各駅でとろんと停まる車なら [2012年08月31日(Fri)]
![]() 各駅で停まる。各駅でとろんとして発車を待つ。特急列車があれば待って待ってさきに行かれる。スピードだってたいそう遅い。車は古い。ガタガタギシギシきしんでいる。古いディーゼル機関車はゴトゴト進む。日本海を横目で見ながら山の緑にうずもれながら進む。空はいたって美しい。蒸した夏の気配は消えたかのよう。遅いけれども着実に進む。 鈍行列車は美味しそう。 飲み物とおやつを窓際におき窓に広がる景色を眺めて一口二口と。なかでもお気に入りはチョコボール。お茶に含んで噛み締めてゴクンと飲み込みああ美味い。窓の外には柿がなり無花果があり栗もある。野菜畑と稲の波。思わず腹が鳴ってくる。今夜は何を食べようか。 鈍行列車は田舎の暮らしを運ぶ。通学中の高校生が乗ってくる。部活帰りににぎやかに。買い物袋をさげてお年寄りが降りていく。日々の暮らしがここにある。げた履き気分の気安さか。石見弁なり軽快に。声は高めに楽しそう。過疎の地域に採算取れず。それでも列車は必要で。日々の暮らしを乗せて行く。 鈍行列車は考える。 別に列車に意志があるわけではない。乗ると考えてしまうのだ。空を見て海を見て山の緑を見てもなお。客に似た顔思い出す。あの人何をしているやら。彼とはどれだけ会ってなかろうか。昨日の会話あれでよかったの?数ヵ月前のあのことどうなった?あれこれやること多いよな。それでも時間は有限だ。残り少なくなったならいっそ何やり過ごすだろう。 鈍行列車は眠たくなる。 眺めて食べて考えて。そのうちやがて眠くなる。腕を組んだら目を閉じて揺れにまかせて寝入るのみ。これは夢見か現実か。ガタンゴトンと揺れている。首がガクンと折れ曲がりおっととお目め目が覚めた。 鈍行列車に乗ろう。 列車に乗って小さな旅に出よう。各駅停車ではそんなに遠くへは行けない。小さな駅に咲く花を見よう。木々の茂りを眺めよう。知らなかった地名に思いをはせよう。もしも故郷の近くなら過ぎたかなたを思い出す。心のひだに溶けていた母の情けを思い出す。小さなな旅は大きく広がり無限大。 |