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森林の多面的機能を評価して生態系保全を進めるべきでしょう[2025年06月15日(Sun)]
 Wedge2025年4月4日付け「〈いまだ続く国有林の木材生産=林業優先主義?〉忘れちゃいけない森林の多面的機能、相次いだ自然保護側とのボタンの掛け違え」から、まず国有林の分布図を見ていただこう。国有林は全森林面積の約3割、国土面積の約2割という広大なものである。
その分布は北日本に偏ってはいるが、一応全都道府県にある。これを見ただけで国有林が日本の環境にとって重要な存在であることに気づかれると思う。
林野庁のホームページでも、「国有林とは?」という冒頭で、環境保全上の重要性について、続いて人と森林とのかかわりの場としての役割を紹介している。そして最後に木材生産が行われていることを述べている。  
しかし、長らくこの順序は真逆で、木材生産すなわち林業中心であった。それは国有林野事業が独立採算制で、木材を伐採し販売した収入をもって何万人もの従業員を雇用してことにある。また、地域の林業や林産業を支える役目を負っていたから、環境面から見れば明らかなマイナスであっても、森林伐採は悪とばかりは言えなかった。  
しかし、今にして思えば、この図面をもっとじっくりと俯瞰して、大局的な見地から環境保全と林業経営の持続を図るべきだったのだろう。国有林野事業の赤字縮小のため多くの天然林を伐採したが、それでも決定的に遅くはなかった。その広大さは多くの余得を残していたのである。  
それらは、1989年の「保護林の再編・拡充」という制度改正によって、広大な原生的天然林からなる森林生態系保護地域が、全国26カ所に順次設定されていったのである。中でも白神山地(ブナ天然林等)と屋久島(天然スギ等)の森林生態系保護地域はまるごと世界自然遺産に登録されて一躍有名になった。
すぐには抜けない林業偏重
 森林生態系保護地域は、現在31カ所、73万6000ヘクタール(ha)で、国有林面積のほぼ1割を占めるまでになっている。  
当初の26カ所については、有識者による「林業と自然保護に関する検討委員会」で決められていたが、具体的な区域や管理方法については、林野庁の地方部局である営林局で地元の有識者からなる設定委員会の意見を聞いて決定された。  
有識者には、林業関係(林学者、研究者、林業者等)、自然保護関係(生態学者、自然保護協会、野鳥の会、山岳会等)、一般(経済学者、文化人、市町村等)から選出することになっていた。設定委員会の実態は、保護地域を拡大させたい自然保護関係者とそれを抑止したい当局を林業関係者が応援する構図であった。  
そもそも公平であるべき当局が最初から林業側であることが問題であるが、それまで木材供給を最大の目的としてきた国有林野事業は、関係業界と彼らが推す政治家と一体だったのでその習性が一挙に治るはずがない。もっとも、今でもほとんど変わらないのが問題だが。
設定委員会で起きた炎上
 1995年ごろ筆者は青森営林局で、恐山山地(おそれざんさんち)森林生態系保護地域の設定作業に従事した。当時管内は、ブナ林をはじめとする天然林や猛禽類やクマゲラなどの貴重な鳥類の保護活動が活発で、マスコミの注目度も高かった。  
設定委員会ともなると新聞記者や放送関係者が押し寄せ、公開での開催を要求した。別に悪いことを議論するわけではないので公開してもいいと思ったが、担当部長の指示は非公開、会議後の記者レクも委員長が1人だけで行う、発言についての委員名は明かさないとのことだった。  
当局としては、業界関係者と一体になって自然保護側を抑え込もうとしている雰囲気をマスコミに悟られたくなかったし、業界側委員が後でマスコミの批判にさらされないように配慮したのであろう。  
ところが設定委員会終了後の記者レクでハプニングが起きた。設定委員長は大学教授(地質学)で真面目で公正な方だったが、委員会での発言について委員名を付して説明を始めた。  
驚いた部長は筆者にメモを入れ、委員長に委員名を付さないように伝言するよう指示した。しかし、記者たちの目の前でそのようなことを伝えれば、記者たちが騒ぎ出すのは火を見るよりも明らかなので、筆者はあえて知らん顔を決め込んだ。  
すると業を煮やした部長は自ら委員長に委員名は出さぬようにと耳打ちしたのだ。委員長は顔に動揺を見せ、急に説明から発言者名がなくなったのを知った記者たちは、一斉に部長に対して抗議の声を上げた。いわゆる大炎上となってしまった。  
記者レク終了後に委員名は記事に載せないでくれと頼めば事足りると思うのだが、お上の方針に忠実な人ほど完璧主義で融通が利かない。そもそもこうした設定委員会などは原則公開でやって、堂々と賛否の意見を交わすべきである。当局が自分たちの都合のいいように操作しようと思うから、変なことも起きる。面倒な記者レクも必要ない。  
当局の方針を是認するだけの御用委員会ならやらなくてもよい。それでは不足だと当局が判断するから有識者の意見を聞くわけだ。なのに都合の悪い意見を封じようとする。多くの意見を聞きましたというお墨付きが欲しいのだ。役人のこうした悲しい性(さが)、やったふりは公正さを覆い隠し、スピード感のある行政を妨げるものである。  
のちに朝日山地森林生態系保護地域(山形県・新潟県)を設定したときは、設定委員会は公開で行った。
森林生態系保護地域をめぐる混乱
 当初予定していた全国26カ所に森林生態系保護地域が設定され、とりあえず原生的天然林伐採のリスクは回避された。ところが森林生態系を維持していくためには適切な管理が必要で、単に伐採しなければすむというものではなかった。  
伐った、出した、売ったといった荒っぽい林業に慣れ親しんできた国有林職員にとって、理学系(生態学・動植物学)のデリケートな理論や、「この自然は自分たちが守ったんだ」という自負に満ちた活動家・地域住民に対応するには、知識も経験もまったく不足していた。そのため様々なボタンの掛け違いやトラブルが発生する。
入林問題
 白神山地で起きたのが入林問題である。白神山地は青森営林局と秋田営林局(現在はどちらも東北森林管理局)にまたがっていたため、それぞれの局で設定委員会を立ち上げて設定した。本当は両局いっしょにやればよかったのだが、別々だったので管理方法の細部には違いが生じていた。  
中でも入林については、秋田側が植生保護のため原則禁止しており、青森側は決めてなく容認されていた。ところがある時両局で違いがあるのはおかしいということでいきなり青森局でも入林禁止の看板を立てた。それを見た青森側の自然保護関係者たちから猛然と反対の声があがったのである。  
そもそも国有林でも民有林でもその森林の生育物を採取したりしなければ、立入りは不法行為には当たらない。昔からマタギや釣り人、登山家たちは自由に出入りしていたので、怒るのは当然だ。  
ところが営林局も無制限な入林は森林生態系に悪影響を及ぼすと、攻守が逆転したような論争になってしまい、揉めにもめた挙句27ルートに限り入山を認めることで落ち着いた。法律による規制ではないが、当事者同士の申し合わせで自主規制をするのはそれなりに民主的・現実的な解決手法だった。また、自然保護関係者の中でも厳正保全派と入林容認派ができて、その対立に当局が巻き込まれて難儀した。
魚釣り
 入林とも絡むのだが、マナーの悪い釣り人が白神山地の渓流でイワナなどを釣り、林内で焚火をして焼いて食べる。当然だが自然保護側からの批判が強く、規制を求められた。
 しかし、釣りを規制する制度がない。渓流の魚であっても森林生態系を構成する要素であるから、一元的に規制できる法律があればよいが、残念ながらわが国では自然公園法、自然環境保全法、森林法、漁業法などの合わせ技でしかできない。漁業法では、禁漁区の設定ができるが、漁業の振興のためという本来の目的にそぐわない。  
結局、白神の場合は、登山ルートの設定したことにより釣り人の行動も実質的に規制されることになった。  
朝日山地森林生態系保護地域の設定に当たっては、あらかじめ渓流釣りの団体の代表から意見を聞いて「マナーの向上について自主的に指導、ボランティア巡視等の協力を行う」ことを管理計画に書き込み、協力関係を築いている。
米軍ジェット機の飛行訓練
 東北地方の山岳地帯上空では、三沢基地の米軍ジェット戦闘機が飛行訓練を行っている。それらが発する騒音によって、イヌワシ、クマタカなどの猛禽類をはじめとする鳥類の繁殖に影響があるとして、白神山地上空での営巣期の訓練を中止するよう自然保護団体から要望が出された。  
これを受けて、青森営林局と環境省東北地方環境事務所が三沢基地の米軍に申し入れを行った。その回答がどのようなものであったのか覚えていないが、訓練飛行が抑制されたようではない。その後、筆者が葛根田川・玉川源流部森林生態系保護地域(岩手県・秋田県)で4月初旬にクマゲラの調査で入林したとき、編隊のジェット機の爆音と大きな衝撃波を聞いて驚いた。  
しかし、クマゲラは変わりなく鳴いてドラミングをしていた。鳥たちにとって騒音は日常的なことになっているのだろうが、営巣・繁殖に影響があると考えるのが自然だろう。
湿原を攪乱
 吾妻山周辺森林生態系保護地域(山形県)の湿原で木道の修理をした。工事は、営林署の治山係が担当して国有林内で工事実績のある土木業者が受注した。  
湿原の保全はデリケートなものだから、人力でていねいにやるべきところだが、重機を使った。尾根筋にある湿原まで重機で資材を引き上げたため、重機の走行路で植生を破壊した。また木道の設置も重機で床掘(とこぼり、地盤の土砂を掘り下げる)をしてしまう。さらに湿原入口の水分が多くて歩きにくいと、トレンチ(溝)を切って排水してしまった。  
湿原の性質を知らずに工事をしたため、肝心な水分を抜いて乾燥化を招きかねない結果となった。復旧に当たっては専門家からなる検討委員会を立ち上げ、木道は廃止して湿原を迂回する歩道を新設した。  
営林署内での意思疎通の不足もさることながら、当時の国有林職員の植生保全等の知識の不足が招いた必然的結果だった。
生態学的知識の不足
 森林生態系保護地域がらみのトラブルは、多くの現場で起きた。保護地域内と知らず樹木を収穫してしまう事案も発生して、大慌てしたこともある。単なる担当者間の意思疎通の不足だけでなく、署長をはじめ職員の生態学的分野への認識の甘さが露呈したのである。  
まず現場のトップから、自然保護や生態系保全についての管理技術をしっかり教育すべきであった。今でこそ森林・林業と言うようになったが、当時は林業優先がしみついていた。せっかくよい器を作っても、魂が入らなければ意味がない。DSC00540.JPG

 林野庁のホームページでも、「国有林とは?」という冒頭で、環境保全上の重要性について、続いて人と森林とのかかわりの場としての役割を紹介している。そして最後に木材生産が行われていることを述べている。しかし、長らくこの順序は真逆で、木材生産すなわち林業中心であった。それは国有林野事業が独立採算制で、木材を伐採し販売した収入をもって何万人もの従業員を雇用してことにある。また、地域の林業や林産業を支える役目を負っていたから、環境面から見れば明らかなマイナスであっても、森林伐採は悪とばかりは言えなかった。1989年の「保護林の再編・拡充」という制度改正によって、広大な原生的天然林からなる森林生態系保護地域が、全国26カ所に順次設定されていったのである。中でも白神山地(ブナ天然林等)と屋久島(天然スギ等)の森林生態系保護地域はまるごと世界自然遺産に登録されて一躍有名になった。森林生態系保護地域は、現在31カ所、73万6000ヘクタール(ha)で、国有林面積のほぼ1割を占めるまでになっている。 当初の26カ所については、有識者による「林業と自然保護に関する検討委員会」で決められていたが、具体的な区域や管理方法については、林野庁の地方部局である営林局で地元の有識者からなる設定委員会の意見を聞いて決定された。伐った、出した、売ったといった荒っぽい林業に慣れ親しんできた国有林職員にとって、理学系(生態学・動植物学)のデリケートな理論や、「この自然は自分たちが守ったんだ」という自負に満ちた活動家・地域住民に対応するには、知識も経験もまったく不足していた。そのため様々なボタンの掛け違いやトラブルが発生する。入林とも絡むのだが、マナーの悪い釣り人が白神山地の渓流でイワナなどを釣り、林内で焚火をして焼いて食べる。当然だが自然保護側からの批判が強く、規制を求められた。しかし、釣りを規制する制度がない。渓流の魚であっても森林生態系を構成する要素であるから、一元的に規制できる法律があればよいが、残念ながらわが国では自然公園法、自然環境保全法、森林法、漁業法などの合わせ技でしかできない。漁業法では、禁漁区の設定ができるが、漁業の振興のためという本来の目的にそぐわない。結局、白神の場合は、登山ルートの設定したことにより釣り人の行動も実質的に規制されることになった。湿原の保全はデリケートなものだから、人力でていねいにやるべきところだが、重機を使った。尾根筋にある湿原まで重機で資材を引き上げたため、重機の走行路で植生を破壊した。また木道の設置も重機で床掘(とこぼり、地盤の土砂を掘り下げる)をしてしまう。さらに湿原入口の水分が多くて歩きにくいと、トレンチ(溝)を切って排水してしまった。湿原の性質を知らずに工事をしたため、肝心な水分を抜いて乾燥化を招きかねない結果となった。復旧に当たっては専門家からなる検討委員会を立ち上げ、木道は廃止して湿原を迂回する歩道を新設した。営林署内での意思疎通の不足もさることながら、当時の国有林職員の植生保全等の知識の不足が招いた必然的結果だった。現場のトップから、自然保護や生態系保全についての管理技術をしっかり教育すべきであった。今でこそ森林・林業と言うようになったが、当時は林業優先がしみついていた。せっかくよい器を作っても、魂が入らなければ意味がない。森林の多面的な機能をどのように評価して生態系保全につなげていくのか考えていく必要があるのでしょう。DSC00539.JPG
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