
普通って何ですかね[2025年06月11日(Wed)]
現代ビジネス2025年4月1日付け「桜井ユキが「普通ってなんだろう」という問いに向き合い考えたこと」から、水凪トリの同名人気コミックを原作に据え、『心の傷を癒すということ』(2020年)や朝ドラ『舞いあがれ!』の桑原亮子が脚本を手掛ける“薬膳ドラマ”『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合 22時〜)が4月1日よりスタートする。
本作の主人公は、週4日のパートで質素に暮らす38歳独身の麦巻さとこ。膠原病を患ったことをきっかけに生活が一変、健康、正社員の仕事、マンション、将来設計など全てを失い、団地暮らしを始める中、隣に住む大家さんとその同居人の青年を通じて「薬膳」と出会い、心身を取り戻していく物語だ。
膠原病は自分の体を守るはずの免疫システムに異常が起きて、自分自身のからだを攻撃してしまう「自己免疫疾患」の病気の総称(詳しくは、NHK「きょうの健康」を参照)。一人ひとり症状が違うが、共通しているのは、体がだるくて微熱が出ること。関節が腫れたり、痛んだりすることだと、さとこは第1話のモノローグで語っている。
さとこを演じるのは、NHKの連続テレビ小説『虎に翼』(2024年度下半期)の華族令嬢“涼子様”も記憶に新しい桜井ユキさん。インタビュー前編では、さとこのつらさに過去の自身の体験を重ねていたことを明かしてくれた。後編となる本記事では、「普通」という言葉の難しさ、そして桜井さんが考える、他者との心地のいい距離感について話を聞いた。
「普通」はいつも私たちに付きまとってくる
さとこは医師から「普通の生活」を送るよう言われ、母親からも「普通の幸せ」について言われて、違和感を抱く描写がありました。
桜井:私も人と会話しているときによく「普通ってなんだろう」と、引っかかったり考えたりすることがあるんです。その人によって普通のラインは違いますし、それを他者に言うのってどうなんだろうとか、普通を相手に求めるのって勝手だなと思うので、自分ではできるだけ言わないようにしています。
でも、つい言っちゃうこともあるんですよね(苦笑)。「普通」はみんな違うし、測ることもできない、わからないのに、どうしても付きまとってくるんですよね。
さとこの母親が悪気なく言う、「命に関わる病気じゃなくても人生つまずいちゃうことってあるのね」という言葉も、なかなかキツイと思いました。
桜井:さとこの患っている膠原病に限らず、その人が何に苦しんで、何に葛藤していて、何に幸せを見出しているのかは人それぞれで、他人がとやかく言うことではないですが、さとこの場合は一番理解してほしいと望んでいる母親にその言葉を投げかけられるのが酷だなと思いました。
ただ、お母さんはお母さんで、さとこのことを考えたうえでの態度や言葉でもありますし、お互い心配しているし、ちょっと離れて暮らしながら、その塩梅を探ってはいるんですよね。
どんなに親しい関係でも、適度な距離は大事
お互いのことを思いつつ、微妙な距離感でいる親子関係や家族関係についてどう思いましたか。
桜井:リアルだと思いました。私も、適度な距離を保っているほうだと思います。家族だから何でもOKでも、家族だから何でも話せるわけでもないですし。だからこそ逆に、礼儀や、ありがとうと言葉で伝えることなどは徹底していますね。馴れ合いになりすぎない距離感は大事だと思うんです。
桜井さんは、ご家族との適度な距離をどのように築いていったのですか。
桜井:私は1人の時間を大切にするようになって、心地良いと思える距離感をようやく見つけられました。お互いが自然と一緒にいたいときにその時間を共有すればいいと思っています。
「1人の時間」というのは、誰かと過ごす時間とはやはり別モノですか。
桜井:別モノですね。もちろん誰かと一緒に共有する時間も好きですし、大事にしているんですが、誰かが隣にいることで、その人の空気感や温度に無意識に自分も合わせて調整してしまう部分があるので、誰とも話さずに過ごす時間は私は必要だと思うんです。
自分で自分のバランスをとることの大切さ
さとこは自分の体調に応じて仕事量を調節していますが、そうした自分を大切にするスタンスが職場の人にポジティブな影響を与えていきます。これも大切なことだと思いました。
桜井:いくら仕事とはいえ、不調を感じたらその日のうちに自分で調整してバランスを取っていかないと、いつか身体もメンタルも崩れてしまうと思うんです。そういう歪みは年齢問わず確実に生じる。そこで無理が続いていったん底を迎えてしまうと、上がってくるのは大変なので、まだ浅いうちに自力で上がれる底力はつけておくと良いなと思います。
さとこの職場には、相手の良いところをきちんと言語化して伝える人や、声をあげて周りに共有してくれる人がいるのもいいですよね。そういうコミュニケーションも大切だなと思います。
人は諦めることで、新たなことに挑める
さとこは病気によって「今はちょっと頑張れないとき」だと言いますが、そういうときって誰にでもありますよね。桜井さんも以前のインタビューで、20代後半にプライベートでも仕事でも「諦める術」を身に着けていった時期があったとおっしゃっていました。
桜井:私は頼まれたことに対して全部パーフェクトに返したいと思ってしまうのですが、それってやっぱり無理なんですよね。無理なことを手放すことで、かえって自発的な心が芽生えやすくなったんです。諦めて手放したことで、自分がやりたいと思うことがどんどん明確に、クリアになっていき、それが生きやすさにつながっているんだなと思います。歳を重ねるごとに、どんどん楽になっている感覚があります。
「無理なことは無理」と割り切れるようになったのは、いつ頃からですか。
桜井:以前は忙しいときに、相談があると言われたら、全部受けていたんですね。望まれているのだから全部やらなきゃいけないと思っていた。でも、私には私のキャパがあって、自分が無理していると他者には気づかれなくても、その歪みは後々自分に返ってくる。何のために頑張っているんだろう、別にそこを頑張る必要ないなと思ったのが、20代後半ぐらいでした。
頑張らず、肩の力を抜いていい
ご自分との付き合い方の正解に、さとこより早くたどり着いていらっしゃるんですね。
桜井さんはさとこと同じ38歳ですが、女性の人生にとって今の年齢はどんな時期だと思いますか。
桜井:人生の折り返しまでは言わないけど、そう遠くないポイントだと思います。紡いできた人間関係がありますし、覚えたこと・身に着けたこともいろいろありますし、それを生かしていく、楽しんでいくのが折り返し後の後半だと思っています。
最後に、本作を通して伝えたいことについてお聞かせ下さい。
桜井:食の大切さや、人との付き合いの素敵さ、何より一番は「頑張らず、肩の力を抜いていいんだよ」ということですね。作中に、「社会って生産性と向上心がないといけない場所だから」といったセリフがあるんですが、そういう空気って実際にありますよね。でも、自分を一番に考えて大切にすることや、頑張らなくても良いこと、逃げたいと思ったら逃げていいということを、本作から感じていただけると思います。
「普通」はみんな違うし、測ることもできない、わからないのに、どうしても付きまとってくるんですよね。普通というのは抽象的で伝えるのが難しいですね。私も、適度な距離を保っているほうだと思います。家族だから何でもOKでも、家族だから何でも話せるわけでもないですし。だからこそ逆に、礼儀や、ありがとうと言葉で伝えることなどは徹底していますね。馴れ合いになりすぎない距離感は大事だと思うんです。確かにそうですね。誰かが隣にいることで、その人の空気感や温度に無意識に自分も合わせて調整してしまう部分があるので、誰とも話さずに過ごす時間は私は必要だと思うんです。相手の良いところをきちんと言語化して伝える人や、声をあげて周りに共有してくれる人がいるのもいいですよね。そういうコミュニケーションも大切だなと思います。無理なことを手放すことで、かえって自発的な心が芽生えやすくなったんです。諦めて手放したことで、自分がやりたいと思うことがどんどん明確に、クリアになっていき、それが生きやすさにつながっているんだなと思います。歳を重ねるごとに、どんどん楽になっている感覚があります。紡いできた人間関係がありますし、覚えたこと・身に着けたこともいろいろありますし、それを生かしていく、楽しんでいくのが折り返し後の後半だと思っています。食の大切さや、人との付き合いの素敵さ、何より一番は「頑張らず、肩の力を抜いていいんだよ」ということですね。「社会って生産性と向上心がないといけない場所だから」といったセリフがあるんですが、そういう空気って実際にありますよね。でも、自分を一番に考えて大切にすることや、頑張らなくても良いこと、逃げたいと思ったら逃げていいということを、本作から感じていただけると思います。納得できることがありますね。自分に素直に生きるということが大事なのでしょう。それにしても普通っていう言葉はわかったようでわからないですね。
本作の主人公は、週4日のパートで質素に暮らす38歳独身の麦巻さとこ。膠原病を患ったことをきっかけに生活が一変、健康、正社員の仕事、マンション、将来設計など全てを失い、団地暮らしを始める中、隣に住む大家さんとその同居人の青年を通じて「薬膳」と出会い、心身を取り戻していく物語だ。
膠原病は自分の体を守るはずの免疫システムに異常が起きて、自分自身のからだを攻撃してしまう「自己免疫疾患」の病気の総称(詳しくは、NHK「きょうの健康」を参照)。一人ひとり症状が違うが、共通しているのは、体がだるくて微熱が出ること。関節が腫れたり、痛んだりすることだと、さとこは第1話のモノローグで語っている。
さとこを演じるのは、NHKの連続テレビ小説『虎に翼』(2024年度下半期)の華族令嬢“涼子様”も記憶に新しい桜井ユキさん。インタビュー前編では、さとこのつらさに過去の自身の体験を重ねていたことを明かしてくれた。後編となる本記事では、「普通」という言葉の難しさ、そして桜井さんが考える、他者との心地のいい距離感について話を聞いた。
「普通」はいつも私たちに付きまとってくる
さとこは医師から「普通の生活」を送るよう言われ、母親からも「普通の幸せ」について言われて、違和感を抱く描写がありました。
桜井:私も人と会話しているときによく「普通ってなんだろう」と、引っかかったり考えたりすることがあるんです。その人によって普通のラインは違いますし、それを他者に言うのってどうなんだろうとか、普通を相手に求めるのって勝手だなと思うので、自分ではできるだけ言わないようにしています。
でも、つい言っちゃうこともあるんですよね(苦笑)。「普通」はみんな違うし、測ることもできない、わからないのに、どうしても付きまとってくるんですよね。
さとこの母親が悪気なく言う、「命に関わる病気じゃなくても人生つまずいちゃうことってあるのね」という言葉も、なかなかキツイと思いました。
桜井:さとこの患っている膠原病に限らず、その人が何に苦しんで、何に葛藤していて、何に幸せを見出しているのかは人それぞれで、他人がとやかく言うことではないですが、さとこの場合は一番理解してほしいと望んでいる母親にその言葉を投げかけられるのが酷だなと思いました。
ただ、お母さんはお母さんで、さとこのことを考えたうえでの態度や言葉でもありますし、お互い心配しているし、ちょっと離れて暮らしながら、その塩梅を探ってはいるんですよね。
どんなに親しい関係でも、適度な距離は大事
お互いのことを思いつつ、微妙な距離感でいる親子関係や家族関係についてどう思いましたか。
桜井:リアルだと思いました。私も、適度な距離を保っているほうだと思います。家族だから何でもOKでも、家族だから何でも話せるわけでもないですし。だからこそ逆に、礼儀や、ありがとうと言葉で伝えることなどは徹底していますね。馴れ合いになりすぎない距離感は大事だと思うんです。
桜井さんは、ご家族との適度な距離をどのように築いていったのですか。
桜井:私は1人の時間を大切にするようになって、心地良いと思える距離感をようやく見つけられました。お互いが自然と一緒にいたいときにその時間を共有すればいいと思っています。
「1人の時間」というのは、誰かと過ごす時間とはやはり別モノですか。
桜井:別モノですね。もちろん誰かと一緒に共有する時間も好きですし、大事にしているんですが、誰かが隣にいることで、その人の空気感や温度に無意識に自分も合わせて調整してしまう部分があるので、誰とも話さずに過ごす時間は私は必要だと思うんです。
自分で自分のバランスをとることの大切さ
さとこは自分の体調に応じて仕事量を調節していますが、そうした自分を大切にするスタンスが職場の人にポジティブな影響を与えていきます。これも大切なことだと思いました。
桜井:いくら仕事とはいえ、不調を感じたらその日のうちに自分で調整してバランスを取っていかないと、いつか身体もメンタルも崩れてしまうと思うんです。そういう歪みは年齢問わず確実に生じる。そこで無理が続いていったん底を迎えてしまうと、上がってくるのは大変なので、まだ浅いうちに自力で上がれる底力はつけておくと良いなと思います。
さとこの職場には、相手の良いところをきちんと言語化して伝える人や、声をあげて周りに共有してくれる人がいるのもいいですよね。そういうコミュニケーションも大切だなと思います。
人は諦めることで、新たなことに挑める
さとこは病気によって「今はちょっと頑張れないとき」だと言いますが、そういうときって誰にでもありますよね。桜井さんも以前のインタビューで、20代後半にプライベートでも仕事でも「諦める術」を身に着けていった時期があったとおっしゃっていました。
桜井:私は頼まれたことに対して全部パーフェクトに返したいと思ってしまうのですが、それってやっぱり無理なんですよね。無理なことを手放すことで、かえって自発的な心が芽生えやすくなったんです。諦めて手放したことで、自分がやりたいと思うことがどんどん明確に、クリアになっていき、それが生きやすさにつながっているんだなと思います。歳を重ねるごとに、どんどん楽になっている感覚があります。
「無理なことは無理」と割り切れるようになったのは、いつ頃からですか。
桜井:以前は忙しいときに、相談があると言われたら、全部受けていたんですね。望まれているのだから全部やらなきゃいけないと思っていた。でも、私には私のキャパがあって、自分が無理していると他者には気づかれなくても、その歪みは後々自分に返ってくる。何のために頑張っているんだろう、別にそこを頑張る必要ないなと思ったのが、20代後半ぐらいでした。
頑張らず、肩の力を抜いていい
ご自分との付き合い方の正解に、さとこより早くたどり着いていらっしゃるんですね。
桜井さんはさとこと同じ38歳ですが、女性の人生にとって今の年齢はどんな時期だと思いますか。
桜井:人生の折り返しまでは言わないけど、そう遠くないポイントだと思います。紡いできた人間関係がありますし、覚えたこと・身に着けたこともいろいろありますし、それを生かしていく、楽しんでいくのが折り返し後の後半だと思っています。
最後に、本作を通して伝えたいことについてお聞かせ下さい。
桜井:食の大切さや、人との付き合いの素敵さ、何より一番は「頑張らず、肩の力を抜いていいんだよ」ということですね。作中に、「社会って生産性と向上心がないといけない場所だから」といったセリフがあるんですが、そういう空気って実際にありますよね。でも、自分を一番に考えて大切にすることや、頑張らなくても良いこと、逃げたいと思ったら逃げていいということを、本作から感じていただけると思います。
「普通」はみんな違うし、測ることもできない、わからないのに、どうしても付きまとってくるんですよね。普通というのは抽象的で伝えるのが難しいですね。私も、適度な距離を保っているほうだと思います。家族だから何でもOKでも、家族だから何でも話せるわけでもないですし。だからこそ逆に、礼儀や、ありがとうと言葉で伝えることなどは徹底していますね。馴れ合いになりすぎない距離感は大事だと思うんです。確かにそうですね。誰かが隣にいることで、その人の空気感や温度に無意識に自分も合わせて調整してしまう部分があるので、誰とも話さずに過ごす時間は私は必要だと思うんです。相手の良いところをきちんと言語化して伝える人や、声をあげて周りに共有してくれる人がいるのもいいですよね。そういうコミュニケーションも大切だなと思います。無理なことを手放すことで、かえって自発的な心が芽生えやすくなったんです。諦めて手放したことで、自分がやりたいと思うことがどんどん明確に、クリアになっていき、それが生きやすさにつながっているんだなと思います。歳を重ねるごとに、どんどん楽になっている感覚があります。紡いできた人間関係がありますし、覚えたこと・身に着けたこともいろいろありますし、それを生かしていく、楽しんでいくのが折り返し後の後半だと思っています。食の大切さや、人との付き合いの素敵さ、何より一番は「頑張らず、肩の力を抜いていいんだよ」ということですね。「社会って生産性と向上心がないといけない場所だから」といったセリフがあるんですが、そういう空気って実際にありますよね。でも、自分を一番に考えて大切にすることや、頑張らなくても良いこと、逃げたいと思ったら逃げていいということを、本作から感じていただけると思います。納得できることがありますね。自分に素直に生きるということが大事なのでしょう。それにしても普通っていう言葉はわかったようでわからないですね。
