日本をどうするのか真剣に議論して議論して結論を導き出すべきでは[2022年10月27日(Thu)]
JPpress2022年7月9日付け「“財政再建論者”小黒一正教授が指摘、「こうすれば日本経済は成長できる」」から、急激な円安とウクライナ危機による物価高が家計を直撃している。それなのに年金支給額は引き下げられるし、外国では上昇するのが当たり前の給与が、日本ではもう何十年間も足踏み状態を続けている。
明らかに日本経済はいま大きな軋みを上げている。そしてもっともしわ寄せを食らわされるのは庶民だ。
なぜこんな事態になってしまったのか。どうすれば日本経済は好転するのか――そうした疑問に答えてくれる新書が、このほど刊行された。
タイトルは『2050 日本再生への25のTODOリスト』(講談社+α新書)。著者は法政大学の小黒一正教授で、行政と学会を横断し、政界や財界とも対話しながら、これまで数々の政策立案にも関わり地道な改革を訴えてきた人物だ。
本書は、ゼロ成長から抜け出せなくなった日本経済をこの泥沼から脱却させる処方箋が細かく提示された内容となっている。
当たり前の改革を普通にできない日本
小黒氏のメッセージは明確だ。
「痛みの伴う改革を幅広く、より小さくして国民で分かち合うことで、沈没してゆく日本を成長軌道に戻したい」
もう「経済成長」とは縁遠くなってしまった日本を、その舞台に引き上げようというのだ。
現在の日本を覆っている停滞感を払しょくするために、小黒氏は本書で改革の全体像を示しつつ、個別具体的な改革を25の「TODOリスト」に集約している。
その提案を一言でまとめれば「科学的知見に基づき、スケジュール感を持って改革に着手しよう」ということだ。
これは民間企業がプロジェクトを行う上では当たり前のことだが、様々な利害が絡む政治や行政の世界では、それができていない――というのが小黒氏の主張である。それが噴出したのが本書の冒頭で示されている新型コロナ対策だったという。
世界中がPCR検査を拡大する中で、日本はクラスター対策に固執し、PCR検査を抑制し続けた。その背景には、厚労省が誤った知見に基づき「PCR検査で陽性反応のあった患者の半分以上が偽陽性である」との見解を永田町に振りまいたからだ、と著者は指摘する。「偽陽性」がPCR検査で「陽性」と判定されれば、本当は感染者じゃない人まで病院に殺到して医療崩壊するから誰もがPCR検査を受けられる態勢にしたくなかった、というわけだ。
ところが実際には陽性的中率は9割というのが医療専門家のコンセンサスであり、実際に医師会の一部からもPCR検査を増やすべきとの声が上がっていた。
こうした誤った政策が横行するのは、エビデンスを重視せず、思い込みや利害によって政策決定されるからであり、これがあらゆる改革の妨げになっているのではないか。これを改め、エビデンスに基づいた民主的な政策議論を定着させ、現実に即した改革を促したいというのが、本書の一貫した理念であり、小黒氏の強い願いだ。
不公平の象徴「年金」
その思いは、小黒氏が長らく心血を注いできた社会保障政策、とりわけ年金問題に集約されている。
現在の40代から将来世代(以後、「後世代」という)への過度な負担の押し付けがある。現行制度では、後世代の負担を軽減するためにマクロ経済スライドを導入し、物価や賃金の状況によって支給する年金額を調整する仕組みになっているが、実はほとんど機能していないことはあまり知られていない。
後世代の負担は「暗黙の債務」と呼ばれている。暗黙の債務とは「年金制度が完全積立方式ならば存在する必要がある積立額と実際の積立額の差額」のことで、見えない形だが、これは現役世代と将来世代が負担する必要がある。この債務は年金制度で発生する世代間格差とも深く関係し、小黒氏によれば、後世代(現役世代の多くや将来世代)では、年金制度で老後に受ける受益よりも現役世代の負担の方が重くなっているという。
マクロ経済スライドが導入された04年には暗黙の債務は690兆円だった。この後世代の負担を軽減するために同制度が導入されたはずなのに、その暗黙の債務は一貫して増え続けた。小黒氏の試算によれば、その額は2019年に1110兆円に達しているという。
マクロ経済スライドは過去3回発動された。だが、「暗黙の債務」を軽減するどころか、むしろ増加傾向にある。
必然的に後世代の年金の削られ方は現在の受給世代に比べてケタ違いとなり、最悪のケースで半減する可能性もあるという。
こうした不公平を改善するその方法論が本書では詳しく解説されている。
どうしたら世代間の不公平を解消できるか
一方で、本書では公的年金制度に頼るだけでなく国民一人ひとりの備えの重要性も説かれている。
NISAやiDeCoを活用しての現役時代からの老後資産形成はその強力なツールの一つだが、これとて現在の加入者はサラリーマンを中心にした880万人にすぎない。これは約6900万人の就労者の7分の1程度だ。このままでは資産形成が可能な人とそうでない人の格差は際限なく広がりかねないという。
だからこそ、年金の制度改革に加えて、NISAやiDeCoなどまで見通した横断的な政策の必要性を小黒氏は本書の中で指摘している。
本書の政策提言には、現役世代が過度な財政的不公平にさらされている現状を解消しようという狙いもある。不公平を払しょくし、現役世代や将来世代、さらに貧困に陥っている人々に応分の再分配を実現するべきと小黒氏は訴えている。
財政規律派の政策通
財務省出身の小黒氏は、しばしば「財政規律派」に色分けされる。
確かに大まかに言えば、小黒氏は財政規律派にくみしていると言えるだろう。そうした発言や著書も多い。そのため、財政出動や積極的な金融政策を主張するリフレ派からは「緊縮財政論者の代表格」として批判されることもある。
だが、財政問題や経済政策について過去に何度も小黒氏を取材し、意見を聞いてきた私に言わせてもらえば、小黒氏は必ずしも「緊縮財政一本鎗」ではないと感じている。
小黒氏は、時々の経済、政治的状況に応じ、臨機応変に社会課題に対処する政策を立案してきた。例えば、コロナ禍における一人10万円の定額給付金も、実は小黒氏の提言が大きな影響を与えて実現した制度だ。要するに、有事の財政支出はためらわないが、平時には財政規律を求めるという、当たり前の政策を小黒氏は愚直に提言してきた。少なくとも私はそういう印象を持っている。
社会保障費の膨張の問題において、財政民主主義の立場から、社会保障費の支出を抑えながら公平な負担と受益を実現する方策を提唱し続けているのもその例だろう。
小黒氏は、難解で複雑な社会保障政策に精通し、一方で経済成長分野と組み合わせながら政策を検討している。マクロの財政学者でありながら、ミクロの経済にも通じている数少ない政策立案のプロと言っていいだろう。そのため永田町には与野党を問わず、小黒氏に政策アドバイスを求める政治家が少なくはない。
しかし、だからといってアドバイスした政策がすべて実現に至るわけではない。何度も改革がとん挫する様を目の当たりにし、その難しさも身をもって経験してきた。その教訓も、本書には生かされている。
棚上げされ続けた改革議論
なぜ改革は実行されないのだろうか。
小黒氏によれば、それは「一つの改革を提示すれば、痛みを伴う既得権層から間髪入れずに批判が湧き上がり、炎上してしまう」からだという。
アベノミクスが「第一の矢」として金融政策、「第二の矢」として財政政策、そして「第三の矢」として構造改革を掲げていたことを忘れた人はいないだろう。「第一の矢」、「第二の矢」は実施され、それなりにインパクトもあった。しかし「第三の矢」については道半ばでとん挫した印象はぬぐえない。結局アベノミクスも、構造改革に向きあう難しさを改めて露呈した、と評価することもできる。
だからこそ小黒氏は「本書では、改革の全体像を俯瞰することにこだわった」という。改革の全体像を最初にしっかり示せば、各論で示された社会保障や経済成長の処方箋は「やるしかないもの」という思いを強くさせる。
小黒氏は言う。
「マクロ的な空中戦だけでは見えてこない改革議論の根底にある問題を国民にも見てほしい」
急激な円安とウクライナ危機による物価高が家計を直撃している。それなのに年金支給額は引き下げられるし、外国では上昇するのが当たり前の給与が、日本ではもう何十年間も足踏み状態を続けている。明らかに日本経済はいま大きな軋みを上げている。そしてもっともしわ寄せを食らわされるのは庶民だ。経済という場合には単に経済だけでなく政治がしっかり機能しているか検証しなければならないでしょう。しわ寄せを庶民が食ってしまうのでは何とかしなければならないでしょう。「痛みの伴う改革を幅広く、より小さくして国民で分かち合うことで、沈没してゆく日本を成長軌道に戻したい」もう「経済成長」とは縁遠くなってしまった日本を、その舞台に引き上げようというのだ。政治家が経済成長だけを言っていることに違和感を覚える国民は少なくないでしょう。陽性的中率は9割というのが医療専門家のコンセンサスであり、実際に医師会の一部からもPCR検査を増やすべきとの声が上がっていた。こうした誤った政策が横行するのは、エビデンスを重視せず、思い込みや利害によって政策決定されるからであり、これがあらゆる改革の妨げになっているのではないか。重要政策を判断している政治が間違っていなかったか検証を行わない日本は問題ではないでしょうか。現在の40代から将来世代(以後、「後世代」という)への過度な負担の押し付けがある。現行制度では、後世代の負担を軽減するためにマクロ経済スライドを導入し、物価や賃金の状況によって支給する年金額を調整する仕組みになっているが、実はほとんど機能していないことはあまり知られていない。後世代の負担は「暗黙の債務」と呼ばれている。暗黙の債務とは「年金制度が完全積立方式ならば存在する必要がある積立額と実際の積立額の差額」のことで、見えない形だが、これは現役世代と将来世代が負担する必要がある。この債務は年金制度で発生する世代間格差とも深く関係し、小黒氏によれば、後世代(現役世代の多くや将来世代)では、年金制度で老後に受ける受益よりも現役世代の負担の方が重くなっているという。マクロ経済スライドが導入された04年には暗黙の債務は690兆円だった。この後世代の負担を軽減するために同制度が導入されたはずなのに、その暗黙の債務は一貫して増え続けた。小黒氏の試算によれば、その額は2019年に1110兆円に達しているという。マクロ経済スライドは過去3回発動された。だが、「暗黙の債務」を軽減するどころか、むしろ増加傾向にある。以上のことを国民にしっかり説明しないのはなぜでしょう。小黒氏によれば、それは「一つの改革を提示すれば、痛みを伴う既得権層から間髪入れずに批判が湧き上がり、炎上してしまう」からだという。アベノミクスが「第一の矢」として金融政策、「第二の矢」として財政政策、そして「第三の矢」として構造改革を掲げていたことを忘れた人はいないだろう。「第一の矢」、「第二の矢」は実施され、それなりにインパクトもあった。しかし「第三の矢」については道半ばでとん挫した印象はぬぐえない。結局アベノミクスも、構造改革に向きあう難しさを改めて露呈した、と評価することもできる。だからこそ小黒氏は「本書では、改革の全体像を俯瞰することにこだわった」という。改革の全体像を最初にしっかり示せば、各論で示された社会保障や経済成長の処方箋は「やるしかないもの」という思いを強くさせる。小黒氏は言う。マクロ的な空中戦だけでは見えてこない改革議論の根底にある問題を国民にも見てほしい」日本はどうなるのでしょうか。どうするのか国民的議論を巻き起こして自分事と考え国民のための政策を推進するようにしなければならないでしょう。
明らかに日本経済はいま大きな軋みを上げている。そしてもっともしわ寄せを食らわされるのは庶民だ。
なぜこんな事態になってしまったのか。どうすれば日本経済は好転するのか――そうした疑問に答えてくれる新書が、このほど刊行された。
タイトルは『2050 日本再生への25のTODOリスト』(講談社+α新書)。著者は法政大学の小黒一正教授で、行政と学会を横断し、政界や財界とも対話しながら、これまで数々の政策立案にも関わり地道な改革を訴えてきた人物だ。
本書は、ゼロ成長から抜け出せなくなった日本経済をこの泥沼から脱却させる処方箋が細かく提示された内容となっている。
当たり前の改革を普通にできない日本
小黒氏のメッセージは明確だ。
「痛みの伴う改革を幅広く、より小さくして国民で分かち合うことで、沈没してゆく日本を成長軌道に戻したい」
もう「経済成長」とは縁遠くなってしまった日本を、その舞台に引き上げようというのだ。
現在の日本を覆っている停滞感を払しょくするために、小黒氏は本書で改革の全体像を示しつつ、個別具体的な改革を25の「TODOリスト」に集約している。
その提案を一言でまとめれば「科学的知見に基づき、スケジュール感を持って改革に着手しよう」ということだ。
これは民間企業がプロジェクトを行う上では当たり前のことだが、様々な利害が絡む政治や行政の世界では、それができていない――というのが小黒氏の主張である。それが噴出したのが本書の冒頭で示されている新型コロナ対策だったという。
世界中がPCR検査を拡大する中で、日本はクラスター対策に固執し、PCR検査を抑制し続けた。その背景には、厚労省が誤った知見に基づき「PCR検査で陽性反応のあった患者の半分以上が偽陽性である」との見解を永田町に振りまいたからだ、と著者は指摘する。「偽陽性」がPCR検査で「陽性」と判定されれば、本当は感染者じゃない人まで病院に殺到して医療崩壊するから誰もがPCR検査を受けられる態勢にしたくなかった、というわけだ。
ところが実際には陽性的中率は9割というのが医療専門家のコンセンサスであり、実際に医師会の一部からもPCR検査を増やすべきとの声が上がっていた。
こうした誤った政策が横行するのは、エビデンスを重視せず、思い込みや利害によって政策決定されるからであり、これがあらゆる改革の妨げになっているのではないか。これを改め、エビデンスに基づいた民主的な政策議論を定着させ、現実に即した改革を促したいというのが、本書の一貫した理念であり、小黒氏の強い願いだ。
不公平の象徴「年金」
その思いは、小黒氏が長らく心血を注いできた社会保障政策、とりわけ年金問題に集約されている。
現在の40代から将来世代(以後、「後世代」という)への過度な負担の押し付けがある。現行制度では、後世代の負担を軽減するためにマクロ経済スライドを導入し、物価や賃金の状況によって支給する年金額を調整する仕組みになっているが、実はほとんど機能していないことはあまり知られていない。
後世代の負担は「暗黙の債務」と呼ばれている。暗黙の債務とは「年金制度が完全積立方式ならば存在する必要がある積立額と実際の積立額の差額」のことで、見えない形だが、これは現役世代と将来世代が負担する必要がある。この債務は年金制度で発生する世代間格差とも深く関係し、小黒氏によれば、後世代(現役世代の多くや将来世代)では、年金制度で老後に受ける受益よりも現役世代の負担の方が重くなっているという。
マクロ経済スライドが導入された04年には暗黙の債務は690兆円だった。この後世代の負担を軽減するために同制度が導入されたはずなのに、その暗黙の債務は一貫して増え続けた。小黒氏の試算によれば、その額は2019年に1110兆円に達しているという。
マクロ経済スライドは過去3回発動された。だが、「暗黙の債務」を軽減するどころか、むしろ増加傾向にある。
必然的に後世代の年金の削られ方は現在の受給世代に比べてケタ違いとなり、最悪のケースで半減する可能性もあるという。
こうした不公平を改善するその方法論が本書では詳しく解説されている。
どうしたら世代間の不公平を解消できるか
一方で、本書では公的年金制度に頼るだけでなく国民一人ひとりの備えの重要性も説かれている。
NISAやiDeCoを活用しての現役時代からの老後資産形成はその強力なツールの一つだが、これとて現在の加入者はサラリーマンを中心にした880万人にすぎない。これは約6900万人の就労者の7分の1程度だ。このままでは資産形成が可能な人とそうでない人の格差は際限なく広がりかねないという。
だからこそ、年金の制度改革に加えて、NISAやiDeCoなどまで見通した横断的な政策の必要性を小黒氏は本書の中で指摘している。
本書の政策提言には、現役世代が過度な財政的不公平にさらされている現状を解消しようという狙いもある。不公平を払しょくし、現役世代や将来世代、さらに貧困に陥っている人々に応分の再分配を実現するべきと小黒氏は訴えている。
財政規律派の政策通
財務省出身の小黒氏は、しばしば「財政規律派」に色分けされる。
確かに大まかに言えば、小黒氏は財政規律派にくみしていると言えるだろう。そうした発言や著書も多い。そのため、財政出動や積極的な金融政策を主張するリフレ派からは「緊縮財政論者の代表格」として批判されることもある。
だが、財政問題や経済政策について過去に何度も小黒氏を取材し、意見を聞いてきた私に言わせてもらえば、小黒氏は必ずしも「緊縮財政一本鎗」ではないと感じている。
小黒氏は、時々の経済、政治的状況に応じ、臨機応変に社会課題に対処する政策を立案してきた。例えば、コロナ禍における一人10万円の定額給付金も、実は小黒氏の提言が大きな影響を与えて実現した制度だ。要するに、有事の財政支出はためらわないが、平時には財政規律を求めるという、当たり前の政策を小黒氏は愚直に提言してきた。少なくとも私はそういう印象を持っている。
社会保障費の膨張の問題において、財政民主主義の立場から、社会保障費の支出を抑えながら公平な負担と受益を実現する方策を提唱し続けているのもその例だろう。
小黒氏は、難解で複雑な社会保障政策に精通し、一方で経済成長分野と組み合わせながら政策を検討している。マクロの財政学者でありながら、ミクロの経済にも通じている数少ない政策立案のプロと言っていいだろう。そのため永田町には与野党を問わず、小黒氏に政策アドバイスを求める政治家が少なくはない。
しかし、だからといってアドバイスした政策がすべて実現に至るわけではない。何度も改革がとん挫する様を目の当たりにし、その難しさも身をもって経験してきた。その教訓も、本書には生かされている。
棚上げされ続けた改革議論
なぜ改革は実行されないのだろうか。
小黒氏によれば、それは「一つの改革を提示すれば、痛みを伴う既得権層から間髪入れずに批判が湧き上がり、炎上してしまう」からだという。
アベノミクスが「第一の矢」として金融政策、「第二の矢」として財政政策、そして「第三の矢」として構造改革を掲げていたことを忘れた人はいないだろう。「第一の矢」、「第二の矢」は実施され、それなりにインパクトもあった。しかし「第三の矢」については道半ばでとん挫した印象はぬぐえない。結局アベノミクスも、構造改革に向きあう難しさを改めて露呈した、と評価することもできる。
だからこそ小黒氏は「本書では、改革の全体像を俯瞰することにこだわった」という。改革の全体像を最初にしっかり示せば、各論で示された社会保障や経済成長の処方箋は「やるしかないもの」という思いを強くさせる。
小黒氏は言う。
「マクロ的な空中戦だけでは見えてこない改革議論の根底にある問題を国民にも見てほしい」
急激な円安とウクライナ危機による物価高が家計を直撃している。それなのに年金支給額は引き下げられるし、外国では上昇するのが当たり前の給与が、日本ではもう何十年間も足踏み状態を続けている。明らかに日本経済はいま大きな軋みを上げている。そしてもっともしわ寄せを食らわされるのは庶民だ。経済という場合には単に経済だけでなく政治がしっかり機能しているか検証しなければならないでしょう。しわ寄せを庶民が食ってしまうのでは何とかしなければならないでしょう。「痛みの伴う改革を幅広く、より小さくして国民で分かち合うことで、沈没してゆく日本を成長軌道に戻したい」もう「経済成長」とは縁遠くなってしまった日本を、その舞台に引き上げようというのだ。政治家が経済成長だけを言っていることに違和感を覚える国民は少なくないでしょう。陽性的中率は9割というのが医療専門家のコンセンサスであり、実際に医師会の一部からもPCR検査を増やすべきとの声が上がっていた。こうした誤った政策が横行するのは、エビデンスを重視せず、思い込みや利害によって政策決定されるからであり、これがあらゆる改革の妨げになっているのではないか。重要政策を判断している政治が間違っていなかったか検証を行わない日本は問題ではないでしょうか。現在の40代から将来世代(以後、「後世代」という)への過度な負担の押し付けがある。現行制度では、後世代の負担を軽減するためにマクロ経済スライドを導入し、物価や賃金の状況によって支給する年金額を調整する仕組みになっているが、実はほとんど機能していないことはあまり知られていない。後世代の負担は「暗黙の債務」と呼ばれている。暗黙の債務とは「年金制度が完全積立方式ならば存在する必要がある積立額と実際の積立額の差額」のことで、見えない形だが、これは現役世代と将来世代が負担する必要がある。この債務は年金制度で発生する世代間格差とも深く関係し、小黒氏によれば、後世代(現役世代の多くや将来世代)では、年金制度で老後に受ける受益よりも現役世代の負担の方が重くなっているという。マクロ経済スライドが導入された04年には暗黙の債務は690兆円だった。この後世代の負担を軽減するために同制度が導入されたはずなのに、その暗黙の債務は一貫して増え続けた。小黒氏の試算によれば、その額は2019年に1110兆円に達しているという。マクロ経済スライドは過去3回発動された。だが、「暗黙の債務」を軽減するどころか、むしろ増加傾向にある。以上のことを国民にしっかり説明しないのはなぜでしょう。小黒氏によれば、それは「一つの改革を提示すれば、痛みを伴う既得権層から間髪入れずに批判が湧き上がり、炎上してしまう」からだという。アベノミクスが「第一の矢」として金融政策、「第二の矢」として財政政策、そして「第三の矢」として構造改革を掲げていたことを忘れた人はいないだろう。「第一の矢」、「第二の矢」は実施され、それなりにインパクトもあった。しかし「第三の矢」については道半ばでとん挫した印象はぬぐえない。結局アベノミクスも、構造改革に向きあう難しさを改めて露呈した、と評価することもできる。だからこそ小黒氏は「本書では、改革の全体像を俯瞰することにこだわった」という。改革の全体像を最初にしっかり示せば、各論で示された社会保障や経済成長の処方箋は「やるしかないもの」という思いを強くさせる。小黒氏は言う。マクロ的な空中戦だけでは見えてこない改革議論の根底にある問題を国民にも見てほしい」日本はどうなるのでしょうか。どうするのか国民的議論を巻き起こして自分事と考え国民のための政策を推進するようにしなければならないでしょう。



