
読書する人が増えれば社会が変わるのでは[2025年05月03日(Sat)]
Yahooニュース2025年2月27日付け「青年層の読書率を上げたスペインの大胆な読書推進政策と「横ばい」が続く日本との違い」から、アメリカやイギリスなどの国では、子ども・若者の読書冊数は近年減少傾向にあるが、対照的に日本では1990年代以降からの継続的な読書推進政策・施策によって小中学生の読書率・量は大幅に向上した。ただ、高校生に関しては不読者は最悪の時期から2割程度減ったが平均読書冊数は増えていない。
どの国の読書調査を見てもおおよそ、幼年期から青年期へと発達するほど読書から遠ざかり、また、外からの働きかけが効きにくくなっていく傾向がある。青年以上の読書推進は非常に難しい。
ところがスペインでは、日本では積年の課題とされてきた15〜18歳の読書率まで近年改善している。
スペインではいったい何をしているのか?
デジタルメディアは本と「対立」するものではなく、読書に「送り込む」ツール
スペインでは総額4000万ユーロ(約65億円)を投じて文化省、地方政府、民間団体が連携する「読書推進計画 2021-2024」(Plan de Fomento de la Lectura)に取り組んできたが、ユニークな特徴がいくつかある。
「それも読書だ」をスローガンのひとつとして打ち出し、紙の書籍だけでなく、電子書籍、オーディオブック、コミック、雑誌、オンライン記事など、あらゆる形態の読書を奨励。これはOECD加盟国の15歳を対照にした学習到達度調査PISAによる「読解リテラシー」の拡張という近年の動向を踏まえたものである。
ソーシャルメディアやデジタルツール(電子図書館、オーディオブックなど)を活用し、若年層の読書促進を図る。「#LecturaInfinita」のハッシュタグを活用したインフルエンサーとの連携や、オンライン読書コミュニティの創出を実施。
都市部と地方の格差を解消し、社会的に不利な立場の人々を支援する取り組みとして、障害者向け「読みやすい書籍(lectura fácil)」の制作を支援し、年間400万ユーロを支出してAIを搭載した移動図書館の導入や地方言語での読書資源の提供を推進。
といったものだ。
都市部と地方の格差を解消し、社会的に不利な立場の人々を支援する取り組みとして、障害者向け「読みやすい書籍(lectura fácil)」の制作を支援し、年間400万ユーロを支出してAIを搭載した移動図書館の導入や地方言語での読書資源の提供を推進。
といったものだ。
成果――ラップを用いたプログラムで古典の詩の理解力が向上!?
デジタルキャンペーンを通じた読書の可視化向上(1200以上の機関が協力)
#LecturaInfinitaキャンペーンはTikTokとInstagramを主要プラットフォームに選定し、1分間書評動画「Micro-Reseñas」やインタラクティブ読書チャレンジ「Desafío Lector」を展開。バルセロナ自治大学の調査では動画視聴者の38%がレコメンドされた書籍を購入。
16-24歳の電子書籍利用率が2019年23%から2023年35%へ急増した。
教育省の「デジタル読書リテラシー育成プログラム」によりAR技術を統合した教科書を採用した学校では読解力が22%向上。
アクセシビリティ向上:農村部の図書館サービスカバー率が78%から85%に改善
2022年度予算ではアクセシビリティ向上のため公共図書館デジタルコレクション拡充に1,200万ユーロを計上。
聴覚障害者向けに開発された立体音響ナレーション技術「Sonolibro」は、2023年グッドデザイン賞を受賞。
バレンシア州立図書館の事例では、視覚障害者利用者が前年度比67%増加。
過疎地域対策として導入された「Bibliobús 4.0」は電気自動車ベースの移動図書館に5G通信端末を搭載。カタルーニャ地方の実証実験では、週平均貸出冊数が従来型移動図書館の3.2倍に達した。AI推薦アルゴリズムによるパーソナライズドサービスが利用率向上と高齢者層のデジタルデバイド解消に効果を発揮。
教育機関との協働体制強化戦略;学校図書館を核とした読書エコシステム構築
アンダルシア州教育委員会は2022年、学校図書館司書の専門職化を推進。500校をモデル校に指定し、司書教諭の修士課程修了者を優先採用する制度を導入。バスク地方では図書館活用授業を週3時間義務付けたところ、PISAの読解力スコアがOECD平均を15ポイント上回る成果を達成した。
現代的文化手法を用いた読書推進の試み:ラップバトルを活用した詩の解釈教育
グラナダ大学文学部が開発した「Verso y Flow」プログラムでは、ゴンゴラの韻律分析をヒップホップのリズムで再解釈し、セビリアの高校で実施したパイロット事業では古典文学の理解度が従来手法比41%向上した。2024年には全国ラップ選手権の文学部門新設が決定し、文化省が審査基準策定に協力している。
スペインにおける「読書」概念の変遷と読書率測定のパラダイムシフト
ここまでで勘の良い方は気づいたと思うが、スペインでは国レベルで「読書」という概念自体を拡張している。
スペインでは2001年から国ぐるみの読書推進政策が本格化したというが、初期の読書促進計画(2001-2004年)では、書籍・新聞・学術雑誌の活字媒体を対象とした「連続テキストの解読行為」に限定し、読書時間(1日30分以上)と理解度テストを主要指標として「読書」を測定した。
2010年にはここに欧州読書リテラシー調査(PIRLS)への準拠によって図書館利用頻度と書籍購入数が追加される。
そして2017年には@ソーシャルメディアテキスト(最低400文字)Aオーディオブック(30分以上連続使用)B教育用デジタル教材が正式に「読書行為」として認定された。
さらに2023年より採用された新指標では、@量(時間/文字数)A質(理解度スコア)B影響(行動変容度)を統合した合成指数「L-Index」を開発し、従来の単純な「月間読書者率」から、読書体験の深さを測る「深層読書指数(Índice de Lectura Profunda)」へ移行している。
こうした読書定義の拡張もあって、2020-2023年にかけて読書率が全体的に上昇したのである。
内訳を分析すると、伝統的読者の増加率が2.3%、デジタル読者の増加率が8.9%。とくにオーディオブック利用者は2019年3.8%から2023年15%へと急増し、視覚障害者利用率は67%増加した。
なんだ、「読書」の定義を広げた統計操作じゃないか、と思ったかもしれない(経年比較ができなくなるから、従来の尺度での読書率も、それはそれで併記してほしいとは思うが)。
あるいは「紙の書籍以外を読む行為は(本物の)『読書』じゃない」と感じる人もいるだろう。
しかし、考えてもらいたい。
こうした読書観の拡張の先鋒であり、「紙の書籍以外」を読みこなし、使いこなすことも求めているPISAのテストのカテゴリーの名前は「Reading Literacy」(日本では「読解力」と訳されている)である。
日本語の「読書」とは異なり、「Reading」自体には「書」を読むという意味は含まれていない。
Readingは「理解する」「解釈する」を意味する古語に由来すると言われている。また、スペイン語で「読む」を意味するLeerの語源はラテン語のlegereであり「選ぶ」「拾い集める」という意味から派生している。
つまり「読む」行為や能力を「書」と分かちがたく結びついたものとみなすこと自体が(日本人的な)思い込みなのである。
たしかにデジタル読書、とくにスマホでソーシャルメディアを見たり、ニュース記事を読む行為は、紙の本を読むこととはイコールではない。しかし紙の読書より「劣る」ものではなく「別の何か」を求めるものだ。
バルセロナ自治大学の研究チームは、デジタルネイティブ世代の「並列読解」能力を定量化する新指標を提案し、SNSのハッシュタグ分析やゲーム内テキスト解釈を評価対象に含め、伝統的読書調査では捕捉できない認知能力を可視化している(この研究成果は2024年ユネスコ読書白書に引用されている)。
私たちはすでにスマホ、各種デジタルメディアでの文字情報から逃れられないのであり、それをうまく使うリテラシーもまた求められている。
ここで重要なのは、スペインは別にデジタルでの読書や本の購買が進んでいる国ではない、という点だ。
出版市場ではきわめて紙が強く、リアル書店が強い。書籍市場では電子書籍のシェアは5%程度、書店のシェアのうちオンライン書店が占める割合はせいぜい2%しかない。
コミックでは電子書籍の売上が紙をはるかに上回り、オンライン書店のシェアが20%以上ある日本よりはるかにアナログだ。
そんな紙・リアル志向が強いスペインでさえ、読書観を拡張しないことには今の社会環境における読書の実態をつかむことができないと考えているのである。
この状況を踏まえた新たな読書観を前提にして、現実的で意味のある読書推進をしなければならない、ソーシャルメディアや映像コンテンツ、ポップカルチャーは読書と対立するものではなく補い合うものであり、紙の本の読書へ誘う効果も期待できる、と考えているのだ。
決して「デジタルにすべて置き換えよう」という話ではないし、紙を軽視しているのでもない。紙の本からさらに広げて読書を捉えよう、という話だ。紙にもデジタルにもそれぞれ長所も短所もある。長所を活かすかたちで、合わせて使っていけばいい。
日本では政策レベルでも学校や図書館現場などでも「紙の書籍」偏重になりがちな傾向にある。しかし、もうすこし読書観や読書推進のスコープを広げ、読書の敷居を下げたほうが入ってきやすくなり、読書に親しみをもちやすくなるのではないだろうか。
どの国の読書調査を見てもおおよそ、幼年期から青年期へと発達するほど読書から遠ざかり、また、外からの働きかけが効きにくくなっていく傾向がある。青年以上の読書推進は非常に難しい。ところがスペインでは、日本では積年の課題とされてきた15〜18歳の読書率まで近年改善している。スペインでは総額4000万ユーロ(約65億円)を投じて文化省、地方政府、民間団体が連携する「読書推進計画 2021-2024」(Plan de Fomento de la Lectura)に取り組んできたが、ユニークな特徴がいくつかある。「それも読書だ」をスローガンのひとつとして打ち出し、紙の書籍だけでなく、電子書籍、オーディオブック、コミック、雑誌、オンライン記事など、あらゆる形態の読書を奨励。これはOECD加盟国の15歳を対照にした学習到達度調査PISAによる「読解リテラシー」の拡張という近年の動向を踏まえたものである。ソーシャルメディアやデジタルツール(電子図書館、オーディオブックなど)を活用し、若年層の読書促進を図る。「#LecturaInfinita」のハッシュタグを活用したインフルエンサーとの連携や、オンライン読書コミュニティの創出を実施。都市部と地方の格差を解消し、社会的に不利な立場の人々を支援する取り組みとして、障害者向け「読みやすい書籍(lectura fácil)」の制作を支援し、年間400万ユーロを支出してAIを搭載した移動図書館の導入や地方言語での読書資源の提供を推進。といったものだ。都市部と地方の格差を解消し、社会的に不利な立場の人々を支援する取り組みとして、障害者向け「読みやすい書籍(lectura fácil)」の制作を支援し、年間400万ユーロを支出してAIを搭載した移動図書館の導入や地方言語での読書資源の提供を推進。といったものだ。対策を講じている成果が出ているということですね。スペインでは国レベルで「読書」という概念自体を拡張している。スペインでは2001年から国ぐるみの読書推進政策が本格化したというが、初期の読書促進計画(2001-2004年)では、書籍・新聞・学術雑誌の活字媒体を対象とした「連続テキストの解読行為」に限定し、読書時間(1日30分以上)と理解度テストを主要指標として「読書」を測定した。2010年にはここに欧州読書リテラシー調査(PIRLS)への準拠によって図書館利用頻度と書籍購入数が追加される。そして2017年には@ソーシャルメディアテキスト(最低400文字)Aオーディオブック(30分以上連続使用)B教育用デジタル教材が正式に「読書行為」として認定された。さらに2023年より採用された新指標では、@量(時間/文字数)A質(理解度スコア)B影響(行動変容度)を統合した合成指数「L-Index」を開発し、従来の単純な「月間読書者率」から、読書体験の深さを測る「深層読書指数(Índice de Lectura Profunda)」へ移行している。こうした読書定義の拡張もあって、2020-2023年にかけて読書率が全体的に上昇したのである。手順を踏んでいろいろな策を講じていることが成果として出てきているのですね。読書観の拡張の先鋒であり、「紙の書籍以外」を読みこなし、使いこなすことも求めているPISAのテストのカテゴリーの名前は「Reading Literacy」(日本では「読解力」と訳されている)である。日本語の「読書」とは異なり、「Reading」自体には「書」を読むという意味は含まれていない。Readingは「理解する」「解釈する」を意味する古語に由来すると言われている。また、スペイン語で「読む」を意味するLeerの語源はラテン語のlegereであり「選ぶ」「拾い集める」という意味から派生している。つまり「読む」行為や能力を「書」と分かちがたく結びついたものとみなすこと自体が(日本人的な)思い込みなのである。たしかにデジタル読書、とくにスマホでソーシャルメディアを見たり、ニュース記事を読む行為は、紙の本を読むこととはイコールではない。しかし紙の読書より「劣る」ものではなく「別の何か」を求めるものだ。見方、考え方を変える必要もあるのでしょう。すでにスマホ、各種デジタルメディアでの文字情報から逃れられないのであり、それをうまく使うリテラシーもまた求められている。ここで重要なのは、スペインは別にデジタルでの読書や本の購買が進んでいる国ではない、という点だ。出版市場ではきわめて紙が強く、リアル書店が強い。書籍市場では電子書籍のシェアは5%程度、書店のシェアのうちオンライン書店が占める割合はせいぜい2%しかない。コミックでは電子書籍の売上が紙をはるかに上回り、オンライン書店のシェアが20%以上ある日本よりはるかにアナログだ。新たな読書観を前提にして、現実的で意味のある読書推進をしなければならない、ソーシャルメディアや映像コンテンツ、ポップカルチャーは読書と対立するものではなく補い合うものであり、紙の本の読書へ誘う効果も期待できる、と考えているのだ。決して「デジタルにすべて置き換えよう」という話ではないし、紙を軽視しているのでもない。紙の本からさらに広げて読書を捉えよう、という話だ。紙にもデジタルにもそれぞれ長所も短所もある。長所を活かすかたちで、合わせて使っていけばいい。日本では政策レベルでも学校や図書館現場などでも「紙の書籍」偏重になりがちな傾向にある。しかし、もうすこし読書観や読書推進のスコープを広げ、読書の敷居を下げたほうが入ってきやすくなり、読書に親しみをもちやすくなるのではないだろうか。日本はスペインを参考にして読書に親しむ人が増える方策を考える必要があるでしょう。読書する人が増えれば社会も変わるのではないでしょうか。
どの国の読書調査を見てもおおよそ、幼年期から青年期へと発達するほど読書から遠ざかり、また、外からの働きかけが効きにくくなっていく傾向がある。青年以上の読書推進は非常に難しい。
ところがスペインでは、日本では積年の課題とされてきた15〜18歳の読書率まで近年改善している。
スペインではいったい何をしているのか?
デジタルメディアは本と「対立」するものではなく、読書に「送り込む」ツール
スペインでは総額4000万ユーロ(約65億円)を投じて文化省、地方政府、民間団体が連携する「読書推進計画 2021-2024」(Plan de Fomento de la Lectura)に取り組んできたが、ユニークな特徴がいくつかある。
「それも読書だ」をスローガンのひとつとして打ち出し、紙の書籍だけでなく、電子書籍、オーディオブック、コミック、雑誌、オンライン記事など、あらゆる形態の読書を奨励。これはOECD加盟国の15歳を対照にした学習到達度調査PISAによる「読解リテラシー」の拡張という近年の動向を踏まえたものである。
ソーシャルメディアやデジタルツール(電子図書館、オーディオブックなど)を活用し、若年層の読書促進を図る。「#LecturaInfinita」のハッシュタグを活用したインフルエンサーとの連携や、オンライン読書コミュニティの創出を実施。
都市部と地方の格差を解消し、社会的に不利な立場の人々を支援する取り組みとして、障害者向け「読みやすい書籍(lectura fácil)」の制作を支援し、年間400万ユーロを支出してAIを搭載した移動図書館の導入や地方言語での読書資源の提供を推進。
といったものだ。
都市部と地方の格差を解消し、社会的に不利な立場の人々を支援する取り組みとして、障害者向け「読みやすい書籍(lectura fácil)」の制作を支援し、年間400万ユーロを支出してAIを搭載した移動図書館の導入や地方言語での読書資源の提供を推進。
といったものだ。
成果――ラップを用いたプログラムで古典の詩の理解力が向上!?
デジタルキャンペーンを通じた読書の可視化向上(1200以上の機関が協力)
#LecturaInfinitaキャンペーンはTikTokとInstagramを主要プラットフォームに選定し、1分間書評動画「Micro-Reseñas」やインタラクティブ読書チャレンジ「Desafío Lector」を展開。バルセロナ自治大学の調査では動画視聴者の38%がレコメンドされた書籍を購入。
16-24歳の電子書籍利用率が2019年23%から2023年35%へ急増した。
教育省の「デジタル読書リテラシー育成プログラム」によりAR技術を統合した教科書を採用した学校では読解力が22%向上。
アクセシビリティ向上:農村部の図書館サービスカバー率が78%から85%に改善
2022年度予算ではアクセシビリティ向上のため公共図書館デジタルコレクション拡充に1,200万ユーロを計上。
聴覚障害者向けに開発された立体音響ナレーション技術「Sonolibro」は、2023年グッドデザイン賞を受賞。
バレンシア州立図書館の事例では、視覚障害者利用者が前年度比67%増加。
過疎地域対策として導入された「Bibliobús 4.0」は電気自動車ベースの移動図書館に5G通信端末を搭載。カタルーニャ地方の実証実験では、週平均貸出冊数が従来型移動図書館の3.2倍に達した。AI推薦アルゴリズムによるパーソナライズドサービスが利用率向上と高齢者層のデジタルデバイド解消に効果を発揮。
教育機関との協働体制強化戦略;学校図書館を核とした読書エコシステム構築
アンダルシア州教育委員会は2022年、学校図書館司書の専門職化を推進。500校をモデル校に指定し、司書教諭の修士課程修了者を優先採用する制度を導入。バスク地方では図書館活用授業を週3時間義務付けたところ、PISAの読解力スコアがOECD平均を15ポイント上回る成果を達成した。
現代的文化手法を用いた読書推進の試み:ラップバトルを活用した詩の解釈教育
グラナダ大学文学部が開発した「Verso y Flow」プログラムでは、ゴンゴラの韻律分析をヒップホップのリズムで再解釈し、セビリアの高校で実施したパイロット事業では古典文学の理解度が従来手法比41%向上した。2024年には全国ラップ選手権の文学部門新設が決定し、文化省が審査基準策定に協力している。
スペインにおける「読書」概念の変遷と読書率測定のパラダイムシフト
ここまでで勘の良い方は気づいたと思うが、スペインでは国レベルで「読書」という概念自体を拡張している。
スペインでは2001年から国ぐるみの読書推進政策が本格化したというが、初期の読書促進計画(2001-2004年)では、書籍・新聞・学術雑誌の活字媒体を対象とした「連続テキストの解読行為」に限定し、読書時間(1日30分以上)と理解度テストを主要指標として「読書」を測定した。
2010年にはここに欧州読書リテラシー調査(PIRLS)への準拠によって図書館利用頻度と書籍購入数が追加される。
そして2017年には@ソーシャルメディアテキスト(最低400文字)Aオーディオブック(30分以上連続使用)B教育用デジタル教材が正式に「読書行為」として認定された。
さらに2023年より採用された新指標では、@量(時間/文字数)A質(理解度スコア)B影響(行動変容度)を統合した合成指数「L-Index」を開発し、従来の単純な「月間読書者率」から、読書体験の深さを測る「深層読書指数(Índice de Lectura Profunda)」へ移行している。
こうした読書定義の拡張もあって、2020-2023年にかけて読書率が全体的に上昇したのである。
内訳を分析すると、伝統的読者の増加率が2.3%、デジタル読者の増加率が8.9%。とくにオーディオブック利用者は2019年3.8%から2023年15%へと急増し、視覚障害者利用率は67%増加した。
なんだ、「読書」の定義を広げた統計操作じゃないか、と思ったかもしれない(経年比較ができなくなるから、従来の尺度での読書率も、それはそれで併記してほしいとは思うが)。
あるいは「紙の書籍以外を読む行為は(本物の)『読書』じゃない」と感じる人もいるだろう。
しかし、考えてもらいたい。
こうした読書観の拡張の先鋒であり、「紙の書籍以外」を読みこなし、使いこなすことも求めているPISAのテストのカテゴリーの名前は「Reading Literacy」(日本では「読解力」と訳されている)である。
日本語の「読書」とは異なり、「Reading」自体には「書」を読むという意味は含まれていない。
Readingは「理解する」「解釈する」を意味する古語に由来すると言われている。また、スペイン語で「読む」を意味するLeerの語源はラテン語のlegereであり「選ぶ」「拾い集める」という意味から派生している。
つまり「読む」行為や能力を「書」と分かちがたく結びついたものとみなすこと自体が(日本人的な)思い込みなのである。
たしかにデジタル読書、とくにスマホでソーシャルメディアを見たり、ニュース記事を読む行為は、紙の本を読むこととはイコールではない。しかし紙の読書より「劣る」ものではなく「別の何か」を求めるものだ。
バルセロナ自治大学の研究チームは、デジタルネイティブ世代の「並列読解」能力を定量化する新指標を提案し、SNSのハッシュタグ分析やゲーム内テキスト解釈を評価対象に含め、伝統的読書調査では捕捉できない認知能力を可視化している(この研究成果は2024年ユネスコ読書白書に引用されている)。
私たちはすでにスマホ、各種デジタルメディアでの文字情報から逃れられないのであり、それをうまく使うリテラシーもまた求められている。
ここで重要なのは、スペインは別にデジタルでの読書や本の購買が進んでいる国ではない、という点だ。
出版市場ではきわめて紙が強く、リアル書店が強い。書籍市場では電子書籍のシェアは5%程度、書店のシェアのうちオンライン書店が占める割合はせいぜい2%しかない。
コミックでは電子書籍の売上が紙をはるかに上回り、オンライン書店のシェアが20%以上ある日本よりはるかにアナログだ。
そんな紙・リアル志向が強いスペインでさえ、読書観を拡張しないことには今の社会環境における読書の実態をつかむことができないと考えているのである。
この状況を踏まえた新たな読書観を前提にして、現実的で意味のある読書推進をしなければならない、ソーシャルメディアや映像コンテンツ、ポップカルチャーは読書と対立するものではなく補い合うものであり、紙の本の読書へ誘う効果も期待できる、と考えているのだ。
決して「デジタルにすべて置き換えよう」という話ではないし、紙を軽視しているのでもない。紙の本からさらに広げて読書を捉えよう、という話だ。紙にもデジタルにもそれぞれ長所も短所もある。長所を活かすかたちで、合わせて使っていけばいい。
日本では政策レベルでも学校や図書館現場などでも「紙の書籍」偏重になりがちな傾向にある。しかし、もうすこし読書観や読書推進のスコープを広げ、読書の敷居を下げたほうが入ってきやすくなり、読書に親しみをもちやすくなるのではないだろうか。
どの国の読書調査を見てもおおよそ、幼年期から青年期へと発達するほど読書から遠ざかり、また、外からの働きかけが効きにくくなっていく傾向がある。青年以上の読書推進は非常に難しい。ところがスペインでは、日本では積年の課題とされてきた15〜18歳の読書率まで近年改善している。スペインでは総額4000万ユーロ(約65億円)を投じて文化省、地方政府、民間団体が連携する「読書推進計画 2021-2024」(Plan de Fomento de la Lectura)に取り組んできたが、ユニークな特徴がいくつかある。「それも読書だ」をスローガンのひとつとして打ち出し、紙の書籍だけでなく、電子書籍、オーディオブック、コミック、雑誌、オンライン記事など、あらゆる形態の読書を奨励。これはOECD加盟国の15歳を対照にした学習到達度調査PISAによる「読解リテラシー」の拡張という近年の動向を踏まえたものである。ソーシャルメディアやデジタルツール(電子図書館、オーディオブックなど)を活用し、若年層の読書促進を図る。「#LecturaInfinita」のハッシュタグを活用したインフルエンサーとの連携や、オンライン読書コミュニティの創出を実施。都市部と地方の格差を解消し、社会的に不利な立場の人々を支援する取り組みとして、障害者向け「読みやすい書籍(lectura fácil)」の制作を支援し、年間400万ユーロを支出してAIを搭載した移動図書館の導入や地方言語での読書資源の提供を推進。といったものだ。都市部と地方の格差を解消し、社会的に不利な立場の人々を支援する取り組みとして、障害者向け「読みやすい書籍(lectura fácil)」の制作を支援し、年間400万ユーロを支出してAIを搭載した移動図書館の導入や地方言語での読書資源の提供を推進。といったものだ。対策を講じている成果が出ているということですね。スペインでは国レベルで「読書」という概念自体を拡張している。スペインでは2001年から国ぐるみの読書推進政策が本格化したというが、初期の読書促進計画(2001-2004年)では、書籍・新聞・学術雑誌の活字媒体を対象とした「連続テキストの解読行為」に限定し、読書時間(1日30分以上)と理解度テストを主要指標として「読書」を測定した。2010年にはここに欧州読書リテラシー調査(PIRLS)への準拠によって図書館利用頻度と書籍購入数が追加される。そして2017年には@ソーシャルメディアテキスト(最低400文字)Aオーディオブック(30分以上連続使用)B教育用デジタル教材が正式に「読書行為」として認定された。さらに2023年より採用された新指標では、@量(時間/文字数)A質(理解度スコア)B影響(行動変容度)を統合した合成指数「L-Index」を開発し、従来の単純な「月間読書者率」から、読書体験の深さを測る「深層読書指数(Índice de Lectura Profunda)」へ移行している。こうした読書定義の拡張もあって、2020-2023年にかけて読書率が全体的に上昇したのである。手順を踏んでいろいろな策を講じていることが成果として出てきているのですね。読書観の拡張の先鋒であり、「紙の書籍以外」を読みこなし、使いこなすことも求めているPISAのテストのカテゴリーの名前は「Reading Literacy」(日本では「読解力」と訳されている)である。日本語の「読書」とは異なり、「Reading」自体には「書」を読むという意味は含まれていない。Readingは「理解する」「解釈する」を意味する古語に由来すると言われている。また、スペイン語で「読む」を意味するLeerの語源はラテン語のlegereであり「選ぶ」「拾い集める」という意味から派生している。つまり「読む」行為や能力を「書」と分かちがたく結びついたものとみなすこと自体が(日本人的な)思い込みなのである。たしかにデジタル読書、とくにスマホでソーシャルメディアを見たり、ニュース記事を読む行為は、紙の本を読むこととはイコールではない。しかし紙の読書より「劣る」ものではなく「別の何か」を求めるものだ。見方、考え方を変える必要もあるのでしょう。すでにスマホ、各種デジタルメディアでの文字情報から逃れられないのであり、それをうまく使うリテラシーもまた求められている。ここで重要なのは、スペインは別にデジタルでの読書や本の購買が進んでいる国ではない、という点だ。出版市場ではきわめて紙が強く、リアル書店が強い。書籍市場では電子書籍のシェアは5%程度、書店のシェアのうちオンライン書店が占める割合はせいぜい2%しかない。コミックでは電子書籍の売上が紙をはるかに上回り、オンライン書店のシェアが20%以上ある日本よりはるかにアナログだ。新たな読書観を前提にして、現実的で意味のある読書推進をしなければならない、ソーシャルメディアや映像コンテンツ、ポップカルチャーは読書と対立するものではなく補い合うものであり、紙の本の読書へ誘う効果も期待できる、と考えているのだ。決して「デジタルにすべて置き換えよう」という話ではないし、紙を軽視しているのでもない。紙の本からさらに広げて読書を捉えよう、という話だ。紙にもデジタルにもそれぞれ長所も短所もある。長所を活かすかたちで、合わせて使っていけばいい。日本では政策レベルでも学校や図書館現場などでも「紙の書籍」偏重になりがちな傾向にある。しかし、もうすこし読書観や読書推進のスコープを広げ、読書の敷居を下げたほうが入ってきやすくなり、読書に親しみをもちやすくなるのではないだろうか。日本はスペインを参考にして読書に親しむ人が増える方策を考える必要があるでしょう。読書する人が増えれば社会も変わるのではないでしょうか。