ダニエルは所得保障をブレイクす [2017年09月23日(Sat)]
ダニエル・ブレイクはいけ好かない奴だった。腕のいい職人だったが、心臓を煩って働けなくなった。所得保障を申請した。小難しくて皮肉が先に出るタイプだったもので、査定員の質問に対して斜に構えてちゃんと答えない。結果として福祉の恩恵にあずかることはなかった。やむを得ずダニエルは失業保険を申請した。働けないのに求職を続けるという矛盾。ダニエルにとっては耐えがたかった。救いの存在となったのが、シングルマザーのケイティと子どもたちだった。
私は関係ない、さっさとどっかへ行って!と言わんばかりの役所の窓口。不誠実でぞんざいな担当者。書類が足らない、書いてない、担当部署はここじゃないとたらい回しにされたダニエル。書類はウェブでどうぞと言われても、ダニエルにはネットを使うことは高い壁だった。不運なつまづきがあると、あれよという間に貧困に陥ってしまう現代の危うさを描きたいという制作者の意図はわかる。ただ、ダニエル・ブレイクには共感できなかった。映画が発する「生活弱者が複雑で無慈悲な制度の前になすすべなく、貧困と困窮に落ち込んでいく苦悩」というメッセージを素直に受け取れないでいた。 やがて、ケイティ一家と助け合い、寄り添いながら前へ進もうとするダニエルを見ているうちに、わたしの気持ちは変わっていった。しかし、ハッピーエンドはなかった。悲しかった。それでも「私はダニエル・ブレイクだ。自分は自分、生き方を貫くぞ」と、決意をこめた落書きをして快哉を浴びる。少し気が晴れた。『わたしは、ダニエル・ブレイク』はそんな映画である。 (清楚なモナ・ラベンダー。淡い紫色がまるで造りもののようだが、これも現実だ) |