昨日行った日展でも静物画があった。静物画の魅力ってなんだろうと考えたことがあったが、よくわからなかった。次の文にはその回答の一部があるような気がする。
≪静物画って、造形的には静止しているんだけれど、そこには死に向かう時間が塗り込められている。だから、そこから屍臭がしてくるのは当然なんです。(中略)
青々としたりんごみたいなものは原理的に静物画には描けないんです。描いているうちに必ず腐っていくから、どこかで取り替えられている。目の前で腐っているものを描いているわけだから、造形的には「青々としたりんご」であっても、何かが腐敗して、崩壊している感じがそこには透けて見える。(内田)≫
(「現代人の祈り」内田樹+釈徹宗+名越康文,サンガ新書,2011年)
写真は一瞬のその時間を切り取る。静物画に限らず、絵画は「時間を塗り込め」ているのだ。時間は百人百様のものだから、画家なりの時間がキャンバスには塗られている。テクニックの違いだけではないのだなと思う。日本画も油絵も、彫刻も蒔絵も膨大な時間を費やして作家はそこに塗り込める。小説家が本を上梓したり、連載を続けるのも同じことだ。作家にとっても主人公にとっても、さらに読者にとっても貴重な時間がたっぷり塗り込められている。