気を留めノマドの民よ永遠に [2021年05月11日(Tue)]
放浪の民がノマド。ノマドランドの主たちは、高齢者で不景気によって住み慣れた地を離れざるをえず、車上にすべてを詰めこんで、日雇い仕事で糊口をしのぐ。金獅子賞受賞の映画『ノマドランド』はそうした生活を描き取る。
解雇故に自宅を手放さざるをえなくなった結果の放浪は哀しくはあるが、助け合いの緩いネットワークがある。主人公ファーンはすでに定住を求めなくなっていた。ファーンが気持ちを許した男がノマドを止めて家族の元に帰った。彼から家族に迎え入れたいと申し入れがあった。彼女も心地よく家族の一員として何日か過ごしたにもかかわらず、突然に出奔する。もう定住はしないと決めていたのだろう。 彼女の故郷は結婚して夫と住んだネバダの鉱山の町。産業が失くなり誰も住まなくなった町。亡夫と過ごした思い出の廃屋で気持ちを確かめる。困難は多くとも、死ぬまで車上で放浪生活を続けることに決めたのだ。 静謐で美しく広いアメリカ大陸の景色、その環境に見合った美しい音楽。心地よさにうとうとしたのは、昨夜の夜更かしのせいかもしれない。たぶん私はノマドに同調できなかった。だから眠ってしまったのかもしれない。故郷や定住を大事に思って住み続けるか、その地に魂魄は留めてもともかく捨てて放浪の旅に出るのか。故郷に対する気持ちは人それぞれだ。 (ノマドランドには、こんなに絢爛な芍薬は咲かないだろう) |