皆さんこんにちは!
船の科学館に勤める学芸員(ペンネーム:アクエリアス)です。
初夏の気配を感じる季節となりました。
海辺では心地よい潮風が感じられる時期ですね。
さて今回は、近藤ようこ氏によるマンガ作品『五色の舟』と、日本各地に存在した家船(えぶね)の人々についてご紹介したいと思います。
『五色の舟』は、作家・津原泰水氏の短編小説を原作とした作品で、近藤ようこ氏によってマンガ化されました。
2014年には、第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門にて大賞を受賞しています。
物語の舞台は戦時下の日本。
見世物小屋の一座が、差別や迫害を受けながらも、五色の舟と呼ばれる船で各地を巡っていきます。
幻想的でどこか寓話のような雰囲気を持ちながらも、その背景には「移動しながら暮らす人々」への視線が描かれている点が印象的です。
■主な登場人物
・和郎(かずお) :両腕がなく、耳が不自由な少年。
足で絵を描く才能を持ち、不思議な力を秘める。
・雪之助(ゆきのすけ):脱疽で両足を失った元花形旅役者。
一座の中心的存在で、仲間達を支える存在
・昭助(しょうすけ) :小柄な体ながら怪力を持つ青年。
“怪力一寸法師”として見世物を披露
・清子(きよこ) :膝関節の障害を抱える女性。
“牛女”として出演
・桜(さくら) :結合双生児として生まれ分離手術を受けた女性。
一座では“蛇女”として芸を見せる■あらすじ
戦時下の日本を舞台に、身体に障がいを持つ者たちによる旅回りの見世物小屋一座は、“五色の舟”と呼ばれる船で各地を巡っていました。しかし時代の変化と戦争の影響により、一座は次第に行き場を失っていきます。差別や迫害を受けながらも支え合い、生き抜こうとする人々の姿を幻想的かつ寓話的に描いた作品です。
本作を読んで思い出されるのが、家船(えぶね)と呼ばれる人々の存在です。
家船とは、近世から近代にかけて、船を生活の場として水上で暮らしていた漂泊漁民、あるいはその船のことを指します。
7世紀以前、海辺に住み、海産物を貢納していた漁民・海民集団「あまべ」(海部または海人部)にルーツがあるとも考えられています。
能地(広島県)や平戸(長崎県)を中心に、瀬戸内海沿岸や西日本各地の沿岸部では、1970年代頃までこうした暮らしが見られました。
漁業や運搬を生業とし、船で移動しながら生活する人々は、陸上に定住する人々とは異なる独自の文化を形成していました。

絵葉書〔増水した運河 家船〕
撮影者不明
寸法:140×90
所蔵:船の科学館
しかし一方で、家船はしばしば「定住しない存在」として差別や偏見の対象となることもありました。
これは、日本に限らず世界各地の移動民にも共通して見られる現象です。
『五色の舟』の中で描かれる一座の人々もまた、社会の周縁を漂いながら生きています。
海の上を移動しながら暮らし、土地に縛られない自由な生活が特徴ですが、同時にどこにも完全には受け入れられない不安定さも持ち合わせています。
本作には、そうした“漂泊する者たち”の姿が重ねられているようにも感じられます。
船は本来、人や物を運ぶためのものです。
しかし家船にとって、船は単なる移動手段ではなく、家族と暮らす家そのものでもあったのです。
船を「暮らしの場」として捉える視点は、海と人との関わりを考えるうえで非常に興味深いものです。
『五色の舟』は幻想的な作品でありながら、その奥には、実際に存在した水上生活者たちの記憶とも重なる世界が描かれているのかもしれません。
また、本作の最後の展開を皆さんはどう考えますか。
「舟を乗り換える」とはどういうことなのか、「かりそめの自分」とは一体何者なのでしょうか。
人の顔をした牛「くだん」に、「みんなが幸せになれる世界」を望んだ桜の願いは、叶ったといえるのでしょうか。
読み手に深く考えさせる構成となっており、短編とは思えない濃密な作品です。
優しく儚い描写にもご注目ください。
あわせて、津原泰水氏による原作小説もぜひご覧ください。
今回はここまで!次回をお楽しみに!
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