潜水艦は高度に情報を統制されているそうです。
「隠密行動」であるがゆえに、「乗組員は家族や親しい知人にも行動予定を知らせてはいけないとのことです。
『浮上したら漁火がきれいだったので送ります』。それが2ヶ月ぶりのメールだった。彼女が出会った彼は潜水艦(クジラ)乗り。ふたりの恋の前には、いつも大きな海が横たわる――制服ラブコメ短編集。
クジラ(潜水艦)乗りを彼氏にすると、彼女は彼が「今どこにいるのか」「いつ帰ってくるのか」連絡を取り合うこともままならず...。
海上に浮上してスマホの電波がつながって送られてきたメールは
「元気ですか?浮上したら漁火がきれいだったので送ります。春はまだ遠いですが風邪などひかないように気を付けて。」
句読点を入れても五十三文字...。
この作品は、以前このブログでもご紹介した有川さんの作品「海の底」の番外編です。
「海の底」に登場した海上自衛隊の潜水艦乗り冬原のもう一つの物語は甘ったるい恋愛小説ですが、有川さんはあとがきで次のように書いています。
自衛隊で取材をさせて頂けるようになって、階級がすごく上の方々にもお話を伺うことができたのですが、「自衛隊で恋愛物をやります。ベタ甘です」と申し上げますと皆さん相好を崩して「それはいいね!」と仰ってくださいました。
「自衛官も恋愛したり結婚したりするフツーの人間なんだということを書いてやってください」
それは恐らくご自分の大勢の部下たちのために。
潜水艦が重要な役割を果たしている小説ですが、探索行動や国境警備という話ではありません。私たちと同じ「フツーの人間」を描いています。
しかし、「フツー」の裏には相当な覚悟が隠されていると思います。
「海に守られている」私たちは、「海をまもる」人たちのことをあまり知らないようです。
作品名:クジラの彼
著者:有川浩
発行:角川文庫
初版:2010(平成22)年6月25日
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