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聞こえないハンディを意志に松本竣介 [2012年10月04日(Thu)]

__tn_20121004221008.jpg画家が36年の生涯に描いた多彩な洋画を楽しんだ。『松本竣介展〜生誕100年』である。驚くほど多作だ。しかもバラエティに富んでおり、見応えがある絵が多い。場内のこの静寂感はなんだ。観覧者は松本の醸し出す世界観に真剣に耳を傾けていたからに違いない。

夭折の作家といえる。36歳とはあまりに早い死だ。だが実に多作だ。青春の輝きもためらいも創造への意気込みも格闘も、繰り返してきたこの童顔の主。自画像にも強い意志が現れているが、飾り気のない純朴さも感じる。静謐で思索的で自己を通して人間なるものの多様性を示したいという強い意志と詩情。誠実で愛妻愛息へのあふれる情。聴覚障碍というハンディキャップを感じさせない精力。強い意志を持ちながらも肩の力は抜けた自画像の描き手。新しい美術家の会を設立しようとした情熱家。あの童顔の人は多様な顔を見せてくれて魅力がいっぱいだ。

見終わって思う。この人は、天才ではない。許された時間のなかで最大の成果を残した努力家であると。海外には出ていないが新しい試みを繰り返した。挑戦的取り組みで多くの習作も残している。単に端正な絵ではなく、写実には収まりきれない試行を行った。デッサン、下書き、試し書きを同じ構図で何度でも。真面目さはこの文にも現れている。

  美と真実のために一切のことに耐へよ
  仕事をまもることだ
  明確に描かなくてはならぬ、詩情はその上に自らでゝくるのだ (1943年)

初期の頃、黒い線でがっちりと輪郭をとった「建物」が好きだ。赤や黄、青など原色に塗り込めた色に年月の風合いを出している。昭和の初期の雑踏が見えてきそうだ。婦人像もいい。深く黒い目、輪郭は背景に溶けて赤いコートにおちょぼ口。同じく初期でも郊外の家や林が描かれた作品は蒼の時代だ。まるでピカソ。シャガールを思わすようなタッチの絵もあった。後期にはいると人物、特に自画像に特色が出る。「画家の立てる像」には戦争に駆り立てられるた時代にも足を取られまいと屹立して立つ画家の意志を示した。この頃は境地がさらに深まっていく。幼い息子の絵をもとにした童画、さらに風景も多才となって市街、建物、街路、運河、橋、工場を描いた。終戦前後はニコライ堂や大空襲焼跡など赤を基調としているし、戦火を避けて庭に埋めていたという褐色を中心に描かれた顔や風景も魅力的だ。

島根県立美術館での会期は11月11日まで。後半には大幅な入れ替えがあるということで、さらに楽しみが増す。
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