若者たちは環境問題、人権問題を真剣に考えている[2025年02月20日(Thu)]
DIAMOND Online2025年1月1日付け「環境問題や人権侵害に「突っ走る」Z世代が、大人世代とどうしても相容れない理由」から、環境問題や人権侵害に声を上げ、大人社会の矛盾を鋭く批判するZ世代。しかし、一部の抗議行動が単純すぎる「正義」に傾倒しており視野が狭い点も課題だという。日米ハーフの国際ジャーナリストであるモーリー・ロバートソンが、独自の視点で国際問題に取り組むZ世代の活動を分析する。
大人社会に対して 強く抗議するZ世代
スウェーデンの若き環境活動家であるグレタ・エルンマン・トゥーンベリさんは世界的に有名ですが、彼女と同世代の欧米の若者たちは、「環境問題」「労働問題」「基本的人権」を蔑ろにしている大人社会へ強い抗議の声をあげていることで知られています。
特に先進国では若い人たちの社会的・経済的なチャンスがギグ(ネットで見つけた仕事を請け負う働き方や、その働き方によって回っている経済活動)化したことで、搾取の構造がより深刻なものとなって、彼らの選択肢が著しく制限されてしまっているという現実があります。没落していく中産階級だけではなく、貧困が世代間で世襲される「下層階級」とも言える人たちに依存する仕組みで、現在の私たちのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)は成り立っています。まず、そこから目を逸らさないで、とグレタさんたちは訴えています。
この問題は国境も容易に越えます。世界中が中国の安い人件費や資源に依存していることによって、香港や新疆ウイグル自治区の人権問題について日本はもちろん、アメリカやEUもが表立って文句を言えずにきたダブルスタンダードにも繋がっています。
トランプ政権になって中国をスケープゴートにするべく、アメリカはやっと中国の諸問題をあげつらうようになり、バイデン政権に代替わりしても中国の軍事拡大や人権抑圧と対決する姿勢が超党派で堅持されています。しかし、時すでに遅しという側面もあり、グローバル化で推進された過剰な中国依存は日本国内やアメリカ国内の搾取の構造に跳ね返り、かえって格差を加速しています。つまり中国人の安い労働力を便利使いしてきたつもりだったのに、日本人が自分たちの賃金を下げてしまった、というブーメランです。
さらには、ロシアのウクライナ侵攻に対して西側諸国は団結し、強い経済制裁を課すことができましたが、中国が例えば台湾侵攻をした場合、足並みが揃わない可能性があります。中国に一度投資して、その果実に依存してしまったことには、各国が頭を悩ませています。
目の前で起きていることだけに 過敏に反応してしまうZ世代
グレタさんと同世代の欧米の若者たちが「環境問題」「労働問題」「基本的人権」を第一に考えて行動しているという話をしました。そして、現在起きているさまざまな紛争や侵略についても親たちの世代とは感覚が違います。
ロシアがウクライナを攻撃するのは許せないけれど、イスラエルのガザに対する攻撃に関してはハマスとの戦争なのだから、無辜の市民が大勢巻き添えになっても「付帯的な損害」として認めざるを得ないという捻れみたいなものが、冷戦期を覚えている世代には受け継がれてきました。
しかし、グレタさんたちをはじめ、かなり多くのZ世代にとって、ハマスのテロに対してイスラエルがガザ市民を集団的懲罰の対象とすることはけして正当化できない。
イスラエルは植民地時代の末期、先進国の都合で建国されたアパルトヘイト国家である。ユダヤ人は歴史的に迫害され続けた民であり、ホロコーストでは人類史上最悪の虐殺を受けたのは事実。
そうではあるが今現在、人種差別の暴虐を行っているのはイスラエルである。イスラエル政府のパレスチナ人に対する圧迫と虐待を批判することは「反ユダヤ主義」とは呼べない。
むしろイスラエルがパレスチナで行っていることの構造は、アメリカで「BLM(ブラック・ライヴズ・マター/アフリカ系アメリカ人のコミュニティーで生まれた、黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える、国際的な積極行動主義の運動の総称)」が起きたきっかけとなった、白人警官による黒人への暴行と極めて似ている。
だからこそ「中東におけるアメリカの同盟国だから」とイスラエルを特別扱いして、差別と圧政、殺戮から目を背けることはできない。
こういった姿勢です。すべての差別とジェノサイドに終止符を、とまっすぐに考える傾向がZ世代に見られます。
また、その人権意識が「環境問題」にも同一線上で繋がっています。環境問題はZ世代にとって待ったなしで解決する必要がある課題なのです。同じ逼迫感で「パレスチナ人の命を守り、差別待遇をなくす」こと、アメリカの黒人への差別をなくすことが望まれています。「個別の微調整を加えた、おおむね現状維持」はオプションにありません。
ガザの平和のために イスラエルは消滅せよ!? ガザでの停戦を求めてアメリカ中の大学でテントやバリケードが設営されています。警察がより強圧的に排除するようになり、それが抗議行動をより先鋭化させてもいます。この流れの中で「インティファーダ」や「川から海まで(from the river to the sea)」といったスローガンも度々叫ばれています。しかしこれらのスローガンには大きな問題があります。
まず「インティファーダ」とはパレスチナ民衆のイスラエルに対する抵抗運動を指しています。2024年5月11日、東京・渋谷でも「インティファーダ・マーチ」が開催されました。問題はアラビア語で「振り落とす」ことを意味する「インティファーダ」という語句です。
1980年代に起きた「第1次インティファーダ」には欧米の知識人も数多く賛同しましたが、2000年以降の「第2次インティファーダ」ではハマスなど過激派組織によるイスラエル市民を狙った自爆テロが頻発し、2001年のニューヨークなどへの「9・11同時多発テロ」とも重なりました。広義のパレスチナ解放を主張するスローガンとして「インティファーダ」はあまりにも据わりが悪い。
次に「川から海まで」ですが、これは「ヨルダン川から地中海まで」を意味し、ユダヤ人が入植する以前のパレスチナに戻すという意味合いを帯びています。つまりイスラエル国家の消滅、1948年に遡った歴史のやり直しです。
イスラエル人や多くのユダヤ系アメリカ人にとって、このスローガンはテロ容認に聞こえます。叫んでいる側のデモ参加者の中にはさまざまな考えの持ち主がおり、「パレスチナ全土から抑圧がなくなること、すなわちユダヤ人とパレスチナ人が共存すること」という意味合いで捉えている人もいれば、「植民地主義によって人工的に作り出されたユダヤ国家、イスラエルは存続が許されない」という人もいます。このスローガンも中東情勢そのもののねじれた複雑さを無視したものです。
ねじれた歴史のドミノの前に 上っ面だけの正義は無力
大学のキャンパスを占拠し、警察に強制的に排除されるまで立ち退かないという実力行使に及んでいる人たちは、おそらく一途に「私たちにできるあらゆる手段でガザ市民の虐殺を阻止する」という決意で抗議活動に参加している。そこまではわかります。
また、イスラエルに武器を提供し続けてきたアメリカ、そもそも中東全域の不安定化の要因を作った帝国主義時代のイギリスやフランスに歴史的責任を問う姿勢もある程度理解できます。ただ、どうしても「ガザを守れ」の思いだけで突っ走っているように見える。
ガザで新生児が飢え死にしているさまが映像でネットに流れていることも非常に大きいと思います。ただし、ガザだけではない。ハマスと連携し、イランが支援する「フーシ派」の軍勢が戦っているイエメンの内戦では、今なお新生児を含む市民が飢餓で次々と死んでいるのです。
ハマスを植民地主義、占領と戦う解放の戦士とみなすのはどう考えても無理です。ガザの赤ちゃんもイエメンの赤ちゃんも飢え死にしてはならない。
しかし中東全域で紛争は繰り返され、人権侵害、抑圧と支配は常態化している。さらに紛争と紛争が相互に関連もしている。赤ちゃんが餓死する事態になるまでに長く、ねじれた歴史のドミノが連鎖してきているのです。今すぐガザだけで赤ちゃんを助けることができるのでしょうか?はっきり言って、大人の世代は「もう助けられない」と諦めています。
チベットやウイグルでの民族迫害に 彼らは目をつむっている
大学生たちには諦めてほしくない。場合によっては行きすぎた抗議行動があってもいいでしょう。ただ、「ハマスは見方によっては解放の戦士」「イスラエルがそもそも存在してはならない」という単純すぎる「正義」に飛びつくのはもったいないと思います。
その「正義」の先には反ユダヤ主義に対する「一定の理解」が待ち受けています。反ユダヤ主義が再燃するとそこにはさまざまな陰謀論が便乗するので、もう制御ができなくなります。
もう1つ、欧米の学生たちの抗議行動に難点があると思うのは、中国に対する認識へと広がっていないことです。本気で占領政策やジェノサイドを止めるのであれば、中国政府による新疆ウイグル自治区やチベットでの民族迫害も併せて糾弾しなくてはならないはずです。
イスラエルがパレスチナを占領し、圧迫しているのと同様に中国がチベット、ウイグルを迫害しているのです。いや、むしろ中国ではチベットとウイグルの人口激減を試みる「民族浄化」さえ進んでいます。ガザ、イエメン、チベット、ウイグルを連結し、「抑圧を止めよ」と学生たちが自分ごととして捉え、イスラエルへの抗議行動のみならず、ファストファッションやサプライチェーンに中国による強制労働を含むブランドのボイコットを進めるのであれば、大いに賛同できます。
スウェーデンの若き環境活動家であるグレタ・エルンマン・トゥーンベリさんは世界的に有名ですが、彼女と同世代の欧米の若者たちは、「環境問題」「労働問題」「基本的人権」を蔑ろにしている大人社会へ強い抗議の声をあげていることで知られています。特に先進国では若い人たちの社会的・経済的なチャンスがギグ(ネットで見つけた仕事を請け負う働き方や、その働き方によって回っている経済活動)化したことで、搾取の構造がより深刻なものとなって、彼らの選択肢が著しく制限されてしまっているという現実があります。没落していく中産階級だけではなく、貧困が世代間で世襲される「下層階級」とも言える人たちに依存する仕組みで、現在の私たちのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)は成り立っています。まず、そこから目を逸らさないで、とグレタさんたちは訴えています。確かに大人社会は環境問題、労働問題、基本的人権を蔑ろにしているでしょう。グローバル化で推進された過剰な中国依存は日本国内やアメリカ国内の搾取の構造に跳ね返り、かえって格差を加速しています。つまり中国人の安い労働力を便利使いしてきたつもりだったのに、日本人が自分たちの賃金を下げてしまった、というブーメランです。さらには、ロシアのウクライナ侵攻に対して西側諸国は団結し、強い経済制裁を課すことができましたが、中国が例えば台湾侵攻をした場合、足並みが揃わない可能性があります。中国に一度投資して、その果実に依存してしまったことには、各国が頭を悩ませています。その通りでしょう。ロシアがウクライナを攻撃するのは許せないけれど、イスラエルのガザに対する攻撃に関してはハマスとの戦争なのだから、無辜の市民が大勢巻き添えになっても「付帯的な損害」として認めざるを得ないという捻れみたいなものが、冷戦期を覚えている世代には受け継がれてきました。しかし、グレタさんたちをはじめ、かなり多くのZ世代にとって、ハマスのテロに対してイスラエルがガザ市民を集団的懲罰の対象とすることはけして正当化できない。イスラエルは植民地時代の末期、先進国の都合で建国されたアパルトヘイト国家である。ユダヤ人は歴史的に迫害され続けた民であり、ホロコーストでは人類史上最悪の虐殺を受けたのは事実。そうではあるが今現在、人種差別の暴虐を行っているのはイスラエルである。イスラエル政府のパレスチナ人に対する圧迫と虐待を批判することは「反ユダヤ主義」とは呼べない。むしろイスラエルがパレスチナで行っていることの構造は、アメリカで「BLM(ブラック・ライヴズ・マター/アフリカ系アメリカ人のコミュニティーで生まれた、黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える、国際的な積極行動主義の運動の総称)」が起きたきっかけとなった、白人警官による黒人への暴行と極めて似ている。だからこそ「中東におけるアメリカの同盟国だから」とイスラエルを特別扱いして、差別と圧政、殺戮から目を背けることはできない。こういった姿勢です。すべての差別とジェノサイドに終止符を、とまっすぐに考える傾向がZ世代に見られます。Z世代の考えに真剣に耳を傾けなければならないでしょう。Z世代はこれからの世界を担って行くことを考えれば今までの世界のあり方が変わってくる可能性があるのではないでしょうか。
大人社会に対して 強く抗議するZ世代
スウェーデンの若き環境活動家であるグレタ・エルンマン・トゥーンベリさんは世界的に有名ですが、彼女と同世代の欧米の若者たちは、「環境問題」「労働問題」「基本的人権」を蔑ろにしている大人社会へ強い抗議の声をあげていることで知られています。
特に先進国では若い人たちの社会的・経済的なチャンスがギグ(ネットで見つけた仕事を請け負う働き方や、その働き方によって回っている経済活動)化したことで、搾取の構造がより深刻なものとなって、彼らの選択肢が著しく制限されてしまっているという現実があります。没落していく中産階級だけではなく、貧困が世代間で世襲される「下層階級」とも言える人たちに依存する仕組みで、現在の私たちのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)は成り立っています。まず、そこから目を逸らさないで、とグレタさんたちは訴えています。
この問題は国境も容易に越えます。世界中が中国の安い人件費や資源に依存していることによって、香港や新疆ウイグル自治区の人権問題について日本はもちろん、アメリカやEUもが表立って文句を言えずにきたダブルスタンダードにも繋がっています。
トランプ政権になって中国をスケープゴートにするべく、アメリカはやっと中国の諸問題をあげつらうようになり、バイデン政権に代替わりしても中国の軍事拡大や人権抑圧と対決する姿勢が超党派で堅持されています。しかし、時すでに遅しという側面もあり、グローバル化で推進された過剰な中国依存は日本国内やアメリカ国内の搾取の構造に跳ね返り、かえって格差を加速しています。つまり中国人の安い労働力を便利使いしてきたつもりだったのに、日本人が自分たちの賃金を下げてしまった、というブーメランです。
さらには、ロシアのウクライナ侵攻に対して西側諸国は団結し、強い経済制裁を課すことができましたが、中国が例えば台湾侵攻をした場合、足並みが揃わない可能性があります。中国に一度投資して、その果実に依存してしまったことには、各国が頭を悩ませています。
目の前で起きていることだけに 過敏に反応してしまうZ世代
グレタさんと同世代の欧米の若者たちが「環境問題」「労働問題」「基本的人権」を第一に考えて行動しているという話をしました。そして、現在起きているさまざまな紛争や侵略についても親たちの世代とは感覚が違います。
ロシアがウクライナを攻撃するのは許せないけれど、イスラエルのガザに対する攻撃に関してはハマスとの戦争なのだから、無辜の市民が大勢巻き添えになっても「付帯的な損害」として認めざるを得ないという捻れみたいなものが、冷戦期を覚えている世代には受け継がれてきました。
しかし、グレタさんたちをはじめ、かなり多くのZ世代にとって、ハマスのテロに対してイスラエルがガザ市民を集団的懲罰の対象とすることはけして正当化できない。
イスラエルは植民地時代の末期、先進国の都合で建国されたアパルトヘイト国家である。ユダヤ人は歴史的に迫害され続けた民であり、ホロコーストでは人類史上最悪の虐殺を受けたのは事実。
そうではあるが今現在、人種差別の暴虐を行っているのはイスラエルである。イスラエル政府のパレスチナ人に対する圧迫と虐待を批判することは「反ユダヤ主義」とは呼べない。
むしろイスラエルがパレスチナで行っていることの構造は、アメリカで「BLM(ブラック・ライヴズ・マター/アフリカ系アメリカ人のコミュニティーで生まれた、黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える、国際的な積極行動主義の運動の総称)」が起きたきっかけとなった、白人警官による黒人への暴行と極めて似ている。
だからこそ「中東におけるアメリカの同盟国だから」とイスラエルを特別扱いして、差別と圧政、殺戮から目を背けることはできない。
こういった姿勢です。すべての差別とジェノサイドに終止符を、とまっすぐに考える傾向がZ世代に見られます。
また、その人権意識が「環境問題」にも同一線上で繋がっています。環境問題はZ世代にとって待ったなしで解決する必要がある課題なのです。同じ逼迫感で「パレスチナ人の命を守り、差別待遇をなくす」こと、アメリカの黒人への差別をなくすことが望まれています。「個別の微調整を加えた、おおむね現状維持」はオプションにありません。
ガザの平和のために イスラエルは消滅せよ!? ガザでの停戦を求めてアメリカ中の大学でテントやバリケードが設営されています。警察がより強圧的に排除するようになり、それが抗議行動をより先鋭化させてもいます。この流れの中で「インティファーダ」や「川から海まで(from the river to the sea)」といったスローガンも度々叫ばれています。しかしこれらのスローガンには大きな問題があります。
まず「インティファーダ」とはパレスチナ民衆のイスラエルに対する抵抗運動を指しています。2024年5月11日、東京・渋谷でも「インティファーダ・マーチ」が開催されました。問題はアラビア語で「振り落とす」ことを意味する「インティファーダ」という語句です。
1980年代に起きた「第1次インティファーダ」には欧米の知識人も数多く賛同しましたが、2000年以降の「第2次インティファーダ」ではハマスなど過激派組織によるイスラエル市民を狙った自爆テロが頻発し、2001年のニューヨークなどへの「9・11同時多発テロ」とも重なりました。広義のパレスチナ解放を主張するスローガンとして「インティファーダ」はあまりにも据わりが悪い。
次に「川から海まで」ですが、これは「ヨルダン川から地中海まで」を意味し、ユダヤ人が入植する以前のパレスチナに戻すという意味合いを帯びています。つまりイスラエル国家の消滅、1948年に遡った歴史のやり直しです。
イスラエル人や多くのユダヤ系アメリカ人にとって、このスローガンはテロ容認に聞こえます。叫んでいる側のデモ参加者の中にはさまざまな考えの持ち主がおり、「パレスチナ全土から抑圧がなくなること、すなわちユダヤ人とパレスチナ人が共存すること」という意味合いで捉えている人もいれば、「植民地主義によって人工的に作り出されたユダヤ国家、イスラエルは存続が許されない」という人もいます。このスローガンも中東情勢そのもののねじれた複雑さを無視したものです。
ねじれた歴史のドミノの前に 上っ面だけの正義は無力
大学のキャンパスを占拠し、警察に強制的に排除されるまで立ち退かないという実力行使に及んでいる人たちは、おそらく一途に「私たちにできるあらゆる手段でガザ市民の虐殺を阻止する」という決意で抗議活動に参加している。そこまではわかります。
また、イスラエルに武器を提供し続けてきたアメリカ、そもそも中東全域の不安定化の要因を作った帝国主義時代のイギリスやフランスに歴史的責任を問う姿勢もある程度理解できます。ただ、どうしても「ガザを守れ」の思いだけで突っ走っているように見える。
ガザで新生児が飢え死にしているさまが映像でネットに流れていることも非常に大きいと思います。ただし、ガザだけではない。ハマスと連携し、イランが支援する「フーシ派」の軍勢が戦っているイエメンの内戦では、今なお新生児を含む市民が飢餓で次々と死んでいるのです。
ハマスを植民地主義、占領と戦う解放の戦士とみなすのはどう考えても無理です。ガザの赤ちゃんもイエメンの赤ちゃんも飢え死にしてはならない。
しかし中東全域で紛争は繰り返され、人権侵害、抑圧と支配は常態化している。さらに紛争と紛争が相互に関連もしている。赤ちゃんが餓死する事態になるまでに長く、ねじれた歴史のドミノが連鎖してきているのです。今すぐガザだけで赤ちゃんを助けることができるのでしょうか?はっきり言って、大人の世代は「もう助けられない」と諦めています。
チベットやウイグルでの民族迫害に 彼らは目をつむっている
大学生たちには諦めてほしくない。場合によっては行きすぎた抗議行動があってもいいでしょう。ただ、「ハマスは見方によっては解放の戦士」「イスラエルがそもそも存在してはならない」という単純すぎる「正義」に飛びつくのはもったいないと思います。
その「正義」の先には反ユダヤ主義に対する「一定の理解」が待ち受けています。反ユダヤ主義が再燃するとそこにはさまざまな陰謀論が便乗するので、もう制御ができなくなります。
もう1つ、欧米の学生たちの抗議行動に難点があると思うのは、中国に対する認識へと広がっていないことです。本気で占領政策やジェノサイドを止めるのであれば、中国政府による新疆ウイグル自治区やチベットでの民族迫害も併せて糾弾しなくてはならないはずです。
イスラエルがパレスチナを占領し、圧迫しているのと同様に中国がチベット、ウイグルを迫害しているのです。いや、むしろ中国ではチベットとウイグルの人口激減を試みる「民族浄化」さえ進んでいます。ガザ、イエメン、チベット、ウイグルを連結し、「抑圧を止めよ」と学生たちが自分ごととして捉え、イスラエルへの抗議行動のみならず、ファストファッションやサプライチェーンに中国による強制労働を含むブランドのボイコットを進めるのであれば、大いに賛同できます。
スウェーデンの若き環境活動家であるグレタ・エルンマン・トゥーンベリさんは世界的に有名ですが、彼女と同世代の欧米の若者たちは、「環境問題」「労働問題」「基本的人権」を蔑ろにしている大人社会へ強い抗議の声をあげていることで知られています。特に先進国では若い人たちの社会的・経済的なチャンスがギグ(ネットで見つけた仕事を請け負う働き方や、その働き方によって回っている経済活動)化したことで、搾取の構造がより深刻なものとなって、彼らの選択肢が著しく制限されてしまっているという現実があります。没落していく中産階級だけではなく、貧困が世代間で世襲される「下層階級」とも言える人たちに依存する仕組みで、現在の私たちのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)は成り立っています。まず、そこから目を逸らさないで、とグレタさんたちは訴えています。確かに大人社会は環境問題、労働問題、基本的人権を蔑ろにしているでしょう。グローバル化で推進された過剰な中国依存は日本国内やアメリカ国内の搾取の構造に跳ね返り、かえって格差を加速しています。つまり中国人の安い労働力を便利使いしてきたつもりだったのに、日本人が自分たちの賃金を下げてしまった、というブーメランです。さらには、ロシアのウクライナ侵攻に対して西側諸国は団結し、強い経済制裁を課すことができましたが、中国が例えば台湾侵攻をした場合、足並みが揃わない可能性があります。中国に一度投資して、その果実に依存してしまったことには、各国が頭を悩ませています。その通りでしょう。ロシアがウクライナを攻撃するのは許せないけれど、イスラエルのガザに対する攻撃に関してはハマスとの戦争なのだから、無辜の市民が大勢巻き添えになっても「付帯的な損害」として認めざるを得ないという捻れみたいなものが、冷戦期を覚えている世代には受け継がれてきました。しかし、グレタさんたちをはじめ、かなり多くのZ世代にとって、ハマスのテロに対してイスラエルがガザ市民を集団的懲罰の対象とすることはけして正当化できない。イスラエルは植民地時代の末期、先進国の都合で建国されたアパルトヘイト国家である。ユダヤ人は歴史的に迫害され続けた民であり、ホロコーストでは人類史上最悪の虐殺を受けたのは事実。そうではあるが今現在、人種差別の暴虐を行っているのはイスラエルである。イスラエル政府のパレスチナ人に対する圧迫と虐待を批判することは「反ユダヤ主義」とは呼べない。むしろイスラエルがパレスチナで行っていることの構造は、アメリカで「BLM(ブラック・ライヴズ・マター/アフリカ系アメリカ人のコミュニティーで生まれた、黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える、国際的な積極行動主義の運動の総称)」が起きたきっかけとなった、白人警官による黒人への暴行と極めて似ている。だからこそ「中東におけるアメリカの同盟国だから」とイスラエルを特別扱いして、差別と圧政、殺戮から目を背けることはできない。こういった姿勢です。すべての差別とジェノサイドに終止符を、とまっすぐに考える傾向がZ世代に見られます。Z世代の考えに真剣に耳を傾けなければならないでしょう。Z世代はこれからの世界を担って行くことを考えれば今までの世界のあり方が変わってくる可能性があるのではないでしょうか。



