不幸せ思い出転じて幸となれ [2014年08月04日(Mon)]
映画『思い出のマーニー』のなかでマーニーは『アルハンブラ宮殿の思い出』を口ずさんだ。聴くほうの杏奈にとってそれが夢だったのか、うつつだったのかはわからない。曲名と物語名の両者に『思い出』がつくというのは、単なる洒落ではあるまい。
イベリア半島に花開いたイスラム文化の栄華。レコンキスタでイスラムは追われキリスト教徒の領土となり、追われた者たちにとってアルハンブラは悲しい望郷の遺物となった。原曲の「アルハンブラ」はギターのトレモロ奏法で哀愁の情緒と静けさを醸してくれる。作曲家のタレーガはアルハンブラ宮殿を旅した時にアフリカ大陸へ追われた者たちの「思い出」に感じ入ったことだろう。 一方で「マーニー」のなかで杏奈は先祖への鎮魂を巧まずして達し、自らのアイデンティティを確立し(それは言い過ぎかな?足場を築き)、孤立無援の存在から(彼女の独りよがりだったのだが)、成長と協調への世界を歩みだした。マーニーの思い出と杏奈の思い出とがガッチリつながった時に、二人は時を越えて永遠の友となった。そして互いに「あなたのことが大好き」と、信じあえる者同士、いや同志となったのだ。 お互いが大好きであったにも関わらず、マーニーと杏奈は互いを見失う時があった。これは象徴であろう。どんなに信頼しあう仲であっても、他人は他人。心のうちの全てがわかるわけではない。態度に表された意味をくみ取れるわけがない。不信をおこしてはならないよ、あくまで信じ続けるのだよ…という教訓を象徴するものであったように思える。 マーニーの住まい「湿っ地屋敷」が入江に建っているというのも象徴であろうか。入江は出港する船乗りにとって厳しい船出に立つ場所。甘えが許されぬ厳父のような存在。一転、長旅を終えて戻る船乗りには安息の母なる存在となる。マーニーにとっても杏奈にとっても入江とは心休まる場。そこに建つ湿っ地屋敷は、マーニーにとっても杏奈にも新しい世界へ旅立つ不可欠の存在となった。そして杏奈は凛々しく大人への階段を上り始めた。 (ほんわかした感じ、イラスト風になった茄子の葉っぱ) |