初恋に林檎の下の君居たり [2015年04月28日(Tue)]
『初恋』を歌い上げた島崎藤村。高校生のとき、この高名な詩を憶える宿題が出た。憶えはしたものの今はもう残っていない。思い入れがなかったからだろう。
まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり 「花ある君と思」わなくても、花櫛を差しているんだから当然だよな、と思った。少女が少しずつ大人になるうちに華やいでいき、見違えるほど美しくなった君を楽しむ主体がいることなど想像できなかった。 やさしく白き手をのべて 林檎をわれにあたへしは 薄紅の秋の実に 人こひ初めしはじめなり 「やさしく白き手をのべて」を幽霊のように手の甲を友達に向けて恨めしい所作をして、ケラケラ笑いあった。ガキだった。文語が分からないこともあったが、恋の味わいは理解しがたかった。 わがこゝろなきためいきの その髪の毛にかゝるとき たのしき恋の盃を 君が情に酌みしかな 初恋というからには少年だろ、それが「盃」?「酌みし」だって? 未成年者のくせに酒なんか飲むなよな、と思った。相思相愛で長らくの連れ添った恋人同士が互いに愛情を注ぎ、ときに情に溺れる様子なんて想像すらできなかった。 林檎畑の樹の下に おのづからなる細道は 誰が踏みそめしかたみぞと 問ひたまふこそこひしけれ こっそり林檎を手に取って二人で交互にかじりついた。ある時は腕を組み、ある時は立ち止まって接吻をした。暗くなるまで話に興じ、沈黙のまま見つめ合っていた時もあった。やがて二人が歩いた草村に恋の細道出来たよな。二人で歩いたこの道を、ずっとこのまま歩きたい……。 (邇摩高校に咲く黄色い牡丹。色は透明度のあるレモン色。匂いは花の王と呼ばれるだけに濃厚なもの。さて味は? 食べたことないので恋と違って分からない) |