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森のひと六千年のさかのぼり [2014年05月21日(Wed)]

fumihouse-2014-05-21T18-44-31-1-thumbnail2.JPG『クロニクル千古の闇』シリーズの全6巻を読み終えた。物語の舞台は六千年前のヨーロッパ北西部。農業が始まる前の時代。1 オオカミ族の少年 2 生霊わたり 3 魂食らい 4 追放されしもの 5 復讐の誓い 6 決戦のとき。以上6冊それぞれが400ページを超える大冊で、行き帰りの列車で読んで1ヶ月以上を費やしたが、次のページに進むのがもどかしかった。イギリスが生んだファンタジー小説は多いが、『指輪物語』や『ハリー・ポッター』を彷彿とさせてくれる展開をいくつか見つけたのは、ある面当然かもしれない。

古代から人類は幸せになるために心に祈ってきた。具体的に祈祷し呪文を唱える。自分の力で行動もするが、人事を尽くしたあとは時を待つしかない。ところが、科学文明が極めて発達した特にこの百年というものは、科学が祈りの部分を大いに侵食してきた。つまり、科学は希望の光となったのだ。それでも人間の悩みは尽きず、望みをすべて科学の力でかなえることはできない。

ワタリガラスの族長フィン・ケディンはトラクにこう言った。
≪悪は、わしらすべての中に存在しているのだよ、トラク。それと戦う者もいるし、それを育てる者もいる。これまでも、いつもそうだったのだ≫
悪が私たちの中にあるということは、科学の力を利用する際には功罪の両面をもつということだ。悪が強ければ善は負ける。そのせめぎ合いで如何ともしがたい場合には、祈りが強い味方となってくる。

森も、海も、川も、岩山も、氷雪も、風や空気すらもすべてが生きている。それを感じ、恐れとともに時には友として共生している。6千年前の原初の人にとって、祈りは通じ、呪いは効果を発揮するものだった。人間は自然界の一部に取り込まれていて、宿命的に逃れられない位置にある。弱い人間ではあるが、危険を避けるべく気配を察し、仲間がそこにいる空気を読む能力の高さよ。足跡でもって、それが誰なのか、どんな動物なのかを判別する精緻さに感嘆した。

異色の出自をもつトラクは、徐々に自分の可能性を開く。対象の生物体の魂に乗り移る「生霊わたり」としての才能を開化させた。彼が望んだものではないが、人々のためには必要なことだった。迷いと苦悩に苦闘しつつも、魔導師が世界制覇をもくろむという人間社会の危機にあって、多くの種族の救世主となっていく。

トラクには少女レンと孤児狼のウルフという最上の味方がいた。生霊わたりができて動物的勘にすぐれたトラクといえども、両者の助けなしには使命は果たせなかった。だが、トラクは激情にかられやすく意固地となって、その大切な人ともスレ違った。トラクは最愛の父母にも先立たれ、かけ代えのない友も失っていたのだから、ある面仕方がないところはあった。行きつ戻りつ、彼らは捨て身の旅を続けた。

≪フィン・ケディンは、うまくいかないときに最悪なのは、何もしないことだと、よく言っていた。「レン、ときには、自信がなくても決めなくてはいけないのだよ。その決断が、いい結果を招くか、悪い結果を招くかはわからない。でも、何もしないよりはましなのだ」≫

ピンチに陥ったら考える、そして行動する。袋小路に入り込んだら違う視点で見つめ直して、新たな局面を造り出す…。黙りこんで、何もしないという最悪の選択肢をとらないように心がけていきたいと思わせてくれるファンタジーだった。

(写真はユリノキの花。漢字では百合樹。邇摩高校のシンボルツリーである。二階の図書室からも花が咲いているのが見える)
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