難病と宇宙の物理一筋に [2015年08月26日(Wed)]
難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)をものともせず、宇宙物理学の地平を次々と開き続けてきたスティーブン・ホーキング博士と、その妻(今は元妻)ジェーンとの物語。それが映画『博士と彼女のセオリー』である。二人の愛の遍歴を赤裸々に描いていることに驚く。
セオリーには二つの意味がある。一つは当然のことながら、宇宙の始原を物理学で理論化すること。素人にもわかる解説で一般受けしたい望みもある。より正しい理論にたどり着くために、過去の自分の理論さえも簡単にくつがえして高みを目指す。 二つ目は、博士の力を理解し賛美してくれるパートナーがいてはじめて博士は輝くという確信である。博士は難病ゆえに体は意のままにならない。介護されることは不可欠だ。彼はジェーンとのセックスも強く求める。やがてジェーンとは違うパートナーができた。新しいパートナーは博士の言葉を読む達人であり、博士の能力の高さを素直に賞賛してくれ、(たぶん)セックスパートナーとしても申し分ない人であった。博士は高みを目指してパートナーを乗り換えたのだ。 二つのセオリーの共通項は、彼が絶大な生命力をもっていること。ALSだと医者から告知されたときに余命2年と宣告された。しかしそれからすでに50年経つが彼は生き抜いている。重病があってもこんこんと湧き出るエネルギーがある。研究欲と愛欲が博士の力の源なのだ。 ジェーンにも二つのセオリーがある。古代詩や言語学の研究を成し遂げたいという強い気持ちが一つ。もう一つは、学生の頃から博士に献身的に愛を注ぎ介助に尽くしてきた一方で、気ままに甘えられる気のおけないパートナーも欲していたことだ。 確かに博士との間には3人の子供をもうけ、家族の思い出を蓄積してきた。もうセックスは必要ないのだろうが、そこには博士とのすれ違いがある。病気になった頃からずっと面倒をみて一緒に困難を乗り越えてきたということは情愛が強いことの証明であるが、別面彼女は博士に対して優位に立つ。博士にとっては弱みにもなる。病状が進む辛さをともに味わってきたことが、疲れや飽きにつながってもきただろう。そこにプラトニックだが、彼女にも新しいパートナーができた。 ジェーンを演じたフェリシティ・ジョーンズ。可憐で気丈な大学生から、三人の子供たちもすっかり大きくなった初老期までを演じきった。可憐で愛くるしくて、品がよくて凛とした華やかさもある。ドレスアップした時の美しさに目を見張る。今31歳だというから驚いた。 人間として、研究者として、家庭人として、愛情を求める者として、世間と折り合いをつける存在として。いろいろな見方ができる二人のセオリーであった。 |