民主主義と情報の未来、日本は対岸の火事か?[2025年10月20日(Mon)]
Newsweek2025年6月4日付け「アメリカ発「陰謀論が主流に」──民主主義と情報の未来、日本は対岸の火事か?」から、グローバルノースの民主主義国が世界の中心であった時代が終わった
これまでの国際世論はアメリカを中心とした欧米、グローバルノースのメディアや著名人によって形成されてきた。たとえば我々はCNN、ニューヨークタイムズ、BBCがアメリカ大統領や科学者の発言を聞いて、それを世界の多数が正当と感じている意見だと感じるし、日本のメディアもそのように報道することが多い。
日本においては、特にアメリカの大手メディアや著名人の言うことを国際世論と感じる風潮がある。
そのためロシアが民主主義国に対して世論操作を行おうとした場合、工作しやすい弱小のメディア、ローカル・メディア、SNSを中心に展開することになる。そこから何段階かを経て、大手メディアや影響力を持つ著名人がとりあげ、社会に広く知られるようになる。
これを整理したのがこの分野で先駆的な調査研究を行ってきたベン・ニモで、彼はデジタルフォレンジック・リサーチラボ、グラフィカ、Meta、openAIでデジタル影響工作を担当し、ブレイクアウト・スケールというこの枠組みを使って影響の程度を評価してきた。
しかし、グローバルノースの民主主義国が世界の中心であった時代が終わってしまったため、このブレイクアウトスケールはじょじょに環境にそぐわなくなってきている。国の数でも人口でも非民主主義ではない国の方が多いのだ。
トランプ政権のアメリカが非民主主義化すれば(すでにしているような気もするが)経済規模でも非民主主義国家の方が多くなるだろう。
グローバルノースの民主主義国の人々は民主主義ではない国を「遅れている」と考えることが多いが、実態としては民主主義から権威主義へと変化した国の方が、権威主義から民主主義へ変わった国よりもはるかに多い。
多くの国が民主主義化を経て、非民主主義化しているのだ。民主主義の状態を示すデータと指標を公開しているV-Demでは、民主主義から権威主義への変化をベルターン、権威主義から民主主義への変化をUターンと呼んで分析している。
2024年の段階で、ベルターンの国は27カ国、Uターンの国は12カ国だった。2倍以上の開きがあるうえ、民主主義と権威主義の国の数では権威主義の方が多いのだから、それぞれの統治体制を母数として変化した国の割合にすると、この差はさらに大きくなる。
そもそも以前は民主主義国の方が多い時代があり、いまはそうではないのだから、「民主主義国が非民主主義になった」ことが原因なのは明らかだ。遅れているから民主主義のレベルに達していないのではなく、民主主義を経験し、なんらかの理由でそれを捨てたのである。 それでもいまだにグローバルノースの国々では民主主義が世界の主流、標準と思い込んでいる人々は少なくない。そのため実態としては非民主主義的な意見の方が多数を占めているにもかかわらず、グローバルノースの民主主義が主流という前提に立った発言を行う人が後を絶たない。
アメリカのメディアや著名人の発言を通じて世界を認識している日本でも同様だ。
しかし、第2次トランプ政権がもたらした変化によって、この思い込みが一気に解消される可能性が出て来た。
【変貌するアメリカのメディア】
トランプ政権は極右メディアやネットのインフルエンサーをホワイトハウスの記者会見に招き、大手メディアと同等以上の待遇を与え始めた。これまで大手メディアが独占してきた記者会見が広く親トランプの人々に解放されることになった。
イーロン・マスクなど影響力ある人物もXのスペースを使ったり、人気のポッド・キャスターであるジョー・ローガンの番組に出演し始めた。
さらにヨーロッパ、特にイギリスの労働党の閣僚たちもアメリカ人の歓心を買うためにこぞって、Newsmaxのようなオルタナ右派メディアに出演しはじめた。
これが進めば、政治家の発言を知りたければ大手メディア以外のオルタナ右派のメディアやポッドキャストを見なければならないことになり、大手メディアの存在感が薄れて行く可能性がある。
もともと、世界的に大手メディアの信頼度は低下し、ニュース忌避が広がっているところに、独占取材ができなくなり、オルタナティブ・メディアに先を越されることもあるようになれば、現実と乖離しつつもイメージだけは維持してきた「国際世論」のアジェンダを設定する力が失われる。
いくつもあるメディアのひとつになってしまう。
そうなった時に起きるのはブレイクアウトスケールの崩壊だ。これまでは多数の読者を持つメディアや著名人の多くにプロパガンダや陰謀論を主張させるには何段階も経る必要があった。
多数の読者を持つメディアや著名人が、極右や陰謀論のメディアに変わることで、最初からブレイクアウト・スケールの最大リスクに達することが可能なる。Newsmaxは偽・誤情報の発信源としても有名なのだ。さらに多くの極右は親ロシアであることが多い。
トランプ政権では、大統領や閣僚あるいは側近が陰謀論を語り、それをホワイトハウスに招かれた極右や陰謀論のインフルエンサーたちが拡散し、ヨーロッパの政治家もその番組に登場する、というきわめて短絡的な拡散経路ができている。そこにロシアのプロパガンダが加わることは容易だ。
この原稿を書いている最中にも、トランプが南アの大統領と面談して、南アにおける白人農場主のジェノサイドについて語っている。日本にいる我々は、これを陰謀論として認識するが、そう考えない人の方が多数派なのかもしれないのだ。
これからアメリカの極右や陰謀論の配信に登場するヨーロッパの政治家は白人のジェノサイドの話題を振られた時に明確に否定できるのだろうか?
否定したら、わざわざ恥を忍んで出演した意味がなくなるのではないか?
問題はそれだけではない。
トランプ政権はDEIプログラムに批判的であり、政府関係機関からはDEIに関する記述が急速に消されている。ヨーロッパの企業へのDEIプログラム廃棄の要請、米国内企業でDEIプログラムを放棄していない企業への立ち入り調査などが始まっている。
米連邦通信委員会(FCC)は買収の認可を求めている米通信大手ベライゾン社に対し、DEIプログラムの見直しが遅れていると指摘し、同社がDEIプログラムの放棄を発表した翌日に買収を認可している。
報道機関ではないが、メディアやコンテンツの世界で大きな影響を持つ、ディズニーも立ち入り調査の対象となった。ちなみに同社はすでにDEIプログラムの見直しを行っているが、不十分と指摘されている。
今後、これまで国際世論を形成してきたメディアや著名人に反DEIの流れが進むことは間違いない。極右や陰謀論の影響力が増加するのと並行して既存メディアの非民主主義化も進む。
【対岸の火事ではない】
もちろん、アメリカで起きていることは日本にとっても対岸の火事ではない。
これまでのところ、日本は民主主義的な立場を守っているが、アメリカの圧力が増してきた場合、日本の政治家がヨーロッパの政治家のように極右や陰謀論の配信に登場する可能性は否定できない。
実際、日本国内の右派のYouTubeチャンネルに登場している政治家も珍しくはないのだ。
少なくとも何人かの議員が出演する可能性はあるだろう。
欧米で起きようとしている大手メディアのアジェンダ設定能力の減退は、日本でも起きる可能性がある。正確に言えば、メディアへの信頼や閲覧は減少しているので、すでに起きていると言った方がよいだろう。
「メディアは権力の番人」と言われるが、それができるのはアジェンダ設定能力があるからだ。なければ、いくら不正や問題を声高に主張しても多くの耳には届かないし、ヘタをすると陰謀論扱いされる。
誤解しないでほしいのは、大手メディアの凋落は外的要因よりもあるが、大手メディア自身にも問題があったことが大きいことだ。メディアに透明性があり、公正な競争をしていたなら、こうはならなかっただろう。変化はトランプ政権以前から起きていた。正しく現実を認識し、対応してこなかったツケが現在なのだ。
国際世論はアメリカを中心とした欧米、グローバルノースのメディアや著名人によって形成されてきた。たとえば我々はCNN、ニューヨークタイムズ、BBCがアメリカ大統領や科学者の発言を聞いて、それを世界の多数が正当と感じている意見だと感じるし、日本のメディアもそのように報道することが多い。間違いなくそうでしょう。ロシアが民主主義国に対して世論操作を行おうとした場合、工作しやすい弱小のメディア、ローカル・メディア、SNSを中心に展開することになる。そこから何段階かを経て、大手メディアや影響力を持つ著名人がとりあげ、社会に広く知られるようになる。世論操作が広く行われるようになっているのでしょうか。民主主義国が世界の中心であった時代が終わってしまったため、このブレイクアウトスケールはじょじょに環境にそぐわなくなってきている。国の数でも人口でも非民主主義ではない国の方が多いのだ。非民主主義国が増え続けていいのでしょうか。揺り戻しはないのでしょうか。民主主義から権威主義への変化をベルターン、権威主義から民主主義への変化をUターンと呼んで分析している2024年の段階で、ベルターンの国は27カ国、Uターンの国は12カ国だった。2倍以上の開きがあるうえ、民主主義と権威主義の国の数では権威主義の方が多いのだから、それぞれの統治体制を母数として変化した国の割合にすると、この差はさらに大きくなる。人々が望んでいることなのでしょうか。いまだにグローバルノースの国々では民主主義が世界の主流、標準と思い込んでいる人々は少なくない。そのため実態としては非民主主義的な意見の方が多数を占めているにもかかわらず、グローバルノースの民主主義が主流という前提に立った発言を行う人が後を絶たない。そのように思っている人はまだ相当いるのではないでしょうか。トランプ政権は極右メディアやネットのインフルエンサーをホワイトハウスの記者会見に招き、大手メディアと同等以上の待遇を与え始めた。これまで大手メディアが独占してきた記者会見が広く親トランプの人々に解放されることになった。確かに大手のメディアの影響力が減少しているでしょう。世界的に大手メディアの信頼度は低下し、ニュース忌避が広がっているところに、独占取材ができなくなり、オルタナティブ・メディアに先を越されることもあるようになれば、現実と乖離しつつもイメージだけは維持してきた「国際世論」のアジェンダを設定する力が失われる。このような状況がどんどん進んでいくとすれば恐ろしいですね。トランプ政権はDEIプログラムに批判的であり、政府関係機関からはDEIに関する記述が急速に消されている。ヨーロッパの企業へのDEIプログラム廃棄の要請、米国内企業でDEIプログラムを放棄していない企業への立ち入り調査などが始まっている。報道機関ではないが、メディアやコンテンツの世界で大きな影響を持つ、ディズニーも立ち入り調査の対象となった。ちなみに同社はすでにDEIプログラムの見直しを行っているが、不十分と指摘されている。 今後、これまで国際世論を形成してきたメディアや著名人に反DEIの流れが進むことは間違いない。極右や陰謀論の影響力が増加するのと並行して既存メディアの非民主主義化も進む。寛容的な考え方を容認しない傾向になって抑圧が進んでいくとすれば重大事ではないでしょうか。日本は民主主義的な立場を守っているが、アメリカの圧力が増してきた場合、日本の政治家がヨーロッパの政治家のように極右や陰謀論の配信に登場する可能性は否定できない。保守政党ばかりでなく、メディア、ネットではアメリカの影響を受けているでしょう。ネット、SNSの論調は過激になりつつあるのではないでしょうか。誤解しないでほしいのは、大手メディアの凋落は外的要因よりもあるが、大手メディア自身にも問題があったことが大きいことだ。メディアに透明性があり、公正な競争をしていたなら、こうはならなかっただろう。変化はトランプ政権以前から起きていた。正しく現実を認識し、対応してこなかったツケが現在なのだ。メディアは透明性と公平性を担保しなければならないでしょうが、いまの日本のメディアに期待できるでしょうか。国民の判断力が問われることになるのでしょう。
これまでの国際世論はアメリカを中心とした欧米、グローバルノースのメディアや著名人によって形成されてきた。たとえば我々はCNN、ニューヨークタイムズ、BBCがアメリカ大統領や科学者の発言を聞いて、それを世界の多数が正当と感じている意見だと感じるし、日本のメディアもそのように報道することが多い。
日本においては、特にアメリカの大手メディアや著名人の言うことを国際世論と感じる風潮がある。
そのためロシアが民主主義国に対して世論操作を行おうとした場合、工作しやすい弱小のメディア、ローカル・メディア、SNSを中心に展開することになる。そこから何段階かを経て、大手メディアや影響力を持つ著名人がとりあげ、社会に広く知られるようになる。
これを整理したのがこの分野で先駆的な調査研究を行ってきたベン・ニモで、彼はデジタルフォレンジック・リサーチラボ、グラフィカ、Meta、openAIでデジタル影響工作を担当し、ブレイクアウト・スケールというこの枠組みを使って影響の程度を評価してきた。
しかし、グローバルノースの民主主義国が世界の中心であった時代が終わってしまったため、このブレイクアウトスケールはじょじょに環境にそぐわなくなってきている。国の数でも人口でも非民主主義ではない国の方が多いのだ。
トランプ政権のアメリカが非民主主義化すれば(すでにしているような気もするが)経済規模でも非民主主義国家の方が多くなるだろう。
グローバルノースの民主主義国の人々は民主主義ではない国を「遅れている」と考えることが多いが、実態としては民主主義から権威主義へと変化した国の方が、権威主義から民主主義へ変わった国よりもはるかに多い。
多くの国が民主主義化を経て、非民主主義化しているのだ。民主主義の状態を示すデータと指標を公開しているV-Demでは、民主主義から権威主義への変化をベルターン、権威主義から民主主義への変化をUターンと呼んで分析している。
2024年の段階で、ベルターンの国は27カ国、Uターンの国は12カ国だった。2倍以上の開きがあるうえ、民主主義と権威主義の国の数では権威主義の方が多いのだから、それぞれの統治体制を母数として変化した国の割合にすると、この差はさらに大きくなる。
そもそも以前は民主主義国の方が多い時代があり、いまはそうではないのだから、「民主主義国が非民主主義になった」ことが原因なのは明らかだ。遅れているから民主主義のレベルに達していないのではなく、民主主義を経験し、なんらかの理由でそれを捨てたのである。 それでもいまだにグローバルノースの国々では民主主義が世界の主流、標準と思い込んでいる人々は少なくない。そのため実態としては非民主主義的な意見の方が多数を占めているにもかかわらず、グローバルノースの民主主義が主流という前提に立った発言を行う人が後を絶たない。
アメリカのメディアや著名人の発言を通じて世界を認識している日本でも同様だ。
しかし、第2次トランプ政権がもたらした変化によって、この思い込みが一気に解消される可能性が出て来た。
【変貌するアメリカのメディア】
トランプ政権は極右メディアやネットのインフルエンサーをホワイトハウスの記者会見に招き、大手メディアと同等以上の待遇を与え始めた。これまで大手メディアが独占してきた記者会見が広く親トランプの人々に解放されることになった。
イーロン・マスクなど影響力ある人物もXのスペースを使ったり、人気のポッド・キャスターであるジョー・ローガンの番組に出演し始めた。
さらにヨーロッパ、特にイギリスの労働党の閣僚たちもアメリカ人の歓心を買うためにこぞって、Newsmaxのようなオルタナ右派メディアに出演しはじめた。
これが進めば、政治家の発言を知りたければ大手メディア以外のオルタナ右派のメディアやポッドキャストを見なければならないことになり、大手メディアの存在感が薄れて行く可能性がある。
もともと、世界的に大手メディアの信頼度は低下し、ニュース忌避が広がっているところに、独占取材ができなくなり、オルタナティブ・メディアに先を越されることもあるようになれば、現実と乖離しつつもイメージだけは維持してきた「国際世論」のアジェンダを設定する力が失われる。
いくつもあるメディアのひとつになってしまう。
そうなった時に起きるのはブレイクアウトスケールの崩壊だ。これまでは多数の読者を持つメディアや著名人の多くにプロパガンダや陰謀論を主張させるには何段階も経る必要があった。
多数の読者を持つメディアや著名人が、極右や陰謀論のメディアに変わることで、最初からブレイクアウト・スケールの最大リスクに達することが可能なる。Newsmaxは偽・誤情報の発信源としても有名なのだ。さらに多くの極右は親ロシアであることが多い。
トランプ政権では、大統領や閣僚あるいは側近が陰謀論を語り、それをホワイトハウスに招かれた極右や陰謀論のインフルエンサーたちが拡散し、ヨーロッパの政治家もその番組に登場する、というきわめて短絡的な拡散経路ができている。そこにロシアのプロパガンダが加わることは容易だ。
この原稿を書いている最中にも、トランプが南アの大統領と面談して、南アにおける白人農場主のジェノサイドについて語っている。日本にいる我々は、これを陰謀論として認識するが、そう考えない人の方が多数派なのかもしれないのだ。
これからアメリカの極右や陰謀論の配信に登場するヨーロッパの政治家は白人のジェノサイドの話題を振られた時に明確に否定できるのだろうか?
否定したら、わざわざ恥を忍んで出演した意味がなくなるのではないか?
問題はそれだけではない。
トランプ政権はDEIプログラムに批判的であり、政府関係機関からはDEIに関する記述が急速に消されている。ヨーロッパの企業へのDEIプログラム廃棄の要請、米国内企業でDEIプログラムを放棄していない企業への立ち入り調査などが始まっている。
米連邦通信委員会(FCC)は買収の認可を求めている米通信大手ベライゾン社に対し、DEIプログラムの見直しが遅れていると指摘し、同社がDEIプログラムの放棄を発表した翌日に買収を認可している。
報道機関ではないが、メディアやコンテンツの世界で大きな影響を持つ、ディズニーも立ち入り調査の対象となった。ちなみに同社はすでにDEIプログラムの見直しを行っているが、不十分と指摘されている。
今後、これまで国際世論を形成してきたメディアや著名人に反DEIの流れが進むことは間違いない。極右や陰謀論の影響力が増加するのと並行して既存メディアの非民主主義化も進む。
【対岸の火事ではない】
もちろん、アメリカで起きていることは日本にとっても対岸の火事ではない。
これまでのところ、日本は民主主義的な立場を守っているが、アメリカの圧力が増してきた場合、日本の政治家がヨーロッパの政治家のように極右や陰謀論の配信に登場する可能性は否定できない。
実際、日本国内の右派のYouTubeチャンネルに登場している政治家も珍しくはないのだ。
少なくとも何人かの議員が出演する可能性はあるだろう。
欧米で起きようとしている大手メディアのアジェンダ設定能力の減退は、日本でも起きる可能性がある。正確に言えば、メディアへの信頼や閲覧は減少しているので、すでに起きていると言った方がよいだろう。
「メディアは権力の番人」と言われるが、それができるのはアジェンダ設定能力があるからだ。なければ、いくら不正や問題を声高に主張しても多くの耳には届かないし、ヘタをすると陰謀論扱いされる。
誤解しないでほしいのは、大手メディアの凋落は外的要因よりもあるが、大手メディア自身にも問題があったことが大きいことだ。メディアに透明性があり、公正な競争をしていたなら、こうはならなかっただろう。変化はトランプ政権以前から起きていた。正しく現実を認識し、対応してこなかったツケが現在なのだ。
国際世論はアメリカを中心とした欧米、グローバルノースのメディアや著名人によって形成されてきた。たとえば我々はCNN、ニューヨークタイムズ、BBCがアメリカ大統領や科学者の発言を聞いて、それを世界の多数が正当と感じている意見だと感じるし、日本のメディアもそのように報道することが多い。間違いなくそうでしょう。ロシアが民主主義国に対して世論操作を行おうとした場合、工作しやすい弱小のメディア、ローカル・メディア、SNSを中心に展開することになる。そこから何段階かを経て、大手メディアや影響力を持つ著名人がとりあげ、社会に広く知られるようになる。世論操作が広く行われるようになっているのでしょうか。民主主義国が世界の中心であった時代が終わってしまったため、このブレイクアウトスケールはじょじょに環境にそぐわなくなってきている。国の数でも人口でも非民主主義ではない国の方が多いのだ。非民主主義国が増え続けていいのでしょうか。揺り戻しはないのでしょうか。民主主義から権威主義への変化をベルターン、権威主義から民主主義への変化をUターンと呼んで分析している2024年の段階で、ベルターンの国は27カ国、Uターンの国は12カ国だった。2倍以上の開きがあるうえ、民主主義と権威主義の国の数では権威主義の方が多いのだから、それぞれの統治体制を母数として変化した国の割合にすると、この差はさらに大きくなる。人々が望んでいることなのでしょうか。いまだにグローバルノースの国々では民主主義が世界の主流、標準と思い込んでいる人々は少なくない。そのため実態としては非民主主義的な意見の方が多数を占めているにもかかわらず、グローバルノースの民主主義が主流という前提に立った発言を行う人が後を絶たない。そのように思っている人はまだ相当いるのではないでしょうか。トランプ政権は極右メディアやネットのインフルエンサーをホワイトハウスの記者会見に招き、大手メディアと同等以上の待遇を与え始めた。これまで大手メディアが独占してきた記者会見が広く親トランプの人々に解放されることになった。確かに大手のメディアの影響力が減少しているでしょう。世界的に大手メディアの信頼度は低下し、ニュース忌避が広がっているところに、独占取材ができなくなり、オルタナティブ・メディアに先を越されることもあるようになれば、現実と乖離しつつもイメージだけは維持してきた「国際世論」のアジェンダを設定する力が失われる。このような状況がどんどん進んでいくとすれば恐ろしいですね。トランプ政権はDEIプログラムに批判的であり、政府関係機関からはDEIに関する記述が急速に消されている。ヨーロッパの企業へのDEIプログラム廃棄の要請、米国内企業でDEIプログラムを放棄していない企業への立ち入り調査などが始まっている。報道機関ではないが、メディアやコンテンツの世界で大きな影響を持つ、ディズニーも立ち入り調査の対象となった。ちなみに同社はすでにDEIプログラムの見直しを行っているが、不十分と指摘されている。 今後、これまで国際世論を形成してきたメディアや著名人に反DEIの流れが進むことは間違いない。極右や陰謀論の影響力が増加するのと並行して既存メディアの非民主主義化も進む。寛容的な考え方を容認しない傾向になって抑圧が進んでいくとすれば重大事ではないでしょうか。日本は民主主義的な立場を守っているが、アメリカの圧力が増してきた場合、日本の政治家がヨーロッパの政治家のように極右や陰謀論の配信に登場する可能性は否定できない。保守政党ばかりでなく、メディア、ネットではアメリカの影響を受けているでしょう。ネット、SNSの論調は過激になりつつあるのではないでしょうか。誤解しないでほしいのは、大手メディアの凋落は外的要因よりもあるが、大手メディア自身にも問題があったことが大きいことだ。メディアに透明性があり、公正な競争をしていたなら、こうはならなかっただろう。変化はトランプ政権以前から起きていた。正しく現実を認識し、対応してこなかったツケが現在なのだ。メディアは透明性と公平性を担保しなければならないでしょうが、いまの日本のメディアに期待できるでしょうか。国民の判断力が問われることになるのでしょう。



