
ばらの聖地・福山では、香りを嗅ぎ続けた。土づくりや消毒、挿し木や接ぎ木の手法、花殻の除去など薔薇栽培家にとって不可欠な情報には目もくれず、ひたすら見て嗅いだ。
名前は眼中になく(看板を見ても忘れる)、花に鼻を近づけ続けた。まず息を吐く。鼻の中を空にするためだ。花に鼻を近づける。一息目が勝負。静かに集中して嗅ぐと分かる。同じ株でも花によって異なることがある。新鮮度の違いか、爛熟かは分からないが、花によって異なるというのは面白い。
わたしが感じ取ることができた香りは、大きく4種。バニラのような甘い香りが一つ。一様ではなく段階があるように感じた。沈丁花の酸っぱい感じの甘さが香り立つのもある。これも段階的だ。野菜のような生っぽさを感じるものもあった。そして無香。
香水の官能試験をする敏感さを持つ人が香っていけば、もっと多種の香りを感じられるかもしれないが、わたしにはこれが限度だった。
(暖気の中に寒気が混入して強い雨が降った地域もあったが、幸いに私たちが歩き回っている時間帯は、天気が良い備後行きの旅であった)