皆さんこんにちは!
船の科学館に勤める学芸員(ペンネーム:アクエリアス)です。
8月もついに最終日!
思う存分に夏を満喫できましたでしょうか。
さて、「海」と聞くと、皆さんは何を思い浮かべますか?
青い海、白い波、水平線に沈む夕日。
まずこうした「景色」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
ですが、「海」の魅力はそれだけではありません。

絵葉書「しおさい」
作:鈴木政輝
寸法:101×148
所蔵:船の科学館
波の音、潮の香り、頬にあたる海風、足元の砂……。
私たちは海を、目だけで感じているわけではありません。
今回は、そんな海を感じることについて考えるきっかけとなるマンガ、香川まさひと氏原作・若狭星氏作画の『ましろ日』をご紹介します!
『ましろ日』は、現代の広島を舞台に、さまざまな思いや苦難を抱えながら生きる人々を描いたヒューマンドラマです。
まずは、作品に登場する主な登場人物を見てみましょう。
■主な登場人物
○加瀬ひかり(かせ ひかり)
安芸信用金庫・広島支店で営業として働く女性。
明るく行動力があり、周囲を自然と巻き込んでいく世話好きな性格。○田所順平(たどころ じゅんぺい)
合唱部に所属している高校2年生。
好奇心が強く、人の気持ちや変化にもよく気がつく素直な少年。○若山正太郎(わかやま しょうたろう)
中学卒業後、病院清掃の仕事に就いている16歳の少年。
物静かで真面目、自分なりの考えをしっかりと持つ青年。■あらすじ
舞台は現代の広島。
加瀬ひかり、田所順平、若山正太郎の3人は、同じ町に暮らしながら、物語の始まりではまだ互いを知りません。
それぞれが日常を送る中、やがて人との出会いやさまざまな出来事を通じて、その人生が少しずつ交わっていきます。
物語の中では、不慮の事故によって両目の視力を失った男性・山崎と、ブラインドマラソンとの出会いも大きく描かれます。
視覚障がいのある人々や、その周囲の人々が、それぞれの立場や個性を持ちながら関わり合い、自分なりの生き方を見つけていく姿を描いた作品です。
■海は「見る」だけのもの?
『ましろ日』には、「音」「風」「金星」、そして第5光には「海」と題されたエピソードがあります。
そこで投稿者が思ったのが、「そもそも私たちは、どうやって海を感じているのだろう?」ということです。
海辺に立ってみると、波が寄せては返す音が聞こえます。
風が頬にあたり、潮の香りを感じることもあります。
砂浜であれば、足元から砂の感触も伝わってきます。
つまり、海を感じる方法は「見る」ことだけではありません。
人によって得意な感覚や情報の受け取り方は異なります。
同じ海辺に立っていても、それぞれが少し違った「海」を感じているのかもしれませんね。
■マンガなのに、絵を「見なくても」楽しめる?
そして『ましろ日』には、作品そのものにも興味深い取り組みがあります。
マンガといえば、絵と文字を「見る」ことで楽しむものと思われがちです。
しかし、本作の取材を続ける中で、視覚障がいのある方から「マンガを読んでみたい」という声が寄せられました。
そこで小学館では、マンガの制作に使われた原作シナリオを公開し、代読や音声読み上げソフトなどを利用して作品を楽しめるようにしています。
「マンガは目で読むもの」という一見当たり前に思えることも、方法を少し変えることで、楽しみ方の選択肢を増やすことができるのですね。
■「できる方法」を増やしていく
これは、作品の大きな題材であるブラインドマラソンにも通じています。
ブラインドマラソンでは、視覚障がいのあるランナーと伴走者がロープを持ち、周囲の状況などを伝えながら一緒に走ります。
作品内でも、伴走者が言葉で周囲の状況を伝える様子が描かれています。
大切なのは、「できない」と決めてしまうのではなく、「どんな方法ならできるだろう?」と考えること。
そして、人それぞれの違いを前提として、方法や選択肢を増やしていくこと。
これは、海や船について考えるときにも大切な視点です。
■船を知る方法も、一つではない?
ここで、船の科学館らしく「船」について考えてみましょう。
船の姿を知る方法といえば、実物を見たり、写真や絵を見たりすることを思い浮かべます。
例えば、当館が所蔵する船舶模型も、船の形や構造を立体的に知ることができる資料です。

船舶模型:遣唐使船(1/20)
寸法:1,655×490×1,010
製作:船型科学研究所
監修:石井謙治
所蔵:船の科学館
通常、収蔵資料そのものに触れることはできませんが、同じ形を再現した「触れる模型」があれば、船首から船尾まで指でたどったり、甲板や船体の形を確かめたりすることもできます。
また、文字による解説だけでなく、点字や音声によって情報を伝える方法もあります。
こうした工夫は、特定の人だけのためのものではありません。
見る、聞く、読む、触れるといった様々な方法が用意されていれば、一人ひとりが自分に合った方法で海や船について知ることができます。
つまり、触察模型や音声解説などは、誰か一人のための「特別な方法」ではなく、さまざまな人が自分に合った方法を選べるようにするための選択肢とも考えることができるのではないでしょうか。
■海を楽しむためのバリアフリー
海を楽しむには、海辺へ行ったり、船に乗ったりするまでの過程も大切です。
旅客船を利用する場合には、「乗船口はどこにあるのか」「船は何時に出るのか」「緊急時にはどうすればよいのか」といった情報も必要になります。
段差をなくすだけでなく、点字や音声案内、分かりやすい表示など、さまざまな人が必要な情報を得られる環境をつくることもバリアフリーの一つです。
誰もが同じ方法を使いやすいとは限りません。
だからこそ、一つの方法に合わせてもらうのではなく、それぞれが選べる方法を増やしていくことが大切なのです。
■あなたは、どんな方法で海を感じる?
水平線を眺める。
波の音を聞く。
潮の香りを感じる。
海風を肌で感じる。
いつも見ている海にも、これまで気づかなかった音や風、香りが見つかるかもしれません。
それぞれに合った方法で、海を知り、楽しむことができる。
そんな環境を考えていくことも、「海の学び」の大切な一つなのではないでしょうか。
実は船の科学館でも、「見る」だけではない海の学びに取り組んでいます。

イベント「宗谷にタッチ!さわって学ぶガイドツアー」
昨年度実施の様子
視覚障がいのある方を対象とした「宗谷にタッチ!さわって学ぶガイドツアー」では、初代南極観測船“宗谷”を実際に歩きながら、船内や模型、南極の氷などに触れ、音や匂いも感じながら船について学びます。
実物の船だからこそ感じられる大きさや質感、音、匂い。
様々な感覚を使うことで、船や海の世界をより身近に感じることができます。
海や船を感じ、知るための方法は、一つではありません。
マンガ『ましろ日』をきっかけに、皆さんも自分なりの「海の感じ方」に目を向けてみてはいかがでしょうか。
いつもの海にも、これまで気づかなかった新しい魅力が見つかるかもしれませんね。
今回はここまで!次回をお楽しみに!
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