「いじめは“環境の問題”であり、適切な対処で減らすことができる」[2026年02月11日(Wed)]
YahooニュースオリジナルVoice2025年8月18日付け「「“不機嫌な教室”ではいじめが増加する」荻上チキに聞く、いじめが発生しやすい環境とは? #今つらいあなたへ」から、全国の小中学校は現在夏休み真っ最中だが、夏休み明けが近くなると友達関係の変化や学校生活への不安など、さまざまなストレスが表面化しやすい時期となる。そうしたストレスから新たないじめが始まったり、夏休み中に休止していたいじめが再開したりすることも多いと言われている。いじめは“心の問題”として片づけられる風潮もあるが、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」の代表で批評家の荻上チキさんは「いじめは“環境の問題”であり、適切な対処で減らすことができる」と強く訴える。荻上さんが考える、いじめ問題を解決するためにできることとは。
「いじめ報道が全くアップデートされていない」いじめ問題に取り組み始めたきっかけ
チキさんはいじめ問題に取り組まれていますよね。いじめに関する原体験のようなものがあったのでしょうか。
荻上チキ: 私自身、長年いじめを受け続けてきました。そのせいで学校に行かない選択をしたこともあれば、死のうかなと思ったこともあります。いじめの深刻さは身をもって体感してきたつもりだからこそ、できることがあるのではないかと考えています。
チキさんが実際にいじめ問題に取り組むようになったきっかけを教えてください。
荻上チキ: 直接のきっかけは2011年に大津いじめ自殺事件が起きたことですね。当時のメディア報道は、いじめの内容が非常に陰惨であるとセンセーショナルに訴えるもので、これは20〜30年前とほとんど変わっていませんでした。
2011年当時も、いじめは特定の環境要因によって増減することや、介入方法によっては予防や早期発見につながることがわかっていたにもかかわらず、そうした予防や対策について一切報じられることなく、誰をどう罰するべきかという議論が先行していたんです。
こうした事態に危機感を覚えて、「ストップいじめ!ナビ」というWebサイトを作ったのが、いじめ問題に関する最初の取り組みでした。
取り組みを始めてから、変化を感じる部分はありますか。
荻上チキ: とても感じています。2012年の政権交代のタイミングで、大津いじめ自殺事件が大きくクローズアップされた結果、どの政党もマニフェストの中にいじめ対策の法律を作ることを掲げていました。そこで、2012年末から2013年の頭にかけて各政党にロビイングしたんです。
私たちが具体的に提案したのは、学校内にいじめ対策の常設チームを作り、いじめがあった場合にはそのチームで必ず共有した上で対処をする。そして普段からいじめを予防するための行動計画にもとづいて、1年間それを実行するサイクルを作る、というものでした。
この提案が盛り込まれた法案が施行されたことで、施行年の2013年は前年と比べていじめが1〜2割減ったんです。もちろんまだまだ減らせる余地はあると考えているので、今後も具体的な対策を取れるよう、呼びかけていこうと思っています。
「いじめは環境の問題」ご機嫌な教室と不機嫌な教室で発生頻度が変わる
さらにいじめ問題を解決していくには、どのようなことが考えられますか。
荻上チキ: いじめは特定の人間の心の問題だと思われがちですが、実は“環境の問題”である側面が大きいんです。実際に子どもたちが抱えているストレスの程度が強い教室では、いじめが増え、エスカレートする速度が速くなりますし、そうではない教室ではいじめが減ることもわかっています。
例えば、先生が客観的で話しやすい空気があり、授業もわかりやすい教室ではいじめが減るんですね。逆に先生のえこひいきや体罰、理不尽に叱る、不合理に罰を与えるといった教室ではいじめが増加します。私たちはこれを「ご機嫌な教室」と「不機嫌な教室」というふうに呼び分けていて、「ご機嫌な教室」を作るための、日常の積み重ねが大切なんだと訴えています。
ただ、自分がいじめられていたとしても声をあげることが難しいと感じる子どもは少なくないと思います。そうしたとき、どのようなアプローチで解決できると考えていますか。
荻上チキ: たとえば最近ですと、ハラスメント対策や性暴力対策において「アクティブバイスタンダー」という言葉が注目されています。これは「行動する第三者」という意味で、実際にその被害を見た人が先生や上司に通報する、周囲に相談するといった行動をとるかどうかで、加害行動が持続するか否かが変わってくるんですよね。
ここ数十年間で世界で作られてきたいじめ防止プログラムにおいても、第三者による介入が強く訴えられていて、このプログラムの導入によっていじめが2割以上低下したとも言われています。
本人が誰かに相談できなかったとしても、周囲がそれを発見して対処していけば、いじめが早期に収束に向かう。今まで声をあげられなかった人も、「あの人の件も解決してくれたから、自分のケースも何とかしてくれるだろう」と期待感が醸成されて、声をあげやすくなるという良いサイクルが回っていきます。
いじめに積極的に介入するのはややハードルが高いようにも感じますが、いかがでしょうか。
荻上チキ: 僕が小・中学生などに向けた授業を行う際には、自分自身が無理に介入者にならなくていいんだよと伝えています。加害者や被害者への声かけができなかったとしても、自分が新たに傷つける「2次加害」を行わないことが大切です。たとえば、被害者と接するときに被害者が傷つき続けていることを責めず、そもそもいじめやハラスメントの話をしない。つらい現実を忘れていられる環境を作る「シェルター」の役割を担うことが、被害者の支えになることもあります。
解決策の一つとして、いじめられている子どもに向けて「つらかったら逃げてもいいよ」と声をかけることも挙げられますが、これについてはどう思いますか。
荻上チキ: 子どもに安心してもらうために、「逃げる」という手段があると伝えるのはとても重要だと思います。一方で「逃げてもいいよ」と言ったときに、逃げた先を用意するのは大人の役割になるんですね。しかし、多くの大人は不登校にならずに学校を卒業できている人であるため、学校以外の居場所がどんなものかを知らないわけです。
「学校に行かなくていいよ」と言うことは、学校教育を諦めさせることにもなるので、相当な重みがあります。まずは子どもに対して自信を持っていろいろな選択肢を教えてあげられるよう、大人も“学校以外の居場所”について学んでみてほしいですね。
まずは「理不尽な仕打ちを受けているのは自分のせいではない」と捉えてほしい。
チキさんはいじめをゼロにすることはできると思いますか。
荻上チキ: いじめはゼロにすることはできませんが、少なくとも減らすことはできます。いじめに限らず、他人に対する攻撃行動は、いろいろな気分や状況、環境によっては大きく左右されます。ストレスをゼロにすることはできません。
ただ、ストレスの存在に対して敏感になり、いじめを発散対象にしてはいけないという規範を共有すること。もしもそうした行為があった場合には速やかに対処されること。これらを積み重ねることによって、今よりは安全な社会を目指すことはできるのではないかと思います。
最後に、現在いじめで苦しんでいる人にどんなことを伝えたいですか。
荻上チキ: いじめの被害はその人の主観がすべてなので、他人から見て「大したことがない」と思うものでも、本人にとっては世界が崩壊するようなつらさを感じているケースもあります。また、いじめは基本的に数年で収まるものですが、その数年が人生を左右してしまうこともあります。いじめを受けている人にはまず「自分はとても苦しい目に遭っていて、それが自分のせいではない」と捉えてほしいですね。そうやってなんとか、大人になるまでやり過ごしてほしい。
でもその上で、1人で抱え込まずに、勇気を出して信頼できる人を頼ってほしいとも思います。学校や家族、身近な友達に相談できなかったとしても、行政・相談機関のSNSや電話番号は今たくさん用意されつつある状況です。一つの対処方法がうまくいかなかったとしても、それ以外の選択肢もあるんだということを頭の片隅に置いておいてほしいと思います。
「いじめは“環境の問題”であり、適切な対処で減らすことができる」私自身、長年いじめを受け続けてきました。そのせいで学校に行かない選択をしたこともあれば、死のうかなと思ったこともあります。いじめの深刻さは身をもって体感してきたつもりだからこそ、できることがあるのではないかと考えています。2011年当時も、いじめは特定の環境要因によって増減することや、介入方法によっては予防や早期発見につながることがわかっていたにもかかわらず、そうした予防や対策について一切報じられることなく、誰をどう罰するべきかという議論が先行していたんです。確かに環境要因で増減するので介入方法によっては予防、早期発見ができるかもしれません。私たちが具体的に提案したのは、学校内にいじめ対策の常設チームを作り、いじめがあった場合にはそのチームで必ず共有した上で対処をする。そして普段からいじめを予防するための行動計画にもとづいて、1年間それを実行するサイクルを作る、というものでした。この提案が盛り込まれた法案が施行されたことで、施行年の2013年は前年と比べていじめが1〜2割減ったんです。もちろんまだまだ減らせる余地はあると考えているので、今後も具体的な対策を取れるよう、呼びかけていこうと思っています。チームが情報を共有した上で予防するための行動を取ることは有効でしょう。実は“環境の問題”である側面が大きいんです。実際に子どもたちが抱えているストレスの程度が強い教室では、いじめが増え、エスカレートする速度が速くなりますし、そうではない教室ではいじめが減ることもわかっています。先生が客観的で話しやすい空気があり、授業もわかりやすい教室ではいじめが減るんですね。逆に先生のえこひいきや体罰、理不尽に叱る、不合理に罰を与えるといった教室ではいじめが増加します。私たちはこれを「ご機嫌な教室」と「不機嫌な教室」というふうに呼び分けていて、「ご機嫌な教室」を作るための、日常の積み重ねが大切なんだと訴えています。確かに教師の力量や熱意、子どもたちへの心の気配りなどで左右する可能性はあるでしょう。本人が誰かに相談できなかったとしても、周囲がそれを発見して対処していけば、いじめが早期に収束に向かう。今まで声をあげられなかった人も、「あの人の件も解決してくれたから、自分のケースも何とかしてくれるだろう」と期待感が醸成されて、声をあげやすくなるという良いサイクルが回っていきます。確かにそうですね。子どもに安心してもらうために、「逃げる」という手段があると伝えるのはとても重要だと思います。「理不尽な仕打ちを受けているのは自分のせいではない」と捉えてほしい。いじめはゼロにすることはできませんが、少なくとも減らすことはできます。いじめに限らず、他人に対する攻撃行動は、いろいろな気分や状況、環境によっては大きく左右されます。ストレスをゼロにすることはできません。ただ、ストレスの存在に対して敏感になり、いじめを発散対象にしてはいけないという規範を共有すること。もしもそうした行為があった場合には速やかに対処されること。これらを積み重ねることによって、今よりは安全な社会を目指すことはできるのではないかと思います。まったくその遠いでしょう。学校現場で徹底することは容易ではありませんが、心掛けて取り組むことが大事でしょう。いじめの被害はその人の主観がすべてなので、他人から見て「大したことがない」と思うものでも、本人にとっては世界が崩壊するようなつらさを感じているケースもあります。また、いじめは基本的に数年で収まるものですが、その数年が人生を左右してしまうこともあります。いじめを受けている人にはまず「自分はとても苦しい目に遭っていて、それが自分のせいではない」と捉えてほしいですね。そうやってなんとか、大人になるまでやり過ごしてほしい。 でもその上で、1人で抱え込まずに、勇気を出して信頼できる人を頼ってほしいとも思います。学校や家族、身近な友達に相談できなかったとしても、行政・相談機関のSNSや電話番号は今たくさん用意されつつある状況です。一つの対処方法がうまくいかなかったとしても、それ以外の選択肢もあるんだということを頭の片隅に置いておいてほしいと思います。いじめはなくならないし対処方法はそう簡単ではありませんが、声を上げて可能なところに助けを求めることも大事でしょう。
「いじめ報道が全くアップデートされていない」いじめ問題に取り組み始めたきっかけ
チキさんはいじめ問題に取り組まれていますよね。いじめに関する原体験のようなものがあったのでしょうか。
荻上チキ: 私自身、長年いじめを受け続けてきました。そのせいで学校に行かない選択をしたこともあれば、死のうかなと思ったこともあります。いじめの深刻さは身をもって体感してきたつもりだからこそ、できることがあるのではないかと考えています。
チキさんが実際にいじめ問題に取り組むようになったきっかけを教えてください。
荻上チキ: 直接のきっかけは2011年に大津いじめ自殺事件が起きたことですね。当時のメディア報道は、いじめの内容が非常に陰惨であるとセンセーショナルに訴えるもので、これは20〜30年前とほとんど変わっていませんでした。
2011年当時も、いじめは特定の環境要因によって増減することや、介入方法によっては予防や早期発見につながることがわかっていたにもかかわらず、そうした予防や対策について一切報じられることなく、誰をどう罰するべきかという議論が先行していたんです。
こうした事態に危機感を覚えて、「ストップいじめ!ナビ」というWebサイトを作ったのが、いじめ問題に関する最初の取り組みでした。
取り組みを始めてから、変化を感じる部分はありますか。
荻上チキ: とても感じています。2012年の政権交代のタイミングで、大津いじめ自殺事件が大きくクローズアップされた結果、どの政党もマニフェストの中にいじめ対策の法律を作ることを掲げていました。そこで、2012年末から2013年の頭にかけて各政党にロビイングしたんです。
私たちが具体的に提案したのは、学校内にいじめ対策の常設チームを作り、いじめがあった場合にはそのチームで必ず共有した上で対処をする。そして普段からいじめを予防するための行動計画にもとづいて、1年間それを実行するサイクルを作る、というものでした。
この提案が盛り込まれた法案が施行されたことで、施行年の2013年は前年と比べていじめが1〜2割減ったんです。もちろんまだまだ減らせる余地はあると考えているので、今後も具体的な対策を取れるよう、呼びかけていこうと思っています。
「いじめは環境の問題」ご機嫌な教室と不機嫌な教室で発生頻度が変わる
さらにいじめ問題を解決していくには、どのようなことが考えられますか。
荻上チキ: いじめは特定の人間の心の問題だと思われがちですが、実は“環境の問題”である側面が大きいんです。実際に子どもたちが抱えているストレスの程度が強い教室では、いじめが増え、エスカレートする速度が速くなりますし、そうではない教室ではいじめが減ることもわかっています。
例えば、先生が客観的で話しやすい空気があり、授業もわかりやすい教室ではいじめが減るんですね。逆に先生のえこひいきや体罰、理不尽に叱る、不合理に罰を与えるといった教室ではいじめが増加します。私たちはこれを「ご機嫌な教室」と「不機嫌な教室」というふうに呼び分けていて、「ご機嫌な教室」を作るための、日常の積み重ねが大切なんだと訴えています。
ただ、自分がいじめられていたとしても声をあげることが難しいと感じる子どもは少なくないと思います。そうしたとき、どのようなアプローチで解決できると考えていますか。
荻上チキ: たとえば最近ですと、ハラスメント対策や性暴力対策において「アクティブバイスタンダー」という言葉が注目されています。これは「行動する第三者」という意味で、実際にその被害を見た人が先生や上司に通報する、周囲に相談するといった行動をとるかどうかで、加害行動が持続するか否かが変わってくるんですよね。
ここ数十年間で世界で作られてきたいじめ防止プログラムにおいても、第三者による介入が強く訴えられていて、このプログラムの導入によっていじめが2割以上低下したとも言われています。
本人が誰かに相談できなかったとしても、周囲がそれを発見して対処していけば、いじめが早期に収束に向かう。今まで声をあげられなかった人も、「あの人の件も解決してくれたから、自分のケースも何とかしてくれるだろう」と期待感が醸成されて、声をあげやすくなるという良いサイクルが回っていきます。
いじめに積極的に介入するのはややハードルが高いようにも感じますが、いかがでしょうか。
荻上チキ: 僕が小・中学生などに向けた授業を行う際には、自分自身が無理に介入者にならなくていいんだよと伝えています。加害者や被害者への声かけができなかったとしても、自分が新たに傷つける「2次加害」を行わないことが大切です。たとえば、被害者と接するときに被害者が傷つき続けていることを責めず、そもそもいじめやハラスメントの話をしない。つらい現実を忘れていられる環境を作る「シェルター」の役割を担うことが、被害者の支えになることもあります。
解決策の一つとして、いじめられている子どもに向けて「つらかったら逃げてもいいよ」と声をかけることも挙げられますが、これについてはどう思いますか。
荻上チキ: 子どもに安心してもらうために、「逃げる」という手段があると伝えるのはとても重要だと思います。一方で「逃げてもいいよ」と言ったときに、逃げた先を用意するのは大人の役割になるんですね。しかし、多くの大人は不登校にならずに学校を卒業できている人であるため、学校以外の居場所がどんなものかを知らないわけです。
「学校に行かなくていいよ」と言うことは、学校教育を諦めさせることにもなるので、相当な重みがあります。まずは子どもに対して自信を持っていろいろな選択肢を教えてあげられるよう、大人も“学校以外の居場所”について学んでみてほしいですね。
まずは「理不尽な仕打ちを受けているのは自分のせいではない」と捉えてほしい。
チキさんはいじめをゼロにすることはできると思いますか。
荻上チキ: いじめはゼロにすることはできませんが、少なくとも減らすことはできます。いじめに限らず、他人に対する攻撃行動は、いろいろな気分や状況、環境によっては大きく左右されます。ストレスをゼロにすることはできません。
ただ、ストレスの存在に対して敏感になり、いじめを発散対象にしてはいけないという規範を共有すること。もしもそうした行為があった場合には速やかに対処されること。これらを積み重ねることによって、今よりは安全な社会を目指すことはできるのではないかと思います。
最後に、現在いじめで苦しんでいる人にどんなことを伝えたいですか。
荻上チキ: いじめの被害はその人の主観がすべてなので、他人から見て「大したことがない」と思うものでも、本人にとっては世界が崩壊するようなつらさを感じているケースもあります。また、いじめは基本的に数年で収まるものですが、その数年が人生を左右してしまうこともあります。いじめを受けている人にはまず「自分はとても苦しい目に遭っていて、それが自分のせいではない」と捉えてほしいですね。そうやってなんとか、大人になるまでやり過ごしてほしい。
でもその上で、1人で抱え込まずに、勇気を出して信頼できる人を頼ってほしいとも思います。学校や家族、身近な友達に相談できなかったとしても、行政・相談機関のSNSや電話番号は今たくさん用意されつつある状況です。一つの対処方法がうまくいかなかったとしても、それ以外の選択肢もあるんだということを頭の片隅に置いておいてほしいと思います。
「いじめは“環境の問題”であり、適切な対処で減らすことができる」私自身、長年いじめを受け続けてきました。そのせいで学校に行かない選択をしたこともあれば、死のうかなと思ったこともあります。いじめの深刻さは身をもって体感してきたつもりだからこそ、できることがあるのではないかと考えています。2011年当時も、いじめは特定の環境要因によって増減することや、介入方法によっては予防や早期発見につながることがわかっていたにもかかわらず、そうした予防や対策について一切報じられることなく、誰をどう罰するべきかという議論が先行していたんです。確かに環境要因で増減するので介入方法によっては予防、早期発見ができるかもしれません。私たちが具体的に提案したのは、学校内にいじめ対策の常設チームを作り、いじめがあった場合にはそのチームで必ず共有した上で対処をする。そして普段からいじめを予防するための行動計画にもとづいて、1年間それを実行するサイクルを作る、というものでした。この提案が盛り込まれた法案が施行されたことで、施行年の2013年は前年と比べていじめが1〜2割減ったんです。もちろんまだまだ減らせる余地はあると考えているので、今後も具体的な対策を取れるよう、呼びかけていこうと思っています。チームが情報を共有した上で予防するための行動を取ることは有効でしょう。実は“環境の問題”である側面が大きいんです。実際に子どもたちが抱えているストレスの程度が強い教室では、いじめが増え、エスカレートする速度が速くなりますし、そうではない教室ではいじめが減ることもわかっています。先生が客観的で話しやすい空気があり、授業もわかりやすい教室ではいじめが減るんですね。逆に先生のえこひいきや体罰、理不尽に叱る、不合理に罰を与えるといった教室ではいじめが増加します。私たちはこれを「ご機嫌な教室」と「不機嫌な教室」というふうに呼び分けていて、「ご機嫌な教室」を作るための、日常の積み重ねが大切なんだと訴えています。確かに教師の力量や熱意、子どもたちへの心の気配りなどで左右する可能性はあるでしょう。本人が誰かに相談できなかったとしても、周囲がそれを発見して対処していけば、いじめが早期に収束に向かう。今まで声をあげられなかった人も、「あの人の件も解決してくれたから、自分のケースも何とかしてくれるだろう」と期待感が醸成されて、声をあげやすくなるという良いサイクルが回っていきます。確かにそうですね。子どもに安心してもらうために、「逃げる」という手段があると伝えるのはとても重要だと思います。「理不尽な仕打ちを受けているのは自分のせいではない」と捉えてほしい。いじめはゼロにすることはできませんが、少なくとも減らすことはできます。いじめに限らず、他人に対する攻撃行動は、いろいろな気分や状況、環境によっては大きく左右されます。ストレスをゼロにすることはできません。ただ、ストレスの存在に対して敏感になり、いじめを発散対象にしてはいけないという規範を共有すること。もしもそうした行為があった場合には速やかに対処されること。これらを積み重ねることによって、今よりは安全な社会を目指すことはできるのではないかと思います。まったくその遠いでしょう。学校現場で徹底することは容易ではありませんが、心掛けて取り組むことが大事でしょう。いじめの被害はその人の主観がすべてなので、他人から見て「大したことがない」と思うものでも、本人にとっては世界が崩壊するようなつらさを感じているケースもあります。また、いじめは基本的に数年で収まるものですが、その数年が人生を左右してしまうこともあります。いじめを受けている人にはまず「自分はとても苦しい目に遭っていて、それが自分のせいではない」と捉えてほしいですね。そうやってなんとか、大人になるまでやり過ごしてほしい。 でもその上で、1人で抱え込まずに、勇気を出して信頼できる人を頼ってほしいとも思います。学校や家族、身近な友達に相談できなかったとしても、行政・相談機関のSNSや電話番号は今たくさん用意されつつある状況です。一つの対処方法がうまくいかなかったとしても、それ以外の選択肢もあるんだということを頭の片隅に置いておいてほしいと思います。いじめはなくならないし対処方法はそう簡単ではありませんが、声を上げて可能なところに助けを求めることも大事でしょう。



