こんにちは。スタッフの松村です。
サポセンには、地域の課題解決や地域の魅力向上に取り組む人、NPO、企業、町内会、商店街、教育機関の方々など多様な人たちが訪れます。サポセンでは、そんな人たちが出合い、学び合う交流会を開いています。
2025年12月19日(金)は、
「地域と編集のチカラ」をテーマに開催しました。

▲会場は、サポセンの市民活動シアター
金曜日の夜、商店街、町内会、NPO、編集や印刷に関わる事業者、市民活動団体など多様な立場の方々23人が集まりました。「藤本さんの話が聞きたい!」という方はもちろん、「地域と編集というテーマに関心があって」「商店街でZINEをつくるので参考にしたくて」という方もいらっしゃいました。
※ZINEとは、商業出版とは違い、個人を起点に自由な手法やテーマで作成した本や冊子ゲストにお招きしたのは、神戸を拠点に日本全国で活動する、
有限会社Re:Sの代表で編集者の
藤本智士さんです。日本全国を旅しながら、本の編集・出版はもちろん、新しい普通を提案する雑誌『Re:S(りす)』を制作。
秋田県発行のフリーペーパー「のんびり」の編集長を歴任してきました。ローカルメディアの火付け役、というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
2015年にも一度、サポセンにお招きしたことがありました。→
集まれ!手づくりメディア仕掛け人〜伝えずにはいられない〜今回の交流会では、
「地域と編集」「さぁ、本の出番だ!BOOK TURN SENDAI」とはの2つのテーマでトークを行いました。

▲導入で、冬には必ず「せり鍋」を食べに来仙すると話す藤本さん
トークテーマ@地域と編集藤本さんは、「編集とはビジョンを形にするための一つの手段」だと言います。編集の力とは、「メディアを活用して状況を変化させる力」。また、メディアとは、本や雑誌だけではなく、イベントや商品など、そのビジョンを形にするためにふさわしいあらゆるアクションを指しています。広い意味で「編集」を捉え、その力を活用してきた事例をお話してくださいました。
●藤本さんと、仙台・宮城藤本さんが頻繁に宮城県に訪れるようになったのは、東日本大震災以降。石巻で、瓦礫の中から見つかった写真洗浄のボランティアと、その取材をされていました。
※この活動は写真家の浅田政志さんとの共著『アルバムのチカラ』として記録され、のちに映画『浅田家!』の原案のひとつになります。以降、藤本さんは、仙台・宮城で本やローカルメディアに関わる人たちとの交流を深めていきますが、「実は仙台が好きじゃなかった」と、当時を振り返ります。全国どこでも食べられる牛タン、ずんだ。伊達政宗などのキラーコンテンツからはその街の独自性を感じることができず、「リトル東京」という印象が強かったそうです。
仙台にハマったきっかけを、「仙台の友人たちが、ベタに言うと文化横丁とか、いろは横丁とか、駅前や一番メインの商店街の一本向こう側も連れて行ってくれた。いわゆる仙台資本の豊かな表情を知ったこと」と話します。編集とは、ある種の視点。誰かの印象や気持ち、状況を変えるような視点(仙台資本のニッチな世界)を提案されたこの瞬間にも「編集のチカラ」が働いていたのかもしれません。
●解像度高く地域を見つめる
次に藤本さんは、昨年まで宮城県と取り組んでいた
「Re:Scover MIYAGI」の仕事について紹介しました。
タッチパネルに映る宮城県の地図を、指でグイ〜っとピンチアウトし、伊達政宗や牛タンなどのキラーコンテンツの向こう側にある、独自の暮らしや風土から、「新しい宮城」を見つけるという企画です。七ヶ浜町、柴田町、南三陸町などを巡って見つけた宮城の姿が丁寧に紹介されています。
藤本さんは、改めて食べてみたと言う「白石温麺(うーめん)」について紹介。「ただの短いそうめんだろうと思っていましたが、9センチの意味を知って、いやぁ、ナメてたなと。解像度高く地域を見つめると、見えてくるものがある」と、振り返ります。編集を通じて、地元の人間にとっての「当たり前」を、違う視点や高い解像度で見つめ、新しい価値を提案する「編集」のヒントが詰まっていました。
●広義の編集 「ひらめけ!もんモン」宮城県を巡るなかで藤本さんが出会った、栗原市の「長屋門」の紹介から、お話は誌面にとらわれない広義の編集の具体例へと展開されました。
長屋門とは、江戸時代に諸大名の武家屋敷門として発生した門形式の一つ。住み込みで働く小作人の部屋として使われていたそう。栗原市の歴史や生活文化を伝える貴重な遺産で、今も500軒以上残っています。使い方は時代とともに変化し、現在はカフェや事務所として活用されています。
藤本さんは今、「編集のチカラ」を用いてこの長屋門と、長屋門から垣間見える栗原市の暮らしの歴史を伝えようと、奮闘中です。
始まりは、長屋門を多くの人に知ってもらおうと汗する
一般社団法人くりはらツーリズムネットワークの方に、藤本さんが惚れ込んだことなんだとか。
ここで、おさらいですが、編集をとはメディアを活用してビジョンを形にするための一つの手段です。今回の取り組みで言うところのビジョンは、「宮城県の人たちが長屋門を知り、魅力を伝えている未来の実現」。そのために、今回藤本さんが選んだメディアの一つが、絵本です。

▲この交流会の数日前に刷り上がったばかりの絵本
「ひらめけ!もんモン」絵本の内容は、長屋門をモチーフにした「もんモン」というキャラクターが、人々の悶々とした感情を、ヒラメキで解決していくというもの。長屋門を歴史的建造物としてではなく、キャラクターにすることで間口を広げる狙いがあります。

気になる人は、一般社団法人くりはらツーリズムネットワークのホームページをチェック!→
https://ktnpr.com/他にも、ペットボトルを捨ててしまうことへの抵抗感から、「オフィスや学校に水筒を持参する世の中を編集したい!」と、2004年に
『すいとう帖』という本を制作したことを紹介。
社会に、「一人ひとりが水筒を持つ世の中」を提案したことで、タイガー魔法瓶株式会社と一緒にマイボトルを生み出すことに。今まさに、ビジョンがカタチになっています。
また、
秋田県にかほ市象潟町(きさかたまち)出身の木版画家、池田修三さん(1922-2004)を、地元だけでなく全国に伝えるプロジェクトもご紹介いただきました。→
https://shuzoikeda.jp/他にも、実際に手掛けてきた事例を通じて、地元の人々が当たり前だと思っていた文化的資産をよそ者の視点で編集し直すことで、地域の誇りに変えていく過程、「新しいふつう」をつくる過程を丁寧に伝えてくださいました。
何かを発信したり、状況を変えようとしたりしたとき、サイト、本、動画いろいろなものをつくりますが、「つくることを目的とせず、ビジョンを広げていくことを忘れないで」と藤本さんは投げかけます。「目指すべき社会があって、そのためにどう手を打っていくかに編集の醍醐味があります」と、しめくくりました。
参加者からの質問を少しご紹介(抜粋、要約しています)
これまで無かった意識を地域に根付かせ状況を変えていくとき、まちの人たちの継続力が重要だと思うのだが、関わり方をどう考えていて、地域の変化をどう感じていますか?藤本さん:長屋門も池田修三さんの作品も、ずっとその土地にあったもの。よそ者として自分が「面白い!すごい」と感動した気持ちを大切にしている。その感動はその土地や、人へのリスペクトでもある。みなさんが普通だと思っていることがどれだけスペシャルなのかをリスペクトを込めて伝えると、その土地の人も嬉しい。そんなふうに関わっていくと、地域の中に、ビジョンを一緒に実現しようとする仲間ができて継続につながる。
次に意識するのは「編集」というアクションによる成果や変化を、数字など何かしらの見える形で表現すること。あまり好きではないし、本来数字で測れる価値ではないけれど、それをすることで行政や企業など、より多くの人の意識を変えたり、巻き込んだり、次の段階に状況を変化させたりすることができると思っている。
「ひらめけ!もんモン」の値段と、気持ちの良い価格設定をするコツは?藤本さん:絵本は2420円。価格設定は、自分にとってはゴミだけど、他人にとってはお宝というように、物の価値は本来バラバラなのですごく難しい。360度見渡しながら考えて、「こういう価格設定なんです」と言えれば良いと思う。
「ひらめけ!もんモン」の価格の背景にあるのは、まず、一人ひとりの作り手。著者、印刷屋さんの中でも製本するところ、印刷するところ、デザイナー、関わっている人たちの仕事になることを考える。
それから、大量生産してたくさん売ることが目的ではないから、アマゾン等ではなく本屋さんに卸している。いわゆる町の書店さんに生き残ってほしいと願っているから、1冊売れたら本屋に1,000円入ってくるように設定した。「ひらめけ!もんモン」だけでなく、作り手のこと、売り手のこと、ものづくりにおける環境問題のこと、自分のものづくりがどうありたいかとか、本をとりまく状況がもっとこうなったらいいなとか、多角的に考えて価格を導いている。「相場」とかではなく、値段の拠り所を持てると自分の設定に自信が持てる。自分の実感から立ち上がってきた価格を出せると一番いいから、そういう値付けができるようなものづくりをするっていうことが、自分にとっては理想。

▲他にも様々な質問があり、藤本さんは実体験をもとに一つひとつに丁寧に応えていました。
トークテーマA「さぁ、本の出番だ!BOOK TURN SENDAI」とは12月21日には、藤本さんと仙台の印刷会社である株式会社ソノベが共催する、仙台発のZINE即売イベント
「BOOK TURN SENDAI」が控えていたこともあり、イベントの紹介をしながら、なぜ今ZINEなのか、なぜ仙台なのかなど、思いをお聞きしました。

▲BOOK TURN SENDAIのメインビジュアルには「もんモン」の姿が…
BOOK TURN SENDAIは、仙台AERの仙台中小企業活性化センター「多目的ホール」を会場に、宮城県はもちろん、北海道から九州まで135団体が出展。主催者によると全国から3700人が詰めかけたそうです!
●小さな出版物だから伝えられること、受け取れることZINEという名でなくとも、ミニコミ誌、自費出版物など個人を起点にした印刷物は今までも存在していました。藤本さんは、「いわゆるZINEブームというムードはここ10年くらいの出来事だ」と言います。ブームの背景として、パソコンやネット印刷の普及により、個人がデザインしたり、印刷したりすることが大衆化したことに加え、「みんなSNSに疲れて、しんどくなっている」と藤本さんは強調します。誰でも多くの人たちに発信できるようになった一方で、SNSの世界では、重箱の隅をつつくような揚げ足取りが日々繰り広げられています。誰がどう受け取るか分からない世界に、自分の言葉を投じることへの緊張感、疲労感が確かにあるのかもしれません。
藤本さんは、同僚の編集者が執筆した
ZINE『重なるブランケット』を紹介しながら続けます。

▲デザインで関わりながら内容に号泣したそうです。
『重なるブランケット』は、著者が、「父と娘」をテーマに自身のことを書いたエッセイです。
藤本さんは、「個人的なこと、自分の大事な部分を、誰が受け取るか分からないSNS上での取引き…みたいなところで言えるだろうか。SNS上では言わないけれど、直接的に売り買いするZINEだったら、紙だったら表現できる。っていう若い人たちが増えている」と、実感を込めます。
また、大事に紙にしたためるような物事を、X(エックス)の140文字のような短文ではなく、長文で伝えることや、文脈からしか伝わらないことを読み取ろうとするようなコミュニケーションを求めている人も多いと加えます。
最後に藤本さんは、「仙台発」と銘打った理由を「ZINEは、流行や経済合理性に関係ないメディア。そんなZINEカルチャーや新たな出版の動きが、情報発信の中心である東京ではなく地方から起こっていくことにとても意味があると思う」と語り、仙台で発信活動をする参加者にエールを送りました。

終了後は藤本さんの出版物を購入したり、改めて藤本さんと話をしたり、参加者同士で情報交換をしたりして楽しみました。

会場には、参加者のみなさんが活動をPRするために制作した様々なメディアも持ち込まれ、交流の輪が広がりました。
サポセンでは、今後も様々なテーマによる、学び合い、交流会を開いていきます。
ぜひみなさまの活動にお役立てください。
ご参加ありがとうございました。