践する多様なリーダーが必要では[2025年12月27日(Sat)]
Yahooニュース2025年7月29日付け「戦後80年】平和は教室から 現場に立ち続ける国立大最年少のTシャツ学長 東京外国語大学春名展生さん」から、東京外国語大学(東京都府中市)に4月、国立大学として最年少の学長、春名展生さん(50)が就任した。前評判通り、インタビュー当日はTシャツ姿で登場、「こんな格好ですみません」と爽やかな語り口で気取らず、学長然と“しない”いで立ちが印象深い。
元は理系、工学部に身を置くも、幼い頃から思いを巡らせてきた「平和」について究めようと方針転換し、国際政治学を専門とする異色の経歴を持つ。少子化を背景にどの大学も学生募集に苦労する中、国内外の教育機関との連携強化に奔走し、留学生が日本で長く安心して暮らせるような生活サポートや多文化共生に向けた取り組みに余念がない。また、学長となった今も自ら進んでゼミを受け持つ。
学生との対話を重んじる春名さんに大学の現状や教育理念について聞いた。
建学150周年
東京外国語大学は1857年、江戸幕府によって開校された蕃書調所が起源で、1873年に「東京外国語学校」として発足。外交官や通訳の養成といった国策的要素を帯びながら変遷してきた。2000年に東京都北区の西ヶ原キャンパスから今の府中キャンパスへと移転、2023年には建学150年を迎えた。
英語や中国語といったメジャーな言語から聞き慣れないマイナーな言語まで、専攻を28の言語から選べる間口の広さが特徴だ。言語文化学部、国際社会学部、国際日本学部の3つから成り、どの学部でも学生らは専攻語を徹底的に学ぶ。
最初の2年間は専攻語のブラッシュアップにかなりの時間と労力を費やす。3〜4年次に、言語文化学部は文学や文化の研究に勤しみ、国際社会学部は歴史や国際関係、政治外交などの研究を深めるのが一般的。4年で卒業せず、1年以上留学する学生も珍しくないという。
多文化共生や多様性を是とする国際色豊かな学習環境で、留学生もアジア圏出身を中心に大勢いる。その数はおよそ700人、全在校生の10%台で近年は推移している。
ただ、留学生受け入れをめぐる状況は必ずしも芳しくない。米国では反移民的政策を掲げるトランプ政権が、ハーバード大学に留学制度の見直しを迫るなどし、その余波は世界中に及んでいる。さらに物価や渡航費の上昇傾向も背景に、人々を留学に駆り立てる機運は萎みがちだ。
春名さんはそうした現状を憂慮しつつも、今後も留学の重要性は変わらないと言い切る。特に、交換留学などの短期ではなく、腰を据えて学ぶ「ダブル・ディグリープログラム」の増設に取り組みたいという。
「ひっくり返す」連合
春名さんの学長就任から3カ月たった7月1日、大学の行方にも関わる大きな動きがあった。従来連携していた東京科学大学と一橋大学との三大学連合に、お茶の水女子大学が加わり、「四大学未来共創連合」として新たに憲章を締結した。
この新たな四大学連合の英語略称「FLIP(Future Leading Innovation Partnership)」にまつわる含意について、春名さんは動詞の原義を踏まえて「flipは“軽やかにひっくり返す”という意味合いだが、ひっくり返すというのはある意味でとても大胆。ゲームチェンジをするわけだから」と説明。その背景には「現状の延長線上に未来はない」との問題意識や危機感があり、だからこそ常識や閉塞的な現状を覆したい、「ひっくり返さなければいけない」と力説する。
大事なのは人間教育
一方、昨今花盛りの生成人工知能(AI)をはじめ、デジタル技術の教育への応用は道半ばだと見ている。翻訳や文書作成などAIによってできることは増えたと認める半面、 「AIでできないことを私たちは教えなければならない」と指摘。特に「交渉や判断は機械に委ねられない。総合的な視点から価値を反映して判断していく訓練が必要」と持論を語る。
春名さんは「そのために、まずはとにかく幅広い視野を持たないといけない。そして、新しいことを発想する、しなやかで柔軟な思考を身につけて大学を出てほしい」と続け、そうした機会の創出に大学として努めていくと誓った。
さらに重要なのは「人に意欲を持たせること」だと述べ、「学問教育ではなく、人間教育が大学においても重要」との考えを示した。
サステナビリティに関心
熱い思いの春名さんは幼いころから、国際的な環境に身を置いてきた。帰国子女で幼少期は米ニューヨークで過ごし、マンハッタン区にある国連の学校「United Nations International School」、通称「ユニス」に小学校3年まで通った。「アルジェリア、インド、ドイツなどさまざまな国の人に囲まれながら過ごした」経験が、後の国際関係への強い関心につながった。多様な民族・文化に囲まれて育った環境が、国際的な関心の芽を育て、研究の道を志す原点となった。
成長とともに、より地球的、全人類的課題へと目が向くようになった。「このままだと地球はやっていけないのではないか」と環境問題、サステナビリティの問題への関心が高じ、東京大学工学部で都市計画論を学んだ。実際に千葉県浦安市などの再開発プランを考える実践的な学習、今でいうPBL(Project Based Learning; プロジェクト型学習)を行っていた。
しかし、そうした都市計画1つを取っても、実行に移すためには地方行政を担う自治体や中央省庁が陰に陽に介在し、政治や国際関係のほうが社会を動かす力を持つと実感。学業的関心は政治学へと向き直り、大学院で国際関係論に転向した。
ただ、国際関係論の見識を深めるほどに、理論中心で実践性に乏しいと違和感を覚え、結果的に「国際政治学の歴史」を研究するなど、学問の枠組みそのものに対して問い直す研究者の道を歩むようになったと、春名さんは振り返る。
究めたい道、学問的テーマをめぐり、揺れ動いているようにも見えるものの、常に実践、実学を重んじている姿勢は一貫している。学んだ理論をいかに応用するか、現場で役立てられるような、身近に感じられるような解像度に落とし込めるか、そして学びをいかに学生ひいては社会に還元するかに主眼、重きを置いている。
現場に立ち続け、対話を続ける
そうした理念を重んじる春名さんは、人同士が向き合う意義、「対話」の重要性を強調する。
学長就任後も引き続きゼミを担当し、学生とコミュニケーションを取る機会を積極的に持ち、また楽しんでもいる。「国立大学の場合、教員が学長に就いている。その強みを生かすのであれば、学長になった後も教員として教育の現場を持つ、学生との接点を持つというのは大事な武器になる」と語る。
受け持つゼミなどは、授業というより「人生相談に近い」と笑う春名さん。留学生を含む学生らから「大学院に進学した方がいいだろうか、就職した方がいいだろうか」といった身の上話に親身になって応じる。それはまさに人間教育の一場面だ。
「対話はまずは教室から」を旨とし、学生と織り成す勉学の空間には、実践性を伴わない国際関係論は存在せず、学長と学生というステレオタイプやしがらみは振り解き、人間と人間とが向き合う場となっている。
答えのない問題に挑む
とは言え、世の中は暗いニュースで溢れ返る。国際協力や外交の舞台で働くことを望む学生も多い中、世界は希望よりも、死の瀬戸際で絶望に打ちひしがれながら生きている人がごまんといる。
「本当に戦争がいつ起きても不思議ではない時代になってしまった」。春名さんはそう静かに言葉を選んだ。そして、「そもそも民主主義がかつて想定されていたように機能するのか」という根本的な問いを示し、「みんなで議論していけばいい答えが出てくるとは誰も信じられない時代」になり果てたと憂う。
ただ、だからこそ「対話が大事」だと再三にわたり強調する。学生との対話、学生同士の対話を重視し、「意見の違いが見えてきた中で、どうやって折り合いをつけるのかを学ばなければいけない」と力を込める。
そこには、AIに解けない、「答えのない問題」が確かにあるといい、そうしたテーマを授業で扱う意義をあらためて説く。「今の延長線上に未来がないんだったら、どういう新しい未来を作っていくかの答えもない。それを考えるためにさまざまな機会を作っていきたい」。
暗いニュース、あふれるフェイク、フェイクだと目を疑いたくなるような酷い現実、紛争や飢餓、虚栄と欲望とで混濁する世界情勢――。そうした中でもきっとあるはずの希望を信じ、「人生楽しまなきゃ。可能な限りまずは自分が楽しんでいる姿を見せる」。学生との距離を大切にしながら、若き学長はスニーカーにTシャツ姿で今日も対話に臨む。
「平和を実現する為 今足りないもの」。そう問い掛ける掲示板が東京外国語大学のキャンパス内生協の前に置かれる。
幾重にも貼り重ねられた付箋には「知識」 「金」 「食糧」 「休み」 「想像力」 「外交力」 「笑い」 「愛」 「ゆずりあい」…「話し合い」など、思い思いの言葉が綴られていた。足りないものは1つではないかもしれない。今足りていても、すぐ足りなくなるかもしれない。わけ合えるものはあるだろうか。
元は理系、工学部に身を置くも、幼い頃から思いを巡らせてきた「平和」について究めようと方針転換し、国際政治学を専門とする異色の経歴を持つ。少子化を背景にどの大学も学生募集に苦労する中、国内外の教育機関との連携強化に奔走し、留学生が日本で長く安心して暮らせるような生活サポートや多文化共生に向けた取り組みに余念がない。また、学長となった今も自ら進んでゼミを受け持つ。学長になっても学生と一緒に学ぶ姿勢は素晴らしいですね。多文化共生や多様性を是とする国際色豊かな学習環境で、留学生もアジア圏出身を中心に大勢いる。その数はおよそ700人、全在校生の10%台で近年は推移している。ただ、留学生受け入れをめぐる状況は必ずしも芳しくない。米国では反移民的政策を掲げるトランプ政権が、ハーバード大学に留学制度の見直しを迫るなどし、その余波は世界中に及んでいる。さらに物価や渡航費の上昇傾向も背景に、人々を留学に駆り立てる機運は萎みがちだ。春名さんはそうした現状を憂慮しつつも、今後も留学の重要性は変わらないと言い切る。特に、交換留学などの短期ではなく、腰を据えて学ぶ「ダブル・ディグリープログラム」の増設に取り組みたいという。世界が1つの国のリーダーによって教育環境まで影響を受ける中でも多様性を担保するために留学生の受け入れは必要不可欠でしょう。春名さんは動詞の原義を踏まえて「flipは“軽やかにひっくり返す”という意味合いだが、ひっくり返すというのはある意味でとても大胆。ゲームチェンジをするわけだから」と説明。その背景には「現状の延長線上に未来はない」との問題意識や危機感があり、だからこそ常識や閉塞的な現状を覆したい、「ひっくり返さなければいけない」と力説する。春名さんは「そのために、まずはとにかく幅広い視野を持たないといけない。そして、新しいことを発想する、しなやかで柔軟な思考を身につけて大学を出てほしい」と続け、そうした機会の創出に大学として努めていくと誓った。さらに重要なのは「人に意欲を持たせること」だと述べ、「学問教育ではなく、人間教育が大学においても重要」との考えを示した。幅広い視野を持つことは大事ですね。大学が人間教育を最優先にしなければならないということは共感できるし理解できます。成長とともに、より地球的、全人類的課題へと目が向くようになった。「このままだと地球はやっていけないのではないか」と環境問題、サステナビリティの問題への関心が高じ、東京大学工学部で都市計画論を学んだ。常に実践、実学を重んじている姿勢は一貫している。学んだ理論をいかに応用するか、現場で役立てられるような、身近に感じられるような解像度に落とし込めるか、そして学びをいかに学生ひいては社会に還元するかに主眼、重きを置いている。そうした理念を重んじる春名さんは、人同士が向き合う意義、「対話」の重要性を強調する。学長就任後も引き続きゼミを担当し、学生とコミュニケーションを取る機会を積極的に持ち、また楽しんでもいる。「国立大学の場合、教員が学長に就いている。その強みを生かすのであれば、学長になった後も教員として教育の現場を持つ、学生との接点を持つというのは大事な武器になる」と語る。受け持つゼミなどは、授業というより「人生相談に近い」と笑う春名さん。留学生を含む学生らから「大学院に進学した方がいいだろうか、就職した方がいいだろうか」といった身の上話に親身になって応じる。それはまさに人間教育の一場面だ。「対話はまずは教室から」を旨とし、学生と織り成す勉学の空間には、実践性を伴わない国際関係論は存在せず、学長と学生というステレオタイプやしがらみは振り解き、人間と人間とが向き合う場となっている。対話は大事ですね。今の日本で求めれているリーダーそのものではないでしょうか。国際協力や外交の舞台で働くことを望む学生も多い中、世界は希望よりも、死の瀬戸際で絶望に打ちひしがれながら生きている人がごまんといる。「本当に戦争がいつ起きても不思議ではない時代になってしまった」。春名さんはそう静かに言葉を選んだ。そして、「そもそも民主主義がかつて想定されていたように機能するのか」という根本的な問いを示し、「みんなで議論していけばいい答えが出てくるとは誰も信じられない時代」になり果てたと憂う。ただ、だからこそ「対話が大事」だと再三にわたり強調する。学生との対話、学生同士の対話を重視し、「意見の違いが見えてきた中で、どうやって折り合いをつけるのかを学ばなければいけない」と力を込める。AIに解けない、「答えのない問題」が確かにあるといい、そうしたテーマを授業で扱う意義をあらためて説く。「今の延長線上に未来がないんだったら、どういう新しい未来を作っていくかの答えもない。それを考えるためにさまざまな機会を作っていきたい」。暗いニュース、あふれるフェイク、フェイクだと目を疑いたくなるような酷い現実、紛争や飢餓、虚栄と欲望とで混濁する世界情勢――。そうした中でもきっとあるはずの希望を信じ、「人生楽しまなきゃ。可能な限りまずは自分が楽しんでいる姿を見せる」。学生との距離を大切にしながら、若き学長はスニーカーにTシャツ姿で今日も対話に臨む。素晴らしいリーダーですね。このようなリーダーが多くいれば日本も変革できるでしょう。政治家を信頼できないと思う人が増えている中で日本のためだけでなく世界のための真のリーダーとしての考え方が示されているのではないでしょうか。
元は理系、工学部に身を置くも、幼い頃から思いを巡らせてきた「平和」について究めようと方針転換し、国際政治学を専門とする異色の経歴を持つ。少子化を背景にどの大学も学生募集に苦労する中、国内外の教育機関との連携強化に奔走し、留学生が日本で長く安心して暮らせるような生活サポートや多文化共生に向けた取り組みに余念がない。また、学長となった今も自ら進んでゼミを受け持つ。
学生との対話を重んじる春名さんに大学の現状や教育理念について聞いた。
建学150周年
東京外国語大学は1857年、江戸幕府によって開校された蕃書調所が起源で、1873年に「東京外国語学校」として発足。外交官や通訳の養成といった国策的要素を帯びながら変遷してきた。2000年に東京都北区の西ヶ原キャンパスから今の府中キャンパスへと移転、2023年には建学150年を迎えた。
英語や中国語といったメジャーな言語から聞き慣れないマイナーな言語まで、専攻を28の言語から選べる間口の広さが特徴だ。言語文化学部、国際社会学部、国際日本学部の3つから成り、どの学部でも学生らは専攻語を徹底的に学ぶ。
最初の2年間は専攻語のブラッシュアップにかなりの時間と労力を費やす。3〜4年次に、言語文化学部は文学や文化の研究に勤しみ、国際社会学部は歴史や国際関係、政治外交などの研究を深めるのが一般的。4年で卒業せず、1年以上留学する学生も珍しくないという。
多文化共生や多様性を是とする国際色豊かな学習環境で、留学生もアジア圏出身を中心に大勢いる。その数はおよそ700人、全在校生の10%台で近年は推移している。
ただ、留学生受け入れをめぐる状況は必ずしも芳しくない。米国では反移民的政策を掲げるトランプ政権が、ハーバード大学に留学制度の見直しを迫るなどし、その余波は世界中に及んでいる。さらに物価や渡航費の上昇傾向も背景に、人々を留学に駆り立てる機運は萎みがちだ。
春名さんはそうした現状を憂慮しつつも、今後も留学の重要性は変わらないと言い切る。特に、交換留学などの短期ではなく、腰を据えて学ぶ「ダブル・ディグリープログラム」の増設に取り組みたいという。
「ひっくり返す」連合
春名さんの学長就任から3カ月たった7月1日、大学の行方にも関わる大きな動きがあった。従来連携していた東京科学大学と一橋大学との三大学連合に、お茶の水女子大学が加わり、「四大学未来共創連合」として新たに憲章を締結した。
この新たな四大学連合の英語略称「FLIP(Future Leading Innovation Partnership)」にまつわる含意について、春名さんは動詞の原義を踏まえて「flipは“軽やかにひっくり返す”という意味合いだが、ひっくり返すというのはある意味でとても大胆。ゲームチェンジをするわけだから」と説明。その背景には「現状の延長線上に未来はない」との問題意識や危機感があり、だからこそ常識や閉塞的な現状を覆したい、「ひっくり返さなければいけない」と力説する。
大事なのは人間教育
一方、昨今花盛りの生成人工知能(AI)をはじめ、デジタル技術の教育への応用は道半ばだと見ている。翻訳や文書作成などAIによってできることは増えたと認める半面、 「AIでできないことを私たちは教えなければならない」と指摘。特に「交渉や判断は機械に委ねられない。総合的な視点から価値を反映して判断していく訓練が必要」と持論を語る。
春名さんは「そのために、まずはとにかく幅広い視野を持たないといけない。そして、新しいことを発想する、しなやかで柔軟な思考を身につけて大学を出てほしい」と続け、そうした機会の創出に大学として努めていくと誓った。
さらに重要なのは「人に意欲を持たせること」だと述べ、「学問教育ではなく、人間教育が大学においても重要」との考えを示した。
サステナビリティに関心
熱い思いの春名さんは幼いころから、国際的な環境に身を置いてきた。帰国子女で幼少期は米ニューヨークで過ごし、マンハッタン区にある国連の学校「United Nations International School」、通称「ユニス」に小学校3年まで通った。「アルジェリア、インド、ドイツなどさまざまな国の人に囲まれながら過ごした」経験が、後の国際関係への強い関心につながった。多様な民族・文化に囲まれて育った環境が、国際的な関心の芽を育て、研究の道を志す原点となった。
成長とともに、より地球的、全人類的課題へと目が向くようになった。「このままだと地球はやっていけないのではないか」と環境問題、サステナビリティの問題への関心が高じ、東京大学工学部で都市計画論を学んだ。実際に千葉県浦安市などの再開発プランを考える実践的な学習、今でいうPBL(Project Based Learning; プロジェクト型学習)を行っていた。
しかし、そうした都市計画1つを取っても、実行に移すためには地方行政を担う自治体や中央省庁が陰に陽に介在し、政治や国際関係のほうが社会を動かす力を持つと実感。学業的関心は政治学へと向き直り、大学院で国際関係論に転向した。
ただ、国際関係論の見識を深めるほどに、理論中心で実践性に乏しいと違和感を覚え、結果的に「国際政治学の歴史」を研究するなど、学問の枠組みそのものに対して問い直す研究者の道を歩むようになったと、春名さんは振り返る。
究めたい道、学問的テーマをめぐり、揺れ動いているようにも見えるものの、常に実践、実学を重んじている姿勢は一貫している。学んだ理論をいかに応用するか、現場で役立てられるような、身近に感じられるような解像度に落とし込めるか、そして学びをいかに学生ひいては社会に還元するかに主眼、重きを置いている。
現場に立ち続け、対話を続ける
そうした理念を重んじる春名さんは、人同士が向き合う意義、「対話」の重要性を強調する。
学長就任後も引き続きゼミを担当し、学生とコミュニケーションを取る機会を積極的に持ち、また楽しんでもいる。「国立大学の場合、教員が学長に就いている。その強みを生かすのであれば、学長になった後も教員として教育の現場を持つ、学生との接点を持つというのは大事な武器になる」と語る。
受け持つゼミなどは、授業というより「人生相談に近い」と笑う春名さん。留学生を含む学生らから「大学院に進学した方がいいだろうか、就職した方がいいだろうか」といった身の上話に親身になって応じる。それはまさに人間教育の一場面だ。
「対話はまずは教室から」を旨とし、学生と織り成す勉学の空間には、実践性を伴わない国際関係論は存在せず、学長と学生というステレオタイプやしがらみは振り解き、人間と人間とが向き合う場となっている。
答えのない問題に挑む
とは言え、世の中は暗いニュースで溢れ返る。国際協力や外交の舞台で働くことを望む学生も多い中、世界は希望よりも、死の瀬戸際で絶望に打ちひしがれながら生きている人がごまんといる。
「本当に戦争がいつ起きても不思議ではない時代になってしまった」。春名さんはそう静かに言葉を選んだ。そして、「そもそも民主主義がかつて想定されていたように機能するのか」という根本的な問いを示し、「みんなで議論していけばいい答えが出てくるとは誰も信じられない時代」になり果てたと憂う。
ただ、だからこそ「対話が大事」だと再三にわたり強調する。学生との対話、学生同士の対話を重視し、「意見の違いが見えてきた中で、どうやって折り合いをつけるのかを学ばなければいけない」と力を込める。
そこには、AIに解けない、「答えのない問題」が確かにあるといい、そうしたテーマを授業で扱う意義をあらためて説く。「今の延長線上に未来がないんだったら、どういう新しい未来を作っていくかの答えもない。それを考えるためにさまざまな機会を作っていきたい」。
暗いニュース、あふれるフェイク、フェイクだと目を疑いたくなるような酷い現実、紛争や飢餓、虚栄と欲望とで混濁する世界情勢――。そうした中でもきっとあるはずの希望を信じ、「人生楽しまなきゃ。可能な限りまずは自分が楽しんでいる姿を見せる」。学生との距離を大切にしながら、若き学長はスニーカーにTシャツ姿で今日も対話に臨む。
「平和を実現する為 今足りないもの」。そう問い掛ける掲示板が東京外国語大学のキャンパス内生協の前に置かれる。
幾重にも貼り重ねられた付箋には「知識」 「金」 「食糧」 「休み」 「想像力」 「外交力」 「笑い」 「愛」 「ゆずりあい」…「話し合い」など、思い思いの言葉が綴られていた。足りないものは1つではないかもしれない。今足りていても、すぐ足りなくなるかもしれない。わけ合えるものはあるだろうか。
元は理系、工学部に身を置くも、幼い頃から思いを巡らせてきた「平和」について究めようと方針転換し、国際政治学を専門とする異色の経歴を持つ。少子化を背景にどの大学も学生募集に苦労する中、国内外の教育機関との連携強化に奔走し、留学生が日本で長く安心して暮らせるような生活サポートや多文化共生に向けた取り組みに余念がない。また、学長となった今も自ら進んでゼミを受け持つ。学長になっても学生と一緒に学ぶ姿勢は素晴らしいですね。多文化共生や多様性を是とする国際色豊かな学習環境で、留学生もアジア圏出身を中心に大勢いる。その数はおよそ700人、全在校生の10%台で近年は推移している。ただ、留学生受け入れをめぐる状況は必ずしも芳しくない。米国では反移民的政策を掲げるトランプ政権が、ハーバード大学に留学制度の見直しを迫るなどし、その余波は世界中に及んでいる。さらに物価や渡航費の上昇傾向も背景に、人々を留学に駆り立てる機運は萎みがちだ。春名さんはそうした現状を憂慮しつつも、今後も留学の重要性は変わらないと言い切る。特に、交換留学などの短期ではなく、腰を据えて学ぶ「ダブル・ディグリープログラム」の増設に取り組みたいという。世界が1つの国のリーダーによって教育環境まで影響を受ける中でも多様性を担保するために留学生の受け入れは必要不可欠でしょう。春名さんは動詞の原義を踏まえて「flipは“軽やかにひっくり返す”という意味合いだが、ひっくり返すというのはある意味でとても大胆。ゲームチェンジをするわけだから」と説明。その背景には「現状の延長線上に未来はない」との問題意識や危機感があり、だからこそ常識や閉塞的な現状を覆したい、「ひっくり返さなければいけない」と力説する。春名さんは「そのために、まずはとにかく幅広い視野を持たないといけない。そして、新しいことを発想する、しなやかで柔軟な思考を身につけて大学を出てほしい」と続け、そうした機会の創出に大学として努めていくと誓った。さらに重要なのは「人に意欲を持たせること」だと述べ、「学問教育ではなく、人間教育が大学においても重要」との考えを示した。幅広い視野を持つことは大事ですね。大学が人間教育を最優先にしなければならないということは共感できるし理解できます。成長とともに、より地球的、全人類的課題へと目が向くようになった。「このままだと地球はやっていけないのではないか」と環境問題、サステナビリティの問題への関心が高じ、東京大学工学部で都市計画論を学んだ。常に実践、実学を重んじている姿勢は一貫している。学んだ理論をいかに応用するか、現場で役立てられるような、身近に感じられるような解像度に落とし込めるか、そして学びをいかに学生ひいては社会に還元するかに主眼、重きを置いている。そうした理念を重んじる春名さんは、人同士が向き合う意義、「対話」の重要性を強調する。学長就任後も引き続きゼミを担当し、学生とコミュニケーションを取る機会を積極的に持ち、また楽しんでもいる。「国立大学の場合、教員が学長に就いている。その強みを生かすのであれば、学長になった後も教員として教育の現場を持つ、学生との接点を持つというのは大事な武器になる」と語る。受け持つゼミなどは、授業というより「人生相談に近い」と笑う春名さん。留学生を含む学生らから「大学院に進学した方がいいだろうか、就職した方がいいだろうか」といった身の上話に親身になって応じる。それはまさに人間教育の一場面だ。「対話はまずは教室から」を旨とし、学生と織り成す勉学の空間には、実践性を伴わない国際関係論は存在せず、学長と学生というステレオタイプやしがらみは振り解き、人間と人間とが向き合う場となっている。対話は大事ですね。今の日本で求めれているリーダーそのものではないでしょうか。国際協力や外交の舞台で働くことを望む学生も多い中、世界は希望よりも、死の瀬戸際で絶望に打ちひしがれながら生きている人がごまんといる。「本当に戦争がいつ起きても不思議ではない時代になってしまった」。春名さんはそう静かに言葉を選んだ。そして、「そもそも民主主義がかつて想定されていたように機能するのか」という根本的な問いを示し、「みんなで議論していけばいい答えが出てくるとは誰も信じられない時代」になり果てたと憂う。ただ、だからこそ「対話が大事」だと再三にわたり強調する。学生との対話、学生同士の対話を重視し、「意見の違いが見えてきた中で、どうやって折り合いをつけるのかを学ばなければいけない」と力を込める。AIに解けない、「答えのない問題」が確かにあるといい、そうしたテーマを授業で扱う意義をあらためて説く。「今の延長線上に未来がないんだったら、どういう新しい未来を作っていくかの答えもない。それを考えるためにさまざまな機会を作っていきたい」。暗いニュース、あふれるフェイク、フェイクだと目を疑いたくなるような酷い現実、紛争や飢餓、虚栄と欲望とで混濁する世界情勢――。そうした中でもきっとあるはずの希望を信じ、「人生楽しまなきゃ。可能な限りまずは自分が楽しんでいる姿を見せる」。学生との距離を大切にしながら、若き学長はスニーカーにTシャツ姿で今日も対話に臨む。素晴らしいリーダーですね。このようなリーダーが多くいれば日本も変革できるでしょう。政治家を信頼できないと思う人が増えている中で日本のためだけでなく世界のための真のリーダーとしての考え方が示されているのではないでしょうか。



