
日本の最低賃金は国際標準並みに高くなる日はやってくるのか[2023年11月21日(Tue)]
東洋経済オンライン2023年7月24日付け「日本の最低賃金「欧米レベル」になれない5大原因 国際標準並みに高くなる日はやってくるのか」から、最近になって、日本の賃金に関する情報が相次いで発表され話題になっている。例えば「OECD (経済協力開発機構)」が7月11日に発表した「2023年雇用見通し(Employment Outlook 2023)」では、日本の「最低賃金」の伸び率は、OECD加盟国平均の3分の1にしか満たないことが明らかになった。
さらに、厚生労働省が7月7日に発表した、5月分の毎月勤労統計の「現金給与総額」によると、春闘で30年ぶりともいわれる上昇幅を見せたものの、消費者物価上昇率をひいた「実質賃金」の上昇率は前年比「−1.2%」となり、相変わらず賃金は伸びていないことを裏付ける形となった。
日本人の賃金が国際標準並みに高くなるのはいったいいつなのか……。専門家の中にはまだ当面無理、と言う人も多く、人手不足と叫ばれながらも、一向に上がらない賃金が我々の生活を追い詰めている。日本の賃金にまつわる最新事情を考えてみたい。
最低賃金は韓国より低く、欧米先進国の3分の2?
OECDの「2023年雇用見通し」で注目されたのが、日本の最低賃金の伸び率が大きく見劣りしていることだ。名目賃金、実質賃金ともに平均値の3分の1にとどまり、現在政府は「全国加重平均1000円」を目指しているが、実現しても他の先進国とは大きな差がある。
そもそも、日本の最低賃金は先進国の中では大きく見劣りしている。直近のデータでは、2023年1-4月平均の為替相場をもとに円ベースに換算した数値が発表されている(日本総研「全国平均1000円超時代の最低賃金の在り方」)。 フランス……1386円 ドイツ……1285円 英国……1131円 韓国……991円 日本……961円 アメリカ(カリフォルニア州)……2000円。
ついに韓国にも抜かれたわけだが、3月15日に岸田首相が「政労使会議」の場で、「全国加重平均1000円」の最低賃金の実現を目指す、と発言している、さらに、4月12日に開催された「新しい資本主義実現会議」でも、最低賃金の地域間格差の是正に取り組む姿勢も示している、
つまり、日本はまだ制度的に時給1000円の実現にも至っていないわけで、しかも日本の場合は、地域によって最低賃金が異なっており、これが最低賃金の伸びを阻んでいるという根拠となっている。コロナ禍から経済が復活する中で、人手不足が深刻になりつつある現在、日本の最低賃金の低さは大きな問題になっている。
OECDが、最低賃金制度を持つ30カ国のデータを集計した結果によると、日本は物価上昇を考慮しない名目で「6.5%増(2020年12月〜2023年5月の伸び率、以下同)」、物価上昇を考慮した実質では「0.7%増」にとどまっている。
一方の海外の最低賃金は、インフレ率に連動して最低賃金が上昇するポーランドの名目「34.2%」増を筆頭に、アメリカを除く29カ国の平均で名目「29.0%」の増加、実質でも「2.3%」の増加となっている(日経速報ニュース 2023年7月11日19:20より)。
これまで日本政府は、他国の最低賃金が上がっても「日本はデフレ」という免罪符を使って何もしてこなかったわけだが、ここにきていよいよ国際的な人材獲得競争が起きつつあり、対策が急務と指摘されるようになっている。インフレ率を考慮に入れた最低賃金を上げなくてはならなくなってきた、ということだ。
「実質賃金」のマイナス続く日本!
一方、平均賃金の統計でも厳しい結果が出ている。厚生労働省の5月分の毎月勤労統計の「現金給与総額」は、前年同月比「+2.5%」となり、前月の0.8%を大きく上回った。
春闘で妥結された賃金上昇の影響が、ここにきて出てきたといっていいのかもしれない。
とはいえ、消費者物価上昇率を引いた実質賃金は前年同月比「-1.2%」となり、前月の「-3.2%」から縮小したものの、依然として実質賃金は下落したままだ。マイナスになるのは14カ月連続。日本は、最低賃金が低いだけではなく、一般の会社員の平均賃金も実質的にマイナスになっているということがわかる。
ちなみに、連合が7月5日に発表した2023年の春闘の最終集計によれば、定期昇給込みの平均賃上げ率は「+3.58%」、賃金の内訳を明示している組合のベースアップ率の平均は「+2.12%」だった。大手企業の労働組合による平均賃上げ率が2〜3%台だとしても、実質賃金がマイナスということは、それを上回るインフレ率があったことになる。庶民にとっては厳しい日常が続いていることになる。
OECDの雇用見通しにもあったが、ポーランドのようにインフレ率に応じて自動的に賃金が上がるようなシステムが日本にはないために、今後も激しいインフレに賃金の上昇が追いつかない可能性が高い。30年近くインフレの経験がないために、雇用者もそう簡単には賃金を上げようとしない。
問題はこれからどうなるかだが、日本の賃金が一向に上がらない理由をきちんと整理する必要があるだろう。大きく分けて、次のような理由が考えられる。
日本の賃金が一向に上がらない5つの理由 @政府による賃金と物価連動によるサポートがないこと
正規、非正規の従業員の賃金が上がるためには、どうしても最低賃金の底上げが必要だが、日本では長い間、政府が複雑な最低賃金の制度を維持して、最低賃金を押さえつけてきた歴史がある。
地域間格差を容認する地域別の最低賃金制度や、審議会を経て最低賃金を決定する複雑なプロセスが、その上昇を意図的に抑えてきた。消費者物価や企業収益、雇用情勢、春の賃上げ率といった厚生労働省から提供されたデータを用いて、経営側と労働側が調整して金額を決めるという曖昧な方法をとってきた。
しかし、国際的には統一した最低賃金が当たり前であり、フランスやポーランドのように物価上昇と最低賃金上昇率が連動している国もある。欧州連合(EU)のように最低賃金は「平均賃金の60%」を目指すように、加盟国に制度設計を求めているところもある。2022年に成立した「最低賃金引上げ法」によるものだが、明確な水準を示したことで、政府と労働者との間の信頼関係が深まったとされる。
ちなみに、日本の平均賃金は約3万9700ドル(2021年、OECD)、そこから換算した最低賃金を60%とした場合、年収換算で2万3820ドルになる。月額にして1985ドル、現在の円レートを「1ドル=140円」で換算すると約28万円。1日8時間を25日間、月に200時間働いたとすれば、1400円の最低賃金が必要になる。この程度の収入がグローバルスタンダードと言っていいのかもしれない。
A社会保険料による「年収の壁」があるため
日本の最低賃金や平均賃金が伸びない原因のひとつが、いわゆる「106万円の壁」ともいわれる社会保険料制度の存在がある。夫の扶養家族に入っている主婦などが、パートタイマーなどで働く場合、年収の壁を越えてしまうと夫の社会保険料控除が使えなくなり、さらに健康保険税なども自分で支払わなくてはならなくなる。
この壁が原因で、ある程度稼がなければかえって損失を出してしまうために、高い報酬を求めて労働市場に参加する人が少なくなり、企業も優秀な人材に高い賃金で長時間働いてもらうことができなくなっている。
新型コロナによる影響で、テレワークが定着しつつあるが、この問題を解決しないと女性の社会参加率や賃金上昇が頭打ちのままになってしまう。すべては財務省が古い税収システムに戦後一貫して頼りきってきた証しともいえる。政府は重い腰を上げて「こども未来戦略方針」の中で、補助金を出す形で年収の壁解消に向けて協議を進めているが、もっと抜本的な方向転換が必要だろう。
正規雇用と非正規雇用の格差
B正規雇用と非正規雇用の格差が激しすぎること
正規雇用と非正規雇用の格差は、いまや取り返しのつかない格差を生み出している。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」の「正規雇用労働者・非正規雇用労働者の賃金の推移(2019年、雇用形態別・時給(実質)ベース)」によると、その差は歴然だ。 ・一般労働者(正社員・正職員)……1976円 ・短時間労働者(正社員・正職員)……1602円 ・一般労働者(正社員・正職員以外)……1307円 ・短時間労働者(正社員・正職員以外)……1103円
時給でざっと1.8倍の格差があるわけだが、日本の賃金が一向に上昇しない土壌を作ってしまったといえる。ちなみに国際比較のデータで見ると、正規雇用に対する非正規雇用の時間あたり賃金の比率は日本では64.8%(賃金構造基本統計調査、2010年、2014年、2018年の平均、リクルートワークス研究所、以下同)。対して、イギリスは85.1%、フランス81.1%、イタリア78.8%、ドイツ73.6%となっている。
C賃金の男女間格差が絶望的に拡大していること
男女間格差の拡大も、日本は深刻な問題だ。OECDのデータから男女間賃金格差の現状を見ると、日本の男性賃金の中央値を100とした場合の女性賃金の中央値は77.5(2021年、以下同)。OECDの平均が88.4、ニュージーランドやノルウェー、デンマークといった90を超えている国と比較すると、日本の男女間賃金格差は大きな問題と言える。
男女間格差を解消することでも、平均賃金は国際的に上昇していくはずだが、そのためには上場企業が役員の男女比率の実態(9.1%、2022年7月末現在)を変えていくなど、企業や社会全体が男女間格差を是正する必要がある。
D労働組合の弱体化
日本の労働組合の「推定組織率」は16.5%(厚生労働省、労働組合基礎調査、2022年)となり、過去最低を記録したそうだ。この数値は、国際的に比べると実はそう低い数値でもない。ただ、以前と比べれば全労働者の8割超が労働組合に加入していない現状では、労働者の権利が守られているのか疑問になる。とりわけ、日本の労働組合は、欧米と違って企業別の単体の労働組合であり、欧州のように業種別の組合組織になっていない。
そのためにどうしても労働組合は企業に忖度してしまい、いつまでたっても賃金が上がらない仕組みが出来上がっている。業種別労働組合に転換するには「連合」など大きな労働組合が先頭に立って、その運動を進めていくべきなのだが、日本では大企業に勤める労働組合も、自分の地位を守ることで精いっぱいともいえる。
今後は、最低賃金「1500円」でも足りない?
日本の賃金が上昇するかどうかは、やはり物価の上昇がこのまま続くかどうかにかかっている。しかし、日本銀行の景気予測ではこの先、消費者物価指数(CPI)の上昇率は鈍化していくことになるそうだ。ただ、日銀の景気予測とは裏腹にCPIは食料品やエネルギーを中心に、今後も上昇が予想されており、業種によっては時給1500円でも人が集まらない状況が発生していると言われる。
そもそも最低賃金の時給1500円は、全国労働組合連合会(全労連)が「全国一律の最低賃金」を1500円に引き上げるように、以前から要求している。1500円は、1日8時間働いて暮らしていける最低限の数字であり、国際的に見てもほとんどの先進国が実現させており、現在の為替レートから考えても1500円が最低賃金として妥当な数字だと主張している。
そもそも現在の人手不足は今後もますます深刻化していくと考えられており、「2030年には700万人が不足する」(みずほリサーチ&テクノロジーズ「みずほリポート」)
人手不足は2030年時点で約700万人に」より)という試算もある。インフレも、この10月には酒やワインなどを中心に3385品目での値上げが予定されている(帝国データバンク)。日銀の予想を裏切ってインフレが継続する可能性が高い。とはいえ、賃金がすぐに上昇する可能性も当面なさそうだ。
最近になって、日本の賃金に関する情報が相次いで発表され話題になっている。例えば「OECD (経済協力開発機構)」が7月11日に発表した「2023年雇用見通し(Employment Outlook 2023)」では、日本の「最低賃金」の伸び率は、OECD加盟国平均の3分の1にしか満たないことが明らかになった。さらに、厚生労働省が7月7日に発表した、5月分の毎月勤労統計の「現金給与総額」によると、春闘で30年ぶりともいわれる上昇幅を見せたものの、消費者物価上昇率をひいた「実質賃金」の上昇率は前年比「−1.2%」となり、相変わらず賃金は伸びていないことを裏付ける形となった。どうしてこのような状況がわかっても国民は大きな声を上げず従順に黙って働いているのでしょう。OECDの「2023年雇用見通し」で注目されたのが、日本の最低賃金の伸び率が大きく見劣りしていることだ。名目賃金、実質賃金ともに平均値の3分の1にとどまり、現在政府は「全国加重平均1000円」を目指しているが、実現しても他の先進国とは大きな差がある。そもそも、日本の最低賃金は先進国の中では大きく見劣りしている。直近のデータでは、2023年1-4月平均の為替相場をもとに円ベースに換算した数値が発表されている(日本総研「全国平均1000円超時代の最低賃金の在り方」)。 フランス……1386円 ドイツ……1285円 英国……1131円 韓国……991円 日本……961円 アメリカ(カリフォルニア州)……2000円。ついに韓国にも抜かれたわけだが、3月15日に岸田首相が「政労使会議」の場で、「全国加重平均1000円」の最低賃金の実現を目指す、と発言している、さらに、4月12日に開催された「新しい資本主義実現会議」でも、最低賃金の地域間格差の是正に取り組む姿勢も示している。明らかに最低賃金レベルで低いと指摘されているし、1000円にも達していない状況を考え地域格差を是正して国民が安心して生活できるレベルの最低賃金を実現する努力をしないのでしょうか。これまで日本政府は、他国の最低賃金が上がっても「日本はデフレ」という免罪符を使って何もしてこなかったわけだが、ここにきていよいよ国際的な人材獲得競争が起きつつあり、対策が急務と指摘されるようになっている。インフレ率を考慮に入れた最低賃金を上げなくてはならなくなってきた、ということだ。OECDの雇用見通しにもあったが、ポーランドのようにインフレ率に応じて自動的に賃金が上がるようなシステムが日本にはないために、今後も激しいインフレに賃金の上昇が追いつかない可能性が高い。30年近くインフレの経験がないために、雇用者もそう簡単には賃金を上げようとしない。どうして他の国の政策を参考にして国民の生活を向上させるために対策を講じようとしないのでしょうか。日本の賃金が一向に上がらない理由をきちんと整理する必要があるだろう。大きく分けて、次のような理由が考えられる。日本の賃金が一向に上がらない5つの理由 @政府による賃金と物価連動によるサポートがないこと。正規、非正規の従業員の賃金が上がるためには、どうしても最低賃金の底上げが必要だが、日本では長い間、政府が複雑な最低賃金の制度を維持して、最低賃金を押さえつけてきた歴史がある。地域間格差を容認する地域別の最低賃金制度や、審議会を経て最低賃金を決定する複雑なプロセスが、その上昇を意図的に抑えてきた。消費者物価や企業収益、雇用情勢、春の賃上げ率といった厚生労働省から提供されたデータを用いて、経営側と労働側が調整して金額を決めるという曖昧な方法をとってきた。なぜ改善、変革しようとしないのでしょうか。労働側への配慮というより経営側に寄り添っているからではないでしょうか。男女間格差の拡大も、日本は深刻な問題だ。OECDのデータから男女間賃金格差の現状を見ると、日本の男性賃金の中央値を100とした場合の女性賃金の中央値は77.5(2021年、以下同)。OECDの平均が88.4、ニュージーランドやノルウェー、デンマークといった90を超えている国と比較すると、日本の男女間賃金格差は大きな問題と言える。男女間格差を解消することでも、平均賃金は国際的に上昇していくはずだが、そのためには上場企業が役員の男女比率の実態(9.1%、2022年7月末現在)を変えていくなど、企業や社会全体が男女間格差を是正する必要がある。残念ながら日本の場合は女性、非正規の人たちなの弱いたちの人たちへの政策が考えられていないのではないでしょうか。そもそも最低賃金の時給1500円は、全国労働組合連合会(全労連)が「全国一律の最低賃金」を1500円に引き上げるように、以前から要求している。1500円は、1日8時間働いて暮らしていける最低限の数字であり、国際的に見てもほとんどの先進国が実現させており、現在の為替レートから考えても1500円が最低賃金として妥当な数字だと主張している。1,500円に上げることができても安心して生活できるレベルなのでしょうか。2,000円になれば少しは安心できるかもしれません。経営者は働く人たちに感謝するというよりは自分たちが豊かな生活を送ることを優先して従業員を大事にしていないのではないでしょうか。人手不足は2030年時点で約700万人に」より)という試算もある。海外からの移民の受け入れを推進するなど人手不足に陥らないための対策も真剣に考えておくべきでしょう。
さらに、厚生労働省が7月7日に発表した、5月分の毎月勤労統計の「現金給与総額」によると、春闘で30年ぶりともいわれる上昇幅を見せたものの、消費者物価上昇率をひいた「実質賃金」の上昇率は前年比「−1.2%」となり、相変わらず賃金は伸びていないことを裏付ける形となった。
日本人の賃金が国際標準並みに高くなるのはいったいいつなのか……。専門家の中にはまだ当面無理、と言う人も多く、人手不足と叫ばれながらも、一向に上がらない賃金が我々の生活を追い詰めている。日本の賃金にまつわる最新事情を考えてみたい。
最低賃金は韓国より低く、欧米先進国の3分の2?
OECDの「2023年雇用見通し」で注目されたのが、日本の最低賃金の伸び率が大きく見劣りしていることだ。名目賃金、実質賃金ともに平均値の3分の1にとどまり、現在政府は「全国加重平均1000円」を目指しているが、実現しても他の先進国とは大きな差がある。
そもそも、日本の最低賃金は先進国の中では大きく見劣りしている。直近のデータでは、2023年1-4月平均の為替相場をもとに円ベースに換算した数値が発表されている(日本総研「全国平均1000円超時代の最低賃金の在り方」)。 フランス……1386円 ドイツ……1285円 英国……1131円 韓国……991円 日本……961円 アメリカ(カリフォルニア州)……2000円。
ついに韓国にも抜かれたわけだが、3月15日に岸田首相が「政労使会議」の場で、「全国加重平均1000円」の最低賃金の実現を目指す、と発言している、さらに、4月12日に開催された「新しい資本主義実現会議」でも、最低賃金の地域間格差の是正に取り組む姿勢も示している、
つまり、日本はまだ制度的に時給1000円の実現にも至っていないわけで、しかも日本の場合は、地域によって最低賃金が異なっており、これが最低賃金の伸びを阻んでいるという根拠となっている。コロナ禍から経済が復活する中で、人手不足が深刻になりつつある現在、日本の最低賃金の低さは大きな問題になっている。
OECDが、最低賃金制度を持つ30カ国のデータを集計した結果によると、日本は物価上昇を考慮しない名目で「6.5%増(2020年12月〜2023年5月の伸び率、以下同)」、物価上昇を考慮した実質では「0.7%増」にとどまっている。
一方の海外の最低賃金は、インフレ率に連動して最低賃金が上昇するポーランドの名目「34.2%」増を筆頭に、アメリカを除く29カ国の平均で名目「29.0%」の増加、実質でも「2.3%」の増加となっている(日経速報ニュース 2023年7月11日19:20より)。
これまで日本政府は、他国の最低賃金が上がっても「日本はデフレ」という免罪符を使って何もしてこなかったわけだが、ここにきていよいよ国際的な人材獲得競争が起きつつあり、対策が急務と指摘されるようになっている。インフレ率を考慮に入れた最低賃金を上げなくてはならなくなってきた、ということだ。
「実質賃金」のマイナス続く日本!
一方、平均賃金の統計でも厳しい結果が出ている。厚生労働省の5月分の毎月勤労統計の「現金給与総額」は、前年同月比「+2.5%」となり、前月の0.8%を大きく上回った。
春闘で妥結された賃金上昇の影響が、ここにきて出てきたといっていいのかもしれない。
とはいえ、消費者物価上昇率を引いた実質賃金は前年同月比「-1.2%」となり、前月の「-3.2%」から縮小したものの、依然として実質賃金は下落したままだ。マイナスになるのは14カ月連続。日本は、最低賃金が低いだけではなく、一般の会社員の平均賃金も実質的にマイナスになっているということがわかる。
ちなみに、連合が7月5日に発表した2023年の春闘の最終集計によれば、定期昇給込みの平均賃上げ率は「+3.58%」、賃金の内訳を明示している組合のベースアップ率の平均は「+2.12%」だった。大手企業の労働組合による平均賃上げ率が2〜3%台だとしても、実質賃金がマイナスということは、それを上回るインフレ率があったことになる。庶民にとっては厳しい日常が続いていることになる。
OECDの雇用見通しにもあったが、ポーランドのようにインフレ率に応じて自動的に賃金が上がるようなシステムが日本にはないために、今後も激しいインフレに賃金の上昇が追いつかない可能性が高い。30年近くインフレの経験がないために、雇用者もそう簡単には賃金を上げようとしない。
問題はこれからどうなるかだが、日本の賃金が一向に上がらない理由をきちんと整理する必要があるだろう。大きく分けて、次のような理由が考えられる。
日本の賃金が一向に上がらない5つの理由 @政府による賃金と物価連動によるサポートがないこと
正規、非正規の従業員の賃金が上がるためには、どうしても最低賃金の底上げが必要だが、日本では長い間、政府が複雑な最低賃金の制度を維持して、最低賃金を押さえつけてきた歴史がある。
地域間格差を容認する地域別の最低賃金制度や、審議会を経て最低賃金を決定する複雑なプロセスが、その上昇を意図的に抑えてきた。消費者物価や企業収益、雇用情勢、春の賃上げ率といった厚生労働省から提供されたデータを用いて、経営側と労働側が調整して金額を決めるという曖昧な方法をとってきた。
しかし、国際的には統一した最低賃金が当たり前であり、フランスやポーランドのように物価上昇と最低賃金上昇率が連動している国もある。欧州連合(EU)のように最低賃金は「平均賃金の60%」を目指すように、加盟国に制度設計を求めているところもある。2022年に成立した「最低賃金引上げ法」によるものだが、明確な水準を示したことで、政府と労働者との間の信頼関係が深まったとされる。
ちなみに、日本の平均賃金は約3万9700ドル(2021年、OECD)、そこから換算した最低賃金を60%とした場合、年収換算で2万3820ドルになる。月額にして1985ドル、現在の円レートを「1ドル=140円」で換算すると約28万円。1日8時間を25日間、月に200時間働いたとすれば、1400円の最低賃金が必要になる。この程度の収入がグローバルスタンダードと言っていいのかもしれない。
A社会保険料による「年収の壁」があるため
日本の最低賃金や平均賃金が伸びない原因のひとつが、いわゆる「106万円の壁」ともいわれる社会保険料制度の存在がある。夫の扶養家族に入っている主婦などが、パートタイマーなどで働く場合、年収の壁を越えてしまうと夫の社会保険料控除が使えなくなり、さらに健康保険税なども自分で支払わなくてはならなくなる。
この壁が原因で、ある程度稼がなければかえって損失を出してしまうために、高い報酬を求めて労働市場に参加する人が少なくなり、企業も優秀な人材に高い賃金で長時間働いてもらうことができなくなっている。
新型コロナによる影響で、テレワークが定着しつつあるが、この問題を解決しないと女性の社会参加率や賃金上昇が頭打ちのままになってしまう。すべては財務省が古い税収システムに戦後一貫して頼りきってきた証しともいえる。政府は重い腰を上げて「こども未来戦略方針」の中で、補助金を出す形で年収の壁解消に向けて協議を進めているが、もっと抜本的な方向転換が必要だろう。
正規雇用と非正規雇用の格差
B正規雇用と非正規雇用の格差が激しすぎること
正規雇用と非正規雇用の格差は、いまや取り返しのつかない格差を生み出している。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」の「正規雇用労働者・非正規雇用労働者の賃金の推移(2019年、雇用形態別・時給(実質)ベース)」によると、その差は歴然だ。 ・一般労働者(正社員・正職員)……1976円 ・短時間労働者(正社員・正職員)……1602円 ・一般労働者(正社員・正職員以外)……1307円 ・短時間労働者(正社員・正職員以外)……1103円
時給でざっと1.8倍の格差があるわけだが、日本の賃金が一向に上昇しない土壌を作ってしまったといえる。ちなみに国際比較のデータで見ると、正規雇用に対する非正規雇用の時間あたり賃金の比率は日本では64.8%(賃金構造基本統計調査、2010年、2014年、2018年の平均、リクルートワークス研究所、以下同)。対して、イギリスは85.1%、フランス81.1%、イタリア78.8%、ドイツ73.6%となっている。
C賃金の男女間格差が絶望的に拡大していること
男女間格差の拡大も、日本は深刻な問題だ。OECDのデータから男女間賃金格差の現状を見ると、日本の男性賃金の中央値を100とした場合の女性賃金の中央値は77.5(2021年、以下同)。OECDの平均が88.4、ニュージーランドやノルウェー、デンマークといった90を超えている国と比較すると、日本の男女間賃金格差は大きな問題と言える。
男女間格差を解消することでも、平均賃金は国際的に上昇していくはずだが、そのためには上場企業が役員の男女比率の実態(9.1%、2022年7月末現在)を変えていくなど、企業や社会全体が男女間格差を是正する必要がある。
D労働組合の弱体化
日本の労働組合の「推定組織率」は16.5%(厚生労働省、労働組合基礎調査、2022年)となり、過去最低を記録したそうだ。この数値は、国際的に比べると実はそう低い数値でもない。ただ、以前と比べれば全労働者の8割超が労働組合に加入していない現状では、労働者の権利が守られているのか疑問になる。とりわけ、日本の労働組合は、欧米と違って企業別の単体の労働組合であり、欧州のように業種別の組合組織になっていない。
そのためにどうしても労働組合は企業に忖度してしまい、いつまでたっても賃金が上がらない仕組みが出来上がっている。業種別労働組合に転換するには「連合」など大きな労働組合が先頭に立って、その運動を進めていくべきなのだが、日本では大企業に勤める労働組合も、自分の地位を守ることで精いっぱいともいえる。
今後は、最低賃金「1500円」でも足りない?
日本の賃金が上昇するかどうかは、やはり物価の上昇がこのまま続くかどうかにかかっている。しかし、日本銀行の景気予測ではこの先、消費者物価指数(CPI)の上昇率は鈍化していくことになるそうだ。ただ、日銀の景気予測とは裏腹にCPIは食料品やエネルギーを中心に、今後も上昇が予想されており、業種によっては時給1500円でも人が集まらない状況が発生していると言われる。
そもそも最低賃金の時給1500円は、全国労働組合連合会(全労連)が「全国一律の最低賃金」を1500円に引き上げるように、以前から要求している。1500円は、1日8時間働いて暮らしていける最低限の数字であり、国際的に見てもほとんどの先進国が実現させており、現在の為替レートから考えても1500円が最低賃金として妥当な数字だと主張している。
そもそも現在の人手不足は今後もますます深刻化していくと考えられており、「2030年には700万人が不足する」(みずほリサーチ&テクノロジーズ「みずほリポート」)
人手不足は2030年時点で約700万人に」より)という試算もある。インフレも、この10月には酒やワインなどを中心に3385品目での値上げが予定されている(帝国データバンク)。日銀の予想を裏切ってインフレが継続する可能性が高い。とはいえ、賃金がすぐに上昇する可能性も当面なさそうだ。
最近になって、日本の賃金に関する情報が相次いで発表され話題になっている。例えば「OECD (経済協力開発機構)」が7月11日に発表した「2023年雇用見通し(Employment Outlook 2023)」では、日本の「最低賃金」の伸び率は、OECD加盟国平均の3分の1にしか満たないことが明らかになった。さらに、厚生労働省が7月7日に発表した、5月分の毎月勤労統計の「現金給与総額」によると、春闘で30年ぶりともいわれる上昇幅を見せたものの、消費者物価上昇率をひいた「実質賃金」の上昇率は前年比「−1.2%」となり、相変わらず賃金は伸びていないことを裏付ける形となった。どうしてこのような状況がわかっても国民は大きな声を上げず従順に黙って働いているのでしょう。OECDの「2023年雇用見通し」で注目されたのが、日本の最低賃金の伸び率が大きく見劣りしていることだ。名目賃金、実質賃金ともに平均値の3分の1にとどまり、現在政府は「全国加重平均1000円」を目指しているが、実現しても他の先進国とは大きな差がある。そもそも、日本の最低賃金は先進国の中では大きく見劣りしている。直近のデータでは、2023年1-4月平均の為替相場をもとに円ベースに換算した数値が発表されている(日本総研「全国平均1000円超時代の最低賃金の在り方」)。 フランス……1386円 ドイツ……1285円 英国……1131円 韓国……991円 日本……961円 アメリカ(カリフォルニア州)……2000円。ついに韓国にも抜かれたわけだが、3月15日に岸田首相が「政労使会議」の場で、「全国加重平均1000円」の最低賃金の実現を目指す、と発言している、さらに、4月12日に開催された「新しい資本主義実現会議」でも、最低賃金の地域間格差の是正に取り組む姿勢も示している。明らかに最低賃金レベルで低いと指摘されているし、1000円にも達していない状況を考え地域格差を是正して国民が安心して生活できるレベルの最低賃金を実現する努力をしないのでしょうか。これまで日本政府は、他国の最低賃金が上がっても「日本はデフレ」という免罪符を使って何もしてこなかったわけだが、ここにきていよいよ国際的な人材獲得競争が起きつつあり、対策が急務と指摘されるようになっている。インフレ率を考慮に入れた最低賃金を上げなくてはならなくなってきた、ということだ。OECDの雇用見通しにもあったが、ポーランドのようにインフレ率に応じて自動的に賃金が上がるようなシステムが日本にはないために、今後も激しいインフレに賃金の上昇が追いつかない可能性が高い。30年近くインフレの経験がないために、雇用者もそう簡単には賃金を上げようとしない。どうして他の国の政策を参考にして国民の生活を向上させるために対策を講じようとしないのでしょうか。日本の賃金が一向に上がらない理由をきちんと整理する必要があるだろう。大きく分けて、次のような理由が考えられる。日本の賃金が一向に上がらない5つの理由 @政府による賃金と物価連動によるサポートがないこと。正規、非正規の従業員の賃金が上がるためには、どうしても最低賃金の底上げが必要だが、日本では長い間、政府が複雑な最低賃金の制度を維持して、最低賃金を押さえつけてきた歴史がある。地域間格差を容認する地域別の最低賃金制度や、審議会を経て最低賃金を決定する複雑なプロセスが、その上昇を意図的に抑えてきた。消費者物価や企業収益、雇用情勢、春の賃上げ率といった厚生労働省から提供されたデータを用いて、経営側と労働側が調整して金額を決めるという曖昧な方法をとってきた。なぜ改善、変革しようとしないのでしょうか。労働側への配慮というより経営側に寄り添っているからではないでしょうか。男女間格差の拡大も、日本は深刻な問題だ。OECDのデータから男女間賃金格差の現状を見ると、日本の男性賃金の中央値を100とした場合の女性賃金の中央値は77.5(2021年、以下同)。OECDの平均が88.4、ニュージーランドやノルウェー、デンマークといった90を超えている国と比較すると、日本の男女間賃金格差は大きな問題と言える。男女間格差を解消することでも、平均賃金は国際的に上昇していくはずだが、そのためには上場企業が役員の男女比率の実態(9.1%、2022年7月末現在)を変えていくなど、企業や社会全体が男女間格差を是正する必要がある。残念ながら日本の場合は女性、非正規の人たちなの弱いたちの人たちへの政策が考えられていないのではないでしょうか。そもそも最低賃金の時給1500円は、全国労働組合連合会(全労連)が「全国一律の最低賃金」を1500円に引き上げるように、以前から要求している。1500円は、1日8時間働いて暮らしていける最低限の数字であり、国際的に見てもほとんどの先進国が実現させており、現在の為替レートから考えても1500円が最低賃金として妥当な数字だと主張している。1,500円に上げることができても安心して生活できるレベルなのでしょうか。2,000円になれば少しは安心できるかもしれません。経営者は働く人たちに感謝するというよりは自分たちが豊かな生活を送ることを優先して従業員を大事にしていないのではないでしょうか。人手不足は2030年時点で約700万人に」より)という試算もある。海外からの移民の受け入れを推進するなど人手不足に陥らないための対策も真剣に考えておくべきでしょう。