腸内細菌のありようにも長寿のかぎ[2026年02月24日(Tue)]
Re.ライフ.net2025年8月25日付け「百寿者が多い京丹後市から、最新の老化研究を発信 「第1回世界長寿サミット」腸内細菌のありようにも長寿のかぎ」から、百寿者(100歳以上の人)の割合が、全国平均の約3倍という京丹後市。同市の京都府丹後文化会館で、「第1回世界長寿サミット」が6月16日〜19日まで開催されました。期間中の18日には市民公開講座も開かれ、大阪観光局と全国11の自治体でつくる「健康・美・長寿推進協議会」のシンポジウム、健康長寿のための医師の講演などが行われました。
7月9日には、東京都内で、京都府立医科大学大学院教授の内藤裕二さんらが勉強会を開き、4日間にわたるサミットの概要を記者らに報告。「老化は病気で、治療もできるのではないか」とする世界的な研究の流れや「生物学的年齢」などについて解説しました。
「生物学的年齢」の観点から老化対策にアプローチ 内藤裕二教授が世界的な研究の流れを解説
記者らを集めて都内で開かれた勉強会では、京都府立医科大学大学院教授の内藤さんが「第1回世界長寿サミットを終えて〜サミット宣言を解説する〜」をテーマに、4日間の議論の概要を紹介しながら、最新の研究成果などについて話しました。
まず、「老化は病気で、治療もできるのではないか」とする、ここ数年の老化の概念変化が世界的に広まっていることを紹介。老化の指標については以前は9つが示されていましたが、2023年以降はディスバイオーシス(腸内細菌叢が乱れた状態)や慢性炎症などが加わって12項目となり、「統合的に老化を解決していく時代になっている」と説明しました。
ここ数年、生まれてからの実際の年齢である「暦年齢」ではなく、生物としてどれくらい加齢が生じているかの「生物学的年齢」に注目が集まっています。暦年齢は同じ50歳でも、見た目や体の機能は70歳の人もいれば40歳の人もいる。生物学的年齢は違うわけです。
これについて内藤さんは「生物学的年齢がわかれば、特定の介入をすることで若返ることも可能ではないか、という時代が来ている」と説明。例えば、砂糖を1g取ると生物学的には0.02歳老けること示すデータがあり、糖類を控えめにした食生活にすることで、生物学的年齢が若くなるかもしれない、としました。
今、世界中で、心臓や腎臓など各臓器の生物学的年齢を、血しょうのプロテオーム解析で解明しようという流れがある、とも指摘。「臓器特異的なタンパク質を特定し、そのタンパク質を追いかけることで、例えば『あなたの心臓の老化が進んでいます』というようなことが見えてくる可能性がある」と臓器別の老化評価をめざす研究のことも報告しました。
長寿者多い京丹後地方の住民の研究にも言及
今回の「長寿サミット」では、市民公開講座も開かれ、健康長寿の取り組みを地域活性化につなげている自治体の首長らが参加しました。内藤さんは「このサミットは、いろいろな面で複雑な長寿対策を議論する場となった」と振り返ります。
この公開講座では、京丹後地方の人たちを研究対象とする「京丹後長寿コホート研究」に関わっている医師の講演もありました。この研究は、百寿者の割合が全国平均の約3倍という京丹後市の住民の健康データを集め、長寿と生活習慣の関係を明らかにするもので、2017年から始まっています。
これまでの研究から、京丹後の高齢者は全国平均よりも血管年齢が若く、運動習慣を持つ人が多く、腸内でいい働きをする酪酸をつくる「酪酸産生菌」も多いことがわかっています。
内藤さんは「フレイル(虚弱)の予防のためには、酪酸産生菌や、酪酸産生菌をサポートする食物繊維の摂取が重要。酪酸産生菌は免疫にも重要な役割をしていると考えられ、この菌が少ない人ほど、感染症による入院や死亡率が高いことを示すデータもある」と説明しました。
この他に、長寿に関与する因子として注目されているのが、持続的幸福度(フラーリッシュ)です。例えば、病気で治療をしていても幸せな人生が大事という考え方です。
内藤さんは、2025年に学術誌に発表された「グローバル幸福度調査」で22カ国中、日本が最下位だったことに触れ「長寿の目的も、幸せをキーワードにする必要があるのではないかと思う」と話しました。
内藤さんが概要を説明した市民公開講座の内容については、この記事の後半で詳しく紹介します。
世界長寿サミット宣言
コミュニケーション、食物繊維、運動、生きがいの大切さを柱に
内藤さんは最後に、サミットで骨格を決定して現在具体的な文案を作成中の「世界長寿サミット宣言」の4つの柱を紹介しました。
「Kizuna」と「Ikigai」は、京丹後の人たちが特に大事にしている要素で、日本語のまま英語で表記されています。
Kizuna:絆を育み、コミュニケーションを絶やさないこと。
Dietary fiber:植物性たんぱく質や食物繊維の豊富な食事を、仲間と共に楽しむこと。 Physical activity:規則正しい生活と運動習慣を日々の暮らしに取り入れること。
Ikigai:感謝の心をもち、生きがいを感じる毎日を大切にすること。
ビフィズス菌の健康長寿サポートを説明
続いて、森永乳業株式会社研究本部フェローの阿部文明さんが「健康長寿社会を目指すビフィズス菌の役割」と題してレクチャーをしました。
世界では、老化の速度を指す「ペースオブエイジング」という概念が注目されているとし、人によって1年で0.4歳しか年を取らない人もいれば、2.4歳も進む人もいて約6倍も違う、という研究を紹介しました。
先に内藤さんは老化の12の指標として腸内菌叢の不均衡などを挙げましたが、阿部さんはこの12の指標のうち、ビフィズス菌によって改善の可能性がある項目が多くあると強調しました。
近年、脳と腸が迷走神経などで結ばれ互いに影響を与え合う「脳腸相関」も注目されています。
阿部さんは森永乳業による軽度認知障害(MCI)の人を対象にしたビフィズス菌の臨床試験で、認知機能スコアに改善が認められたことを報告。「ビフィズス菌を使ってペースオブエイジングをゆるやかにし、健康に貢献していきたい」と締めくくりました。
長寿サミット市民公開講座詳報 〜京丹後市地方の長寿の理由を多角的に分析
内藤さんが「勉強会」で概要を語った6月16日〜19日の「第1回世界長寿サミット」では、18日に市民公開講座(https://glm-p.com/wls2025/doc/shimin.pdf)が開かれました。「健康・美・長寿推進協議会」のシンポジウム、百寿者が多い京丹後市の、高齢者の日常生活における生活活動、食生活、腸内細菌の特長をスライドで示した医師らの講演などの様子を紹介します。
「健康・美・長寿推進協議会」のシンポジウムでは、ゲスト講演として、厚生労働省健康・生活衛生局総務課長の吉田一生さんが「人生100年時代 健康寿命の延伸に向けて」と題して講演しました。健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことです。
この健康寿命と平均寿命の差を縮めることが課題、という吉田さん。健康寿命を延ばすためには「栄養摂取や運動とともに、老人クラブ、ボランティア、町内会、スポーツなどの社会参加が大事。就労することも、身体的活動不足や社会的孤立を防げる」と指摘したうえで、後期高齢者が野菜栽培の仕事に取り組み、要介護認定率が低い地域の事例なども紹介しました。
全国11の自治体が連携し“幸福長寿”をめざす
「健康・美・長寿推進協議会」は、「心身ともにより健康で美しく。そして、長寿に、幸福寿命を延ばそう!」の理念のもと、2024年8月に発足。健康長寿の魅力を観光振興や地域経済の活性化につなげることをめざし、現在、11の自治体が参加しています(参加自治体:福島県田村市、長野県山ノ内町、京都府京丹後市、三重県多伎町、大阪府泉大津市、大阪府泉南市、広島県神石高原町、大田県竹田市、大分県由布市、鹿児島県伊仙町、沖縄県北中城村)。
今回のシンポジウムでは、このうち8つの自治体の首長らが、地域の強みを生かした健康長寿に関する取り組みを紹介しました。
同協議会の会長で京丹後市長の中山泰さんは、京都府立医科大学と連携して健康長寿の秘訣を探る疫学調査「京丹後長寿コホート研究」を実施し、検査を受けた市民が1000人を超えたことに触れ、この研究が世界長寿サミット開催につながったと話しました。
「本市は百寿率が高く、さらに男性の世界最高齢(116歳)でギネス記録を持つ木村次郎右衛門さんが生まれ育ったところ。長寿社会を喜び感謝し、いくつになっても元気でいろいろな活動ができる社会づくりをしていきたい」といい、協議会の自治体と連携して健康長寿のロールモデルとなるような取り組みをしていく考えを示しました。
長野県山ノ内町長の平澤岳さんは、人口約1万1000人の町に100歳以上の人が22人いることを紹介。「山ノ内町は標高が高く、温泉やスキー、果樹とキノコ栽培が盛ん。果物やキノコをよく食べるのが長寿の秘訣だと思う」と話し、80歳を過ぎても自宅を兼ねた宿泊施設を運営したり、農業に従事したりして働く人が多いことを伝えました。
またシンポジウムの最後には、京丹後市長の中山さんが第1回健康・美・長寿シンポジウム「京丹後宣言」を発表しました。
京丹後宣言は、 1.「健康・美・長寿」を、日本と地域のブランドとして確立し、“世界のウェルネス・幸福長寿”の発展に貢献しよう 2.「健康・美・長寿」により、健康長寿とともに“幸福長寿”を推進し、住民の笑顔と喜びあふれるウェルビーイング豊かなまちづくりを発展させよう 3.全人類の願いである「健康・美・長寿」の体験ニーズの高まりに多彩に応え、大阪・関西万博を活用し、観光と交流のまちづくりにより、日本と世界に貢献しよう 4.本協議会のつながりを強固なものとし、活動を促進させよう の4つから構成されています。
2026年には、次回のシンポジウムが長野県山ノ内町で開催される予定です。
医師が長寿研究の成果をアドバイス 「社会的なつながりや感謝の気持ち」「口の健康を保つ」
市民公開講座では、続いて、「京丹後長寿コホート研究」に関わった京都府立医科大学の4人の医師が講演しました。
同大学大学院教授(精神医学)の成本迅さんは「こころと脳を守る暮らし方:認知症とうつの予防のために」との題で話しました。
認知症の予防には、発症の予防、進行を遅らせる、日常生活への影響をできる限り減らすという3つがあることを説明。社会的なつながりや人に感謝する気持ちを持つ頻度が高い人ほど、認知症やうつになるリスクが低いことがわかっているといいます。
「京丹後市の人たちは、畑に出て近所の人と話したり、近所の家に順番に集まってお喋りしたりする文化が根づいている。このような社会的接触を保つことはうつを予防し、結果として認知症の予防にもつながる」と強調しました。
京都府立医科大学大学院講師<病院准教授>(歯科口腔科学)の山本俊郎さんの講演テーマは「ハミガキとだ液のチカラで健口に!」。
唾液には、食べ物を分解したり虫歯を予防したりするなどの働きがありますが、加齢によって唾液の量が減り、成分が劣化していきます。そのため、「歯間ブラシと歯ブラシを使った歯磨きや、唾液腺のマッサージなどで唾液量を増やすことをまずしていただきたい」と口を健やかに保つ方法を伝えました。
「生活活動でよく動き、座っている時間を減らす」
次に登壇した京都府立医科大学大学院客員講師(リハビリテーション医学)の新庄浩成さんは「歩く、動く、元気になる〜京丹後の調査からわかった長寿のヒント〜」と題して講演しました。
最近は、体を動かす「身体活動」を増やし、座ってじっとしている「座位行動」を減らすことが、健康寿命を延ばすのに重要と考えられています。
「京丹後長寿コホート研究」に参加した727人に小型の測定機器を1週間装着してもらったところ、京丹後の人は東京、福岡の人と比べて男女とも座位行動の時間が少なく、低強度身体活動(草木の水やり、ゆっくり歩くなど少しだけ体を動かす活動)と、中高強度身体活動(やや早歩き、畑仕事などしっかり体を動かす活動)が多いことが認められました。
京丹後の人と他の地域の高齢者で握力と最大歩行速度を比べた場合でも、京丹後の人の方が優れているという結果も得られました。
また、これまでに行なった100歳以上のアンケート調査では、長寿の秘訣を「食事や体を動かすこと」と答えた人たちが、88歳の時に行なっていた身体活動の多くが、畑仕事や散歩だったこともわかっています。
こうした調査を踏まえて、「京丹後の人は、生活活動の中でよく体を動かし、中高強度身体活動が多く、筋肉がしっかり維持できている。サルコペニア(加齢による筋力の低下、筋肉量の減少)や糖尿病などの代謝性疾患などの予防につながり、健康長寿者が多いと考えられる」と新庄さんは報告しました。
「食物繊維を積極的に摂り、腸内細菌を育む」
最後は、京都府立医科大学大学院准教授(医療フロンティア展開学・消化器内科学)の木智久さんが「腸内細菌・食から考える健康長寿」との題で講演しました。
京丹後市と京都市内の65歳以上の腸内細菌の様子(腸内細菌叢)を比較したところ、京丹後市の住民で増え、京都市内の住民にはあまり見られない菌があることがわかりました。 ファーミキューテス門ラクノスピラ科という菌で、食物繊維から体の健康を守るのに重要な短鎖脂肪酸を作ります。食事について調べると、京丹後市の人は、野菜、海藻、全粒穀類、果物からの食物繊維の摂取が日常的に多い特長がありました。
「私たち人間は食物繊維を分解して利用する酵素を持っておらず、その働きをするのが腸内細菌。京丹後市の皆さんは、食物繊維をうまく活用できる腸内細菌が多い。腸内細菌に食物繊維を食べさせ、腸内細菌を育むことが長寿の秘訣と考える。世界保健機関(WHO)が推奨する、1日25グラム以上の食物繊維を摂取してほしい」と強調しました。なかでも、日本人に不足している穀類や淡色野菜、豆類を積極的に摂ることを勧めました。
「老化は病気で、治療もできるのではないか」とする、ここ数年の老化の概念変化が世界的に広まっていることを紹介。老化の指標については以前は9つが示されていましたが、2023年以降はディスバイオーシス(腸内細菌叢が乱れた状態)や慢性炎症などが加わって12項目となり、「統合的に老化を解決していく時代になっている」と説明しました。ここ数年、生まれてからの実際の年齢である「暦年齢」ではなく、生物としてどれくらい加齢が生じているかの「生物学的年齢」に注目が集まっています。暦年齢は同じ50歳でも、見た目や体の機能は70歳の人もいれば40歳の人もいる。生物学的年齢は違うわけです。「フレイル(虚弱)の予防のためには、酪酸産生菌や、酪酸産生菌をサポートする食物繊維の摂取が重要。酪酸産生菌は免疫にも重要な役割をしていると考えられ、この菌が少ない人ほど、感染症による入院や死亡率が高いことを示すデータもある」コミュニケーション、食物繊維、運動、生きがいの大切さを柱に、内藤さんは最後に、サミットで骨格を決定して現在具体的な文案を作成中の「世界長寿サミット宣言」の4つの柱を紹介しました。「Kizuna」と「Ikigai」は、京丹後の人たちが特に大事にしている要素で、日本語のまま英語で表記されています。Kizuna:絆を育み、コミュニケーションを絶やさないこと。Dietary fiber:植物性たんぱく質や食物繊維の豊富な食事を、仲間と共に楽しむこと。 Physical activity:規則正しい生活と運動習慣を日々の暮らしに取り入れること。Ikigai:感謝の心をもち、生きがいを感じる毎日を大切にすること。長寿の方法を理解して実践すれば長生きできるのでしょうか。脳と腸が迷走神経などで結ばれ互いに影響を与え合う「脳腸相関」も注目されています。健康寿命を延ばすためには「栄養摂取や運動とともに、老人クラブ、ボランティア、町内会、スポーツなどの社会参加が大事。就労することも、身体的活動不足や社会的孤立を防げる」と指摘したうえで、後期高齢者が野菜栽培の仕事に取り組み、要介護認定率が低い地域の事例なども紹介しました。「山ノ内町は標高が高く、温泉やスキー、果樹とキノコ栽培が盛ん。果物やキノコをよく食べるのが長寿の秘訣だと思う」京丹後宣言は、 1.「健康・美・長寿」を、日本と地域のブランドとして確立し、“世界のウェルネス・幸福長寿”の発展に貢献しよう 2.「健康・美・長寿」により、健康長寿とともに“幸福長寿”を推進し、住民の笑顔と喜びあふれるウェルビーイング豊かなまちづくりを発展させよう 3.全人類の願いである「健康・美・長寿」の体験ニーズの高まりに多彩に応え、大阪・関西万博を活用し、観光と交流のまちづくりにより、日本と世界に貢献しよう 4.本協議会のつながりを強固なものとし、活動を促進させよう の4つから構成されています。認知症の予防には、発症の予防、進行を遅らせる、日常生活への影響をできる限り減らすという3つがあることを説明。社会的なつながりや人に感謝する気持ちを持つ頻度が高い人ほど、認知症やうつになるリスクが低いことがわかっているといいます。「京丹後市の人たちは、畑に出て近所の人と話したり、近所の家に順番に集まってお喋りしたりする文化が根づいている。このような社会的接触を保つことはうつを予防し、結果として認知症の予防にもつながる」と強調しました。京丹後市と京都市内の65歳以上の腸内細菌の様子(腸内細菌叢)を比較したところ、京丹後市の住民で増え、京都市内の住民にはあまり見られない菌があることがわかりました。 ファーミキューテス門ラクノスピラ科という菌で、食物繊維から体の健康を守るのに重要な短鎖脂肪酸を作ります。食事について調べると、京丹後市の人は、野菜、海藻、全粒穀類、果物からの食物繊維の摂取が日常的に多い特長がありました。腸内細菌に食物繊維を食べさせ、腸内細菌を育むことが長寿の秘訣と考える。世界保健機関(WHO)が推奨する、1日25グラム以上の食物繊維を摂取してほしい」と強調しました。なかでも、日本人に不足している穀類や淡色野菜、豆類を積極的に摂ることを勧めました。いろいろな地域での健康づくりの取り組みが広まっていけば健康に長生きができる人が増えるのではないでしょうか。
7月9日には、東京都内で、京都府立医科大学大学院教授の内藤裕二さんらが勉強会を開き、4日間にわたるサミットの概要を記者らに報告。「老化は病気で、治療もできるのではないか」とする世界的な研究の流れや「生物学的年齢」などについて解説しました。
「生物学的年齢」の観点から老化対策にアプローチ 内藤裕二教授が世界的な研究の流れを解説
記者らを集めて都内で開かれた勉強会では、京都府立医科大学大学院教授の内藤さんが「第1回世界長寿サミットを終えて〜サミット宣言を解説する〜」をテーマに、4日間の議論の概要を紹介しながら、最新の研究成果などについて話しました。
まず、「老化は病気で、治療もできるのではないか」とする、ここ数年の老化の概念変化が世界的に広まっていることを紹介。老化の指標については以前は9つが示されていましたが、2023年以降はディスバイオーシス(腸内細菌叢が乱れた状態)や慢性炎症などが加わって12項目となり、「統合的に老化を解決していく時代になっている」と説明しました。
ここ数年、生まれてからの実際の年齢である「暦年齢」ではなく、生物としてどれくらい加齢が生じているかの「生物学的年齢」に注目が集まっています。暦年齢は同じ50歳でも、見た目や体の機能は70歳の人もいれば40歳の人もいる。生物学的年齢は違うわけです。
これについて内藤さんは「生物学的年齢がわかれば、特定の介入をすることで若返ることも可能ではないか、という時代が来ている」と説明。例えば、砂糖を1g取ると生物学的には0.02歳老けること示すデータがあり、糖類を控えめにした食生活にすることで、生物学的年齢が若くなるかもしれない、としました。
今、世界中で、心臓や腎臓など各臓器の生物学的年齢を、血しょうのプロテオーム解析で解明しようという流れがある、とも指摘。「臓器特異的なタンパク質を特定し、そのタンパク質を追いかけることで、例えば『あなたの心臓の老化が進んでいます』というようなことが見えてくる可能性がある」と臓器別の老化評価をめざす研究のことも報告しました。
長寿者多い京丹後地方の住民の研究にも言及
今回の「長寿サミット」では、市民公開講座も開かれ、健康長寿の取り組みを地域活性化につなげている自治体の首長らが参加しました。内藤さんは「このサミットは、いろいろな面で複雑な長寿対策を議論する場となった」と振り返ります。
この公開講座では、京丹後地方の人たちを研究対象とする「京丹後長寿コホート研究」に関わっている医師の講演もありました。この研究は、百寿者の割合が全国平均の約3倍という京丹後市の住民の健康データを集め、長寿と生活習慣の関係を明らかにするもので、2017年から始まっています。
これまでの研究から、京丹後の高齢者は全国平均よりも血管年齢が若く、運動習慣を持つ人が多く、腸内でいい働きをする酪酸をつくる「酪酸産生菌」も多いことがわかっています。
内藤さんは「フレイル(虚弱)の予防のためには、酪酸産生菌や、酪酸産生菌をサポートする食物繊維の摂取が重要。酪酸産生菌は免疫にも重要な役割をしていると考えられ、この菌が少ない人ほど、感染症による入院や死亡率が高いことを示すデータもある」と説明しました。
この他に、長寿に関与する因子として注目されているのが、持続的幸福度(フラーリッシュ)です。例えば、病気で治療をしていても幸せな人生が大事という考え方です。
内藤さんは、2025年に学術誌に発表された「グローバル幸福度調査」で22カ国中、日本が最下位だったことに触れ「長寿の目的も、幸せをキーワードにする必要があるのではないかと思う」と話しました。
内藤さんが概要を説明した市民公開講座の内容については、この記事の後半で詳しく紹介します。
世界長寿サミット宣言
コミュニケーション、食物繊維、運動、生きがいの大切さを柱に
内藤さんは最後に、サミットで骨格を決定して現在具体的な文案を作成中の「世界長寿サミット宣言」の4つの柱を紹介しました。
「Kizuna」と「Ikigai」は、京丹後の人たちが特に大事にしている要素で、日本語のまま英語で表記されています。
Kizuna:絆を育み、コミュニケーションを絶やさないこと。
Dietary fiber:植物性たんぱく質や食物繊維の豊富な食事を、仲間と共に楽しむこと。 Physical activity:規則正しい生活と運動習慣を日々の暮らしに取り入れること。
Ikigai:感謝の心をもち、生きがいを感じる毎日を大切にすること。
ビフィズス菌の健康長寿サポートを説明
続いて、森永乳業株式会社研究本部フェローの阿部文明さんが「健康長寿社会を目指すビフィズス菌の役割」と題してレクチャーをしました。
世界では、老化の速度を指す「ペースオブエイジング」という概念が注目されているとし、人によって1年で0.4歳しか年を取らない人もいれば、2.4歳も進む人もいて約6倍も違う、という研究を紹介しました。
先に内藤さんは老化の12の指標として腸内菌叢の不均衡などを挙げましたが、阿部さんはこの12の指標のうち、ビフィズス菌によって改善の可能性がある項目が多くあると強調しました。
近年、脳と腸が迷走神経などで結ばれ互いに影響を与え合う「脳腸相関」も注目されています。
阿部さんは森永乳業による軽度認知障害(MCI)の人を対象にしたビフィズス菌の臨床試験で、認知機能スコアに改善が認められたことを報告。「ビフィズス菌を使ってペースオブエイジングをゆるやかにし、健康に貢献していきたい」と締めくくりました。
長寿サミット市民公開講座詳報 〜京丹後市地方の長寿の理由を多角的に分析
内藤さんが「勉強会」で概要を語った6月16日〜19日の「第1回世界長寿サミット」では、18日に市民公開講座(https://glm-p.com/wls2025/doc/shimin.pdf)が開かれました。「健康・美・長寿推進協議会」のシンポジウム、百寿者が多い京丹後市の、高齢者の日常生活における生活活動、食生活、腸内細菌の特長をスライドで示した医師らの講演などの様子を紹介します。
「健康・美・長寿推進協議会」のシンポジウムでは、ゲスト講演として、厚生労働省健康・生活衛生局総務課長の吉田一生さんが「人生100年時代 健康寿命の延伸に向けて」と題して講演しました。健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことです。
この健康寿命と平均寿命の差を縮めることが課題、という吉田さん。健康寿命を延ばすためには「栄養摂取や運動とともに、老人クラブ、ボランティア、町内会、スポーツなどの社会参加が大事。就労することも、身体的活動不足や社会的孤立を防げる」と指摘したうえで、後期高齢者が野菜栽培の仕事に取り組み、要介護認定率が低い地域の事例なども紹介しました。
全国11の自治体が連携し“幸福長寿”をめざす
「健康・美・長寿推進協議会」は、「心身ともにより健康で美しく。そして、長寿に、幸福寿命を延ばそう!」の理念のもと、2024年8月に発足。健康長寿の魅力を観光振興や地域経済の活性化につなげることをめざし、現在、11の自治体が参加しています(参加自治体:福島県田村市、長野県山ノ内町、京都府京丹後市、三重県多伎町、大阪府泉大津市、大阪府泉南市、広島県神石高原町、大田県竹田市、大分県由布市、鹿児島県伊仙町、沖縄県北中城村)。
今回のシンポジウムでは、このうち8つの自治体の首長らが、地域の強みを生かした健康長寿に関する取り組みを紹介しました。
同協議会の会長で京丹後市長の中山泰さんは、京都府立医科大学と連携して健康長寿の秘訣を探る疫学調査「京丹後長寿コホート研究」を実施し、検査を受けた市民が1000人を超えたことに触れ、この研究が世界長寿サミット開催につながったと話しました。
「本市は百寿率が高く、さらに男性の世界最高齢(116歳)でギネス記録を持つ木村次郎右衛門さんが生まれ育ったところ。長寿社会を喜び感謝し、いくつになっても元気でいろいろな活動ができる社会づくりをしていきたい」といい、協議会の自治体と連携して健康長寿のロールモデルとなるような取り組みをしていく考えを示しました。
長野県山ノ内町長の平澤岳さんは、人口約1万1000人の町に100歳以上の人が22人いることを紹介。「山ノ内町は標高が高く、温泉やスキー、果樹とキノコ栽培が盛ん。果物やキノコをよく食べるのが長寿の秘訣だと思う」と話し、80歳を過ぎても自宅を兼ねた宿泊施設を運営したり、農業に従事したりして働く人が多いことを伝えました。
またシンポジウムの最後には、京丹後市長の中山さんが第1回健康・美・長寿シンポジウム「京丹後宣言」を発表しました。
京丹後宣言は、 1.「健康・美・長寿」を、日本と地域のブランドとして確立し、“世界のウェルネス・幸福長寿”の発展に貢献しよう 2.「健康・美・長寿」により、健康長寿とともに“幸福長寿”を推進し、住民の笑顔と喜びあふれるウェルビーイング豊かなまちづくりを発展させよう 3.全人類の願いである「健康・美・長寿」の体験ニーズの高まりに多彩に応え、大阪・関西万博を活用し、観光と交流のまちづくりにより、日本と世界に貢献しよう 4.本協議会のつながりを強固なものとし、活動を促進させよう の4つから構成されています。
2026年には、次回のシンポジウムが長野県山ノ内町で開催される予定です。
医師が長寿研究の成果をアドバイス 「社会的なつながりや感謝の気持ち」「口の健康を保つ」
市民公開講座では、続いて、「京丹後長寿コホート研究」に関わった京都府立医科大学の4人の医師が講演しました。
同大学大学院教授(精神医学)の成本迅さんは「こころと脳を守る暮らし方:認知症とうつの予防のために」との題で話しました。
認知症の予防には、発症の予防、進行を遅らせる、日常生活への影響をできる限り減らすという3つがあることを説明。社会的なつながりや人に感謝する気持ちを持つ頻度が高い人ほど、認知症やうつになるリスクが低いことがわかっているといいます。
「京丹後市の人たちは、畑に出て近所の人と話したり、近所の家に順番に集まってお喋りしたりする文化が根づいている。このような社会的接触を保つことはうつを予防し、結果として認知症の予防にもつながる」と強調しました。
京都府立医科大学大学院講師<病院准教授>(歯科口腔科学)の山本俊郎さんの講演テーマは「ハミガキとだ液のチカラで健口に!」。
唾液には、食べ物を分解したり虫歯を予防したりするなどの働きがありますが、加齢によって唾液の量が減り、成分が劣化していきます。そのため、「歯間ブラシと歯ブラシを使った歯磨きや、唾液腺のマッサージなどで唾液量を増やすことをまずしていただきたい」と口を健やかに保つ方法を伝えました。
「生活活動でよく動き、座っている時間を減らす」
次に登壇した京都府立医科大学大学院客員講師(リハビリテーション医学)の新庄浩成さんは「歩く、動く、元気になる〜京丹後の調査からわかった長寿のヒント〜」と題して講演しました。
最近は、体を動かす「身体活動」を増やし、座ってじっとしている「座位行動」を減らすことが、健康寿命を延ばすのに重要と考えられています。
「京丹後長寿コホート研究」に参加した727人に小型の測定機器を1週間装着してもらったところ、京丹後の人は東京、福岡の人と比べて男女とも座位行動の時間が少なく、低強度身体活動(草木の水やり、ゆっくり歩くなど少しだけ体を動かす活動)と、中高強度身体活動(やや早歩き、畑仕事などしっかり体を動かす活動)が多いことが認められました。
京丹後の人と他の地域の高齢者で握力と最大歩行速度を比べた場合でも、京丹後の人の方が優れているという結果も得られました。
また、これまでに行なった100歳以上のアンケート調査では、長寿の秘訣を「食事や体を動かすこと」と答えた人たちが、88歳の時に行なっていた身体活動の多くが、畑仕事や散歩だったこともわかっています。
こうした調査を踏まえて、「京丹後の人は、生活活動の中でよく体を動かし、中高強度身体活動が多く、筋肉がしっかり維持できている。サルコペニア(加齢による筋力の低下、筋肉量の減少)や糖尿病などの代謝性疾患などの予防につながり、健康長寿者が多いと考えられる」と新庄さんは報告しました。
「食物繊維を積極的に摂り、腸内細菌を育む」
最後は、京都府立医科大学大学院准教授(医療フロンティア展開学・消化器内科学)の木智久さんが「腸内細菌・食から考える健康長寿」との題で講演しました。
京丹後市と京都市内の65歳以上の腸内細菌の様子(腸内細菌叢)を比較したところ、京丹後市の住民で増え、京都市内の住民にはあまり見られない菌があることがわかりました。 ファーミキューテス門ラクノスピラ科という菌で、食物繊維から体の健康を守るのに重要な短鎖脂肪酸を作ります。食事について調べると、京丹後市の人は、野菜、海藻、全粒穀類、果物からの食物繊維の摂取が日常的に多い特長がありました。
「私たち人間は食物繊維を分解して利用する酵素を持っておらず、その働きをするのが腸内細菌。京丹後市の皆さんは、食物繊維をうまく活用できる腸内細菌が多い。腸内細菌に食物繊維を食べさせ、腸内細菌を育むことが長寿の秘訣と考える。世界保健機関(WHO)が推奨する、1日25グラム以上の食物繊維を摂取してほしい」と強調しました。なかでも、日本人に不足している穀類や淡色野菜、豆類を積極的に摂ることを勧めました。
「老化は病気で、治療もできるのではないか」とする、ここ数年の老化の概念変化が世界的に広まっていることを紹介。老化の指標については以前は9つが示されていましたが、2023年以降はディスバイオーシス(腸内細菌叢が乱れた状態)や慢性炎症などが加わって12項目となり、「統合的に老化を解決していく時代になっている」と説明しました。ここ数年、生まれてからの実際の年齢である「暦年齢」ではなく、生物としてどれくらい加齢が生じているかの「生物学的年齢」に注目が集まっています。暦年齢は同じ50歳でも、見た目や体の機能は70歳の人もいれば40歳の人もいる。生物学的年齢は違うわけです。「フレイル(虚弱)の予防のためには、酪酸産生菌や、酪酸産生菌をサポートする食物繊維の摂取が重要。酪酸産生菌は免疫にも重要な役割をしていると考えられ、この菌が少ない人ほど、感染症による入院や死亡率が高いことを示すデータもある」コミュニケーション、食物繊維、運動、生きがいの大切さを柱に、内藤さんは最後に、サミットで骨格を決定して現在具体的な文案を作成中の「世界長寿サミット宣言」の4つの柱を紹介しました。「Kizuna」と「Ikigai」は、京丹後の人たちが特に大事にしている要素で、日本語のまま英語で表記されています。Kizuna:絆を育み、コミュニケーションを絶やさないこと。Dietary fiber:植物性たんぱく質や食物繊維の豊富な食事を、仲間と共に楽しむこと。 Physical activity:規則正しい生活と運動習慣を日々の暮らしに取り入れること。Ikigai:感謝の心をもち、生きがいを感じる毎日を大切にすること。長寿の方法を理解して実践すれば長生きできるのでしょうか。脳と腸が迷走神経などで結ばれ互いに影響を与え合う「脳腸相関」も注目されています。健康寿命を延ばすためには「栄養摂取や運動とともに、老人クラブ、ボランティア、町内会、スポーツなどの社会参加が大事。就労することも、身体的活動不足や社会的孤立を防げる」と指摘したうえで、後期高齢者が野菜栽培の仕事に取り組み、要介護認定率が低い地域の事例なども紹介しました。「山ノ内町は標高が高く、温泉やスキー、果樹とキノコ栽培が盛ん。果物やキノコをよく食べるのが長寿の秘訣だと思う」京丹後宣言は、 1.「健康・美・長寿」を、日本と地域のブランドとして確立し、“世界のウェルネス・幸福長寿”の発展に貢献しよう 2.「健康・美・長寿」により、健康長寿とともに“幸福長寿”を推進し、住民の笑顔と喜びあふれるウェルビーイング豊かなまちづくりを発展させよう 3.全人類の願いである「健康・美・長寿」の体験ニーズの高まりに多彩に応え、大阪・関西万博を活用し、観光と交流のまちづくりにより、日本と世界に貢献しよう 4.本協議会のつながりを強固なものとし、活動を促進させよう の4つから構成されています。認知症の予防には、発症の予防、進行を遅らせる、日常生活への影響をできる限り減らすという3つがあることを説明。社会的なつながりや人に感謝する気持ちを持つ頻度が高い人ほど、認知症やうつになるリスクが低いことがわかっているといいます。「京丹後市の人たちは、畑に出て近所の人と話したり、近所の家に順番に集まってお喋りしたりする文化が根づいている。このような社会的接触を保つことはうつを予防し、結果として認知症の予防にもつながる」と強調しました。京丹後市と京都市内の65歳以上の腸内細菌の様子(腸内細菌叢)を比較したところ、京丹後市の住民で増え、京都市内の住民にはあまり見られない菌があることがわかりました。 ファーミキューテス門ラクノスピラ科という菌で、食物繊維から体の健康を守るのに重要な短鎖脂肪酸を作ります。食事について調べると、京丹後市の人は、野菜、海藻、全粒穀類、果物からの食物繊維の摂取が日常的に多い特長がありました。腸内細菌に食物繊維を食べさせ、腸内細菌を育むことが長寿の秘訣と考える。世界保健機関(WHO)が推奨する、1日25グラム以上の食物繊維を摂取してほしい」と強調しました。なかでも、日本人に不足している穀類や淡色野菜、豆類を積極的に摂ることを勧めました。いろいろな地域での健康づくりの取り組みが広まっていけば健康に長生きができる人が増えるのではないでしょうか。



