智と情と巡りめぐって顔晴れば [2012年09月19日(Wed)]
『草枕』で漱石はこう表した。
≪山路を登りながら、こう考えた。 智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。≫ ひとが心を動かしたり、行動するきっかけとなるのは知、情、利である。知とは理性や理屈。論理的に考えてやるべきことは義務であることも多い。でも気がすすまないことはよくある。 情とは感情である。好きだとか嫌いだとか、思いやりにほだされて感性で行動する。意地や義理人情も情にかかわる。奥底から心に響くから根が深い。 利とは利益や利害である 。行動することが自分のためにつながれば、楽しいし張り合いがある。人間がやる気を起こすには、こうした三つの条件が必要だ。 漱石の『草枕』の表現を借りれば、「智」を働かせてきっちりと納得させ、「情」に棹さして気持ちよく安心して動いてもらう。智とは、知識や情報を得て判断する理性を指す。 情とは好悪の感情や思いやりであり、意地や義理人情も含まれる。智と情をコントロールすることは難しいと漱石は表現した。 ひとを動かすためには論理と感性、ともに欠けてはならず、科学的根拠に基づいた説得に併せて、温かい励ましの言葉が必要となる。仕事でもプライベートでもそうであるが、どれだけ高いモチベーションを持ち続けられるかは、事の成否を決する。 だが思うのである。自分自身を動かすのがときには一番難しいと。自分の心のひだに分け入って意欲を高めて、「頑張る」ことが辛く感じることがある。そんなときは、せめて口角を広げて頬の筋肉に力を入れて、「顔晴る」ことにしてみよう。少し大股で歩いてみよう。形だけでも顔晴れば、心は変化をみせてくれるだろう。 |