歯車はエレベーターにて狂うもの [2016年01月31日(Sun)]
歯車が狂う。幸せだった恋人関係は破綻し、円満な家族は離散し、発展を遂げた会社でも水泡に帰す。仏映画『死刑台のエレベーター』では、当人たちの思惑を離れ、思いがけない出来事によって計画が狂うことの怖さを描いた。
スクリーンに白黒で大写しになった女。熱い吐息を漏らしながら愛を口にする受話器の向こうには愛しい人がいる。30分後には二人だけの世界がくることを約して電話を切った。愛人はジュリアン(モーリス・ロネ)。婦人は名だたる武器商人の妻フロランス( ジャンヌ・モロー)。 クールな都会的ジャズをバックにして完全犯罪のシナリオは進行していたが、計画はもろくも崩れ去ってしまう。そのモチーフとなったのがエレベーターであった。 男はエレベーターに一晩中閉じ込められて女と合流できなかったばかりか、他の殺人事件の容疑者となってしまう。女は消えた男を捜して、不安にかられて夜のパリを彷徨する。想定もしなかった思いがけない出来事に二人は翻弄された。衝動のおもむくままに動く若いカップルによって男と女はますます苦しむ。観客は始めから終わりまでホッと安心できる間もなくサスペンス状態に置かれる。 最初のシーンでモローの右の鼻の穴からのぞいていた鼻毛。気になったが彼女は変わらず美しかった。鼻毛も金髪だから目立たないこともあろう。案外あれは画面に仕組まれたもの。愛しい人との逃避行を前に浮き立って鏡も満足に眺めなかった女の欠損だったのかも。鼻毛の飛び出ている人よ、気をつけましょうぞ。恋にうつつを抜かしていると誤解されますぞ。まっそれもいいかもね。 (松江の京店商店街近くの紺屋小路にあるハートの石畳。大小のハートを揃って踏んだら結ばれると。フロランスとジュリアンはハートを踏めなかった) |