1989(平成元)年3月24日、貨物油タンクのダブルハル(二重船殻)構造の契機となった大型タンカー油流出事故が発生しました。
米国籍・米国エクソン社のVLCC(20〜29万重量トン級のオイルタンカー)「エクソン・バルディス」(214,861重量トン・船齢3年)は、アラスカ州バルディス石油基地から原油(約20万トン)を満載して、ロサンゼルスに向けて航行中、1989(平成元)年3月24日未明に、アラスカのプリンス・ウイリアム湾で座礁し、貨物油タンク11のうち8タンク、バラストタンク5のうち3タンクが損傷しました。
事故発生後、数時間のうちに船底破口部から流出した油は37,000トンに及び、2,400キロメートルにわたる海岸が汚染され、米国沿岸における過去最大級の甚大な海洋汚染を引き起こしました。
また、この地域は、海鳥・ラッコ・アザラシ・サケ・ニシン等の生息地であったため、これまで海上で発生した最大級の人為的環境破壊とも言われました。
「トリー・キャニオン」油流出事故(1967年3月18日)を契機に、1973年に海洋汚染防止条約(MARPOL)が締結されましたが、その後も大型タンカーの油流出事故が相次いで起きていました。
そこで、この「エクソン・バルディス」事故を契機に、国際海事機関(IMO)では事故の再発防止対策が検討されました。
この事故の翌年1990(平成2)年には、大規模な油流出事故への国際協力の枠組みを定めたOPRC条約(※1)が締結され、さらに、1992(平成4)年に海洋汚染防止条約(MARPOL)(※2)が改正され、1996年以降に建造する5,000重量トン以上のタンカーは、船体をダブルハル(二重船殻)構造にすることが強制化され、現存する大型シングルハルタンカーは船齢25歳又は30歳までにフェーズアウトすることになりました。
ところで、船体・船殻のことを「ハル」と言います。
条約が改正されるまでのオイルタンカーは、船体の外板が1枚の「シングルハル構造」でした。
貨物油が外板1枚で海と隔てられているだけなので、座礁等による損傷事故で原油流出事故を起こしてしまう危険がありました。
イラスト「シングルハル」
作:谷井健三
所蔵:船の科学館
一方、改正後の「ダブルハル構造」は、船側や船底の船体外板を二重とし、二重外板の間のスペースをバラストタンク(船の喫水や傾斜を調整するための船内の水槽)にすることで、軽微な損傷事故で原油を流出する危険を防ぎます。
イラスト「ダブルハル」
作:谷井健三
所蔵:船の科学館
※1 OPRC条約
正式名称は「1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約」で、油濁事故対策協力条約とも言われています。
タンカーをはじめとする船舶や海底油田等から大規模油汚染事故の被害を軽減することを目的に、事故に対応するための情報交換、油汚染を想定した緊急時計画の作成・準備・体制作り、事故対応に関する国際協力等について定めたもので、1995年5月13日に発効しました。
※2 MARPOL(MARINE POLLUTION)条約
正式名称は「1973年の船舶による汚染防止のための国際条約に関する1978年の議定書」ですが、「海洋汚染防止条約」もしくは「MARPOL73/78」と呼ばれています。
この条約は、規制対象となる油の範囲を従来の重質油だけでなく、全ての油に拡大するとともに、有害液体物質、汚水等も規制対象に含めることによって、海洋汚染の防止を包括的に規制するもので、1973年11月に採択されました。
しかし、規制内容の一部に未解決な問題があり発効に至りませんでしたが、1978年2月に議定書として採択され、1983年10月2日に発効しました。
タンカー事故による油流出を想定したダブルハル構造を規制した附属書Vは、1992年7月1日に発効しました。
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