
▲前川珠子さん(=仙台市青葉区)。辛い経験を語るときの力がこもるまっすぐな目と、対照的な笑顔が印象的だ。
茫然としていた遺族が、「生きていてほしいと言われたときの気持ちを確かめに来た」と感情の動きを口にする。前川珠子さん(51)は彼らの心の動きに喜び、あたたかく見守る。
仙台市青葉区一番町にある「過労死東北希望の会」の代表。季節の行事や月の例会を開き、過労死・自死の遺族や過労死問題に関心を持つ人に居場所を提供する市民グループだ。
遺族には精神の負荷とともに、労災申請など法的な課題も降りかかる。生活の激変で精神を患う人も少なくないという。同会の顧問弁護士は「法手続きを終えても心の問題は終わらない」と指摘する。
遺族の見守りと並び、前川さんが熱を込めて語る課題がある。「過労死は一部の人の不幸な物語ではなく、働き方と命が結びつく普遍的な問題。悲劇で終わらせず、積極的に効率的な働き方を考える人を増やしたい」。
2012年に東北大准教授だった夫を過労自死で亡くした。仕事に責任とやりがいを感じ、長時間働く夫を案じていたが、自死は想像できなかった。生きるための仕事で、死に追い込まれるなんて。やり場のない怒りは、過労対策の法整備を求める署名集めの原動力に。
東北と東京を中心に約3千の署名を集めた。2014年11月、過労の調査研究と防止を掲げた過労死等防止対策推進法が施行された。全国の署名は55万に達していた。厚生労働省が過労死防止事業に取り組み、同会も行事を開催しやすくなった。
自らも遺族でありながら会を立ち上げた背景には「家族の自死という経験をし、笑顔を取り戻した人に会いたい」という息子の願いがある。13歳で父を亡くし、大学や父への怒りをあらわにしたことも。傷ついた人が孤立しないためには、集う場が必要だ。親子で「希望の会」と名付けた。
11月26日、仙台市青葉区のエル・パーク仙台でシンポジウムが開かれる。仕事で体を壊した人や、過労自死の遺族が仕事や生活で復帰できる方法を考える。参加無料。同会(022−212−3773)。
まず、知りに行こう。
(仙台市太白区 山口史津)